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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ
もっとカンタービレ第28回 マイケル・ダウスを迎えて
2011年10月24日(月) 19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)モーツァルト/弦楽五重奏曲ハ長調,K.515
2)ベートーヴェン/七重奏曲変ホ長調,op.20
●演奏
マイケル・ダウス*1-2,大村俊介*1(ヴァイオリン),古宮山由里*1,丸山萌音揮*1-2(ヴィオラ),大澤明(チェロ),今野淳(コントラバス),木藤みき(クラリネット*2),柳浦慎史(ファゴット*2),野田篁一(ホルン*2)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の名誉コンサートマスター,マイケル・ダウスさんを中心とした,OEK室内楽シリーズ:もっとカンタービレ第28回を聞いてきました。このシリーズでは,一つの演奏会の中で,比較的短めの曲が4曲ほど演奏されることが多いのですが,今回は,モーツァルトの弦楽五重奏曲ハ長調,K.515とベートーヴェンの七重奏曲の2曲だけ,というこのシリーズにしては珍しい,シンプルでオーソドックスな構成でした。その点がかえって新鮮でした。ただし,オーソドックスといっても,七重奏とか五重奏といった,「大き目の室内楽」を聞けるのは,このシリーズならではです。

モーツァルトのハ長調の五重奏曲は,交響曲でいうと「ジュピター」に当たる,室内楽の名曲と言われています。ただし,私自身,生で聞くのは今回が初めてのことでした。

第1楽章の冒頭から,大澤さんのチェロとダウスさんのヴァイオリンの掛け合いによる「ステレオ効果」を楽しむことができました。中音域の奏者が音を刻む中,グッと低音から沸き上がってくるチェロの音を第1ヴァイオリンが流麗なメロディで受ける...というパターンが繰り返されていましたが,その一連のやり取りの中に何とも言えぬ大らかさと品格がが漂っていました。「やはり室内楽版ジュピターだ」という第1楽章でした。

第2楽章もゆったりとした穏やかな気分がありましたが,この楽章では,第1ヴィオラの古宮山さんに思わず注目していました。この日の楽器の配置は次のとおりでした。

      第1Va
  第2Vn    第2Va
第1Vn          Vc

第1楽章では,両端の第1ヴァイオリンとチェロの活躍が目立ったのですが,この楽章では,5人編成の「丁度真ん中」にいたヴィオラの古宮山さんとダウスさんの美しい”ハモリ”が聞きものでした。古宮山さんは大変エレガントな青いドレスを着ていらっしゃったこともあり,「第3の極」として魅力的な存在感をしっかりとアピールしていました。

視覚的には,ロス・インディオス&シルヴィア(古い)とかピンキーとキラーズ(さらに古い)のようだな,とわけの分からないことを考えながら聞いてしまいましたが...これは余談です。

第3楽章はメヌエットですが,それほどリズムが強調されてはおらず,第2楽章の延長のようなおっとりとした優雅さが継続していました。ここでも第1ヴァイオリンと第1ヴィオラの絡みが,親密さと暖かさのある室内楽らしい雰囲気を作っていました。第4楽章は,軽快なテンポが心地よく感じられました。

全曲を通じて,すっきりと聞かせる部分とじっくり聞かせる部分のバランスがとても良かったと思います。このホールは,あまり残響がないので,アンサンブル全体としての音の溶け合いは今一つの感じはしましたが,曲全体として,ダウスさんだけが目立つのではなく,各楽器のバランスがとても良く,安定感が感じられたのも良かったと思いました。

後半のベートーヴェンの七重奏曲の方は,管楽器3+弦楽器4の室内楽ということで,室内楽というよりはミニ・オーケストラ的な響きでした。前半は弦一色でしたので,第1楽章の序奏の最初の和音が響くと,「鮮やかだねぇ」と気持ちが晴れやかになりました。この日のクラリネットは,木藤さんでしたが,その明るく,流れの良い演奏は曲想にぴったりでした。

第1楽章の主部では,ダウスさんが演奏する主旋律を支える,丸山さんのヴィオラのキビキビとしたリズムも快適でした。時々,ズンと聞こえてくる今野さんのコントラバスの音も効果的で,「皆さんいい仕事をしてますねぇ」と各楽器に感情移入をしながら楽しんでしまいました。

第2楽章はクラリネットの歌が,ヴァイオリンの歌につながり,それが管楽器にもつながり...というじっくりとした雰囲気が魅力的でした。この日のホルンは,野田篁一さんがゲストとして参加されていましたが,中間部に出てくるソロなど,柔らかな音をしっかい聞かせてくれました。

メヌエットや変奏曲となる,第3,第4楽章はディヴェルティメント風ですが,弛緩することなく,ここでもキビキビとした音楽を聞かせてくれました。第5楽章のスケルツォは,スケルツォにしては,やや抑え気味の感じはしましたが,そのおっとりした感じが,ウィーンの室内楽という感じなのかもしれません。

第6楽章では,野田さんのホルンが活躍する序奏部に続いて,大変生き生きとした主部となりました。ダイナミックな野性味もあり,演奏会全体のトリを華やかに締めてくれました。ダウスさんのカデンツァが入るあたり,今回の演奏会のテーマにもぴったりでした。

全体で40分ほどもある大曲ですが,今回の演奏は,全体的にキビキビとしており,まったく長さを感じませんでした。各楽器のキャラもしっかり立っており,各奏者に注目しても楽しめる演奏だったと思います。特にクラリネットやホルンの音が加わると,曲の気分が大きく広がる気がしました。 ベートーヴェンの交響曲第1番と同じ時期に作られた若さ溢れる魅力的な作品を,ダイナミックに聞かせてくれた,とても楽しい演奏だったと思います(演奏時間的には,ベートーヴェンの方が長いのですが,印象としては,むしろ前半のモーツァルトの曲の方がちょっと長いかなと感じてしまいました)。

今年の10月は「ダウスさんの月」ということで,金聖響さんとの定期公演でのシューマンに加え,室内楽シリーズでも充実した曲想の室内楽をじっくり楽しむことができました。OEKとの名コンビ健在ということを実感できた10月でした。 (2011/10/27)

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