OEKfan > 演奏会レビュー
金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第36回サマーコンサート
2011年7月2日(土)18:30〜 金沢歌劇座
1)ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
2)ドビュッシー(ビュッセル編曲)/小組曲
3)ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調op.67
4)(アンコール)ビゼー/歌劇「カルメン」前奏曲
●演奏
福澤和広*1-2;高倉奏喜*3-4指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
Review by 管理人hs  

金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の第36回サマーコンサートを聞いてきました。金大フィルは,毎年1月にプロの指揮者を招いて定期演奏会を行っていますが,それ以外に6月末〜7月上旬頃に学生指揮者によるサマーコンサートを行っています。定期演奏会の方は毎年のように聞いているのですが,サマーコンサートの方を聞くのは,本当に久しぶりのことです。実は今回,知人からチケットを無料でもらったこともあり,聞きに行くことにしたのですが,学生指揮者と学生による演奏を聞いているうちに,「のだめカンタービレ」の世界に入った気分になり,聞いていて若返った(?)ように感じてしまいました。

最初に演奏されたウェーバーの「魔弾の射手」序曲は,全体にゆったりとしたテンポでした。曲の前半は,「ゆったり」というよりは,「安全運転」という感じで,少々安定感に欠ける部分がありましたが,終結部は,ビシッと決まっていました。休符に続いて,全奏で「バーン」と力強い和音が鳴った後の名残惜しさを感じさせるような歌わせ方が印象的でした。

2曲目のドビュッシーの「小組曲」は,大震災直後の3月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演で聞いたばかりの曲です。第1曲の「小舟にて」などは,6月のOEKの定期公演のアンコールで聞いたばかりでしたが,今回の金大フィルの演奏も気持ちの良い演奏でした。

テンポは,「魔弾の射手」同様に落ち着いた感じでしたが,ベースとなる弦楽器の音を中心に軽やかさがあったので,重くもたれる感じはしませんでした。何よりも,この曲のポイントとなる,木管楽器のソロがどれも鮮やかで,安心して曲を楽しむことができました。「小舟にて」のフルートは,清潔感のあるまっすぐな音がとても心地よく,若々しく響いていました。「メヌエット」では,オーボエとイングリッシュ・ホルン(多分)のソロが出てきましたが,情感がしっかりこもった,気持良い音を聞かせてくれました。終曲では,打楽器が活躍します。十分な華やかさを持ちながらも,うるさくなることはなく,曲のイメージにぴったりの上品さがある演奏になっていました。曲全体として透明感があったのも良かったと思います。

後半は,ベートーヴェンの交響曲第5番が演奏されました。「運命」として大変有名な曲ですが,編成を考えると,大学オーケストラの定期演奏会のメインのプログラムには入れにくい曲かもしれません(打楽器はティンパニだけ,テューバはなし,トロンボーンの出番も多くない)。ただし,今回のサマーコンサートは,2,3年生中心の編成でしたので,そういう点では,丁度良い編成とも言えそうです。

演奏は,とても流れが良く,若者たちが真摯に未来を見つめているような前向きのベクトルを持った演奏でした。聞いていて元気をもらいました。有名な「運命のモチーフ」もピタリと決まっていました。ゴツゴツした悲壮感はなく,スマートに音の美しさを聞かせてくれていたのが見事でした。

第2楽章もとてもスムーズな演奏でした。タメを作って,ゆったりと落ち着いた雰囲気で演奏されることの多い楽章ですが,むしろ健康的な爽やかさを感じさせてくれました。楽章の最後の方の軽快な気分はとても新鮮な解釈だと思いました。第3楽章も同様に爽快さを感じさせてくれました。コントラバスによる「象のダンス」の部分も妥協のない速いテンポで演奏されており,なかなかスマートでした。

第4楽章は,「指揮していて気持ち良いだろうなぁ」という気分が聞き手の方までしっかり伝わってくるような演奏でした。元々,大変ストレートな音楽ですが,小細工なく堂々と「ハ長調だ!」という音楽を聞かせてくれました。オーケストラ全体から自然な推進力が沸きあがってくるような演奏で,コーダに近づくにつれて,「学生オーケストラのベートーヴェンは良いなぁ」と,「のだめカンタービレ」(桃ケ丘編)を見ているような気分になりました。

部分的には,学生オーケストラらしい(?)詰めの甘さや技術的な問題はあったと思いますが,曲全体としては,大変まとまりの良い,一貫したコンセプトを感じさせてくれる立派な演奏でした。その後,大太鼓やシンバルなどの鳴り物が下手側から運び込まれ,アンコールでビゼーの「カルメン」前奏曲がたっぷりと演奏されて,お開きとなりました。

前述のとおり,金大フィルの演奏については,これまではプロの指揮者による,大規模な曲を中心とした定期演奏会を中心に聞いてきたのですが,今回,学生指揮者によるサマーコンサートを久しぶりに聞いてみて,行って良かった,と思いました。近年,金大フィルは,ラ・フォル・ジュルネ金沢に出演したり,「井上道義の指揮講習会」の「練習台」のオーケストラになったり,2月にOEKとの合同公演を行ったり,他大学にはない活動をする機会が増えています。その出番の多さが,充実した演奏につながっているのだと思います。勉学との両立は大変だと思いますが,OEKともども,地元の音楽界を支える団体ということで,これからも応援していきたいと思います。(2011/07/04)

関連写真集

ホール前の立看板。開演前ですが,まだまだ,外は明るいですね。