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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2011:ウィーンのシューベルト
2011/05/02 石川県立音楽堂

Review by 管理人hs  
5月2日は連休の谷間の平日ということで,本日のラ・フォル・ジュルネ(LFJK)のイベントには夜から参加しました。連休中とはいえ,さすがに平日18:00からの公演というのは厳しく,ウォンジュ・フィルの公演ではお客さんの入りは,かなり悪かったのですが,その分,特に熱いお客さんが集結していたようでした。

【公演番号112】18:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール[シュパウン]

1)ベートーヴェン/劇音楽「エグモント」序曲op.84
2)ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
3)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」序曲 D.644/797
4)ロッシーニ/歌劇「セビリヤの理髪師」序曲
5)ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲    
●演奏
ヨンミン・パク*1,3,5;井上道義*2,4指揮
ウォンジュ・フィルハーモニー管弦楽団


今回初めて聞くウォンジュ・フィルですが,1997年に設立された団体ということで,見た感じ若い団員(特に女性)が多いようです。ソウルから1時間30分ぐらいの場所ということで,ソウルから通っているメンバーも多いとのことです。

今回のプログラムですが,1つのオーケストラを2人の指揮者が交互に指揮をする,という変則的なものでした。面白い発想ではあったのですが,演奏が終わるたびに弦楽器奏者が席を移動しており(ヨンミン・パクさんと井上さんでポリシーが違うため),演奏する側としては,かなりやりにくかったのではないかと思いました。そのせいか,どの曲も,テンションが低めでした。

最初の「エグモント」序曲は,ヨンミン・パクさんの指揮でした。全般に音の感じが緩く,さらさらと流れ過ぎる感じでした。パクさんは,遠くから見たところ,韓流スターを思わせるスマートな雰囲気の方でした。3曲目の「ロザムンデ」の方も”安全運転”という感じで,少々期待外れの演奏でした。

2曲目の「オイリアンテ」序曲では,お馴染みの井上道義さんが登場しました。井上さんは,いつもながらの派手な指揮ぶりでしたが,「笛吹けど踊らず」という感が無きにしもあらずでした。4曲目に演奏された,「セヴィリアの理髪師」序曲の方は,ものすごく速いテンポで始まり,大変スリリングでした。弦楽器の響きの美しさも印象的でした。ただし,さすがにやや忙しなく,イタリア・オペラの序曲的な大らかさは不足していると感じました。

最後のパクさん指揮による「ウィリアムテル」序曲は,今回演奏された曲の中では,もっとも規模が大きく,4楽章からなる小交響曲的な曲ですが,ここでも緊迫感が不足していると感じました。

ウォンジュ・フィルが金沢で演奏を行うのは今回が初めてで,恐らく,井上道義さんとも初顔合わせだったと思います。そういう面では,まずは,常任指揮者のヨンミン・パクさんとの組み合わせだけにして,じっくりと音楽を聞かせてくれる方が良かったのではないかと思いました。

演奏会の途中,井上さんが例の「シューベルトの青いシューズ」を履いて,もう少しアジアのオーケストラにも目を向けようといったことを語っていました。これについては,そのとおりだと思います。今回の登場をきっかけに交流が進むことを期待したいと思います。

演奏後,1時間ほど休みが入り,20:00からは,OEK十八番の管弦楽伴奏版「冬の旅」の公演でした。

音楽堂前広場のホイリゲでは,エーデルワイスカペレの皆さんが演奏中

ホイリゲのポスター。赤い頬がチャーミングでした。なお,ホイリゲの予定については,プログラム・パンフレットには掲載されていなかったようです。

エーデルワイス・カペレの皆さんは,本当にいつも楽しそうです。い



【公演番号113】20:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール[シュパウン]

シューベルト(鈴木行一編曲)/歌曲集「冬の旅」 D.911( バリトン・オーケストラ版)
●演奏
ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン)
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢

この公演で演奏された鈴木行一さんによるバリトンと管弦楽のための編曲は,1997年に今は亡き名バリトン歌手,ヘルマン・プライさんと岩城宏之指揮OEKのドイツ演奏旅行のためになされたものです。その初演ツァーについてはライブ録音CDも残っており,その後,金沢でも同じ組み合わせで演奏を行っています(プライさん,岩城さんだけでなく編曲者の鈴木さんも亡くなられているんですねぇ...)。この「金沢の財産」と言っても良い編曲版をラ・フォル・ジュルネで再演したことには大きな意義があったと思います。

まずこの公演では,最初から最後まで全く衰えることのない,ホルツマイアーさんの美声とエネルギーに驚きました。しかも,ただ美しいだけではなく,その声の中に常に誠実さがあるので,歌詞は分からなくても,聞きながらついつい感情移入をしてしまいます。

バリトンによる「冬の旅」と言えば,暗い印象を持っていたのですが,ホルツマイアーさんの声質は大変若々しいので,重くもたれるようなところはありませんでした。リアルな青春の歌になっており,その明るさが,次第に痛切さを帯びてくるような迫力がありました。

最初の「おやすみ」は,かなり速足で歩いていく感じでしたが,曲が進み,「菩提樹」辺りになると,表情豊かにたっぷりと歌う部分が増えてきました。ホルツマイアーさんの声は,テノールを思わせるような張りのある声なので,感情の起伏が大変大きく感じられました。今回は,ステージの両側の電子掲示板に日本語対訳が表示されていましたが,それを見なくても,感情の動きがよく伝わってくるような歌だったと思います。

曲集の前半はかなり暗い曲が多いので,11曲目の「春の夢」のような曲が時々出てくるとホッと一息つくことができます。こういう民謡風の曲だと,ホルツマイアーさんの人の良さそうなキャラクターがピタリとはまります。

13曲の「郵便馬車」の前で少し眺めの休憩を入れていましたが,ホルツマイアーさんの歌から感じられるエネルギーとか緊張感は全く変わりませんでした。

後半に近づくと,明るい曲が意外に多くなります。しかし,それは,どこか狂気や幻影が混じっているような明るさです。ホルツマイアーさんの声も明るさが段々と切なさに変わってくるようでした。

OEKの伴奏も見事でした。特に管楽器の色彩感が印象的でした。鈴木行一さんの編曲自体,シューベルト以降のウィーンの作曲家の作風をうまく散りばめているようなところがあります。例えば,16曲「最後の希望」の最初の部分など,20世紀の新ウィーン楽派の曲を聞くようです。21曲の「宿屋」は,かなり朗々と歌われ,リヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲伴奏付きの歌曲を思わせるようなムードになります。そういう意味で,今回の「ウィーンのシューベルト」にふさわしい編曲だと改めて感じました。

特に最後の「辻音楽師」は,マーラーの音楽に非常に近い雰囲気になっていました。会場で,ホルツマイアーさんによるマーラーのCDを販売していましたが(購入はしなかったのですが),ホルツマイアーさん自身もそのことを意識していたのではないかと思います。オーボエとファゴットとチェロが空虚な音をずっと続けた後,最後の最後の部分で,1回だけドキリとさせるように強い音を出す部分など,「マーラーだ」と思いながら聞いてしまいました。

演奏後は,盛大な拍手が起こりました。OEKは,この編曲版をプライさんの息子のフロリアン・プライさんとも定期公演で共演していますが,恐らく,今回のホルツマイアーさんとの共演がすべての面でいちばん良かったのではないかと思いました。「冬の旅」については,あまりにも暗いので,CDでは滅多に聞かない曲なのですが,今回のホルツマイアーさんように,それほど重くない声で,等身大の情感の動きを伴って歌われると,非常に良い曲だな,と思えました。文字通り「音楽による旅」にホルツマイヤーさんと一緒に出かけて帰ってきた―そういう感じの演奏でした。

金沢のラ・フォル・ジュルネと言えば,能との共演や筝によるクラシック音楽の演奏といったことが「オリジナル」として注目されてることが多いのですが,これからは,こういう形で「OEKのオリジナルの財産」を披露する場になっていって欲しいと思いました。



「冬の旅」だったにも関わらず何となく熱い気分のまま,音楽堂の玄関に向かうと,何やら楽しげな音楽が...開演前はエーデルワイス・カペレの皆さんによる,「一杯飲みたくなるような楽しい音楽」をやっていたのですが...

終演後は,ブラシシモ・ウィーンによる金管5重奏の演奏に変わっていました。この玄関の雰囲気ですが,この時間帯(21:00過ぎ)にしては,異様にたくさんの人が残っていました。しかも,完全に「出来上がっている」という感じで,ノリノリの状態になっていました。これに「冬の旅」帰りのお客さんも加わり,何とも不思議な状態になっていました。写真でご紹介しましょう。
大勢のお客さんが残っていました。

最後のアンコールでは,お客さんの間を練り歩くことに。 名残惜しさを残しつつ帰宅

こういう雰囲気は,「熱狂の日」ならではですね。明日から,連休再開&ラ・フォル・ジュルネも本公演開始ということで,何か開放感に浸って羽を伸ばしている人たちばかり,という幸せな光景でした。

(2011/05/08)



開演前の音楽堂前


全日空ホテルの出店。


ト音記号がデザインされたパンやサンドイッチを売っていました。


この日は全員集合していました。


夜のもてなしドーム


もてなしドーム地下から音楽堂に向かう辺りは「ウィーンの森」風


奥に見えるのが交流ホール。赤じゅうたんの両脇が「ウィーンの森」


音楽堂入口付近の夜景


売店も通常営業