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ミニ・リサイタル午後の音楽散歩 石本えり子ピアノリサイタル:スペインの風
2011年8月12日(金)石川県立音楽堂交流ホール
1)アルペニス/組曲「スペイン」〜タンゴ
2)アブリル/ミクロプリマヴェーラ:ピアノのための5曲
3)クライスラー/レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース,op.6
4)フランク/ヴァイオリン・ソナタイ長調〜第1,2楽章
5)サン=サーンス/序奏とロンドカプリチオーソ
6)(アンコール)チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出〜メロディ
●演奏
石本えり子(ピアノ*1-2,4-6),坂口昌優(ヴァイオリン*3-6))
Review by 管理人hs  

お盆休み直前の8月12日ということで,この日から夏休みという人も多かったと思います。私もお休みでしたので,「避暑」も兼ねて,石川県立音楽堂交流ホールで行われたミニ・リサイタル午後の音楽散歩を聞いてきました。

今回は,第1回石川県新人登竜門コンサートの出演者で,現在スペイン在住の石本えり子さんのピアノリサイタルでした。ただし,後半は坂口昌優さん(坂口さんも登竜門コンサートの出演者です)のヴァイオリンが加わる曲ばかりでしたので,実質は,このお2方による「デュオ・リサイタル」という呼称の方が正しいかと思います。

この「午後の音楽散歩」は平日の午後に行われているので,聞きに行くのは今回が初めてのことでした。「ミニ・リサイタル」ということなのですが,全部合わせると1時間少しでしたので,ちょうど良いぐらいの聞きごたえのある短めのリサイタルといった印象でした。いつもどれぐらいのお客さんが入っているのか分からないのですが,上述のとおり「夏休み」ということもあり,大変沢山の人が入っていました。ワンコインで気楽に音楽が聞けるこのイベントもすっかり定着しているようです。

前半は,石本さんのピアノでスペインの曲が2曲演奏されました。最初のアルベニスのタンゴは,アルベニスの名刺代わりのような名曲です。この曲がコース料理の前菜のようにをさらりと演奏された後,メインディッシュと言っても良い,アブリルのミクロプリマヴェーラが演奏されました。

まず,演奏前にこの曲の作曲家のアントン・ガルシア・アブリルについて,石本さんから説明がありました。アブリルルは,1933年生まれの現代スペインの作曲家で,石本さんとも個人的に交流がある方とのことです。

今回演奏されたミクロプリマヴェーラという曲は,2006年に作られた5曲から成る曲です。各曲にはタイトルは付けられてないので,組曲というよりは,ソナタに近いのかもしれません。第1曲は,かなりダイナミックな感じでしたが,第2曲はしっとりとした印象派風の曲で,曲想に変化がつけられていました。その後の曲についても,動的な曲と性的な交互に出てきており,まとまりが良さとしっかりとした聞きごたえがありました。

アブリルは現代の作曲家ですが,前衛的な感じはなく,どの曲もドビュッシーのピアノ曲を思わせるような詩的な気分を持っていました。各曲にはタイトルは付いていませんでしたが,この辺は,聞き手の想像力にお任せするという趣向なのかもしれません。石本さんのピアノには,もう少し強烈な表現があると良いかなという部分もありましたが,最後の曲などは,ラテン的な気分が漂い,爽快に締めてくれました。

後半は坂口さんのヴァイオリンを中心とした演奏でした。最初のクライスラーのレチタティーヴォとスケルツォ・カプリースは,数日前に浅野川周辺で行われた,金沢燈涼会の浅野川コンサート@宇多須神社で聞いたばかりの曲です。交流ホールは,残響がほとんどないので,その時に比べると多少ギスギスした感じに聞こえましたが,前半とステージの空気を変えるような緊張感が新鮮に響いていました。後半はステージ上の照明も曲想に応じて変えるなど,視覚的な変化も付けられていました。

続いて,フランクのヴァイオリン・ソナタの前半が演奏されました。坂口さんはベルギーで堀米ゆず子さんに師事された方ということで,「本場仕込み」と言えます。もう少しピアノとヴァイオリンの激しいぶつかり合いがあっても良いかな,という気はしましたが品の良さと音の充実感が同居した良い演奏だったと思います。この曲は,もともと第2楽章の後,盛大に終わるので,まとまりは良いのですが,是非,次回は全曲を聞いてみたいものです。

サン=サーンスの序奏とロンドカプリチオーソもお馴染みの作品です。これもしっかりと聞かせてくれましたが,こう言った華やかな作品の場合,もう少し「どうだ!」という感じの,良い意味での押しつけがましさがあっても良いかなと思いました。最後は,チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」の中の「メロディ」がアンコールでしっとりと演奏されて,お開きとなりました。

演奏が終わった後,石本さんも坂口さんも遠慮がちにしていましたが,「このステージは,自分が主役だ」という感じで堂々としてくれた方が,観ている方も気持ち良いと思います。この辺は,演奏経験の蓄積によるものかもしれませんが,これからの時代,クラシック音楽の演奏会についても,トークも含めたプレゼンテーション技術を意識してもらった方が良いのかなと感じました(これは今回の演奏会に限らず,一般的に言えることです。)。

午後の音楽散歩を聞くのは,今回が初めてでしたが,音楽をちょっと聞くだけで,優雅な気分にさせてくれます。演奏会後は,ついつい,JR金沢駅周辺のフォーラスや百番街で買い物をしたり,軽食を取ったりしたくなりますね。その相乗効果もこの演奏会の狙いなのでしょう。機会があれば,また聞きに来たいと思います。次回9月14日はリュートとバロックギターによる演奏ということです。これも面白そうです。(2011/08/14)

終演後,JR金沢駅方面へ。コンコースに氷柱が出ていました。 こちらは金沢観光のPR用オブジェ


関連写真集

コンサートのポスター。この日の夜は,千住真理子さんのリサイタルも行われました。


公演のタイムスケジュール


交流ホールの上の窓からのぞき込んで観ました。行った時には,すでにかなり埋まっていました。


音楽堂の玄関付近には,過去の定期公演のチラシや写真がぎっしり掲示されていました。