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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタービレ第29回:クリスマス・パーカッション
2011年12月17日(土) 16:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)チャベス/トッカータ
2)レヴィタン/ガーナ人のテーマによる変奏曲
3)シンスタイン/トリスティッカリー
4)ベック/ティンパニと打楽器アンサンブルのための協奏曲
5)レイノルズ/ファゴットと打楽器のための幻想的練習曲
6)ビゼー(シチェドリン,菅原淳編曲)/カルメン
7)(アンコール)クリスマスメドレー
●演奏
菅原淳*1,4-7, 打楽器アンサンブルSOLA〜想樂〜(渡邉昭夫*1-3,6-7, 平松智子*1,4,6-7,
平永里恵*1-4,6-7, 横山亜希子*1,4,6-7, 高橋篤*1-4,6-7, 長屋綾乃*4,7),柳浦慎史(ファゴット*5)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズもっとカンタービレ第29回「クリスマス・パーカッション 〜菅原淳&OEK〜」を聞いてきました。今回出演したのは,エキストラのティンパニ奏者としてOEKに頻繁に参加している菅原淳さん,OEKの打楽器奏者の渡邉さん,渡邉さんが作っている打楽器アンサンブル SOLA〜想樂〜の皆さんとファゴットの柳浦さんでした。もともと打楽器は楽器の種類が多いのですが,この日は本当に沢山の楽器が登場しました。菅原さんは”パーカッション・ミュージアム”という打楽器アンサンブルを作っていらっしゃいますが,まさに”打楽器の博物館”的な多彩なプログラムを楽しむことができました。

打楽器の音がバチっと決まった時の迫力,心地よく続くロール,複数の楽器が重なりあったり,絡み合ったりする面白さ....今回のアンサンブルは,集中力抜群の演奏で,しっかりと打楽器アンサンブルの面白さを堪能できました。演奏の密度の濃さや緊迫感を味わえるのも,客席とステージ(この日はステージは作っていませんでしたが)が近い交流ホールならではです。前日から金沢は雪まじりの天候でしたが,ホールの中の熱い演奏と打楽器の乾いた響きのお陰で,外とは正反対の,カラりと晴れ上がったような雰囲気がありました。

今回は6曲演奏されましたが,1曲として同じ編成がないのも打楽器アンサンブルの演奏会の楽しみの一つです。曲の間に菅原さんと渡邉さんのトークを交えて進められましたので,そのコメントや楽器編成なども含めながら紹介していきましょう。

第1曲目は,チャベスのトッカータでした。この曲は,菅原さんのお話によると「打楽器アンサンブルの定番曲」とのことです。3楽章形式の曲で,1楽章が”太鼓”中心,2楽章が鍵盤系を含む金属でできた楽器中心,3楽章が”全部”という構成になっていました。

同じリズムを別の楽器が次々と引き継いでいく辺りが面白く,アンサンブルの楽しさが感じられました。第2楽章の精緻な音の積み重ね,第3楽章の途中の大きな盛り上がりも聞きものでした。

菅原さんのお話によると「パニックになりやすい曲で,何回も練習した。今回はとてもうまく行きました」とのことで,会心の出来だったようです。

その後,3人編成の曲が2曲続きました。レヴィタンの曲はカウベルと木魚とトムトムの3つの楽器で演奏する曲でした。カウベルが入ると,どこかラテン的な気分が出になるのが面白いところです。

次のシンスタインの曲は,3人の奏者はそのままで,今度は楽器が小太鼓に切り替わりました。タイトルの「トリスティッカリー」というのは,「トリ(Tri=3)」と「スティッカリー(Stickery)」を合わせた造語とのことです。その名のとおり,スティックを「×」の字に重ねて,「パチン」とやる部分が印象的な曲でした。非常に短い曲で,3人が競い合うようにキレ味の良い技を聞かせた後,キリッと締めるような爽快さがありました。アンコール・ピースにもぴったりという感じでした。

前半の最後は,べックのティパニと打楽器アンサンブルのための協奏曲でした。打楽器ばかりなのに協奏曲というのも不思議だ,と曲名を見た時は思ったのですが,聞いてみると確かに協奏曲で,ティンパニの音と打楽器アンサンブルの音とが,文字通り協奏曲的なコントラストを作っていました。オーケストラを聞いているような色彩感があり,打楽器だけとは思えない,深みやグレードの高さを感じさせてくれる作品であり演奏でした。

曲はインターバルなしで演奏されていましたが,大きく分けて3つの部分から成っていたと思います。最初の部分から,菅原さんのティンパニを中心に,緊迫感のある部分とゆったりとした感じがある部分とが有機的に組み合わさっていました。菅原さんのティンパニの堂々たる響きからは,「楽器の王者」的な風格を感じました。

中間部は,静かな雰囲気になり,菅原さんはティンパニを素手で叩いたりしていました。背後の打楽器アンサンブルも弓を使って不思議な音を出したり,前半部とは全く異なった肌触りの音楽を聞かせてくれました。ヒタヒタと迫ってくるような生々しい感覚が魅力的な部分でした。最後は,力強く元気な部分となり,ドレミファ...という感じで締められました。

休憩の間にセッティングが大きく変更され(これは打楽器アンサンブルの演奏会を”見る”面白さの一つですね),後半開始時には,鍵盤打楽器ばかりになっていました。ただし,これはカルメン用の編成で,その前に,ファゴットの柳浦さんと菅原さんによるニ重奏が演奏されました。

打楽器とファゴットという組み合わせの曲は非常に珍しいのですが,元々は,ニューヨーク・フィルハーモニックの奏者2人のために書かれた曲とのことです。5曲ほどからなる曲で,どちらかというと静か目の曲の印象が残りました。途中,舞台裏からチャイムの音が入ってきたり(渡邉さんが担当していました),打楽器と絡み合うファゴットの音自体が打楽器的に聞こえてきたり,不思議なムードを持っていました。

演奏会の最後,この日一番の聞きものと言っても良い,カルメン組曲が演奏されました。打楽器によるカルメンと言えば,OEKお得意のシチェドリンによる弦楽器と打楽器による編曲版を思い出しますが,今回の菅原版は,シチェドリン版をさらに打楽器アンサンブル用にアレンジしたものでした(曲数などは違います)。

演奏前の菅原さんの説明によると,トーンチャイム(ハンドベルと同じ機能?),サイレン,クロマティック・ゴング(大きさ順に鍋蓋が並んでいる楽器か?)など,ここまで出てこなかったような「変わった楽器」も使っているとのことでした。そのこともあり,ところどころでユーモアを感じさせてくれました。カルメンと言えば,「悲劇」ですが,数多くある「カルメン・ファンタジー」同様,エンターテインメント性たっぷりの編曲・演奏となっていました。

演奏時間は,通常の組曲版よりは長く,上述のシチェドリン版を踏襲している部分が大半でした。メロディは,主に2台のマリンバ(3人で演奏)が演奏しており,それに各種打楽器が絡んでくるというパターンが中心でした。マリンバは3人とも女性で,皆さん,赤い花を付けていましたが,高音部を担当していた平松さんが鮮やかな赤の衣装でしたので,カルメン役と言うことになります

オリジナルのオペラでは児童合唱で歌われる「衛兵の交代」では,トランペットの信号の変わりに,上述のクロマティック・ゴングが面白い効果を出していました。微妙に音程が外れているので,何ともとぼけた,それでいて遠慮のない図々しさがあり,思わず頬が緩んでしまいました。最後の部分で「ウーウー」というサイレンの音も入るなど(これも打楽器?),ユーモア感覚抜群の編曲でした。

「アルルの女」の中のファランドールが何故か入っているのも,シチェドリン版同様でした。それに続く,「闘牛士の歌」では,途中からメロディが消えてしまい,”カラオケ風”というか”マイク・トラブルで歌詞が聞こえなくなってしまう”ようなユーモラスな効果を出していました。これもシチェドリン版と同じですが,これだけ有名な曲になると,菅原さんが言われていたとおり,頭の中でメロディをハミングしてしまいますね。

シチェドリン版では,チューブラベルの静かな響きの中で,最後は静かに終わるのですが,今回の演奏は,熱狂的な「ジプシーの踊り」で締めていました。オリジナルのオペラの展開からすると,シチェドリン版のような形の方がリアルなのですが,演奏効果からすると,トリはやはりこの曲ですね。ヴァイオリン用,フルート用の「カルメン幻想曲」(吹奏楽編曲版もありそう)では,どれもこの「ジプシーの踊り」で締めています。この日のマリンバ 3人による強烈で華麗なアッチェレランドの迫力も素晴らしく,スリリングな熱気に包まれながら,エンディングとなりました。

最後にアンコールとしてクリスマス・メドレーが演奏されました。そもそも,演奏会のタイトルが「クリスマス・パーカッション」でしたので,「アンコールでクリスマス」というのは予想していましたが,こちらの方も大変楽しめました。全員がサンタクロースの赤い帽子をかぶって演奏していましたが,何と言ってもお似合いだったのが菅原さんでした。「リアルなサンタクロース」でした。

曲の終盤,曲がジングルベルになったところで,サプライズがありました。曲が静かになった後,ちょっととぼけた感じで,袖からファゴットの柳浦さんとカルメンでは出番のなかった打楽器の長屋さんが演奏しながら登場してきました。これは効果満点でした。

お客さんは皆,柳浦さんが居たことはすっかり忘れていた(?)と思います。「ピーターとおおかみ」の最後の部分でアヒル君が出てくるように,この部分でしっかりオチが付いた感じでした。

打楽器アンサンブルの演奏会が行われる機会は,金沢では多くありませんが,今回の演奏会を聞いて,その魅力と楽しさを実感したお客さんも多かったのではないかと思います。会場は大入り満員。県内の中学・高校の吹奏楽部員らしい制服姿のお客さんもかなり入っていました。打楽器ファン大満足の演奏会だったと思います。
(2011/12/20)


JR金沢駅周辺のライトアップ

都市照明の国際的な賞「シティ・ピープル・ライト・アワード」で,金沢市はバリャドリッド(スペイン)、ロッテルダム(オランダ)に続く3位を受賞したそうです。その記念のイルミネーションがもてなしドームにありました。空中に浮かんでいるのはなかなか幻想的です。

(参考サイト)http://www4.city.kanazawa.lg.jp/11003/news/index.html
←左は金沢フォーラス前のクリスマス飾りです。


関連写真集


公演のポスター


石川県立音楽堂では,「国連生物多様性の10年」というイベントも行っていたようです。


音楽堂の中のクリスマス飾りです。「ヘンゼルとグレーテル」を思わせるお菓子の家ような飾りが置いてありました。