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オーケストラ・アンサンブル金沢第304回定期公演PH
2011年6月22日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)プロコフィエフ/古典交響曲ニ長調,op.25
2)ラヴェル/クープランの墓
3)渡辺俊幸/Essay for Drums and Small Orchestra(2006年度OEK及びオーストラリア・ヴィクトリア州共同委嘱作品)
4)(アンコール)デイビヴィッド・ジョーンズによる即興演奏
5)プーランク/2つの行進曲と間奏曲
6)ファリャ/バレエ音楽「三角帽子」第1組曲,G.58
7)(アンコール)ドビュッシー/小組曲〜小舟にて
●演奏
山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)*1-3,5-7
デイヴィッド・ジョーンズ(ドラム)*3-4
Review by 管理人hs  

6月末のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,当初,ロジェ・ブトリーさんが指揮をするはずでしたが,急病のため山田和樹さんに変更になりました。ただし,大きな曲目の変更はなく,プロコフィエフの古典交響曲,近現代のラテン系の作品,2006年に作曲された渡辺俊幸さんによるドラム協奏曲が組み合わさった独特のプログラムが演奏されました。

最初に演奏された,プロコフィエフの古典交響曲は,岩城さん時代からOEKが繰り返し演奏してきた十八番です。山田さんの作る音楽は大変明快かつダイナミックでした。第1楽章の冒頭から,全く慌てることのない,どっしりとしたテンポで演奏されましたが(岩城さんのテンポと同じぐらいだったと思います),重苦しくなるところはなく,音がしっかりと鳴り切ったような気持ち良さがありました。第2主題は,指揮ぶりからして「大きくなったり,小さくなったり,高くなったり,低くなったり」という感じのユーモアがありました。それでいて,どこを取っても乱れるところのない,緻密さがあるのがお見事でした。

第2楽章は,すっきりとした透明な弦楽合奏が印象的でしたが,ここでも大変しっかり音が鳴っていました。第3楽章は,わざと大げさに演奏しているようなユーモア感覚たっぷりの演奏でした。プロコフィエフは,ハイドンの交響曲のパロディとしてこの曲を作りましたが,その精神にぴったりだと思いました。

第4楽章は,大変軽快で鮮やかな演奏でした。爽快ではあるけれども慌てた感じはなく,細かい音の動きもくっきりと鮮やかに聞かせてくれました。特に木管楽器の音の色彩感が素晴らしく,贅沢な気分を味わうことができました。エンディングも思い切り良く,スカッと結ばれていました。

山田さんの若々しい指揮ぶりと,この曲を演奏し慣れているOEKの余裕とがしっかりとかみ合った素晴らしい演奏だったと思います。この曲を聞きなれている古くからのOEKファンも納得という演奏だったと思います。

続く,ラヴェルのクープランの墓も OEKのお得意の曲です。4曲からなる組曲ですが,ここでは,全曲を通じて,水谷さんのデリケートな味わいのあるオーボエを核として落ち着いた気分のある演奏を楽しむことができました。第1曲は,ちょっと艶を抑えたような,控えめな感じで始まり,じわじわと淡い色合いが広がっていくようなデリケートさがありました。第3曲のオーボエのソロを聞いていると,展覧会場をゆったりと歩きながら,古い時代の絵を見て回っているような優雅さを感じました。

ただし,全曲を通じて聞いてみると,例えば,終曲でもう少し開放感を感じさせてくれると良いかなと思いました。やや,こじんまりとまとまったような演奏だったかもしれません。

後半は,この日の「目玉」と言っても良い,渡辺俊幸さん作曲によるEssay for Drums and Small Orchestra で始まりました。この曲は,ドラム奏者のデイヴィッド・ジョーンズさんとOEKのために2006年に書かれた曲です。OEKと の委嘱によるもので,オーストラリア演奏旅行でも演奏されたことがあります。定期公演で演奏されるのは,2回目のことで(ただし,私はこの時は聞いていません),レコーディングもされています。

この曲ですが,ドラム協奏曲という「ありそうでない」設定がまず,大変面白かったですね。指揮台のすぐ隣にドラム・セットがデーンと陣取っているというのは,滅多に見られない光景です。

曲想の方も素晴らしく,次から次へと万華鏡のように音楽が沸き出てきました。ジョーンズさんは,意表を突いて,上手側ドアから登場したのですが,何故か手にはお寺でお経をあげる時に使うような鉦を持っていました。その縁を擦り,グラスハーモニカのような神秘的な音を従えての不思議な登場の仕方でした。指揮の山田さんの方は下手側から入っており,ジョーンズさんがドラムの座席に座ったとたんに,爽やかに曲が始まりました。

この曲については,CDでは聞いたことがあるのですが,曲の最初の部分がやけに静かだったので,「?」と思っていたのですが,今回実演を見てようやく面白さが分かりました。

数多くのテレビドラマ等の音楽を担当されている渡辺俊幸さんの作品ということで,基本的にとても聞きやすい作品でしたが,聞いているうちに,どこかエキゾティックな香りも感じました。これはやはり打楽器という,基本的に原始的な楽器をメインに持ってきているからなのかもしれません。途中,コントラバスとの掛け合いなど,所々,ジャズの風味を感じさせる部分もありました。

ジョーンズさんは,とても楽しげにドラムを叩いていました。激しく叩いている部分もあるのですが,イラつくようなところはなく,常に大らかで,聞いていて気持ち良くなる暖かみを感じさせてくれました。曲の最初の方は,むしろOEKの各楽器のソロの方が目立っているようなところがあり,ヴィブラートのしっかり効いた突き抜けるようなトランペットの音,力強い弦楽器の合奏など,ジョーンズさんの包容力のあるドラムの上で多彩な音楽が展開していました。

そして,聞きものはカデンツァでした。ジャズ的に言うとアドリブの部分ですが,手で楽器を叩くなど,ドラムで作ることのできる,ありとあらゆる音色を楽しませてくれました。音の魔術師と言って良いような,イマジネーション豊かな音楽に会場全体が魅了されているようでした。何よりも,音楽が好きでたまらないといったジョーンズさんのキャラクターがストレートに伝わってくるのが素晴らしいと思いました。

迫力たっぷりのロールが入って,アドリブの部分は終わり,再度,オーケストラとドラムスの絡み合いになります。ジョーンズさんの発散する明るさは「天性の明るさ」と言っても良いもので,さらに前向きな気分になっていました。この曲を聞いたすべての人が,幸福感を感じたのではないかと思います。

この曲を聞いていると,どこまで渡辺さんが作曲し,どこまでがジョーンズさんのアドリブなのか判然としなくなるのですが,サイン会の後,たまたま通りかかった(こういうのが金沢らしいところです)渡辺さんに直接お尋ねしたところ,「ドラムのパートもしっかり楽譜は書いていますが,カデンツァの部分はジョーンズさんのアドリブ」とのことでした。まさにこのお二人のコラボレーションで出来た作品と言えます。そういえば,渡辺さんも昔,「赤い鳥」というバンドでドラムスを担当していたことがあったんだということを思い出しました。

当然,客席は大いに盛り上がり,アンコールが演奏されました。ジョーンズさんのドラム独奏による短い即興演奏が披露されたのですが,ここで登場したのが,ランプ付きスティックです。虹のような7色を放つスティック(何色か分かりませんが,イメージとしては7色)を激しく叩きながらのユーモアたっぷりのパフォーマンスでした。

お客さんに手拍子による参加を求める場面もあったり,すっかりジョーンズさんの世界に引き込まれたステージでした。

続いて,プーランクの粋な小品が演奏されました。2つの行進曲と間奏曲ということでしたが,もともと3つの楽章から成っているようなバランスの良さがありました。管楽器は1本ずつで,ホルンや打楽器は入っていませんでしたので,かなりコンパクトで軽い響きがしていました。ちょっと乾いた感じがするのは,いかにもプーランクらしいところです。曲想も,「行進曲」というほどビートが効いた感じではないので,「象のババール」のような,童話的な世界に通じる作品だと思いました。

最後にファリャの三角帽子第1組曲が演奏されました。この曲も,通常のOEKの編成で対応できるので,過去,何回か取り上げられたことがあります。山田さんの作る音楽は,とても伸びやかで,思い切りの良いスケールの大きな音楽を聞かせてくれました。曲の仕切り方が上手く,変化に富んだ各曲が鮮やかに描き分けられていました。途中,柳浦さんのファゴットがのんびりと出てきたり,弦楽器がそれに優しく応えたり,バレエの舞台を彷彿とさせるような部分もありました。クラリネットなどもベルアップしていたり,演奏する姿を見ているだけで楽しい演奏でした。

ただし,この曲の最後の和音は,「終わった感じ」でないので,演奏会のトリで聞くにはどうしても物足りなさが残ります。以前,ヴァレーズさんも同じ曲で締めたことがありますが,フランスの指揮者はこの第1組曲が好きなのでしょうか?良い曲ではあるのですが,いつも「ちょっと変?」と感じる曲です。

アンコールでは,ドビュッシーの小組曲の中から第1曲「小舟にて」が演奏されました。この曲もよく演奏される曲です。今回は岡本さんが第1フルートでしたが,爽やかさを残しながらも,じっくりとした音楽を聞かせてくれました。ここまで演奏されてきた曲とさほど関連はない曲でしたが,フルートの音がスーッと始まると,食後,きっちりとお腹が落ち着いたような「座りの良さ」がありました。ぴったりのアンコールでした。

もともと指揮される予定だったロジェ・ブトリーさんには悪いのですが,個人的には,今回,山田和樹さんの指揮ぶりをしっかり味わうことが出来たのが何よりもの収穫でした。終演後のサイン会の時,来年1月の定期公演を楽しみにしています,と山田さんに話しかけてみたところ,輝くような明るい顔で応えてくれました。今度は,ベートーヴェンの「英雄」という大曲がメインということで,大いに期待したいと思います。(2011/06/25)

関連写真集


入口の看板。


音楽堂10周年と定期会員募集の看板です。「すごいなぁ」と思わせるようなシンメトリカルな構図です。


カフェ・コンチェルトで行われたプレトーク(今後はこのスタイルになるようです。飲食しながら聞けるのは良いかもしれません)には,渡辺俊幸さんが登場しました。渡辺さんのトークは,いつ聞いていても,とても気持ちが良いですね。

その後,デイヴィッド・ジョーンズさんによるパーカッション独奏がありました。「2ドルのタンバリン(渡辺さんのお話です)」を使った演奏が大変鮮やかでした。


終演後サイン会が行われました。

デイヴィッド・ジョーンズさんのサイン。渡辺さんのドラム協奏曲のCDの盤面に頂きました。お名前の上には,あいさつの言葉(英語ではないようです)が書かれています。


山田和樹さんのサイン。そのうち,OEKとのCD録音にも期待したいところです。


サイン会の予定メンバーには入っていなかったのですが,渡辺さんがうまい具合に通りかかったので,ドラム協奏曲のCDの解説の表紙に頂きました(j持参したペンが不調ではっきり見えないのですが...)