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いしかわミュージックアカデミー ライジングスターコンサート2011
2011年8月20日(土) 15:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番イ長調 K.331〜第1楽章
2)ショパン/舟歌 op.60
3)パガニーニ/24のカプリース〜第4番
4)ラヴェル/ツィガーヌ
5)ショーソン/詩曲 op.25
6)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調,op.31-3〜第1楽章
7)ショパン/ポロネーズ第7番変イ長調,op.61「幻想」
8)シューベルト/華麗なるロンド ロ短調 D895, op.70
9)ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第4番ハ長調
10)ヒナステラ/パンペアーナ第2番,op.21
11)イザイ/ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調「バラード」
12)ハチャトゥリヤン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調〜第1楽章
●演奏
ユンツィ・スー*1-2, 竹田理琴乃*6-7(ピアノ)
毛利文香*3-4, スビン・シン*5, 城戸かれん*8, ユア・オク*11-12(ヴァイオリン)
三井静(チェロ*9-10)
丹千尋*4,8, 林絵里*9-10(ピアノ)
Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IMA)の恒例イベントの一つ,ライジングスターコンサートを聞いてきました。

このコンサートは,IMA受講生の中で特に顕著な活躍をしているピアニスト,弦楽奏者によるコンサートです。今回は次の7人が登場しました。近年,IMA音楽賞受賞者の中から,内外のコンクールの上位入賞者が続々と登場していますので,この中から今後,世界的に活躍するアーティストが出てくる可能性はかなり高いのではないかと思います。
  • ユンツィ・スー(ピアノ,台湾)
  • 毛利文香(ヴァイオリン)
  • スビン・シン(ヴァイオリン,韓国)
  • 竹田理琴乃(ピアノ)
  • 城戸かれん(ヴァイオリン)
  • 三井静(チェロ)
  • ユア・オク(ヴァイオリン,韓国)

1.ユンツィ・スー
2010年のIMA奨励賞の受賞者です。10代半ばのまだ初々しさの残る少女なのですが,現在ジュリアード音楽院に在籍中ということで,これからさらに大きく成長していく期待を持たせてくれるピアニストでした。モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番の第1楽章では,最初の主題をじっくりと磨かれたタッチで示した後,変奏が始まると,新鮮なひらめきが次から次へと連鎖していくような面白さがありました。ノンレガートで演奏する部分が目立ち,ちょっと不自然な感じはしましたが,それがまた魅力的な個性と感じられました。

2曲目の舟歌の方も,非常に落ち着いた演奏でした。その落ち着きと初々しさとが共存して,非常にしなやかな音楽となっているのが魅力でした。強い音に,もう少したっぷりとした響きがあると良いし,さらにテクニックを磨けるような余地も感じましたが,将来大物になるような予感がします。今後,大いに注目したいと思います。

2.毛利文香
2010年のIMA奨励賞の受賞者で,昨年の日本音楽コンクール ヴァイオリン部門の3位を受賞されています。まだ高校2年生なのですが,この経歴どおり,非常に大人びた演奏をされる方です。パガニーニのカプリースもラヴェルのツィガーヌも大変な難曲ですが,「平然・当然」という感じで聞かせてくれました。音自体には暖かみがあり,非常に正確に演奏されているのですが,どこか冷めた感じがあり,ちょっととっつきにくい演奏に感じました。

ただし,特にツィガーヌの方は,最初の突きささるような太く,強い音から有無を言わさぬ迫力があり(今回,交流ホールのかなり前方で聞けたのですが,大迫力でした),この凄みのあるクールさを伸ばしていって欲しいなと感じました。

3.スビン・シン

現在,韓国国立芸術大学に在籍している男性ヴァイオリニストで,韓国国内の多くのコンクールで入賞をされている方です。ショーソンの詩曲はIMAでも頻繁に演奏されている曲でえす,その音の鳴りの良さに圧倒されました。ピンとした音,気力に満ちた精悍な表情が印象的でした。詩曲という作品については,”静かな曲”という印象を持っていたので,ちょっとイメージと違う部分もあったのですが,これだけ強さを感じさせてくれ,しかも形が崩れていないのは素晴らしいと思いました。これからスケールの大きな奏者として成長していって欲しいと思います。

4.竹田理琴乃
金沢市出身の竹田さんは,金沢の音楽ファンには既にお馴染みの方です。2007年にIMA音楽賞を受賞されており,このライジングスターコンサートにも数回出演されています(それでもまだ高校3年生なんですね)。

最初にベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番の第1楽章が演奏されました。竹田さんの演奏でベートーヴェンを聞くのは初めてのような気がしますが,若々しい演奏意欲と集中力に溢れた素晴らしい演奏でした。まず,ピアノの音が非常にくっきりとしており,古典派の曲にぴったりでした。ゆったりと始まった後,軽快にテンポアップする魅力的な作品ですが,深く物想いにふけった後,軽快に羽ばたくようなコントラストが鮮やかでした。「のだめカンタービレ」の実写版では,モーツァルトのソナタを弾いているうちに,アニメーションで多彩なキャラクターが色鮮やかに登場するシーンが出てきましたが,何かそんな印象を持ちながら聞いてしまいました。

もう1曲の幻想ポロネーズの方も,深さと雄弁さのある見事な演奏でした。落ち着きと同時に華麗な雰囲気もあり,大変スケールの大きな演奏になっていたと思います。

竹田さんの演奏は,ラ・フォル・ジュルネ金沢も含め,毎年のように聞いているのですが,身内になったつもりで,若いアーティストの成長を見守ることもできるのもIMAの大きな魅力だと思います。

ここで20分の休憩が入った後,後半の3人が登場しました。

5.城戸かれん
城戸さんは,2010年のIMA音楽賞の受賞者です。毛利さんと同じ高校2年生で,昨年の日本音楽コンクール ヴァイオリン部門で2位受賞されていますので,良きライバルといったところでしょうか(ちなみに昨年1位受賞した山根一仁さんは,8月27日の日本海交流コンサートに登場します。この方も高校2年)。

城戸さんは,ちょっと表情が堅いかなと思ったのですが,ヴァイオリンの音は非常に透明で伸びやかな音が印象的でした。シューベルトのヴァイオリン曲については,以前,ギドン・クレーメルさんによる「結構ひねくれた演奏」で聞いた記憶がありますが,城戸さんの演奏は,非常に前向きで勢いのある演奏で,「こっちの方が良いかも」と思いました。シューベルトの音楽らしく,メロディが流れ良く沸いて出てくる感じがあり,聞いていて元気が出ました。

ピアノの丹千尋さんは,他の曲の時も,緊張感のある若い奏者たちを暖かく包み込むような感じでサポートしていましたが,この曲では特に息がぴったりだと思いました。

6.三井静
2009年のIMA音楽賞の受賞者で,昨年に続いての登場になります(ちなみに男性です)。現在大学2年生ということで,ステージ上の動作もとてもしっかりとされていました。

三井さんのチェロを聞くのは,3回目だと思いますが,今回も聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。とても誠実な演奏だったと思います。人柄がそのままが伝わってくるような,聞いていて「この人を応援したくなるなぁ」と思わせるような雰囲気を持っているのが素晴らしいところです。

ベートーヴェンのソナタは,ゴツゴツとした感じがいかにもベートーヴェンにぴったりでした。深い呼吸(実際に聞こえました)を伴った演奏で,「心からの歌」という感じの秘めた熱さが伝わってきました。もう1曲,ラテンのテイストを持ったヒナステラの曲が演奏されました。初めて聞く曲でしたが,「チェロにはラテンが似合う」と改めて実感しました。ベートーヴェンとは一味違った,華麗さや激しさを過不足なく伝えてくれました。

7.ユア・オク
IMAの常連と言っても良い方で,プロフィールによると,2004〜2006年までIMA奨励賞,2010年にIMA音楽賞を受賞されています。昨年もライジングコンサートに出演されていました。前半に登場した,同じ韓国出身のスビン・シンさん同様,非常にパワフルな演奏を聞かせてくれました。

イザイのバラード第3番は,無伴奏ヴァイオリンで演奏する曲ですが,ヴァイオリン1本で演奏しているとは思えないような和音の豊かさがありました。迫力たっぷりでした。

ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲の第1楽章は,実演では初めて聞く曲でしたが,まず,とても面白い曲だと思いました。ユア・オクさんは,実際に「バリバリ」と音が聞こえてくるようにバリバリ弾いていましたが,それが曲想にぴったりでした。最初の方に出てくるメロディなど,日本の祭囃子のような雰囲気があり,妙に親しみを感じてしまいました。

後半の長いカデンツァの後,コーダに向かってさらに迫力と熱気を増していくのも聞きごたえがありました。このユア・オクさんの,「ふてぶてしいまでの迫力」は,非常に個性的だと思います。さらに貫禄が増していたと思います。

休憩も含めると3時間ぐらいかかる長い演奏会になりましたが,今年もまた,最高レベルのテクニックを持ったアーティストの競演を楽しむことができました。音楽コンクールのファイナルを聞いているような,「切磋琢磨」といった雰囲気を味わえる演奏会となっていました。

ただし,お客さんは「もう少し入っても良いのに...」と思いました。これはIMA全体に言えることかもしれませんが,「世界から集まった若い奏者を市民が応援し,成長を見守る」といったムードが高まると,さらに盛り上がるのではないかと思います。その辺がIMAの課題なのかもしれません。(2011/08/22)

関連写真集


IMAの立看とのぼり


公演の案内。この日は,9月に行う「開館10周年記念イベント」のリハーサル&予選も行われていたようです。


10周年記念イベントのPRも着々と進んでいます。


こちらは館内


この日,金沢市内では「アカペラ・タウン2011」を行っており,街中のいたる所から声が聞こえてきました。「音楽堂10周年記念」のキャッチコピー「わたしたちの街には音楽があります」そのままの雰囲気でした。


この日はあいにくの雨模様でしたが,しいのき迎賓館裏では,アカペラ・タウンのクロージング・イベントを行っていました。