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弦楽合奏団KAKUMA Concert2011
2011年8月13日(土)15:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
グリーグ/ホルベルク組曲〜前奏曲
カーペンター,R./トップ・オブ・ザ・ワールド
レノン&マッカートニー/イエスタデイ
山田耕筰/この道
成田為三/浜辺の歌
バデルト(佐藤秀樹編曲)/映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽
ブリテン/シンプル・シンフォニー
(アンコール)メンケン/ア・ホール・ニュー・ワールド
(アンコール)バデルト(佐藤秀樹編曲)/映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽(抜粋)
●演奏
吉田健人指揮弦楽合奏団KAKUMA
Review by 管理人hs  

連日,とにかく暑い日が続いています。8月なので仕方はないのですが,前日に続き,避暑を兼ねて,午後から石川県立音楽堂交流ホールで行われた演奏会を聞いてきました。この日は弦楽合奏団KAKUMAによる演奏会でした。入場無料というのが嬉しいですね。

「KAKUMA」といえば,金沢大学のキャンパスがある地名「角間」ということで(なかなかローカルな地名です),金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の弦楽セクションによる演奏会ということになります。この弦楽合奏団は2009年に結成され,今回が2回目の公演となります。編成はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽セクションよりもひとまわり大きいぐらいの人数で,メンバー表の人数を数えると35名程度でした。交流ホールで聞くとかなり重厚さを感じましたが,メンバーは全員お揃いのポロシャツを着用しており,夏休みの時期に相応しい,リラックスした雰囲気がありました。

プログラムは,ブリテンのシンプル・シンフォニー全曲,映画「パリレーツ・オブ・カリビアン」の音楽のメドレー,ビートルズ,カーペンターズのお馴染みの曲,日本の歌曲などで,クラシックからポップスまで幅広くカバーしていました。弦楽合奏のフォーマットで聞くと,演奏会全体としても違和感なくまとまって聞こえるのが面白いところです。

まず最初にグリーグのホルベルク組曲の第1曲が演奏されました。OEKもよく演奏している曲です。KAKUMAの演奏は,アクセントがくっきりと付けられており,疾走感よりは,じっくりとした重みを感じました。

続いて,ちょっと懐かしい洋楽の曲が2曲演奏されました。ここではピアノが加わることで,よりくっきりとしたサウンドになっていました。カーペンターズの曲もビートルズの曲も,40年ぐらい前の曲ですが,定番曲としてずっと聞かれています。クラシック音楽の定義が「いつまでも親しまれている曲」だととすれば,これらの曲こそ,「20世紀のクラシック音楽」と呼ばれるべきと思います。「トップ・オブ・ザ・ワールド」は,ポップスの王道を行くような曲ですが,「イエスタデイ」の方は,もともと弦楽四重奏が編成に加わっている曲ですので,全く違和感なく,たっぷりと楽しむことができました。

次のコーナーでは,お馴染みの日本の歌曲が2曲演奏されました。「この道」の方は,全員が一斉に演奏するというよりは,各パートが順番に演奏し,音が次第に絡み合ってくるという曲でした。ちょっと粗が見えやすいような部分はありましたが,弦楽合奏ならではの面白い演奏でした。

「浜辺の歌」は,8月に聞くのにぴったりの作品です。最初ヴァイオリンのソロで始まった後,第2ヴァイオリンがソロ・ヴァイオリン・オブリガート付きでメロディを歌い,曲が盛り上がったところで,第1ヴァイオリンが加わってきて,パッと花開いたようになる...という流れは,イージーリースニング系のポップス・オーケストラなどが演奏しそうですが(かなり古いですががマントヴァーニ・オーケストラとか),この曲ならではで,やっぱり夏にこの曲を聞くのは良いねぇと思いながら聞いていました。

前半最後は,映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽が演奏されました。指揮者の方のお話によると,You Tubeにアップロードされていた弦楽合奏版の演奏を聞いた後,編曲者の佐藤さんに連絡を取り,楽譜を入手したとのことです。今の時代,音楽の作り手と演奏者の距離が随分短くなっているんだなぁ,と興味深く感じました。

編曲も演奏も,とても格好良いものでした。この曲のオリジナルは,管楽器も入るはずですが(実は映画をちゃんと観たことはありません),弦楽合奏だけで演奏すると,一味違った雰囲気になります。同じ音型の繰り返しが耳に残るのが心地よいですね。それがバロック音楽ように思えてきたり,ブルックナーの交響曲のように思えたり(これは飛躍し過ぎ?),全く飽きずに楽しむことができました。

後半は,ブリテンのシンプル・シンフォニーの全曲が演奏されました。

この曲についても,ホルベルク組曲の時同様,OEKが演奏するときのような軽快な浮遊感はあまり感じなかったのですが,ずしりとした重みと力感がありました。第2楽章の「大人数でのピチカート」の深みも印象的でした。第3楽章の「感傷的なサラバンド」は,イギリスつながりというで,前半のビートルズの曲につながるような味わいを感じました。中間部での厚みのある音の盛り上がりも聞きものでした。終楽章も演奏会のクライマックスに相応しい充実感がありました。

最後にアンコールが2曲演奏され,演奏会はお開きになりました。10分の休憩を含め,1時間ちょっとという長さでしたので,気軽に弦楽合奏を楽しむにはちょうど良かったと思います。

アマチュア・オーケストラの弦楽セクションだけが別の団体を作るのは珍しいことだと思いますが,ブリテンのシンプル・シンフォニーのような,オーケストラの定期演奏会ではなかなか選曲できない曲を演奏できるというメリットがあるので,面白い試みだと思います。今後の活躍に期待したいと思います。

PS.毎年8月末には,3回目となる「井上道義による指揮講習会」が,この交流ホールで金沢大学フィルなどを「練習台」として行われます。金沢大学フィルの皆さんにとっても,夏休み返上という感じかもしれないですね。こちらの方は,指揮講習会であると同時に,オーケストラ自体のトレーニングにもなると思いますので,頑張ってもらいたいものです。(2011/08/14)

終演後,近江町市場方面に行ってみたところ,サンバのリズムが聞こえてきました。 夕方から夜にかけて行う,イベントの準備中で,国道が歩行者天国になっていました。


関連写真集


公演のポスター


公演の案内


交流ホールの上から観たところです。この日は階段のところに椅子が出ていませんでしたが,椅子がある方がやはり楽かなと感じました。


階段部分だと背もたれがないので,最後列の壁にもたれかかってゆったりと聞いておりました。


音楽堂の玄関には「おかげさまで10周年」の看板が出ていました。


公演リーフレット(左)とチラシ