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ルドヴィート・カンタ来日20周年記念:夢の協奏曲公演:ボヘミアの魂
2011年6月26日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番ト短調op.46
2)マルティヌー/チェロ協奏曲第2番H.304(日本初演)
3)ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調op.104
●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ)*2-3
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の看板奏者,首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんが来日して20周年を迎えました。長かったように感じることもあれば,早く感じることもあるのが年月ですが,カンタさんについては,ずっと以前から「金沢にいて当たり前」という感覚で接しているOEKファンが多いのではないかと思います。その20年を記念して,チェロ協奏曲2つを組み合わせた演奏会が行われました。

カンタさんは,これまでもたびたびOEKの演奏会の協奏曲のソリストとして登場したり,リサイタルを行ったり,非常に積極的に活動をされてきましたが,前半後半ともにチェロ協奏曲,しかも大曲をドーンと2曲並べるプログラムというのは,初めてのことでしょう。これまでのカンタさんの演奏活動の「総決算」と言っても良い演奏会となりました。

ステージ上には,カンタさんとの信頼関係抜群の井上道義指揮OEK。客席には,「カンタさんを囲む会」の皆さん,石川県立音楽堂楽友会の皆さん,そして松本市から来られたカンタさんのファン...と,会場全体が,演奏会を盛り上げようとする暖かな気分に満ちていました。

演奏会は,まずOEK単独で,ドヴォルザークのスラヴ舞曲が1曲演奏されました。この日のOEKの編成は,ヴィオラ,チェロ,コントラバス,ホルンを各2名程度増強し,トロンボーン,テューバを加えていました。ロマン派の曲を演奏するには,それほど大きな編成とは言えないのですが,たっぷりと音が鳴っており,響きに余裕さえ感じさせてくれたのはさすがでした。いかにも井上さんらしい,表情の豊かさ,ニュアンスの変化も楽しめました。開演に相応しいパンチ力もたっぷりで,会場の気分は一気に盛り上がりました。

続いて,マルティヌーのチェロ協奏曲第2番が演奏されました。プログラムのメッセージによると,カンタさん自身,この曲に対して非常に強い思い入れがあるようなのですが,日本にはこれまで紹介されておらず,何と今回が日本初演とのことでした。今回の演奏会の「夢の協奏曲公演」という言葉にはいくつか意味が込められていたと思いますが,まずこのマルティヌーの作品が「夢の協奏曲」ということになります。

聞いた感じは,20世紀の作品(第2次世界大戦前後に書かれた曲です)にしては,大変聞きやすく,ドヴォルザークやブラームスの伝統を受け継ぐ協奏曲という印象を持ちました。「パストラール」の別名を持つ,とプログラムの解説に書いてあったとおり,響きの感じとしては,ブラームスの交響曲第2番に通じるような牧歌的なのどかさがありました。

曲は,ティンパニが支える音暖かな雰囲気で始まりました。カンタさんは,いつもどおりしっかりと情感のこもった,穏やかな演奏を聞かせてくれました。ただし,同じような音型が繰り返し出てきて,ちょっと曲のメリハリが不足しているような印象を持ちました。この辺については,曲を聞きなれているかどうかでも違ってくるのですが,やはり聞いていて「長いかな」と感じました。少々体調が悪かったこともあり,第1,2楽章については,ウトウトしかけてしまいました。所々,「マルティヌーの語法」と言っても良いような,独特の響きが出てきましたが,その辺に馴染んでいるかどうかで印象が変わってくる曲と言えるのかもしれません。その分,第3楽章は軽快な動きが出てきたり,シリアスなカデンツァが出てきたり,多彩な曲想の変化をしっかりと楽しむことができました。打楽器が活躍し,軽快に終わる終結部も印象的でした。

後半は,お馴染みのドヴォルザークのチェロ協奏曲が演奏されました。全チェロ協奏曲中でもっとも人気の高い作品(そして難曲)です。私自身についても,カンタさんの独奏で聞くのは2回目です。

カンタさんは,チェロの音を豪快に朗々と聞かせるというタイプではないので,オーケストラと共演した場合,やや力感が不足すると感じる部分もあるのですが,その分,じっくりとデリケートな弱音を聞かせたり,ドヴォルザークの美しいメロディをきめの細かく抒情的に歌わせてくれます。今回のチェロ協奏曲でも室内楽的と言っても良い美しい演奏を聞かせてくれました。

この演奏では,OEKの演奏も鮮やかでした。第1楽章の最初の部分から,管楽器のソロが冴えていました。透明感と滑らかさのある弦楽器の音も印象的でした。カンタさんのチェロが入る前から熱気が漂っており,「万全のサポート」といった感じの演奏を聞かせてくれました。

第1楽章の途中では「望郷の歌」といった感じで,たっぷりとホルンのソロが出てくるのが聞きものですが,この部分もお見事でした(この日はエキストラの方が担当していました)。クライマックスで出てくる,トランペットやトロンボーンの音も大変充実しており,カンタさんの演奏を盛りたてていました。

第2楽章は,カンタさんとOEKとのコラボがさらに親密さを増しており,チェロと木管楽器のための合奏協奏曲のような趣きがありました。カンタさんのチェロのクリームのように滑らかな演奏と木管楽器の瑞々しい響きとがしっかり溶け合っていました。

第3楽章も,OEKの力強く,着実な歩みを感じさせてくれるような演奏が印象的でした。楽章の最後の方に出てくる,コンサートマスターと独奏チェロによる重奏の部分が,個人的には大好きなのですが,その期待どおりの見事な重奏でした。この日は,OEKの設立当初から在籍している松井直さんがコンサートマスターでしたが,「カンタさん,20周年おめでとう」と祝福しているような,すがすがしい音を聞かせてくれました。曲の最後の部分も,気合い十分の音で,ビシっと締めてくれました。

ステージ上で可愛らしい子供たちによる花束贈呈が行われた後,終演後は,カンタさんと井上道義さんのサイン会が行われました。それ以外にも,ホールのロビーではカンタさんの写真展(カンタさんの個性がしっかり表れた素晴らしい写真の数々),玄関ではカンタさんが行ってきた過去のリサイタルのチラシの展示,受付ではカンタさんのサイン入りワインの販売...ありとあらゆる方法で,カンタさんの活動を盛り上げていました。カンタさんのチェロの持っている「まわりの人を巻き込む」吸引力のすごさを実感することのできた,「夢の公演」でした。

この20年で,OEKはすっかり地元金沢に定着しましたが,カンタさんもまた,石川県の音楽界に無くてはならない存在になりました。上では「総決算」と書きましたが,これからも OEKともども積極的な演奏活動を続けていって欲しいと思います。

PS.この日の公演ですが,ライブ収録を行っていました。大曲2曲を収録した充実の1枚になりそうです。(2011/06/28)

コンサートのパンフレットの表紙にカンタさんのサインを頂きました。
その裏に,井上道義さんからサインを頂きました。

















関連写真集
入口のポスター


カンタさんの20年を振り返る写真展を玄関で行っていました。




過去のリサイタルのチラシ類も展示していました。


お祝いの花


カンタさんのサイン入り,ワインをボトルで販売中


カンタさんの写真展