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金沢大学吹奏楽団第11回サマー・コンサート
2011年6月18日(土) 18:00〜 金沢市文化ホール
第1部
1)ライニキー/鷲の舞うところ
2)スパーク/クワイエット・モーメント
3)福田洋介/吹奏楽のための「風之舞」
4)堀田庸元/マーチ「ライブリー・アヴェニュー」
5)福島弘和/ラッキードラゴン:第五福竜丸の記憶

第2部 タイムスリップ:音楽で時をも越える夜
6)シルヴェストリ(ジョンズ編曲)/映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」〜Back to the Future
7)吉俣良(後藤洋編曲)/NHK大河ドラマ「篤姫」〜メインテーマ
8)真島俊夫編曲/カーペンターズ・フォーエバー
9)ゴールドスミス(小長谷宗一編曲)/テレビドラマ「スタートレック」〜テーマ
10)三浦秀秋編曲/ジャパニーズ・グラフィティXIV:A・RA・SHI Beautiful days
11)(アンコール)和泉宏隆(真島俊夫編曲)/オーメンズ・オブ・ラブ
●演奏
澤江武史;畑史香指揮金沢大学吹奏楽団
Review by 管理人hs  

金沢市の音楽団体の演奏は,満遍なく聞いてきたつもりだったのですが,行ったことがあるようで無かったのが,金沢大学吹奏楽団の演奏会でした。その第11回サマー・コンサートが行われたので,金沢市文化ホールで聞いてきました。入場無料ということもあり,会場はほぼ満席でした。

演奏会は,前半は吹奏楽オリジナル作品,後半はポップス・ステージという構成でした。指揮は,すべて学生指揮者でしたが,金沢大学吹奏楽団は,全日本吹奏楽コンクール全国大会の常連バンドということもあり,どの曲の演奏もレベルが高く,安心して心地よい吹奏楽のサウンドを楽しむことができました。

最初の「鷲の舞うところ」は,開演にふさわしい元気の良い曲で,伸びやかなファンファーレ風の響きを中心に,明るく引き締まった演奏を聞かせてくれました。次のクワイエット・モーメントは,イギリスの吹奏楽曲の作曲家スパークが,2006年に亡くなったクロフタという吹奏楽指導者を追悼して作った曲とのことです。木管合奏を中心とした緩やかな曲想の曲で,どこか英国民謡のような情緒が漂っているのが魅力的でした。追悼曲らしい,真摯さが感じられたのも良かったと思いました。

3曲目は,吹奏楽のための「風之舞」でした。この曲は,2004年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲だったのですが,それが吹奏楽の定番曲として定着してしまったという作品です。その理由は,何といっても日本テレビ「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」の中の「日本列島 吹奏楽の旅」の影響でしょう。大阪府立淀川工業高校吹奏楽部がこの曲を演奏するシーンが印象的で,最初の方に出てくる「タタタ,タータラタッタ」の部分を聞くと,「ああ,この曲か」と思い出した方も多かったのではないでしょうか。

プログラムの解説によると,「歌舞伎の世界」を描いた曲ということでしたが,ストーリーを追ったドラマというよりは,民族音楽に通じるような素朴なリズム感や色彩感の変化に面白さがある作品だと思いました。雰囲気としては,交響曲の第3楽章の「スケルツォ」的な気分があったので,しっとりとした2曲目の後の3曲目として演奏するのにぴっでした。

ここで指揮者が交替し,今年の全日本吹奏楽コンクールで金沢大学吹奏楽団が演奏する2曲が演奏されました。まず演奏されたのは,課題曲の行進曲「ライヴリー・アヴェニュー」でした。この曲は,今年のラ・フォル・ジュルネ金沢で,金沢市立額中学校と陸上自衛隊中央音楽隊の演奏で聞いたことがありました。ちょっと引っかかるような感じで始まるメロディなど,しっかり耳に残っていました。今回の演奏は,リズムが丁度良い具合に弾んでおり,十分な余裕を感じさせてくれる演奏でした。しっかりとまとまっているけれども,堅苦しさがなく,しなやかさを感じさせてくれるのがとても良いと思いました。

前半最後は,自由曲で演奏する「ラッキードラゴン:第五福竜丸の記憶」という曲でした。1954年のビキニ環礁での水爆実験による被曝事件を描いた作品ということで,ある意味,タイムリーな選曲ということもできます。

この曲の楽器編成には,ハープやピアノも入っていることもあり,冒頭部分から「オッ」と思わせる生々しく色彩的な響きを聞かせてくれました。前半演奏された曲の中では,いちばん聞きごたえがあったと思いました。曲の終わりに近づくに連れて,大河ドラマのテーマ曲風に明るさを増していくのですが,ほのかな暗さと緊張感を残している辺り,社会問題を扱った作品らしいと感じました。演奏の方にも,曲想に相応しい,テンションの高さがありました。

後半は,すっかり趣きを変えて,ポップスステージになりました。高校の吹奏楽部の定期演奏会などでも,こういう構成を取ることのが多いのですが,今回は,「タイムスリップ:音楽で時をも越える夜」という副題どおり,いろいろな時代にタイムトラベルをして,その時代の曲を楽しむ,という点で統一感を作っていたのが特徴でした。

最初は,映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマ曲でした。この映画自体,タイムトラベルの映画ですので,今回のコンセプトにぴったりの作品です。1985年の映画ということで,聞いているうちに私自身,学生時代に戻ってしまうような懐かしさを感じてしまいました(1985年,確かに映画館で観ました)。金管楽器がファンファーレ風のメロディを気持ちよく演奏する曲なので,演奏者の方もとても気持ち良く演奏できたのではないかと思います。

なお,今回のタイムトラベルですが,演奏中,舞台の袖に「1985」といった年号を示す手作りっぽいボードを各曲ごとに出していました。また,次の曲に移る時に「ギューン」という効果音を入れていました。この辺の手作り感が,「正しい学生」という感じでした。きっと,私の大学生時代でも,同じようなことを考えただろうな,などとちょっと微笑ましく感じました。

次の曲は,NHK大河ドラマ「篤姫」のテーマ曲でした。1860年ということになります。この曲については,今年の大河ドラマ「江」のテーマでも良いのかなと思ったのですが,「江」の場合,まだドラマのクライマックスが来ていないので,年代を決めにくかったのかもしれません。「篤姫」は,ほぼ毎回観ていたので,懐かしくなったのですが,聞いているうちに,今年の「江」のテーマと混線してくるところもあり(どちらも吉俣さんの曲です。),ちょっと落ち着かない気がしました。

続いて,1970年に飛び,カーペンターズ・メドレーが演奏されました。最初に舞台袖で金管五重奏でトップ・オブ・ザ・ワールドが演奏された後,フル編成で,真島俊夫編曲によるメドレーが演奏されました。真島さんは,吹奏楽用の編曲を沢山されていますが,この「カーペンターズ・メドレー」は,定番といっても良い編曲だと思います。パートごとに立ちあがって演奏したり,トランペットやトロンボーンをはじめとした,ソロが次々出てきたり,吹奏楽の楽しさと曲の懐かしさを同時に楽しむことができました。カーペンターズの曲の場合,タンバリンががリズムを刻むと,1970年代だなぁという気分になります。ちなみに,今回演奏された曲は,次のとおりです。

シング〜愛のプレリュード〜トップ・オブ・ザ・ワールド〜遥かなる影〜スーパー・スター〜ふたりの近い
(実は,たまたま,このメドレーが収録された「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」のCDを持っており,その解説を見ながら書きました。)

カーペンターズは,私より少し上の世代なので,リアル・タイムでは聞いていないのですが,不思議なことに,聞いていると懐かしさを感じます。現代の大学生が聞いても,きっと同様に感じるのではないかと思います。カーペンターズの場合,「ポップスのクラシック」と言えそうですね,

その後,「タイムマシンにトラブルが発生し,太古に行くはずが未来の「2245年」に飛ぶ」という設定になりました。太古に行った場合,どういう音楽が流れていたのか気になるところですが,ここでは未来の音楽として,「スタートレック」の音楽が演奏されました。この曲は,あまり聞いたことはなかったのですが,単純に音だけを聞くと未来というよりは,ちょっとラテン風味が入った1960年代の雰囲気かな,と感じました。サックスのソロをはじめとして,とても格好良い演奏でした。

最後は無事現代「2011年」に戻り,現在絶好調のアイドルグループ「嵐」のヒット曲メドレーで締められました。この「嵐メドレー」も,ここ数年の吹奏楽の演奏会の定番ですね。団員たちによる踊りが入るのも「当たり前」です。嵐同様,男子5人が楽しげに踊っていましたが,途中からは女子数名も加わり,ミラーボールも回り始め,華やかさを増していました。私自身,特に嵐のファンというわけではないのですが,「Happiness」の中の「走り出せ」の部分になると,大体どの吹奏楽部も同じ動作で踊るので,すっかり覚えてしまいました。

アンコールでは,オーメンズ・オブ・ラブが演奏されました。吹奏楽のポップス系のアンコール曲の定番といえば,「宝島」ですが,その兄弟分みたいな曲で(どちらも和泉宏隆作曲,真島俊夫編曲ですね),明るく軽快に締めてくれました。途中,パーカッションのメンバーが楽器を持って,客席まで降りてきて,会場の雰囲気をさらに盛り上げてくれました。

ちなみにこの曲は,我が家の子供(某学校の吹奏楽部に入っています)も大好きな曲で,「演奏してみたい」と良く言っています。きっと,金沢大学吹奏楽団の皆さんの間でも人気が高い曲なんだろうな,と思いながら聞いていました。

終演後,ホールの玄関付近では,団員たちがお出迎えをしてくれていました。このパターンもすっかりお馴染みです。金沢市文化ホールでアマチュアの吹奏楽団が演奏会を行う機会は非常に多いのですが,この辺は,コンパクトなホールならではのメリットだと思います。この光景を見ながら,皆さん正しい学生生活を送っているんだなぁなどと羨ましく思いました。これから夏以降,アマチュア吹奏楽界は,暑く,熱いコンクールシーズンに入って行きますが,金沢大学吹奏楽団の皆さんにも悔いがないよう頑張ってもらいたいものです。(2011/06/21)

関連写真集

入口の看板。



金沢市文化ホールの写真。今回は裏側から入りました。