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石川県合唱連盟創立50周年記念演奏会
2011年11月13日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部
1)上田真樹(銀色夏生詩)/僕が守る
2)草川信(中村雨紅詩,三善晃編曲)/「唱歌の四季」〜夕焼小焼
第2部
3)ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付」
第3部
4)佐藤眞(大木惇夫詩)/混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」〜大地讃唱
●演奏
松尾葉子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*3-4
朝倉あづさ(ソプラノ)*3,串田淑子(アルト)*3,志田雄啓(テノール)*3,多田羅迪夫(バリトン)*3
石川県合唱連盟合同合唱団*3-4
外泰子*1;深見納*2指揮石川県内の高校生による合同合唱団*1-2,徳力清香(ピアノ)*1-2
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,「12月に第9を演奏しない」珍しいオーケストラですが,「○○記念」という時には,意外にしっかり第9を演奏しています。今回は,石川県合唱連盟創立50周年記念演奏会として,松尾葉子さん指揮で演奏されました。

石川県合唱連盟は,1960年に石川県内の合唱愛好家が集まって創設された団体で,中学・高校・大学の合唱部なども含む48団体が加盟しています(プログラムに書かれていた団体名を数えてみました)。1960年創立なので,実のところ昨年が50周年だったのですが,2年に一度行われているビエンナーレいしかわ秋の芸術祭にあわせ,より盛大に行うために,今年行われることになったようです。ちなみに,石川県合唱連盟では,創立30周年,40周年の年にも第9を歌ってきました。キリの良い50周年ということで,「当然」という選曲と言えます。

演奏会は,当然,第9がメインでしたが,それ以外にも短い曲が数曲歌われ,全体は3部構成となっていました。

第1部は,石川県内の高校合唱部の合同合唱団によって2曲歌われました。最初に歌われた,銀色夏生詩による「僕が守る」は,今年度のNHK全国学校音楽コンクール高等学校部門の課題曲ということで,もっとも合同演奏しやすい作品と言えます。聞いていて前向きな気分になるような作品で,150人編成による歌は非常に聞き映えがしました。たっぷりとした量感と同時に透明感や繊細さもがあったのも良かったと思います。言葉のニュアンスが新鮮で,聞いていて励まされると同時に泣けてくるようなところがありました。

2曲目は,お馴染みの唱歌「夕焼け小焼け」を三善晃さんが編曲したものでした。ステージいっぱいに広がるようなスケールの大きな空気感が素晴らしく,気のせいか会場の空気が夕焼け色に染まったように感じてしまいました。高音部がかなり苦しそうな部分がありましたが,それが大きな盛り上がりにつながっていました。

私自身,高校生の合唱を聞く機会は滅多にないのですが,瑞々しい若い人の声を聞くだけで,元気が出てきますね。全体に漂う「青春の甘酸っぱさ」(そう思い込んで聞いているだけかもしれませんが)のようなものも感じました。高校生による吹奏楽も良いけれども,合唱の方も「癖になる」ような世界かもしれませんね。

第2部は,松尾葉子指揮OEKと石川県合唱連盟合同合唱団(こちらは大人が中心)によるベートーヴェンの第9でした。松尾さんがOEKの指揮をするのを聞くのは...もしかしたら20年ぶりぐらいかもしれません。

全曲を通じて,もったいぶったところのないテンポ設定で,どんどん先へ先へと進んでいく推進力が印象的でした。その分,第1楽章などはやや起伏が少なく,サクサク進み過ぎる気がしました。弦楽器の音が軽やかなのは悪くはないのですが(この日は,見なれない若い女性奏者がコンサートミストレスでした。どなたでしょうか?),深刻さのない,すっきりとした味わいの第1楽章というのは,ちょっと肩すかしを食わされたような感じで,物足りなさを感じました。

第2楽章はこの軽快さが良い方に現れており,キレの良いリズムと音楽の流れの良さを楽しむことできました。木管楽器やホルンが軽やかに活躍する中間部には,雲がスーッと晴れていくような爽やかさがありました。この部分はとても印象的でした。

第3楽章もサラサラと滑らかに進んで行きましたが,途中,テンポが何段階かに変化し,時折ためらいの表情が出てくるのが魅力的でした。音の緊張感を緩めたり,締めたりするメリハリがとても自然に付けられており,全くダレることのない緩徐楽章でした。ホルンの「聞かせどころ」の音階のようなフレーズや,最後の方に出てくるトランペットのファンファーレも率直に気持ち良く演奏されていました。その他,遠藤さんのクラリネットの冴えた音も印象的でした。

合唱団とソリストは,第2楽章の後,ステージに入ってきました。合唱団だけで250名以上,OEKと合わせると約300名という大編成ということで,この移動時間を利用して「一休み」という感じになっていました。

第4楽章も率直な表現が中心で,歌が出てくる前のレチタティーヴォ風の部分などは,第1楽章同様,「あっさり否定し過ぎかな?」という感じでした。ドラマティックな感じをあえて抑えているような印象を持ちました。

その分,合唱が入ってから後は,フィナーレに向けてどんどん高揚感が高まりました。これだけの大人数の合唱団で第9を聞くのは初めてのことでしたが,混成チームとはいえ,さすが合唱連盟に参加している団体ばかりということで,とてもよくまとまった歌声でした。特に有名な「歓喜の合唱」の部分の晴れやかな声は,「お祝い」公演にぴったりでした。さすがにこれだけ人数がいると,ちょっと音が飛び出してしまうような部分はありましたが,それもまた,祝祭的な気分を盛り上げていました。

独唱者の方は,地元でお馴染みの朝倉あづささんと串田淑子さん,近年金沢で上演されている各種オペラ公演でお馴染みの志田雄啓さん,日本を代表するバリトン歌手,多田羅迪夫さんということで,大変楽しみな顔ぶれでしたが,4人のアンサンブルのバランスがやや悪い気がしました。

ソプラノの朝倉さんの声には,毎年恒例の「メサイア」公演と同様の誠実さと安定感があり,久しぶりに聞くメゾ・ソプラノの串田さんの声には,相変わらずの貫録がありましたが,男声お2人の方は,本調子でなかった印象を持ちました。

バリトンの多田羅さんの声はとても立派でしたが,初めて声が出てくる「O Freunde...」の部分など,ちょっと声がかすれていたりして,やや冴えない感じでした。テノールの志田さんの方は,他の3人に比べると音量が小さく感じました。これまでオペラで聞いてきた印象とちょっと違ったので少々意外でした。

ただし,テノールのソロで始まる行進曲風の部分は,音楽全体が軽く弾んでおり,フランス革命の時代だ!という気分が出ており印象的でした。曲全体を通じてみると,第4楽章終盤の歓喜の爆発に向けて,畳み込むように盛り上がっていく構成だったと思います。最後の最後の部分は,それほど熱狂することはなく,明快さを際立たせて,ビシッと手綱を締めていました。この部分の引き締まった感じが,曲全体の印象も非常に鮮やかなものにしていました。

その後の第3部では,中学校の合唱団,高校の合唱団の選抜チームが加わり,総勢500名での「大地讃頌」となりました。通常の演奏会では「第9のあと」は,まず考えられないのですが,500人の合唱となると特別です。

第1部で歌った後,そのまま1階席前方両サイドの客席に座っていた高校生たちは,その場所で立ちあがって,お客さんの方に向いて歌い,ここで初めて加わった中学生たちは,オルガン・ステージなどに入ってきて歌いましたので,ステージ前方は「人,人,人...」という状態でした。お客さんと演奏者の比率はもしかしたら同じぐらいだったかもしれません。

ここで歌われた「大地讃頌」は,金沢市内の中学校の卒業式などでもよく歌われているお馴染みの作品ですが(我が家の子供の通っていた学校でも歌っていました),オリジナルの管弦楽伴奏版を実演で聞くのは今回が初めてでした。合唱も管弦楽も非常にシンプルな作りなのですが,それだからこそ強さがある,と今回の演奏を聞いて改めて思いました。

「母なる大地のふところに...」と曲が始まると,その歌詞どおり「大地のふところ」に包み込まれるような気分になりました。大人数によって,ゆっくりとしたテンポで,ゆったりとした気分で歌われていましたので,うるさく感じる部分はなく,曲のスケール感がスーッと伝わってきました。卒業式の時同様に,目頭が熱くなるような演奏でした。

なおこの「大地讃頌」を含む,カンタータ「土の歌」の各楽章の標題は,次のとおりです。 
  • 第1楽章「農夫と土」
  • 第2楽章「祖国の土」
  • 第3楽章「死の灰」
  • 第4楽章「もぐらもち」
  • 第5楽章「天地の怒り」
  • 第6楽章「地上の祈り」
  • 第7楽章「大地讃頌」

詩は,大木惇夫さんによるもので,第3〜4楽章で反核,第5楽章で自然の怖さ,第6楽章で反戦を歌った後,第7楽章の「大地讃頌」となります。

今,特に東北地方の人たちにとっては,「大地を讃えよ」という心境にはないと思いますが,この「大地賛頌」を聞いていると,「それでも自然の力は偉大だ」という気持ちになってしまいます。この曲は,復興に向けての祈りの歌としても聞けると思いました。約50年前に作られた作品ですが,東日本大震災と福島第1原発の事故が起こった今,かつてないような「リアルな感覚」で聞くことのできる作品なのかもしれません。

今回の演奏会は,約90分間,全く休憩なしで一気に行われたので,少々疲れたのですが,何と言っても,大勢の人が集まった時の声の力はすごいと実感できた演奏会でした。これから年末に掛けて,オペラや宗教曲など歌や合唱が出てくる公演が多いのですが,そちらの方も楽しみにしたいと思います。

PS. 約10年前の,石川県合唱連盟創立40周年記念公演は,次のような公演でした。
2000年12月13日 金沢市観光会館 ロビン・オニール指揮OEKと第9を演奏しています。

さらに10年前の創立30周年記念公演について調べてみると
1990年12月27日 金沢市観光会館 懐かしの山本直純さん指揮金沢交響楽団と第9を演奏しています。ちなみに,この時のソリストも朝倉あづささんと,串田淑子さんでした。お2人の息の長い活躍に感服しています。

ちなみに,この2回とも「12月の第9」でしたが,今回のような「11月の第9」というのは,全国的に見ても珍しいのではないかと思います。 (2011/11/17)

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公演の案内



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