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もっとカンタービレ:OEK室内楽シリーズ第27回IMA&OEKジョイントコンサート
2011年8月23日(火)19:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)サラサーテ/ヴァイオリン二重奏曲「ナヴァーラ」, op.33
2)モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調, K.581
3)ドヴォルザーク/弦楽五重奏曲第2番ト長調, op.77
●演奏
神尾真由子*1,3, ホァン・モンラ*1, クシシトフ・ヴェグジン*2, ナムユン・キム*2, レジス・パスキエ*3(ヴァオリン), 丸山萌音揮*2,原田幸一郎*3(ヴィオラ)
ソンジュン・キム*2,毛利伯郎*3(チェロ),文屋充徳(コントラバス*3)
遠藤文江(クラリネット*2),丹千尋(ピアノ*1)
Review by 管理人hs  

昨年から,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」のスペシャル・コンサートとして行われるようになった,いしかわミュージックアカデミー(IMA)の講師とOEKメンバーのジョイントによる室内楽コンサートを聞いてきました。

会場はいつもの石川県立音楽堂交流ホールではなく,邦楽ホールでした。これは,昨年,交流ホールで行ったところ,あまりの人気で定員オーバー気味になったことによります。さすがに邦楽ホールだと満席にはならなかったのですが,やはり,これだけ充実したメンバーによる演奏なので,邦楽ホールの方でじっくり聞く方が落ち着くと思いました。

演奏会は,今年から講師に加わったホァン・モンラさんと昨年から講師に加わった神尾真由子さんのデュオによるサラサーテのナバーラで始まりました。お二方ともIMA出身者で,若い世代を代表するヴァイオリニストということもあり,この公演を目当てに演奏会を聞きに来られた方も多かったのではないかと思います。

その期待どおりの演奏でした。2人のヴァイオリニストによる”2トップ”の器楽曲は珍しいのですが,まず冒頭,お2人が真正面から向き合って,繊細な音をピタリと合わせるのが見事でした。絶妙のハモリを聞いて,ゾクっとしました。その後も丁々発止のやり取りと超絶技巧の競演が続き,非常にスリリングな演奏を聞かせてくれました。真剣勝負であると同時に,ラテン系の音楽らしく,余裕をもって演奏を楽しんでいるようなところもあり,今回のようなジョイントコンサートの雰囲気にはぴったりの選曲であり,演奏でした。

続いて,OEKのクラリネット奏者遠藤文江さんとIMAの講師陣+OEKメンバーでモーツァルトのクラリネット五重奏曲が演奏されました。この曲はモーツァルトの作品の中でも特によく演奏されている室内楽曲です。今回の演奏も,非常にニュアンスの豊かな,見事な演奏でした。

第1楽章の最初から停滞することなく,くっきりと音楽が進んで行きました。この辺では,ヴァオリンのクシシトフ・ヴェグジンさんが音楽を引っ張っているように感じました。その一方,センシティブで微妙なニュアンスもしっかりと付けられていました。展開部での5人の奏者による立体的な絡み合いも印象的でした。

遠藤さんは今回,バセットクラリネットで演奏されていたとのことです。見た感じ「少し長いかな?」という程度で,遠くからだと,大きな違いは分かりませんでした。ただし,いつもよりも音がほの暗く響いているかなと感じました。それが魅力的でした。

第2楽章は,遠藤さんのクラリネットの澄み渡る音が絶品でした。明るさと暗さが共存する,晩年のモーツァルトらしい世界でした。それに寄り添う,ヴェグジンさんのヴァイオリンのデリケートさも見事でした。

第3楽章は,かっちりとした感じでメヌエットが始まったのですが,2つのトリオがそれぞれ特徴的でした。最初の方はクラリネットがお休みになり”弦楽四重奏”になります。部分的にノン・ヴィブラートで演奏しているような感じで,不思議な”すっきり感”がありました。

もう一つのトリオの方では,感情の変化を非常にくっきりと付けていたのが印象的でした。同じメロディが繰り返されるだけなのに,笑ったり,泣いたり,怒ったりしているような表現力のすごさを感じさせてくれました。この部分では,バセット・クラリネットがいつもよりも低い音を出していたのも分かりました(きっとこちらが譜面どおりなのだと思います。)。

第4楽章は,アンサンブルの楽しさをしっかり伝えてくれる演奏でした。第3楽章同様,変奏ごとの表情の変化が大変豊かでした。この曲では,OEKのヴィオラの丸山さんとチェロのソンジュン・キムさんという,今年団員に加わったばかりの若手奏者も演奏に加わっていましたが,堂々と渡り合っており,頼もしく感じました。最後の最後の部分で,テンポをぐっと落とす部分も聞きものでした。かなり長く休符を入れており,悠然たるスケールの大きな雰囲気を作っていました。

IMAの講師とOEKが一体となっての充実のアンサンブルは,この演奏会ならではです。OEKのメンバーにとっても刺激になった共演だったのではないかと思います。

後半は,ドヴォルザークの弦楽五重奏曲第2番という,ちょっと珍しい作品が演奏されました。この演奏では,IMA講師陣に加えて,現在別途,コントラバス講習会を同じ音楽堂内で行っている文屋充徳さんも加わっていました。弦楽四重奏にコントラバスが加わる五重奏というのは少ないのですが,室内楽とは思えない,重厚でスケールの大きな音楽を聞かせてくれました。

ドヴォルザークの曲については,これまでの経験上,「あまり演奏されない曲」だとしても,分かりやすい曲が多いですね(メンデルスゾーンもそうです)。この曲もそういう作品でした。曲の最初の部分から,コントラバスの重厚な響きが効果的に響いており,とても面白いサウンドを作っていました。「先生方の集まり」ということで,演奏の柄がとても大きく,室内楽というよりは,交響曲を思わせるスケール感を感じました。楽章の最後の方での,グーッと盛り上がる勢いも素晴らしいと思いました。

第2楽章は,民族音楽的な気分の曲でした。ただし,思ったよりも長い楽章で,第1楽章同様に重厚さがありました。この楽章では,第1ヴァイオリンのレジス・パスキエさんに特に注目してしまいました。その味わい深い演奏は特に印象的でした。第2ヴァイオリンが,親子ぐらい年齢が離れている神尾真由子さんということで,どこか微笑ましい雰囲気を感じてしまいました。

第3楽章は甘く揺れるようなロマンティックな楽章でした。ゆったりとした別世界が広がるという趣きがありました。第4楽章は急速な楽章で,最後は「さすが先生!」という感じで,堂々と締めてくれました。

この演奏会には,IMAの受講生も聞きに来ていたようですが,大いに刺激になったのではないかと思います。毎年,IMAが終盤に近づくと「夏も終わりだな」と感じるようになってきました。熱さと同時にちょっとリラックスした感じも漂う,良い演奏会でした。

PS. この日のプレトークは急遽登場することになったOEKのファゴット奏者の柳浦慎史さんとIMA音楽監督の原田幸一郎さんによよるものでした。このトークの中で面白かったのが,(IMAとは全く関係ありませんが),今年度の「もっとカンタービレ」シリーズのプログラム・リーフレットの表紙の写真です。

井上道義音楽監督を中心に,楽器を持った楽団員が音楽堂の客席にパラパラと広がっている写真なのですが,面白いことに,柳浦さんが井上音楽監督の頭を背後から「一本!」という感じでファゴットを打ちおろそうとしている瞬間のように見えてしまいます。「これはタマタマです。」と釈明(?)されていましたが,何度見ても面白い写真です。何故か会場から拍手が起こっていました。 (2011/08/27)

←今年度の「もっとカンタービレ」シリーズのプログラム・リーフレットの表紙


問題の部分を拡大してみると... こんな具合です。

井上さんの方は,柳浦さんの襲撃を余裕の表情で指揮棒で突き返しているようにも見えますね。










関連写真集


公演の案内掲示


IMAの看板とノボリ。左にあるのは,石川県立音楽堂開館10周年記念イベントの看板