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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2011:ウィーンのシューベルト
2011/04/30 石川県立音楽堂,北國新聞赤羽ホール,金沢歌劇座

Review by 管理人hs  
本公演を前にした,4月30日のラ・フォル・ジュルネ金沢2011の公演は,金沢市全域でのイベントが目白押しでした。「どれぐらい回れるものだろうか?」と半分実験的な意味も含め,かなりハードなハシゴをしてみました。

まず,石川県立音楽堂に行き,東日本大震災復興支援チャリティコンサート・プロムナードコンサートの第1部を聞きました。

東日本大震災復興支援チャリティコンサート:プロムナードコンサート
12:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール


1)シューベルト/軍隊行進曲
2)シューベルト/アヴェ・マリア
3)ワーグナー(リスト編曲)/楽劇「タンホイザー」〜巡礼の合唱
4)シューベルト/楽興の時D.780〜第4番嬰ハ短調
5)シューベルト/3つのピアノ曲D.946〜第1曲変ホ短調
6)シューベルト/笑いと涙 D.777, op.59-4
7)シューベルト/ます D.550,op.32
8)シューベルト/聞け,聞け,雲雀
9)シューベルト/蝶 D.633
●演奏
黒瀬恵(オルガン)*1-3
柳原奈侑*4,座主真衣佳*5(ピアノ)
藤田ルミ子*6-7,幅田満里子*8-9(ソプラノ),山田ゆかり*6-7,澤田和美*8-9(ピアノ)


プロムナードコンサートは,4部に分かれていました。各部の長さはラ・フォル・ジュルネ同様,約45分の長さで,各部ともパイプオルガン演奏,ピアノ独奏,ソプラノ独唱などがバランス良く散りばめられています。全部聞いても良いし,一部分だけ聞いても良い,ということで気軽に自由に音楽を楽しむのにちょうど良いスタイルでした。

第1部は,黒瀬恵さんのオルガン独奏で始まりました。今回は,1階席で聞いてみたのですが,下から見上げながら聞くのも良いものです。コンサートホールの大きな空間にオルガンの響きが広がっていくのが目に見えるようで,とても気持ち良く感じました。軍隊行進曲は,冒頭の重々しい始まりかたが,オルガンの重厚さに良く合っていました。その後の魅力的な表情の変化もオルガンの音色の変化にマッチしていました。

アヴェ・マリアは,前日,震災関係の献奏で聞いたものと同じ演奏だったと思います。アルペジオが続くと2月のオーケストラ・アンサンブル金沢日の定期公演で聞いたフォーレのレクイエムの最後の「楽園にて」などを思い出してしまいました。「タンホイザー」の中の「巡礼の合唱」は,宇宙空間の広さを感じさせる曲です。オルガンで聞くと,非人間的で非日常的な響きがさらに際立っていたように思えました。

ピアノ独奏は,それぞれ小学5年生と高校1年生による演奏でした。恐らく,オーディションに合格して出演されている方だと思いますが,それぞれにしっかりと弾きこなしていた。特に座主さんの演奏は,音に力としなやかさがあり,安心して楽しむことができました。

後半は2人のソプラノ歌手の対比を楽しむことができました。藤田ルミ子さんはボーイソプラノを思わせる純粋な声,幅田満里子さんは,より成熟した表現を楽しませてくれました。

その後,JR金沢駅から「まちバス」(100円)に乗り,金沢21世紀美術館まで行き,金沢歌劇座で行っている「少年少女合唱フェスティバル」の様子を見に行くことにしました。

今回は雨が降っていたので,「まちバス(\100)」で金沢市街地まで移動しました。超満員でした。
JR金沢駅から金沢21世紀美術館まで乗車
金沢21世紀美術館も大変混雑していました。

13:30頃に到着し,とりあえずホール内の様子をざっと眺めてきました(鑑賞というよりは,ほとんど取材のようなものですね)。お客さんはとても良く入っており,歌劇座の1階席はほとんど満席でした(ただし,合唱団自身もお客さんとして聞いていました))。1階席前方のオーケストラ・ピットの部分は,座席を取り外し,オーケストラの語源どおり,「平土間」として使っていたようでした。この場所で次の出番の合唱団が待機していましたので,合唱団の入れ替えは,大変スムーズでした。この「入れ替わり立ち替わり」という雰囲気は,「フェスティバル」に相応しく,その場にいるだけで,ワクワクした気分になりました。長時間のイベントでしたが,飽きずに楽しめるような構成になっていました(金沢市立の学校が毎年やっている連合音楽会のような感じでしたね)。

2階席には,「写真撮影可能席」というコーナーもありました。恐らく,保護者や参加団体からのニーズにも応えたものだと思います。このアイデアも良かったと思います。私もこの辺りで見ることにしました。

私が到着した時間帯ですが,いなえ少年少女合唱団&彦根児童合唱団がトリッチ・トラッチ・ポルカを歌っているところでした。続いて,地元のもりのみやこ少年少女合唱団の皆さんが登場しました。そのままずっと腰を落ちつけたかったところでしたが,14:00に始まる,赤羽ホールでの有料公演に行かないといけないので,「春の想い」を歌い終わり,「ミューズの子」を歌い始めた13:40頃に歌劇座を出て,赤羽ホールまで歩きました。微妙な時間でしたが,20分以内で到着できました。この日が晴天で,自転車が使えれば,もっと楽だったと思います。



さて,赤羽ホールですが,LFJKのアンバサダーの三枝成彰さんがプレトークをされていました。それが結構長くなっていたようで,14:00ギリギリに到着したにも関わらず,意外に余裕がありました。

【公演番号152】 14:00〜 北國新聞赤羽ホール

1)シューベルト/幻想曲ハ長調 D.934
2)シューベルト/歌曲集「美しき水車小屋の娘」D.795(能舞付き)〜第1曲「さすらい」,第4曲「小川への感謝」,第11曲「わたしのもの」,第14曲「狩人」,第18曲「しぼめる花」,第20曲「小川の子守歌」
●演奏
水上由美(ヴァイオリン*1),鶴見彩(ピアノ*1)
渡邊荀之助,佐野登,渡邊茂人(能舞*2)
森岡紘子(ソプラノ*2),志田雄啓(テノール*2),多田聡子(ピアノ*3)

赤羽ホールでの公演は,能舞と声楽の共演という金沢ならではの公演でした。この公演は5月3日に音楽堂の邦楽ホールでも行われることになっています。シューベルトの「美しき水車屋の娘」の中から6曲抜粋し,それに合わせて,何かのストーリーを演じていました。これは昨年もそうだったのですが,この能で何を演じていたのかが,はっきり分からず(おそらく,歌曲のストーリーどおり,失恋の物語だった?),今回もまた消化不良でした。今年のLFJKでは,諸般の事情がありプログラム・リーフレットは配布されなかったのですが,能の公演ぐらいには,解説は付けてほしかったところです。

翌日の北国新聞の記事によると「恋い焦がれた娘が狩人にさらわれ,失恋した苦しみで永遠の眠りにつく」というストーリーだったとのことです。「美しき水車屋の娘」のストーリーそのままではあるのですが,この曲を知らない人も多いと思うので,やはり,簡単なストーリーと登場人物の書かれたリーフレットぐらいは欲しかったと思いました。

この「美しき水車屋の娘」という曲は,私自身,シューベルトの曲の中でも特に好きな曲で,一度,是非,生で聴きたいと思っていた曲でした。今回は,テノールの志田雄啓さんとソプラノの森岡紘子さんが交互に歌う,という変則的なスタイルを取っていましたが,これにもかなり違和感を感じてしまいました。特に最後は2人で一緒に歌う,という形になっていましたが...正直なところ「イメージと違う!」という感じでした。

志田さんの声は,結構,柄が大きく,どちらかというとオペラ向きだと思います。この曲については,「若き日のペーター・シュライヤーがリリックに歌う」といったイメージを持っていたので,ここでも「ちょっと雰囲気が違うな」と感じました。ただし,大きく歌い上げる「わたしのもの」であるとか,狩人が出てきて,娘を奪っていく「狩人」など,感情が大きく高ぶる部分での歌は大変聞きごたえがありました。

森岡さんの声は,前日同様,とても可憐で,「水車屋の娘」的だったのですが,この歌曲集の歌詞自体,男の視点で書かれているので,どうもピンと来ませんでした。

能舞の方は,3人の人物が登場しました。2曲目の「小川への感謝」で,面を付けていない男性が入り,4曲目の「狩人」で赤い髪の人物が派手に乱入,あちこち動き回って,すぐに出て行きました。最後の「小川の子守唄」の部分では,尼さんのような人物が入ってきて,ゆっくりと動いていました。やはり,この辺の展開については,事前に知識が欲しかったところです。それと,どうせ能舞を見るならば,石川県立音楽堂邦楽ホールのような和風のステージの方が良かったかもしれません。

今回,志田さんと森岡さんとピアノの多田さんは,何と紋付袴で演奏されており,「これはちょっと他のラ・フォル・ジュルネでは見られないだろうなぁ」という雰囲気だったのですが,近代的な雰囲気のある赤羽ホールのステージでは,ややミスマッチという印象でした。ということもあり,全体としては,「消化不良気味」といった公演でした。

前半に演奏された,水上さんのヴァイオリンと鶴見さんのピアノによる幻想曲も一度聞きたかった曲です。幽玄の世界と言っても良い演奏で,こちらの曲でも能舞に合ったかもしれないという気がしました。水上さんのヴァイオリンの音は大変繊細で,澄み切ったような曲の世界をうまく伝えていました。鶴見さんのピアノの作り出す暖かみのある世界もシューベルトの室内楽にぴったりでした。

曲の最後の方で,シューベルトらしい,たっぷりとした美しい歌が出てくる部分は聞き覚えがありました。ただし,単一楽章の曲としては,かなりの大曲なので,前半部がやや冗長に感じました。そういう天国的な雰囲気こそがシューベルトならではなのかもしれません。





北国新聞赤羽ホールの外観
公演の立看板
この日の公演内容を示す案内

赤羽ホールの公演は,4月29〜5月1日まででした。私は能舞との共演の公演にだけ参加しました。

赤羽ホールでもLFJKグッズを販売していました。



少年少女合唱フェスティバル 13:00〜17:00 金沢歌劇座

その後,再度歌劇座まで歩き,少年少女合唱フェスティバルを最後まで聞きました。今回のフェスティバルですが,次の団体が登場しました。コンクール以外で,これだけの団体が集まるということは珍しいのではないかと思います。

金沢歌劇座の外観
公演のポスター
金沢歌劇ザの入口

金沢歌劇座内のホール入口

ステージの様子 演奏団体が交代しているところ。オーケストラボックスの場所で次の出番の団体は待機していました。

池辺晋一郎さんとしゅうさえこさんは下手側で司会
2階席の一部は撮影用の座席になっていました。 野ばらの歌詞カード。最後に全員で歌いました。

  • OEKエンジェルコーラス(石川)
  • 小松市立苗代小学校(石川)
  • いなえ少年少女合唱団&彦
  • 根児童合唱団(滋賀)
  • もりのみやこ少年少女合唱団(石川)
  • すず少年少女合唱団(石川)
  • 多治見少年少女合唱団(岐阜)
  • 福井市少年少女合唱団(福井)
  • 金沢市立千坂小学校(石川)
  • けやきの森ジュニア合唱団(新潟)
  • 金沢児童合唱団(石川)
  • とやま香音ジュニアコーラス(富山)
  • 名古屋少年少女合唱団(愛知)
  • 金沢ジュニアオペラスクール(石川)
  • いな少年少女合唱団(長野)
  • 福井市麻生津小学校(福井)
  • 金沢市立木曳野小学校(石川)
  • 宝塚少年少女合唱団(兵庫)

私が再度,金沢歌劇座に入った時は,丁度,お目当の名古屋少年少女合唱団のステージの途中でした。この合唱団は,2年前のLFJK(モーツァルトの時ですね)にも出演し,そのレベルの高い演奏とパフォーマンスが今でも強く印象に残っています。今回は,途中から聞いたので何を演奏していたのかは不明だったのですが,ゴスペルっぽい歌と,民族音楽的な曲を歌っていました。演奏後のアナウンスによると,アボリジニの民族音楽だったようです。パーカッションを取り入れての演奏は本格的で,「じっくり見たかったなぁ」と少々後悔しました。

その後,休憩になり,金沢ジュニアオペラスクール以降の演奏を聞きました。以下,私が聞いた部分について,感想を書いてみたいと思います。恐らく,前半部分でも素晴らしい歌を楽しめたのではないかと思います。

■金沢ジュニアオペラスクール
シューベルト/魔王
谷川賢作/「ラジオスターレストラン 星の記憶」から

金沢ジュニアオペラスクールは,今回の会場の金沢歌劇座の「座付き合唱団」ということで,ホスト役といったところです。この団体は,2年ごとに金沢でオペラ上映することを目的として活動している団体です。来年の夏に,谷川賢作作曲の「ラジオスターレストラン 星の記憶」という作品を上演するということで,今回は何と,作曲者の谷川賢作さん自身がピアニストとして登場しました。

「魔王」は,まず,このピアノが大活躍でした。合唱団の声もとてもよく出ていました。オペラの勉強をしている合唱団らしく,「お父さん」「子供」「魔王」のパートをくっきりと歌い分けていました。「魔王」はもともとは独唱曲ですが,複数の人数で歌い分けてもなかなか面白いと思いました。もう1曲は,タイトルを聞きもらしたのですが,次回上演するオペラの中の1曲でした。ミュージカルの中の1曲のような感じのメッセージ性のある曲で,表情豊かに歌われていました。

■いな少年少女合唱団(長野)
かわいそうな犬
シューベルト/アヴェ・マリア


長野県から来た いな少年少女合唱団がまず歌ったのは,ハンガリーの曲でした。指導されている方がハンガリーで勉強された方ということで,何とハンガリー語で歌われていました。もちろん歌詞は分からないので,演奏前に司会のしゅうさえこさんが日本語訳を表情豊かに朗読されました(さすが元歌のおねえさんです)。オノマトペがふんだんに出てくる曲で,ハンガリー語で聞いても似た感じの響きだと思いました。練習の成果がふんだんに発揮された歌だったと思いました。

今回は,シューベルトの曲を1曲は含むことという「きまり」があったようで,もう1曲は,シューベルトのアヴェ・マリアが歌われました。

■福井市麻生津小学校(福井)
シューベルト/ます
若返りの水


福井市のハーモニーホールふくいの近くにある小学校の合唱団です(ただし,3月に卒業したばかりの中学生も含まれていたとのことです)。1曲目の「ます」の前に,「崖の上のポニョ」のテーマ曲を歌いながら入場し,さらにその後に「若返りの水」を歌うということで,見事に「水つながり」の選曲となっていました。

どの曲も声が凛としていて,とても気持ち良く楽しむことができました。民話をもとにした「若返りの水」では,メンバーが一斉に大げさに驚くような動作もとても楽しく決まっていました(吉本新喜劇とかで使えそう?)。

■金沢市立木曳野小学校(石川)
シューベルト/野ばら
森山直太朗/さくら


地元金沢の小学校の合唱団です。透明なハーモニー,生き生きとした表情,切れの良い発音...素晴らしい歌を聞かせてくれたのですが,紹介を聞いて驚いたのは,昨年6月に出来たばかりだということです。これだけの短期間で成長できたのは,指導された先生の力によると思いますが,子どもの持つ潜在能力の大きさも実感しました。ストレートな選曲もとても良かったと思いました。

■宝塚少年少女合唱団(兵庫)
音の翼
シューベルト/郵便馬車
シューベルト/菩提樹


13:00から行われていた少年少女合唱フェスティバルですが,トリは,名前からしていかにも歌がうまそうな宝塚少年少女合唱団のステージでした。実際,海外公演も頻繁に行っているとのことです。ユニフォームもびしっと決まっており,大変完成度の高い歌を聞かせてくれました。温かさのあるハーモニーが素晴らしいと思いました。

最後は,昨日同様,「野ばら」を全員で合唱しました。司会のしゅううさえこさんによる,簡単なドイツ語指導などもあったりして,和気あいあいとしたムードでお開きとなりました。

今回のフェスティバルは,大ヒット企画だったと思います。お客さんの中にも子供が多かったことのですが,その子供たちは,他県から来た,ほとんどプロのような少年少女合唱団に接することで,大きな刺激を得たのではないかと思います。親の立場からすると,合唱を通じて,子供たちの成長する力の素晴らしさを実感することができます。合唱コンクール以外で,こういうイベントは,これまであまりなかったのではないかと思います。

さて,この日のここまでの,感想なのですが,やはり,金沢市内のハシゴは疲れます。ただし,これは今日が雨だったからなのかもしれません。晴れていれば健康的で爽快な運動になったことでしょう。



この日の締めですが,一旦自宅に戻った後,出直して,陸上自衛隊中央音楽隊による東日本大震災復興支援チャリティコンサートに出かけることにしました。入場は無料でしたが,会場では義捐金を集めていました。

東日本大震災復興支援チャリティコンサート
ブラスの響き 19:00〜
 石川県立音楽堂コンサートホール


1)(献奏)国の鎮め
2)スッペ(中林愛生編曲)/喜歌劇「軽騎兵」序曲
3)渡口公康/南風のマーチ(2011年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)
4)シューベルト(平原伸也編曲)/軍隊行進曲
5)ロッシーニ(宗形義浩編曲)/序奏,主題と変奏
6)塚田康元/マーチ「ライブリーアヴェニュー」(2011年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)
7)ヒル/セント・アンソニー・ヴァリエーション
8)シューベルト(松木敏晃編曲)/セレナーデ
9)ビゼー(フェルナン編曲)/劇的序曲「祖国」
10)(アンコール)シュランメル/行進曲「ウィーンはいつもウィーン」
11)(アンコール)スーザ/名誉ある古代砲兵隊
●演奏
武田晃指揮陸上自衛隊中央音楽隊
山岡美鈴(クラリネット*5)

日中,さんざん市内を巡っていたので,やや疲れ気味でしたが,最高峰の吹奏楽といっても良い見事な演奏を堪能できました。陸上自衛隊中央音楽隊というと,以前「自衛隊の皆さんの課外活動」と勘違いしていたことがあるのですが,これは大変な誤解で,音楽大学卒業をされた方が集まるプロの精鋭音楽家集団です。この演奏会には,多くの中高生(恐らく吹奏楽部員だと思います)が聴きに来ていました。絶好のお手本になったことと思います。

最初に演奏された「軽騎兵」序曲の音を聞いた瞬間,各楽器の音が非常に美しく,楽器間の音のバランスが見事だと感じました。バチっと硬く引き締まった印象を与えてくれるのも自衛隊の音楽隊らしいと思います。

続いて全日本吹奏楽コンクールの課題曲の「南風のマーチ」が演奏されました。ここ2,3年,子供が吹奏楽部に入っている関係で,課題曲を聞く機会が増えているのですが,侮れないジャンルだと思っています。まず,聞いていて飽きない曲が多いですね(これから数カ月,連日練習するとなると弾いていて楽しくないとやはり辛いと思います)。行進曲といっても騒がしい感じは全くなく,品の良さを感じさせてくれるような演奏でした。

シューベルトの軍隊行進曲は,今回のLFJKのテーマの「ウィーンのシューベルト」にちなんだ選曲です。自衛隊≒軍隊ということで,本家の演奏という感じでしょうか。重々しい開始と軽やかな可愛らしさのある中間部の対比が鮮やかでした。

前半最後のロッシーニの曲も,シューベルトの同時代の作曲家ということで選ばれた曲かもしれません。バンドの編成はかなり小編成になっており,”室内吹奏楽団”といった雰囲気でした。ソロは団員の山岡美鈴さんが担当しました。山岡さんは,オーディションで選ばれたとのことです。他のメンバーの制服とは違い,きちんとしたロングスカートで登場されていたのが新鮮でした。

演奏もお見事でした。クラリネットの幅広い音域を駆使したような編曲でしたが(この編曲もメンバーの方が編曲されたものです),その魅力を存分に堪能させてくれる滑らかな演奏でした。木管楽器を中心とした”バックバンド”の音もとても素晴らしく,ソロと一体となったまとまりの良い音楽を聞かせてくれました。

後半は,全日本吹奏楽コンクールの別の課題曲で始まりました。「ライヴリーアヴェニュー」という曲です。この曲については,LFJKのオープニングコンサートの直前に音楽堂前で演奏していた金沢市立額中学校吹奏楽部の演奏をはじめ,何回か聞いたことがあります。とても親しみやすい楽しい曲だと思います。

続く「セント・アントニー・ヴァイエーション」は,タイトルだけだとよく分からないと思いますが,ブラームスのハイドンの主題による変奏曲と同じテーマによる曲ということで,特にクラシック音楽ファンには,面白く聞けたのではないかと思います。最初の主題自体は,とても柔らかに演奏されていましたが,曲全体としては,ブラームスの曲よりは,もっと現代的でシャープな感覚が全面に出ている曲でした。後半は,見せ場が一杯詰まったスペクタクルな雰囲気いっぱいでした。最後,大きく盛り上がって,ビシっと締める辺り,大変格好良い演奏でした。

その後,再度LFJKのテーマに戻り,シューベルトのセレナードがのんびりと演奏されました。ハープの上でファゴットが主旋律を演奏していましたが,曲の雰囲気にぴったりでした。

最後は,ビゼーの劇的序曲「祖国」で終わりました。ビゼーが,普仏戦争後の逆境をはねのけるために作った曲ということで,どうしても,現在の日本の状況に重ね合わせて聞いてしまいました。曲の印象としては,ちょっと泥臭い感じがしましたが,厚みのある音が素晴らしく,トリにぴったりの聞きごたえたありました。

アンコールでは,まず「ウィーンはいつもウィーン」が演奏されました。この曲は,実はその後のLFJKの演奏会の中で何回も何回も聞くことになりました。後から考えると今年の音楽祭のテーマ曲だった気がしました。他の行進曲同様,磨かれた品位を感じさせてくれるえんそうでした。

さらに盛大な拍手に応えて演奏されたのが,スーザの「名誉ある古代砲兵隊」という曲でした。はじめは何の曲か分からなかったのですが,途中で「蛍の光」のメロディが出てきて,「これで演奏会もおしまい」というメッセージが伝わってきました。最後の最後の部分で,メンバーがすっと立ち上がって演奏が美しく締められました。

今回の演奏会ですが,技巧的な見せ場の多い曲,大きく盛り上がるスケールの大きな曲,自衛隊らしい曲,そしてLFJKにちなんだ曲など,オーケストラのコンサートを聴くような多彩さがありました。どの曲の演奏もきちんと整っており,ピンと背筋が伸びたような強さがありました。指揮者の武田さんをはじめとした団員のみなさんの,きちんとしたマナーも立派で,さすがエリート集団だなぁと思いました。

現在,自衛隊の音楽隊は,被災地での慰問演奏を頻繁に行っているとのことです。今回の演奏もそうでしたが,その磨き抜かれた美しさは,多くの人に勇気を与えているのではないかと思います。陸上自衛隊中央音楽隊が金沢で演奏会を行うのは,今回が初めてとのことでしたが,翌日の「吹奏楽の日」公演と併せて,石川の吹奏楽界にも大きな刺激を与えてくれたのではないかと思います。
(2011/05/08)




入口のポスター


ルネ・マルタンさんのほぼ等身大写真がお出迎え


プロムナードコンサートの日程が掲示されていました。


インフォメーションでは,LFJK特製絵馬を販売していました。


もてなしドームのタペストリー


夜の音楽堂入口付近


インフォメーション前には青島広志さんのほぼ等身大写真。


今回のテーマになった「とどけ!音楽の力,広がれ!音楽の輪」のバッチ。私はピンクを購入しました(\100)