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もっとカンタービレ:OEK室内楽シリーズ第26回これぞ室内楽の王道!
2011年6月29日(水)19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)コダーイ/セレナーデop.12
2)トゥイレ/ピアノと管楽のための木管六重奏曲変ロ長調op.6
3)ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番へ短調op.95「セリオーソ」
4)バルトーク/弦楽四重奏曲第3番Sz.85
●演奏
江原千絵,原田智子*1,松井直,上島淳子*3,4(ヴァイオリン),丸山萌音揮*1,石黒靖典*3,4(ヴィオラ),大澤明(チェロ*3,4),岡本えり子(フルート*2),加納律子(オーボエ*2),遠藤文江(クラリネット*2),柳浦慎史(ファゴット*2),金星眞(ホルン*2),鶴見彩(ピアノ*2)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタ―ビレ」の今年度第1回は,「これぞ室内楽の王道!」と題して,聞きごたえのある室内楽曲が4曲演奏されました。このシリーズでは,OEKメンバーによる,ひねりの効いた選曲が多かったので,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲など「普通の室内楽」が取り上げられるのは,意外に珍しいことです。

まず最初にコダーイのセレナーデが演奏されました。ヴァイオリン2本とヴィオラのための作品で,セレナードという名前から連想されるほどには優雅な曲ではなく,所々,バルトークの曲を思わせるようは激しさを持っていました。曲は3つの楽章から成っていました。ほの暗いけれどもどこか軽快で,しかもエキゾティックという感じの第1楽章の後,かなり現代的な雰囲気のある第2楽章に続きます。ミステリアスな気分で始まった後,3人による対話となり,次第に激しさを増していきました。今回は,ヴァイオリンの江原さん,原田さんと最近OEKに入ったばかりのヴィオラの丸山萌音揮さんの共演でしたが,丸山さんは,強力な(?)女性二人に負けず,堂々と渡り合うような立派な演奏を聞かせてくれました。第3楽章はいかにもハンガリー音楽らしい,軽快な曲でした。途中,弦を指で弾く部分がありましたが,この辺りにセレナーデの片鱗がありました。生きのぴったりあった迫力満点の演奏を楽しませてくれました。

続いて,トゥイレというオーストリア出身のドイツの作曲家による,ピアノと管楽のための六重奏曲が演奏されました。今回初めて聞く作品でしたが,柳浦さんのトークにあったとおり,大変親しみやすく,分かりやすい作品でした。ブラームスやR.シュトラウスの曲を思わせる雰囲気が随所に出てきて,プログラムの解説に書かれているとおり,室内楽編成で交響曲を聞いたような充実感がありました。

曲は4つの楽章からなっていました。最初のコダーイの作品は,弦楽器だけで演奏されたので,曲の最初の部分で気持ちの良い管楽器の音が聞こえてくると,空気が入れ替わったような新鮮さを感じました。静かに始まった後,楽器が加わるにつれて音が大きく膨らんでいき,ロマンティックな雰囲気が広がっていくのも印象的でした。楽器の中では,特にホルンやオーボエの音が,R.シュトラウス的だと思いました。第1楽章はかなり長く,第2楽章もゆったりと展開していましたので,”気持ち良過ぎる”ような部分はありましたが,管弦楽曲を聞くほどには重苦しくならず,リラックスして後期ロマン派の気分を味わうことができました。

第3楽章は,オーボエの魅力的なメロディで始まりました。可愛らしいけれどもどこか怖さも含んでいるようなメルヘン的な気分のある楽章で,大変魅力的でした。アンコール・ピースに最適という楽章でした。第4楽章は生き生きとしたタランテラ風の楽章でした。ホルンが活躍していましたので,ブラームスのホルン三重奏曲の最終楽章であるとか,R.シュトラウスのホルン協奏曲の最終楽章辺りを彷彿とさせるような「爽快さを感じました。

後半は,お馴染みの大澤明さんを中心とした弦楽四重奏で,ベートーヴェンとバルトークの弦楽四重奏曲が演奏されました。弦楽四重奏の世界では,この2人の作曲家は「2大B」といって良い存在ですが,今回演奏されたのは,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」とバルトークの弦楽四重奏曲第3番という,短めの作品2曲でした。大澤さんのトークによると,「短めだけれどもエッセンスが詰まった2曲」とのことで,大変聞きごたえがありました。

ベートーヴェンの方は,冒頭部の緊迫感のあるユニゾンが印象的ですが,それほど力んだ感じはなく,じっくりと味のある,ちょっとくすんだ感じのする渋い演奏を聞かせてくれました。第2楽章の最初の方の朴訥さも印象的でした。その後,意味ありげな第3楽章のスケルツォ,テンポが一気に速くなって終わる第4楽章と続きます。後半の楽章は特にそうなのですが,気分が素早く切り替わり,エネルギーが凝縮されているように繋がっています。時間的には,それほど長くない曲ですが,密度の高い聞きごたえがありました。今回の演奏は,文字通り「シリアス」な誠実さのある演奏を聞かせてくれました。

演奏会の最後は,バルトークの弦楽四重奏曲第3番でした。この曲を生で聞くのは,2回目なのですが,どうも苦手です。15分未満の短い曲なのですが,どこかスッキリせず,重苦しい感じがあり,胃にもたれるような感じがします。というわけで,残念ながら,この曲については,充足感というよりは疲労感の方を感じてしまいました。

このように,今回もまたこのシリーズならではの挑戦的な選曲を味わうことができました。中では,トゥイレのピアノと管楽のための六重奏曲がいちばん楽しく聞けました。最後のバルトークのような難曲についても,間近な距離で,OEKメンバーのトーク付きで楽しめるというのは,他の演奏会にはない魅力です。今年度もまた,このシリーズは「回数券」で聞きに行きたいと思います。次回は,いしかわミュージックアカデミーの講師陣とOEKメンバーとの共演です。これも大変楽しみです。

PS.今回もOEKメンバーのトークを楽しむことができました。中では新人の丸山さんを紹介する江原さんのトークが特に楽しいものでした。丸山さんは,演奏会の本番前にギトギトのラーメンを食べ,その脂肪分を燃やしながら演奏をするのだそうです。これから益々,丸山さんの演奏からは目が離せなくなりそうです。(2011/07/01)

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