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石川県立音楽堂開館10周年記念スペシャル・コンサート
2011年9月11日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部 秋川雅史さんと共に 紅白対抗生オケ歌合戦
1)ビゼー/歌劇「カルメン」前奏曲
*
紅白対抗生オケ歌合戦
2)栄光の道
3)いぬのおまわりさん
4)上を向いて歩こう
5)この道
6)ハナミズキ
7)見上げてごらん夜の星を
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8)ララ/グラナダ
9)長渕剛/乾杯
10)千の風になって
●演奏
秋川雅史(テノール*8-10),鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
水上和夫*2,石本孝子*3,本多麻莉子*4,鴻野博司*5,下崎琳*6,本多将崇*7(歌)
合唱:「千の風になって」特別合唱団*10

第2部 いしかわ邦楽の至芸
1)藤井凡大/追い弾き八千代獅子
2)舞踊長唄「風流船揃」(振付:三世藤間勘祖)
3)素囃子「正治郎連獅子」
●演奏
三弦,箏,尺八等による合奏:石川県筝曲連盟,都山流尺八楽会石川県支部,琴古尺八晴教会*1
立方:藤間寿,藤蔭一代,若柳翔稀,西川さおり*2
長唄:杵望会*2
金沢素囃子保存会*3

第3部 邦楽、合唱&オーケストラのコラボレーション
1)倉知竜也/八橋検校による「六段」幻想:箏とオーケストラのための
2)シューベルト/キリエ ニ短調 D.31
3)モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618
4)牧野由多加/尺八、二十絃とオーケストラのための悲曲変容
5)(アンコール)ふるさと
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモンブレンディス),合唱:オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団*2,3,5
菅原久仁義(尺八*4),宮越圭子(二十絃箏*4)
石川県筝曲連盟?*1
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特別司会:徳光和夫,司会:上坂典子

Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂がJR金沢駅前に開館して丁度10年になります。それを祝うため,「石川県立音楽堂開館10周年記念スペシャルウィーク」と題して,9月上旬からいろいろな公演が行われてきました。そのクライマックスとなる「スペシャル・コンサート」を聞いてきました。「クラシック音楽から邦楽までを楽しむことのできる音楽堂の10歳の誕生日を皆で祝おう」というコンセプトの公演ということで,いろいろな内容を詰め込んだ,3部構成の大変長い演奏会になりました。一般市民を含め,非常に多くのアーティストが登場し,ちょっとしたお祭り気分のある公演となりました。休憩時間を含めると4時間以上かかっていたのではないかと思います。

今回は,8月末の日本テレビの「24時間テレビ」で24時間マラソンを走ったばかりの徳光和夫さんが司会を担当されたことも注目でした。もう一人の司会者の上坂典子さんとのやり取りだけではなく,会場のお客さんとのやり取りも楽しく,長い演奏会の雰囲気を和やかなものにしてくれていました

第1部は,「秋川雅史さんとともに紅白対抗生オケ歌合戦」でした。ビゼーの「カルメン」前奏曲に乗って,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)をバックに歌ってみたいという6人の石川県民と秋川さん,徳光さんが登場し,カラオケならぬ生オケ歌合戦が始まりました。

OEKが演奏可能なレパートリーがかなり限定されているため,出演者が本当に歌いたい曲ではなかったという問題はあったものの,どの方の歌も個性的かつ立派でした。ステージ後方の巨大スクリーンには,6人の方の姿が大きく映し出されたこともあり,大迫力の歌合戦となりました。

どの方も印象的でしたが,最年少だった13歳の下崎さんの「ハナミズキ」には驚きました。井上道義審査委員長(といっても,審査員は井上さん一人だけでしたが)もびっくりという,胸を打つ透明感のある歌でした。「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」という坂本九さんの歌をそれぞれ朗々と歌った本多さん兄妹,最年長の鴻野さんによる,人生を感じさせる「この道」,お孫さんのために歌った石本さんによる「いぬのおまわりさん」,トップを飾った水上さんによる「栄光の道」。6人の方と,徳光さんや秋川さんとのやりとりも非常に面白く,「皆さん度胸があるなぁ」と思いました。

井上審査委員長は,途中までは「ピンク」と言っていたのですが,”13歳にしては上手すぎる”下崎さんの歌が忘れられなかったらしく,最終的には,「紅の勝ち」ということになりました(特に副賞はありませんでしたが...)。

この企画を毎年行うのは,ちょっと難しいかもしれませんが,OEKのレパートリーを増やしていき,是非,恒例企画にして欲しいものです。次回は,OEK団員のどなたかに歌ってもらっても面白い気がするのですが,いかがでしょうか。

第1部の後半は,秋川さんを中心としたステージになりました。ララのグラナダを大きな起伏をつけて歌った後,長渕剛の「乾杯」が,秋川節という感じで歌われました。秋川さんは,マイクを使って歌っていたので,一般的なクラシックの声楽家とはスタンスは違うと思うのですが,その聞かせ方,魅せ方はさすがだと思いました。

第1部最後は,秋川さんの代名詞「千の風になって」が特別編成の合唱団と一生に歌われました。思ったよりも合唱団の人数は少なかったのですが,文字通り「老若男女」という編成でしたので,石川県民の縮図といった雰囲気がありました。この演奏会のコンセプトによく合った歌でした。

第2部は邦楽のステージでした。コンサートホールで邦楽を演奏するのは,珍しいことですが,緞帳がない分,演奏の準備に時間がかかるので,ちょっとロスタイムが多いと感じました。「邦楽は邦楽ホールで」というのが,やはり良かったのかもしれません(その分,徳光さんのトークが沢山聞けましたが。)。

ただし,コンサートホールでやってくれるから,邦楽に触れることができるという面もあります。今回も箏を中心とした大合奏,日本舞踊,素囃子をたっぷり楽しめました。何よりも着物を着た女性がずらりと並ぶだけで華やかです。日本舞踊の立方の4人の方については,プログラムの顔写真と照合しても,誰が誰なのかよく分からず(すみません),ちょっと気になってしまいましたが,着物の女性の魅力満載のステージでした。

特に,最後の素囃子は,一種,”邦楽器による室内オーケストラ”のようなもので,緊張感たっぷりの聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。曲想にも変化があり,和風クラシック音楽として楽しむことができました。今回登場した,金沢素囃子保存会の皆さんは,東,西,主計町の3つの茶屋街の混成チームでしたが,よくよく見ると,茶屋街ごとに着物の柄が違っていました。9月中旬には「金沢おどり」が邦楽ホールで始まりますが,そのプレ公演といった感じの第2部でした。

第3部は,和洋が揃う演奏でした。まず,筝曲の「六段」を基に,おなじみの倉知竜也さんが作曲した「「六段」幻想」が演奏されました。通常は箏だけで演奏される「六段」がオーケストラによって補われることで,艶やかさとダイナミックさが5割増しぐらいになった,という感じでした。邦楽ホールとコンサートホールという2つのホールを持つ,石川県立音楽堂の誕生日祝いにはぴったりの作品でした。

その後,OEK合唱団が登場し,シューベルトとモーツァルトの宗教曲が演奏されました。考えてみると,この日演奏された純粋なクラシック音楽はこの部分だけでした(ビゼーの「カルメン」前奏曲は,入場行進曲として使われていました)。シューベルトのキリエを聞くのは初めてでしたが,どこかモーツァルトのレクイエムの中の1曲のような暗さと強さがありました。続く,アヴェ・ヴェルム・コルプスは,10年前,音楽堂が開館した前日にアメリカで起こった同時多発テロの犠牲者のための追悼演奏を思い出させるような祈りの音楽となっていました。10年前の9月12日,お祝いの日にも関わらず,犠牲者を追悼するためにバッハのアリアで記念式典は始まりました。(残念ながら)安心に暮らすことのできる世界への祈りは,今後もずっと続いていきそうです。

最後は,箏と尺八をソリストにした協奏曲的な作品で締められました。フルートとハープのための協奏曲の邦楽器版といったところですが,最後の曲にしては,ちょっと渋いかなという印象を持ちました。ただし,箏の音がだんだんとオリエント風の雰囲気になり,どこかバルトークの曲をイメージさせるムードになっていくのは,大変面白いと思いました。

締めのステージでは,出演者全員+会場のお客さんが勢ぞろいし,「ふるさと」を歌ってお開きとなりました。この曲は,東日本大震災以降,特に東北地方の方には,従来とは違った風に聞こえる曲になってしまいました。故郷で,好きな音楽を,皆で楽しめる...音楽ファンにとっては,これ以上望むことはないのかもしれません。演奏会の時間は予想以上に長かったのですが,石川県らしさ,特に石川県内で邦楽に携わっている人の多さを改めて実感できた公演でした。 (2011/09/17)

関連写真集

音楽堂入口の看板


スペシャルウィークのポスター


スペシャルコンサートの出演者情報が下の方に書かれています。


今回はいつもと違う場所で聞いてみました。演奏会の前,黒瀬恵さんによるオルガン演奏がありました。


音楽堂の側面のフラッグ