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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2011:ウィーンのシューベルト
2011/04/29 石川県立音楽堂,JR金沢駅周辺

Review by 管理人hs  
ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)は,毎年,オープニングファンファーレで始まります。今年は,10:00からもてなしドーム(鼓門の下)で金沢市立額中学校吹奏楽部が演奏した後,11:00からJR金沢駅構内で金沢大学フィルハーモニー管弦楽団が演奏を行いました。ただし,開始時間は変更になったようで,私が11:00少し前にJR金沢駅に行った時には既に金沢大学フィルハーモニー管弦楽団によるミニコンサートが始まっていました。

【オープニング・ファンファーレ】 11:00頃〜 JR金沢駅コンコース
シューベルト/軍隊行進曲
シュトラウス,R./交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」〜序奏
三國浩平/ヴィエナ・ファンファーレ
シューベルト/交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」〜第1楽章
シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
(アンコール)シューベルト/軍隊行進曲
●演奏
高倉奏喜指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団


例年のような挨拶はあまりなく,三谷充さんによる「1,2,3,スタート」といった掛声があったぐらいでした。演奏された曲の中では,「ツァラトゥストラはかく語りき」の序奏(映画「2001年宇宙の旅」のテーマと言った方が分かりやすい?)が特に爽やかで印象的でした。この曲は,今年の東京のラ・フォル・ジュルネのテーマにも関連があります。金沢では滅多に聞けないなので,そのうち全曲を聞かせて欲しいと思います。それ以外は,ウィーンに因んだ曲が中心でした。おなじみの軍隊行進曲の演奏も大変軽快でした。

JR金沢駅を降りて東口側に出ると,すぐにシューベルトがお出迎え

特設ステージ前は既に大入り 少し離れた所から撮影
鉄道少年団の子供たちが出番を待っていました。
三谷産業の三谷充さんによる挨拶
JR金沢駅のデザイン募集の案内です。
その後,一旦家に戻り,午後から出直してきました。



13:00少し前に石川県立音楽堂前に戻った時には,金沢市立額中学校吹奏楽部の皆さんが演奏を丁度終わろうとしているところでした。額中学校は,昨年,東京普門館で行われた全日本吹奏楽コンクールに北陸地区代表で出演し,銀賞を受賞しています。金沢市の中学校を代表する吹奏楽バンドです。

額中の皆さんが何を演奏したのかは不明ですが,「いきものがかりの「ありがとう」を演奏した後,今年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲の一つの「ライブリーアヴェニュー」演奏していました。音楽堂前は自動車通行止めになっており,歩行者天国のような感じで賑わっていました。連休後半のLFJK本公演の時には,こういう形で,このスペースでもライブが行われるのではないかと思います。

大勢の人が集まっていました。

よく映っていませんが,田中一宏先生指揮金沢市立額中学校吹奏楽部が演奏をしていました。

カフェ・コンチェルトに向かう螺旋階段から撮影

しばらく,音楽堂入口付近の売店などを眺めた後,コンサートホールに移動し,オープニング・コンサートを聴いてきました。客席は満席で,さらに追加でステージ上にも補助席(当日券の方の分だと思います)が出されるというLFJKならではの盛況ぶりでした。

オープニング・コンサートは例年どおりのにぎわい
撮影禁止ではありましたが,コンサートホールはこういう感じでした。 ホール前にあった有料公演のスケジュール表。ホールのニックネームは,「シュウパン」




【オープニング・セレモニー&コンサート】14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
■オープニング・セレモニー
あいさつ
 前田利祐(ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭実行委員会会長)
 谷本正憲(石川県知事,ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭実行委員会顧問)
 山野之義(金沢市長,ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭実行委員会顧問)
司会:上坂典子

■オープニング・コンサート
1)シューベルト/交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
2)シューベルト(レーガー編曲)/楽に寄す
3)シューベルト(ブリテン編曲)/ます
4)シューベルト(モットル編曲)/セレナード
5)シューベルト(リスト編曲)/魔王
6)(アンコール)シューベルト/野ばら
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン*2,5-6),森岡紘子(ソプラノ*3,6),志田雄啓(テノール*4,6),名古屋少年少女合唱団*6
ナビゲーター:三枝成彰


オープニング・コンサートに先立ち,例年通り,オープニング・セレモニーが行われました。今回は,さらにその前に東日本大震災で亡くなられた方に対する献奏としてパイプオルガンでシューベルトのアヴェ・マリアが静かに演奏されました。

セレモニーでは,前田利祐ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭実行委員会会長,谷本石川県知事,山野金沢市長の挨拶がありました。昨年と同じ役職の方による挨拶でしたが,昨年金沢市長が山出さんから山野さんに交代しましたので,山野市長の挨拶は今回が初めてということになります。山野さんの肉声を聞くのは,実は,今回初めてだったのですが,とても明るい声の挨拶で,しかもとても短かったので清々しさを感じました。手の身振りも(後で出てくるホルツマイアーさんばりに)大きく,そのままシューベルトの歌を歌って頂きたいほどでした。

コンサートの方は,まず,井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK),お馴染みの「未完成」が演奏されました。この曲は、世界中でさんざん演奏されている曲ということで,井上さんらしく,やはり一ひねり入れてきました。今回のオーケストラの配置は次のとおり独特でした。

      Cb
    Vc Va
  Vn2    Fl Cl Tp Timp
Vn1       Ob Fg Hrn Tb
      指揮者

下手側に弦楽器、上手側に管楽器を集め、ヴィオラ、チェロ、コントラバスをステージ奥に並べるという配置での「未完成」の演奏は、数年前の新人登竜門コンサートでも実験済ですが、弦楽オーケストラと吹奏楽が左右で掛け合いをしているという感じがあり、とても面白かったと思います。「未完成」は、第2楽章を中心に木管楽器が大活躍しますので、その点では理に適っている気がしました。今回のオーボエは加納さん,クラリネットは遠藤さんでしたが,この配置だと,演奏後に指揮者とコンタクトを取りやすく,握手しやすいので,それも狙いかなと思ったりしました。

演奏も素晴らしく,非常に真面目というか,何か色々な感情をぐっと抑制したような,秘めた迫力がありました。まず冒頭のステージの奥から不気味に立ち上がってくるコントラバスの響きが印象的でした。その後もじっくりと抑えたテンポで一貫しており,甘さや華やかさを極力抑えているようでした。第1楽章最後の終わり方は,(シューベルトの譜面の書き方のせいで)解釈が分かれている部分ですが,今回は,比較的さりげなく締めていました。

第2楽章もじっくりと演奏されていました。ここでは,第1楽章の暗い緊張感をさりげなく解消するような優しさが,印象に残りました。クラリネット,オーボエ,フルートとメロディを受け渡す部分は,何度聞いても良いなぁと感じます。今回,さらにこの部分で,チェロもしっかり関わっていることも発見し,嬉しくなりました。

基本編成にトロンボーンが入っていないこともあり,OEKが「未完成」を演奏する機会は比較的少ないのですが,今回の演奏を聴きながら,やはり名曲だな,と実感しました。終盤になって,トロンボーンの響きやホルンの響きが上手側から柔らかく差し込んできてくると,どこか宗教音楽を聴いている感覚になります。

ナビゲーターの三枝さんは,「シューベルトはそれほど好きではない」と語っていましたが(三枝さんは,シューベルトの魅力を伝えるアンバサダーという役割のはずなのですが...),曲の終りに近づくにつれて,この世のものとは思えなくなるような「辞世の句」を読んでいるような世界に近づくあたり,シューベルトの作品は大変深いものを持っていると思います。その雰囲気を,重苦しくなく,瑞々しく,優しく伝えてくれた,素晴らしい演奏でした。

後半は,OEKお得意の管弦楽伴奏版のリート名曲集でした。3人の歌手が次々出てきましたので,NHKのど自慢的な楽しさがありました。この中では,何といってもヴルフガング・ホルツマイアーさんの声が聴きものでした。バリトンということなのですが,むしろテノールの志田さんよりも明るさを感じさせてくれるようなテノーラルな声でした。適度な甘さと引き締まった緻密さがあり,リートにぴったりの声だと思いました。「楽に寄す」は,この音楽祭全体のテーマにしても良いような曲です。ホルツマイヤーさんの音楽に対する誠実さが伝わってくるような歌唱でした。

続いて登場した,森岡さんは,大変可憐な声の方で,「ます」をとても親しみ深く歌ってくれました。おそらく,ブリテン編曲版だったと思いますが(OEKがCD録音しているものと同じように聞こえました),クラリネットの楽しげな動きも大変印象的でした。テノールの志田さんは,金沢で何回か行われているオペラ公演やメサイア公演などを中心に,毎年のように音楽堂に登場されている方です。毎回,安定した歌を聞かせてくれていますが,今回はやや不調だった気がしました。ホルツマイアーさんの歌に比べると,ちょっと地味な印象を持ってしまいました。

最後,再度ホルツマイヤーさんが登場し,リスト編曲版による「魔王」が歌われました。急きたてるような速いテンポを基調として,オーケストラ編曲版ならではのドラマティックな表現を聞かせてくれました。曲の最後の部分などは,指揮の井上さんと一体になって,オペラの中の一場面を演じきったような面白さがありました。

ちなみに、この「魔王」ですが(リスト編曲版だと思います)、最初の部分を聞くとマーラーの「復活」を思い出してしまいます。今回、東京のLFJのテーマはマーラーを含んでいますが、意外にシューベルトと近い部分もある気がします。

曲間の井上さんのトークで,OEKが「冬の旅」の管弦楽編曲版をレパートリーにしている話題が出てきましたが(団員がよく知っているので指揮者としては,安心とのことです),この編曲版もマーラーの世界に近いですね。ホルツマイアーさんとの共演で5月2日の夜に演奏されるこの「冬の旅」にも大いに期待したいいと思います。

オープニングコンサートの最後は,「野ばら」をお客さんも含めて全員で歌うという趣向でした。このステージでは,2年前のラ・フォル・ジュルネ金沢に登場し,素晴らしい歌と踊りを見せてくれた名古屋少年少女合唱団が1階席の通路に登場し,一緒になって歌ってくれました。

演奏前に井上さんから説明があり,1番を「わらべは見たり,野中のばら」のおなじみの歌詞で歌った後,2番をドイツ語の歌詞で歌い,さらに3番では,全員が立ち上がって1番の日本語の歌詞で歌ってください,ということになりました。井上さんは,客席の方に降りて行って,どこかで指揮されていたのようですが(私は上の階だったので見えませんでした),異様にどよめいていましたので,変わった場所で指揮をしていたようです。

「野ばら」の歌詞を,日本語とドイツ語で交互に歌ったのですが,ドイツ語だと「アイン」で韻を踏んでいることがしっかりと実感でき,気持ちよく感じました。また,座って歌うより,立って歌う方がよく声が出ることも分りました。3番では会場のお客さん総立ちになり,大きな声が会場いっぱいに広がりました。私の方も,両隣の席の人がどちらもとても巧かったので,思わず私もしっかりと歌ってしまいました。

演奏会後は,いつもにも増して大勢の人がいたこともあり,音楽堂の玄関付近はお祭り気分でした。私の方は,さっそく,公式CDと辻口カフェのお菓子を購入しました(この辺も毎年恒例)。今年も順調にスタートといったところです。ちょっと心配なのは、天候でしょうか。これから5月4日まで、しっかり楽しみたいと思います。

辻口さんのスイーツコーナー

マカロンとケーキを販売していました。 演奏会後に再度来たら,数が激減していました。
マカロンの方は「野ばら」,ケーキの方は「シューベルティアーデ」という名前でした。 スイーツ以外にも金沢オリジナルのワインを販売していました。 家族のお土産にマカロンを購入ー
ラ・フォル・ジュルネ2011公式CD(1000円)。シューベルトだけではなく,全国のラ・フォル・ジュルネ共通の商品です。 その他,CDをいろいろ販売していました。5月2日以降販売は本格化すると思います。 私も1枚購入しました。山田和樹さん指揮の演奏も含まれていました。で

PS. ステージマネージャーさんが,LFJKのポスターのシューベルトさんと全く同じ色のスニーカーを履いていらっしゃいました。こういう「遊び」もLFJKならではです。遠くからでもよくわかりますので,是非ご注目ください。

PS.今回,音楽堂内に等身大の写真像がいくつか登場していました。井上道義さん,ルネ・マルタンさんに加え,池辺さんの像まであってびっくりしました。記念撮影スポットでしょうか?その他にもないか探してみたいと思います。井上道義さんの像ですが,以前からあったものより少し小さくなっていた気がします。リアル等身大になったのかもしれません。

おなじみ井上道義像 池辺晋一郎さん ルネ・マルタンさん

PS. LFJKの公演の様子が5月3日午後1時59分から北陸朝日放送で生中継されます。OEKの公演の生中継は初めてのような気がします。金沢のお祭りの生中継といえば,「百万石まつり」ですが,ラ・フォル・ジュルネ金沢も同様になっていくのか注目したいと思います。
http://www.hab.co.jp/info/27133137.html
(2011/05/01)




石川県立音楽堂の玄関の看板


JR金沢駅もてなしドームのタペストリー


もう少し近づいてみましょう。4月29日は快晴でした。


鼓門側から撮影


スタッフの背中


このシューベルトの看板前で写真撮影はいかが?撮影用に水色のコンバースを貸し出しても面白いかも。


有料公演のチケットの状況を示す看板と近隣の地図。既に売り切れになっている公演もありました。


LFJK特製絵馬をつるすためのハンガーです。


おなじみの八角形ステージでは,リハーサル中(もしかしたら額中学校吹奏楽部?)


金沢フォーラス方面に向かう屋根にもシューベルトの顔のフラッグがたくさん吊り下げられていました。ちょっと風が強い日でした。


今回は出演者の変更もあり,印刷物も改訂がされています。最新の内容の書かれたリーフレットを配布していました。