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サイトウ・キネン・オーケストラ スクリーンコンサート
サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011 オーケストラコンサート
2011年8月26日(金)18:30〜 金沢市文化ホール
第1部 18:30〜
サイトウ・キネン・フェスティバルの歩み
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」のリハーサル風景

第2部 19:00〜
オーケストラコンサート(長野県松本文化会館)の生中継
1)チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
2)バルトーク/ピアノ協奏曲第3番ホ長調, Sz.119
3)チャイコフスキー/交響曲第4番へ長調, op.36
●指揮
ディエゴ・マテウス指揮サイトウ・キネン・オーケストラ(コンサートマスター:小森谷巧*1,豊嶋泰嗣*2,矢部達哉*3)
Review by 管理人hs  

金沢市文化ホールで行われたサイトウ・キネン・フェスティバル松本2011のオーケストラコンサートを生中継する「スクリーン・コンサート」に出かけてきました。数日前,朝日新聞に挟まれていた「先着50名様に入場整理券をプレゼント」というチラシを見て,応募したものです。

このチラシの見出しは「小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ スクリーンコンサート」となっており,「小澤さんが出てくる!」と思って応募した方も多かったと思います。テレビ・新聞等で小澤さんの公演が他の指揮者に交代になったことはアナウンスされていたので,間違える人はなかったと思いますが,当初からディエゴ・マテウスさんが指揮する公演だったはずなので,ちょっと誤解を生みやすい見出しだったと思います。その小澤さんの映像ですが,第1部に少し出てきただけで,今回のメインは第2部のコンサートの生中継の方でした。

コンサートを生中継する,スクリーン・コンサートに参加するのは,今回が初めてのことでしたが,正直なところ妙な気分でした。拍手をしても松本に届くわけではないので,拍手をしようか躊躇してしまいました。皆さんはパラパラと拍手はしていましたが,せっかく立派な演奏をしても,生のコンサートの時のようには,盛大な拍手にならないのがもどがしいところです。松本の演奏者側からも金沢の客席が見えるような形にならないと,どうも落ち着かないな,と感じました。

ただし,これは贅沢というものですね。それかまたは,金沢会場を仕切る人が一人居ても良かったと思います。目の前で演奏が行われると自然にお客さんの間に一体感ができ,スムーズに拍手ができるのですが,映像を流すだけで一体感を作るのは,まず無理だと思います。どなたか一人でもステージ上で拍手を促すような人がいれば,もう少し一体感を持てたと思いました。

演奏会の中継の前半は,「座る位置を間違ったかな」と感じました。ステージ上のスクリーンは,それほど大きくなかったので,「前の方でも良いかな」と思い,最初,かなり前方の座席で見ていたのですが,座ってみると意外に高い位置にスクリーンがあり,次第に首が疲れてきました。段々とプラネタリウムを見るような,「かなり仰向け」の姿勢になってしまいました。

また,ステージを生で見るのとは違い,指揮者や演奏者の顔がアップになるのを見るのが煩わしく感じてしまいました。それで,第1曲目の途中から目を閉じて聞いていたのですが,そのうちに仰向けの姿勢と相俟って,2曲目のバルトークの時には,ついウトウトとしてしまいました(せっかくの,ピーター・ゼルキンさんのバルトークだったのですが...あまり記憶に残っていません。残念。)。個人的には,あまりアップ映像は使わず,オーケストラ全体を指揮者の背後から撮る映像の割合を増やして欲しかったと思いました。

音声は悪くないと思いました。もちろん本当の生のような”同じ空気を共有しているなぁ”という感覚はないのですが,5.1chサラウンドということで,会場の拍手の音がちゃんと後方から聞こえてくるなど,臨場感はありました。

というようなわけで,後半はもっと後ろの座席に移動し,やや見下ろすような形で見ることにしました。スクリーンが遠い分,アップも気にならないし,この形の方がしっくり来ました。

演奏されたチャイコフスキーの交響曲第4番ですが,さすがサイトウ・キネン・オーケストラという演奏でした。映像を見ていると,特に管楽器奏者に外国人が目立ち,既に斎藤秀雄先生とは,「関係ない?」という人ばかりによる多国籍オーケストラという感じでした。

# 次のページにメンバー表が載っていたのであれこれ調べてみると,シカゴ交響楽団,ベルリン・フィルなど有名オーケストラの奏者が大勢参加していたようです。
http://www.saito-kinen.com/j/program/sko_mem/sko_mem.shtml

コンサートマスターは,この曲では矢部達哉さんでしたが(1曲ごとに変わっていました。他のコンサートマスター名は多分,これであっていると思います。),まず,そのリードぶりが素晴らしいと思いました。力感に溢れた,バシッとしまった響きが印象的でした。

指揮者のディエゴ・マテウスさんは,まだ若い指揮者ですが,見るからに明るいキャラクターの方で,サイトウ・キネン・フェスティバルの「フェスティバル」の部分には相応しい方だと感じました。しかし,音楽づくりの方は非常に緻密で,細部まで,しっかり計算されているような演奏を聞かせてくれました。特に第1楽章などは,無意味に音楽が流れるようなところはなく,どの部分もがっちりと音が構築されているような充実感がありました。ただし,これはサイトウ・キネン・オーケストラの特徴なのかもしれませんね。

第3楽章などは,ソリスト集団らしく,名人技の競演になっていました。第4楽章は,若手指揮者らしく(まだ27歳とのことです),若々しい軽やかさが前面に出ていました。シンバルの「シャーン」という音の美しさが特に印象的で,ベトつかない爽快感が溢れていました。

全曲を通じて,しっかり計算された演奏だったのですが,それが嫌味にならないのも素晴らしいと思いました。例えば,第4楽章のコーダの部分の意図的なテンポアップも,湧き立つような疾走感となって感じられました。

この演奏会の前の第1部の方は,前座的な映像でしたが,サイトウ・キネン・フェスティバルの20年の歩みが概観でき,楽しめるものでした。次のような内容でした。
  • 1992年に始まり,今年で20回目
  • 1984年の斎藤秀雄没後10年の年にメモリアル・コンサートを行ったのがオーケストラの起源
  • オーケストラ公演とオペラ公演を両輪としてやってきた(小澤さんによると「カラヤン先生の教え」)
  • 子供向け公演を行ってきた。
  • ボランティアが公演を支えている。
  • 今後,世界への「引っ越し公演」も考えている。
  • 8月21日の公演に先だって東日本大震災で亡くなられた人を追悼して,小澤征爾さん指揮でバッハのアリアを演奏。その時の映像。
  • 8月21日のバルトーク:歌劇「青ひげ公の城」のためのドレス・リハーサルの様子。

このところ,小澤征爾さんの体調が不安定なことは大変心配なのですが,今回の中継を見ながら,サイトウ・キネン・フェスティバル松本自体は,順調に松本市に定着していることが実感できました。オーケストラ自体は,どんどん多国籍化が進んでおり(特に管楽器),音楽祭自体も,海外への「引っ越し公演」を計画するなど,松本を基盤として,音楽祭は,さらに規模を拡大していくようです。

金沢と松本は文化交流提携を結んでいますので,今回のようなイベントはさらに進めていって欲しいと思います。例えば,石川県立音楽堂と松本文化会館を双方向で中継するようなイベントがあれば,とても面白いと思います。今回のイベントは,東京,札幌,新潟,金沢で中継されたのですが,ラ・フォル・ジュルネでも応用できるかもしれないですね。 (2011/08/27)

関連写真集


サイトウ・キネン・フェスティバル2011のポスターが入口に貼ってありました。


開演前のホールの「様子。映像や音声の乱れは全くなかったのは素晴らしいと思いました。


イベントのチラシです。松本市の観光ガイドが全座席にセットしてありました。