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オーケストラ・アンサンブル金沢第310回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2011年11月28日(月)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ロッシーニ/歌劇「チェネレントラ(シンデレラ)」序曲
2)モーツァルト/フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299(297c)
3)(アンコール)ビゼー/歌劇「カルメン」〜第3幕への前奏曲
4)ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調「田園」op.68
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4
高木綾子(フルート)*2,3,吉野直子(ハープ)*2,3
プレトーク:望月京
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の11月の定期公演は,おなじみギュンター・ピヒラーさん指揮による,ウィーンの古典派の音楽を中心としたプログラムでした。10月下旬から11月上旬にかけては,ブーニンさん,上原彩子さん,チッコリーニさんと...有名ピアニストとの共演が続きましたが,定期公演としては,10月14日のマイスターシリーズ以来ということで,久しぶりに「OEKが主役」という演奏会でした(この間,OEKの第9も聞いていますが,演奏会の趣旨からして,石川県合唱連盟が主役だったと思います)。

ピヒラーさんが指揮する定期公演では,OEKは,いつも集中力の高い演奏を聞かせてくれます。今回も同様でした。ベートーヴェンの「田園」交響曲がメインということで,一見,地味目のプログラムに思えましたが,ピヒラーさんの気合いがそのまま音楽になったような熱演で,終演後,会場は大いに盛り上がりました。前半に登場した,フルートの高木綾子さんとハープの吉野直子さんによる協奏曲も品の良い華やかさのある,とても仕上がりの美しい演奏でした。

演奏会は,ロッシーニの歌劇「チェネレントラ」序曲で始まりました。この曲だけはイタリアの曲でしたが,ベートーヴェンが生きていた時代に作られた曲ということで,取り合わせは悪くありませんでした。演奏会の景気づけに丁度良い作品だったと思います。

ただし,ピヒラーさん指揮だと,「お気楽」な感じにはならず(この作品自体,ロッシーニにしてはシリアスな感じもしましたが),くっきりとニュアンスの変化が付けられた,念の入った演奏となっていました。もう少し開放的な感じがあっても良いと思いましたが,ロッシーニならではの少しとぼけたような感触と緊張感とが交錯した,いかにもピヒラーさんらしいロッシーニ演奏でした。

その後に演奏された,モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲は,意外なことに,金沢での定期公演では初登場の作品です。ソリストが2人必要ということもあると思いますが,モーツァルトの名曲をほとんど演奏し尽している感のあるOEKですので,本当に意外です。ソリストの高木綾子さんと吉野直子さんは,それぞれ白と青のドレスで登場し,ステージに登場した瞬間から,華やかな気分一杯になりました。「さすが,日本を代表するスター奏者の共演!」といったムードがありました。演奏の方にも曲想にぴったりの華やかさがありました。

ピヒラーさんのテンポ設定は,すっきりとした速目で,全曲を通じて,古典派の曲らしい,きっちり,すっきりとしたフォーマットを作っていました。その上で底光りするような上品さのある高木さんのフルート,粒立ちの良い吉野さんのハープの音が絶妙のバランスで絡み合っていました。特に吉野さんのハープのキラキラとした緻密さのある音が見事でした。演奏のキレ味が良く,音も非常に軽やかなのですが,冷たい感触はなく,絶えず生彩に富んだ,親しみのある音楽を聞かせてくれました。お2人の音色は,オーケストラの音ともしっかり溶け合っており,これ見よがしの強引さは全くありませんでした。しっとりとした大人の余裕を感じさせてくれる辺りが大変優雅でした。

第2楽章も安定感のある演奏でした。ここでも,フルートの伸びやかさとハープの繊細さの組み合わせが絶妙でした。第3楽章は,キビキビとしたテンポで演奏されていましたが,雑になる部分はなく,洗練された蒔絵など,加賀藩伝来の伝統工芸品を見るような高級感を感じました。

盛大な拍手に応え,「フルートとハープと言えば...」というお馴染みのビゼーの名曲がお2人によって演奏されました。ただし,ピゼーといっても「アルルの女」ではなく,「カルメン」の方です。吉野さんのハープと高木さんのフルートがピタリと寄り添い,伸び伸びとした気持ちの良い音楽に浸らせてくれました。フルートとハープの音が,音楽堂いっぱいに広がり,オーケストラ伴奏で聞くのとは違った”ゴージャス感”を味わうことができました。

後半に演奏されたベートーヴェンの「田園」交響曲は,以前,今回と同じ11月にピヒラーさん指揮で聞いた記憶があります(CD化されているものです)。今回の演奏は,「田園」らしからぬ(?)熱さのある演奏で,ピヒラーさんとOEKのつながりの強さをしっかりと感じさせてくれました。

「田園」は第1楽章の標題にあるとおり,「田舎でのんびりする」というイメージのある曲ですが,冒頭から,自信たっぷりにグイっとアクセルを踏み込むような勢いのある音楽を聞かせてくれました。呈示部の繰り返しも行っておらず,楽章全体を通じて大変推進力のある演奏となっていました。展開部でのキビキビとした短いモチーフの繰り返しを聞いていると,「やはり,交響曲第5番(運命)と通じるところがあるなぁ」と,新たな曲の魅力を発見できました。

第2楽章も速目のテンポでしたが,暖かさや柔らかさと同時に,濃い味わいを持った演奏で,独特の迫力がありました。木管楽器の個人技も大活躍で,ウトウトする暇(?)もないような演奏でした。この日の木管楽器の首席奏者は,オーボエが加納さん,クラリネットが木藤さん,フルートが上石さん,ファゴットが柳浦さんでしたが,どの楽器も「私が主役」という感じで音が良く出ており,「ピーターとおおかみ」を聞くような気分で楽しめました。

第3楽章も非常に速いテンポでした。アビゲイル・ヤングさんを中心としたヴァイオリンのキレ味の良い演奏は特にスリリングでした。繰り返しで最初に戻る時,一瞬,フライングみたい感じになりましたが,そういった面も含め,目が離せないようなスピード感と迫力のある演奏になっていました。対照的に,楽章の途中,トランペットが長〜く音を伸ばす部分(音楽評論家の宇野功芳さんが解説文でよく言及している部分)での何とも言えぬ脱力した味わいも魅力的でした。

第4楽章では,トム・オケーリー(お久しぶりです)さんの迫力満点の「雷=ティンパニ」が大活躍でした。一撃で相手を倒してしまうような凄みがありました。低音で不安感を演出する,チェロとコントラバスによるリアルな音の動きにも迫力がありました。この部分は,室内オーケストラの編成で聞く方が,切れ味良く鮮明に聞こえてくるので,効果が上がるのではないかと思いました。

締めの第5楽章でも,熱い躍動感を感じさせる音楽を聞かせてくれました。ここでも速目のテンポ設定でしたが,常に感動を秘めており,ピヒラーさんのベートーヴェンに対する熱い思いがストレートに伝わってきました。この「熱さ」は,第1楽章から一貫して流れていましたので,エンディング部分でのゆったりとした雰囲気が特に効果的でした。遠くの山から響いてくるようなホルンの弱音も素晴らしく,曲全体の構造に鮮やかな遠近感を付け加えていました。

「田園」は静かで穏やかな雰囲気のある曲なので,プログラムの後半に持ってくるのは,冒険的な試みでもあるのですが,この日の演奏は,本当に聞きごたえ十分でした。プログラムのトリにぴったりでした。「ピヒラーさん指揮,ヤングさんがリーダー」の時は,終演後,2人が健闘をたたえ合うように抱き合うのがお馴染みの光景です。ピヒラーさんもアルバン・ベルク四重奏団の強力なリーダーとして活躍された方ですので,お2人の信頼関係は特に強いのではないかと思います。このシーンは,OEKファンならば,これからも何回でも見たいと感じていることでしょう。今回,アンコール曲は演奏されませんでしたが,「田園」の印象をそのまま持ち帰るという意味で,それで良かったと思いました。

今回の「田園」は,前回,ピヒラーさん指揮で聞いた時とは,かなり違う印象を受けました。こういう点も,ライブの面白さです。また,同じアーティストを定点観測的に繰り返し聞く面白さだと思います。前半と後半のバランスも良く,ソリスト2人による贅沢感とピヒラー&OEKによる緊密な迫力をしっかり堪能できた素晴らしい演奏会でした。 (2011/11/17)



石川県立音楽堂周辺のクリスマス飾り
ホテル日航金沢前の街路樹のイルミネーション ホテル日航金沢の玄関のクリスマスツリー 中にもツリー風の飾りがありました。


関連写真集


公演の立看板

今回は,終演後に,ピヒラーさん,吉野さん,高木さんのサイン会がありました。


ピヒラーさんのサインも増えてきました。これは家から持参したavexから出ているモーツァルトのCD。


高木綾子さんのCDです。これも家から持参しました。金聖響指揮OEKと共演したモーツァルトのフルート協奏曲集のCDです


吉野直子さんのサインです。

11月末となり,音楽堂の中・周辺にもクリスマス飾りが増えていました。

音楽堂前の音叉のオブジェには青いリースが


玄関にはツリー