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かなざわ燈涼会 浅野川コンサート第2夜
2011年7月30日(土)19:30〜20:50 宇多須神社
1)藤舎眞衣/三日月
2)多忠亮/宵待草
3)鶴
4)バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ハ長調,BWV.1005〜ルール,ガボット
5)谷山浩子/映画「ゲド戦記」〜テル―の唄
6)クライスラー/レチタティーヴォとスケルツォ
7)砂山
8)雨ふりお月さん
9)この道
10)藤舎眞衣/北斗七星
11)タイトル不明(創作舞踊)
12)タイトル不明(美しき川は流れたり?)
●演奏
藤舎眞衣(横笛*1-3,10),坂口昌優(ヴァイオリン*4-8,12),直江学美(ソプラノ*7-1012),徳山華代,大竹真悠子(ダンス*11,12)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,ドイツのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭とフランスのラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバルに出演するためにヨーロッパに行っています。公式サイト等の情報によると,各地で順調に公演は進んでいるようです。

さて,OEKのいない金沢の方ですが,7月最後の土曜日ということで,毎年恒例の北國新聞社の花火大会が犀川周辺で行われました。その他,この日は,各町内会でも夏祭りラッシュでした。ただし,私の方は,それらには行かず,浅野川周辺で行われた「かなざわ燈涼会(とうりょうえ)」のイベントの一つ「浅野川コンサート」を,ひがし茶屋街のすぐそばにある宇多須神社境内で聞いてきました。

このかなざわ燈涼会は,昨年から始まった金沢青年会議所主催のイベントです。金沢の伝統工芸と市内に残る町屋や観光名所をつないで,金沢の新しい観光ソフトにしようという意図とのことです。学生などの若い人たちが運営に参加し,新しい技術や感性を取り入れている点も注目すべき点です。

会場は,浅野川大橋周辺のひがし茶屋街,主計町茶屋街,下新町界隈が中心で,街歩きをしながら,イベントを楽しんだり,飲食を楽しんだりすることができます。このイベントの見どころの一つは,金沢工業大学月見光路プロジェクトによる照明のオブジェを久保市乙剣宮と宇多須神社に配置し,見なれた神社をアートの一部に変えてしまっている点です。これらの神社の境内で,2日に渡って「浅野川コンサート」が行われました。前日は久保市乙剣宮で行われ,この日は宇多須神社で行われました。

実は,金沢に住んでいながら,意外にひがし茶屋街に行く機会は少なく,宇多須神社に行くのは今回で2回目でした。どこにあるかも忘れていたぐらいですが,ひがし茶屋街のすぐお隣でした。行ってみると,既に月見光路プロジェクトの照明のオブジェが至るところに置かれ,神社全体が非日常的な異次元空間に変貌していました。お客さんも沢山入っていました。

さてコンサートですが,この神社自体,傾斜地にある関係上,本殿に向かう階段全体がステージになっていました。後方からも良く見えるので,イベント向き(?)の神社と言えます。

今回のコンサートは,4部構成になっており,横笛の藤舎眞衣さん,ヴァイオリンの坂口昌優さん,ソプラノの直江学美さん,創作舞踊の徳山華代さんと大竹真悠子さんが順に登場しました。行く前は,もっと小規模なコンサートを予想していたのですが,トークも含めて約1時間30分に渡って,演奏やダンスが続き,音と光と神社自体の持つパワーとが合わさった多彩なパフォーマンスをしっかりと楽しむことができました。

最初に登場した,横笛の藤舎眞衣さんは,日常的に邦楽を聞いていない私でも名前と顔が一致している方です。ラ・フォル・ジュルネ金沢をはじめとして,邦楽と洋楽が一体化したような演奏会にもよく登場されていますので,金沢の邦楽界随一の「スター」と言っても良い方だと思います。

今回の演奏は,野外演奏ということでマイクを通していました。そのことによって,邦楽器独特の音のかすれや,細かい息づかいが強調されており,妙に生々しさを感じました。演奏中,涼しげな風が吹くたびに,階段に飾られていたススキ風のオブジェがざわざわと動いていましたが,そういった雰囲気にもしっかりマッチしていました。どの曲も,大変ゆったりとした演奏で,演奏が進むにつれて,会場の雰囲気がしっとりと落ち着いてきました。

最後に平和を願って「鶴」という曲が演奏されました。演奏技巧的にフルートを思わせるところがあり,見事な描写音楽になっていました。半音階を出すときには,いかにも邦楽器らしい”微妙さ”がありましたが,それもまた,面白い味付けになっていました。

少々残念だったのは...私の座っていた場所からだと,藤舎さんの姿が「ススキのオブジェ」越しにしか見えかかったことです。正面からだと,「古都・金沢」らしい,さぞかし素晴らしい「絵」になっていたことと思います。

続いて,ヴァイオリンの坂口昌優さんのステージになりました。坂口さんは,石川県新人登竜門コンサートをはじめ,OEKファンにもお馴染みの方です。この時間帯になると,遠くの方からは,北國新聞社の花火大会の音も聞こえ始め,幻想的な祝祭感のある雰囲気がさらに高まりました。

今回は,無伴奏ヴァイオリンによる独奏ということで,まず,バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番の中から2曲が続けて演奏されました(有名な「ガボット」の前に演奏されたのは多分,「ルール」だったと思います。)。神聖な空間での演奏ということで,真摯さのある演奏でしたが,マイクを通していたこともあり,いつもにも増して,ヴァイオリンの音が艶やかに感じられました。クラシック音楽をマイクを通して聞くのは,邪道かな,とは思っているのですが,境内にたっぷりと響き渡るヴァイオリンの音には,抗ち難い魅力がありました。

「テルーの唄」は,映画「ゲド戦記」の中の曲です。もともと民謡風のシンプルな曲ということもあり,最初は語るように演奏されていましたが,段々と重音が入ってきて,即興的に音楽が展開して行くのが印象的でした。

最後に演奏されたクライスラーのレチタティーヴォとスケルツォは,なぜかここ数年,金沢の演奏会で耳にすることの多い作品です。クライスラーらしからぬ(?)シリアスな気分のある前半と軽快な動きのある後半との対比が面白く,とても聞きごたえのある曲です。坂口さんの演奏は,心の動きを曲の流れに乗せて,しっかり伝えるような演奏で,迫力たっぷりでした。弓を飛ばすような技巧的な部分も鮮やかで,すっかり闇が深まった境内にヴァイオリンの音が心地よく響いていました。

続いて,ソプラノの直江学美さんが登場しました。直江さんも,石川県立音楽堂の邦楽ホールで行われている,日本人作曲家による室内オペラシリーズなどでもお馴染みの方です。直江さんの声には,とても落ち着きがあり,しっとりと夜の空気に馴染んでいました。最初の2曲は,坂口さんのヴァイオリンとの共演でしたが,その絡み合いも効果的でした。気分をリラックスさせてくれるようなユーモアが出たり,華やかさを増したり,曲の表情がさらに豊かになっていました。

次に演奏された,「この道」は,無伴奏で歌われました。この対比も良かったと思います。サッカーの国際試合の開会式などで,ア・カ・ペラで「君が代」が歌われることがありますが,声だけになると,雰囲気がピリっと締まり,曲に集中させてくれます。今回は,緊張感だけではなく,包みこむような温かみがあったのも良かったと思いました。

このコーナーの最後では,藤舎眞衣さんの作詞・作曲による「北斗七星」が,藤舎さんとの共演で歌われました。今回の大震災の被災者を思って作った曲とのことで,淡々とした曲想の作品でした。その抑制された奥ゆかしさが魅力的でした。最後は,情感がしっかりとこめられた,祈りの歌詞で締められました。

最後はこれまでとは趣きを変え,徳山華代さんと大竹真悠子さんのお2人による創作舞踊でした。まず,赤じゅうたんの敷かれた神社の階段一帯にスモークが焚かれる中,白い衣装を着た大竹さんと,赤い衣装を着た徳山さんが登場しました。この導入部から,一気にパフォーマンスに引き込まれました。徳山さんの方は,後半再度スモークが焚かれた後,青い衣装に早変わりしていましたので,何らかのストーリーのあるダンスだったのだと思います。途中で別の人物に変化する辺り,能に通じるドラマがあったのかもしれません。

ただし,今回の場合,ストーリー展開は分からなくても,その迫力のあるダンスに間近に接することができただけで満足でした。辺り一帯の空気を2人が支配してしまっているようなスケール感を感じました。コンテンポラリーな雰囲気のある音楽ともぴったりでした。神社の境内でコンテンポラリーダンスを見るのは初めてのことでしたが,「天の岩戸」の例もあるので(?),神様の前でのダンスというのは,意外に相性が良いのではないかと思いました。特に宇多須神社の場合,上述の通り,傾斜地に立っているので,ダンサーの動きが非常にダイナミックに見えるのが面白いところです。

以上のステージの後,最後にソプラノの直江さん,ヴァイオリンの坂口さんにパーカッションの山田信隆さん,さらに徳山さんと大竹さんのダンスも加わり,「美しき川は流れたり」という歌詞を持った曲が演奏されました。この歌詞は,金沢出身の作家・詩人の室生犀星の「抒情小曲集」の中の犀川についての詩なので,浅野川沿いで歌うのは,本当は変かもしれませんが,「金沢」という観点から見るとノープロブレムといったところでしょうか。最後は,幻想的で詩的な雰囲気の中で故郷を讃えて,お開きとなりました。

この「かなざわ燈涼会」は,昨年始まったばかりのイベントですが,金沢独自の歴史的な景観や伝統芸能・工芸と現代的な感覚とをうまくマッチさせようと,様々な創意工夫が凝らされている点が見所です。今後,新しい金沢名物として定着して行って欲しいものです。今後に注目したいと思います。

PS. 今回登場したアーティストの皆さんの今後の予定の紹介がありました。
  • 8月12日(金)石川県立音楽堂邦楽ホール ミニ・リサイタル 午後の音楽散歩に坂口昌優さんが出演
  • 8月21日(日)本多の森ホール エコール・ドゥハナヨバレエ8周年記念公演。バレエ「海賊」を全幕上演するようです。



今回は,演奏会の前後に,尾張町〜浅野川大橋〜ひがし茶屋街〜主計町茶屋街も散策してきました。その写真もご紹介しましょう。

●尾張町〜下新町〜浅野川大橋付近
灯籠本物の火ではありませんでした。
こういう感じに道沿いに飾られていました。 久保市乙剣宮前の案内板
久保市乙剣宮

この「四万六千日」の張り紙は,夏の金沢の風物詩ですね。

尾張町の佃の佃煮本店前
泉鏡花記念館(右)とあすなろ細工の店
浅野川大橋から下流を眺めた風景。金沢らしい風景です。 浅野川大橋を渡ったところにあった店。2階では邦楽器を演奏しているようでした。
奥にあるのがとどろき亭。手前では自転車のレンタルをしていました。

浅野川大橋 河川敷にも照明がありました。この辺では日中,学生たちがコンサートをしていたようです。
帰りに再度,久保市乙剣宮に行ってみました。

●東茶屋街付近
インフォメーションブース。燈涼会のリーフレットを配布していました。

洋食の自由軒 その隣にある銭湯。
浴衣の人も目立ちました。

ひがし茶屋街前の広見 この「コールドパーマ」の看板もお馴染みです。

おなじみのひがし茶屋街

格子戸の向こうは土産物店 金沢おどりポスターが貼ってありました。
こちらは金沢燈涼会のポスター

町家自体を灯籠に見立てていたようです。 ここに不室屋さんがあったとは知りませんでした。これも町家灯篭になっていました。
いろいろなデザインがあり,楽しめました。


●主計町茶屋街付近
浅野川大橋から下流を見た風景。さらに暗くなり,幻想的な雰囲気。
主計町の入口。 川床カフェ「うさぎ茶房」。営業は終了していました。
中の橋。ここまで来て引き返しました。

これは主計町からではないのですが,北國新聞社の花火大会の花火が何とか遠くに見ることができました。
(2011/08/03)

関連写真集
コンサートの立看板


横笛を吹く藤舎眞衣さん。残念ながら,私の席からはこういう感じでしか見えませんでした。


ヴァイオリンの坂口さんが上の方にいます。


ソプラノの直江さん



創作舞踊の開始直前,突如スモークが発生


徳山さんと大竹さんの2人よる創作舞踊



徳山さんの方は青から赤に衣装換え


最後は藤舎さん以外が勢揃い。


*素晴らしい雰囲気でしたので,勝手に写真を掲載してしまいました。問題がありましたらご連絡ください。

宇多須神社の由来


開演前の境内。まだ空は明るかったです。



よく見るとペットボトルの再利用


正面の鳥居の前から撮影


色々な灯がありました。




演奏会の後,燈涼会を振り返るスライドを境内で上映


終演後の様子


大勢のお客さんが入っていました。