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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2011:ウィーンのシューベルト
2011/05/04 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺

Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2011の最終日は,天候に恵まれ,前日同様,JR金沢駅周辺〜石川県立音楽堂に掛けては大勢の人で賑わっていました。この日は,午前10:00から,今年のLFJKで非常に派手な活躍を見せている千葉県柏市立柏高等学校吹奏楽部による注目の公演があったのですが,こちらの方は,午後から「もてなしドーム」で見ることにし,体力を温存するために11:00からスタートすることにしました。

ただし,11:00前に到着したので,コンサートホール前に行ってみるとモニターに千葉県柏市柏高校吹奏楽部の演奏の様子が映し出されていました。


朝鮮民謡の主題による変奏曲の演奏中でした。モニターを通して見ただけですが,大迫力の演奏だったとのではないかと思います。



【公演番号221】11:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール[マイアーホーファー]

ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調 op.55「英雄」
●演奏
ゲオルグ・チチナゼ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア


さて,邦楽ホールの方ですが,このホールでオーケストラが演奏することはめったにありません。ラ・フォル・ジュルネ期間中でないとないことだと思います。この公演は,当初,ルーベン・ガザリアン指揮ヴュルテンベルク管弦楽団によって,マーラー編曲による弦楽合奏版の「死と乙女」が演奏されるはずでした。このオーケストラも一度聞いてみたかったのですが,仕方がありません。

その代わりに登場したのが,昨年のLFJKにも登場したポーランドのシンフォニア・ヴァルソヴィアでした。曲目もベートーヴェンの「英雄」交響曲に変更になりました。これは,他のラ・フォル・ジュルネのテーマとの関連だと思いますが,今回,大震災で演奏者が変更になったことにより,LFJKについても,ややベートーヴェンの色が強くなった感はあります。

チチナゼさんという指揮者が金沢に登場するのは,今回が初めてだと思いますが,まず,そのキリっと締まった指揮ぶりが印象的でした。時々,うなり声が入っていた気がしたのですが,非常に精悍な音楽を聞かせてくれました。

第2楽章の葬送行進曲は,東日本大震災で亡くなられた人たちへの哀悼の気持ちを込めての演奏でした。たっぷりとしたテンポで始まった後,中間部で金管楽器を中心として各楽器が咆哮し,大きな盛り上がりを作っていました。こ

第3楽章は大変キレの良い,スピード感たっぷりの演奏でした。第4楽章も鮮やかでした。邦楽ホールの場合,各楽器の音が混ざることがなく,各楽器の音が分離して生々しく聞こえてしまいます。粗が見えやすい恐いホールとも言えるのですが,そういうデメリットははなく,逆に,フーガ風になる部分での音の絡み合いを面白く楽しむことができました。

曲全体としても,第2楽章で悲しみに沈んだ後,第3楽章から第4楽章に掛けてしっかり立ち上がっていくようなストーリー性を感じさせてくれる演奏になっていました。



【公演番号312】12:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール[シュウパン]

1)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」 D797〜羊飼いの合唱「野原を越えて」
2)ブラームス/悲歌op.82
3)シューベルト/交響曲第3番ニ長調 D200
●演奏
山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
松原混声合唱団(合唱指揮:清水敬一)*1,2


前の公演から休む間もなくコンサートホールに移り,次に山田和樹さん指揮OEKの公演を聞きました。神奈川県の松原混声合唱団も加わっていることと,シューベルトの初期の交響曲を聞けることが注目でしたが,やや地味なプログラムだったこともあり,コンサートホールのお客さんの入りはあまりよくありませんでした。

最初に演奏された「ロザムンデ」の中の合唱曲は,いかにもシューベルトらしい”タンタカ”というリズムが心地よい曲でした。松原混声合唱団は,普友会合唱団の中核となる合唱団ということで,大変心地よい歌を聞かせてくれました。金沢で活動をしている合唱団の場合,どうしても男声パートが少なくなってしまうのですが,松原混声合唱団の場合,男女のバランスが同じで,響き全体に余裕と深みを感じました。

続く,ブラームスの「悲歌」はさらに珍しい曲だと思います。ブラームスといえば重厚なイメージがあるのですが,山田和樹さん指揮による今回の演奏だと,曲全体がすっきりとまとまり,若々しく聞こえました。誠実さを感じさせてくれる演奏でした。

後半はシューベルトの交響曲第3番が演奏されました。この曲は,以前OEKの定期公演で聞いたことがあります。それほど演奏されませんが,OEKにぴったりの爽やかな作品です。山田さんの指揮ぶりは大変若々しいのですが,そのイメージどおりの瑞々しい音楽を聞かせてくれました。

その一方で,曲全体としてはがっちりとしてまとまっており,響きには充実感がありました。クラリネット,オーボエをはじめとして木管楽器が特に充実していたと思います(ただし,トランペットはちょっとミスが目立った?)。最終楽章は,非常にスマートに流れ,気持ちよく締めてくれました。

# 交響曲の演奏前,合唱団退出後のステージ転換の時間を利用して,山田和樹さんから次のような「お知らせ」がありました。

1)LFJK後,OEKの定期公演3つを3000円で聞ける「おためし会員」を募集します。
2)6月に山田和樹さんがロジェ・ブトリーさんの代役で定期公演にします。



本当は,この後,アートホールに行く予定にしていましたが,千葉県柏市立柏高等学校の演奏をどうしても聞きたくなり,もてなしドームの無料公演を聞くことにしました。

エリアイベント 13:00〜もてなしドーム

カルピスソーダのCM用音楽
煙が目にしみる
朝鮮民謡の主題による変奏曲
ブルー・ボッサ
AKB48メドレー
テキーラ
ウィーンはいつもウィーン
●演奏
石田修一指揮千葉県柏市立柏高等学校吹奏楽部


この日は昼過ぎから,柏高校の皆さんは,もてなしドーム〜JR金沢駅一体を占拠していました。毎回毎回,ものすごい数のお客さんが集まっていました。楽器をダイナミックに動かしながら演奏する「カルピス・ソーダ学園」のテーマも聞けたし,柏高校にしかできないような「朝鮮民謡の主題による変奏曲」も見れたし,大満足でした。
「煙が目にしみる」サクソフォーン独奏

朝鮮民謡の主題による「変奏曲 華やかなパフォーマンスの連続
小道具も沢山使っていました。

中央には頭につけた紐(?)をぐるぐる回す生徒が。ご苦労様です。 一転して,Jポップメドレー
AKB48の曲は,今年はどの高校も演奏しますね。
最後は,テキーラ!
石田先生も金色の衣装に

引き続き,JR金沢駅コンコースでの公演へ(追っかけている人も多数いた感じです)。前半だけ聞きました。
ここも超満員

全国各地のラ・フォル・ジュルネの中でも切符売り場の前で演奏するのは,金沢だけでしょう。

何とか撮影
今度はサイドから。子供は肩車で鑑賞中

トロンボーンの数も凄い。奥に見える見えるのは,「金沢百番街」の看板

小松明峰高校吹奏楽部の皆さんも鑑賞中
別のサイドから撮影



【公演番号333】14:30〜 金沢市アートホール[テレーゼ・グローブ]

1)シューベルト/幻想曲 ヘ短調 D940
2)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 op.27-2「月光」
3)シューベルト/3つのピアノ小品〜D.946-3
●演奏
仲道郁代*1,アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)*2,3


一転して趣きを変え,次に金沢市アートホールでのピアノ連弾と独奏の公演を聞きました。この公演は,当初は仲道郁代さんに加え,アルフォンス・スマンさんが登場するはずでしたが,アンドレイ・コロベイニコフさんに変更になりました。コロベイニコフさんは,LFJKでもお馴染みの方ということで,今回の変更については,”ノー・プロブレム”でした。ただし,演奏の方は,ちょっと個性的過ぎるかなという感想を持ちました。

最初にお二人の連弾でシューベルトの最晩年の名作,幻想曲が演奏されました。仲道さんが低音部,コロベイニコフさんが高音部を担当していましたが,はかなげで幻想的な雰囲気というよりは,大変明晰な演奏でした。幻想曲というタイトルにはそれほど意味はなく,自由なスタイルのピアノ曲ということなのだと思います。

中間部では非常にテンポが速くなり,バリバリと弾きまくるような部分になりました。このコントラストの大きさは,恐らく,コロベイニコフさんのペースなのかなという気がしましたが,この曲のイメージとしては,少し極端過ぎるかなという気がしました。

公演の後半は,コロベイニコフさんの独奏となりました。今年のLFJKでは,各公演ごとにプログラム・リーフレットがなかったのですが,今回のような場合,全体プログラム・パンフレットだけを見ていても,仲道さんが演奏するのかコロベイニコフさんが演奏するのか予め分からないので,お二人のファンとしては,ちょっと困ったのではないかと思います。

演奏曲目の方も変更になっていました。当初はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第2番だったのですが,「月光」ソナタに変更になったと掲示が出ていました。この演奏ですが,賛否両論という演奏だったと思います。

第1楽章ですが,これまでに聞いたことのないような遅いテンポでした。遅いというよりは重い演奏で,意図的に無表情に演奏しているようでした。非常に不気味でしたが,あまりにも遅いので,段々と「いつ終わるのだろう」という感じになってきました。個人的には,ちょっと「やり過ぎ」かなと感じました。

その分,第2楽章は大変軽快な雰囲気に切り替わりました。このコントラストを狙っていたのだと思います。第3楽章はさらに速くなり,何かに怒りをぶつけているのかな,と思わせるほどの猛スピードになりました。この緩急の差はさすがにやり過ぎに感じました。

最後にシューベルトの小品が演奏されました。これもかなり速いテンポで演奏されていました。

というわけで,スリリングな演奏ではあったのですが,個人的には,ちょっと付いていけないな,というのが正直なところでした。



次の公演までの時間を利用してもてなしドームへ。「犬も歩けば音楽に当たる」のがLFJKの素晴らしいところです。

もてなしドーム 小松明峰高校吹奏楽部
   
「小さな世界」〜「宝島」と続くおなじみのエンディング

交流ホールでは,藤原朋代(ヴァイオリン),細川文(チェロ),山田ゆかり(ピアノ)の皆さんが室内楽を演奏中。

交流ホールもいつみても大勢の人が入っていました。



【公演番号314】16:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール[シュウパン]

1)シューベルト/交響曲第2番変ロ長調 D.125
2)シューベルト(リスト編曲)/さすらい人幻想曲ハ長調 D760(ピアノ・オーケストラ版)
3)ワルツ風のピアノ小品
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1,2,ミシェル・ダルベエルト(ピアノ)*2,3


最終日の午後のコンサートホールでの公演ということで,今回はかなり沢山のお客さんが入っていました。それでも3階両サイド(例のスターライト席)はほとんど空いていましたので,今回私が聞いたコンサートホールでの公演に限れば,4月29日のオープニングコンサート以外では満席はありませんでした。やはり,シューベルトの作品だけだと,一般的には,少々インパクトが弱いのかな,という気がしました。この辺については,次年度以降のLFJKの課題になってくると思います。

演奏の方は,井上道義さんとOEKらしい元気の良いものでした。交響曲第2番は,一般的には知られていないと思いますが,OEKの定期公演では演奏されたことのある曲です。雰囲気としては,ハイドンの交響曲に近い感じです。

第1楽章は大変軽快で,井上さんらしく流麗な演奏でした。お昼に聞いた第3交響曲の最終楽章の続きを聞いているような趣きがありました。ハイドン風の親しみやすさのある第2楽章,暗い表情を持った第3楽章と続き,第4楽章は「タンタカ,タンタカ」というリズムが執拗にしかし軽快に続くきました。井上さんらしいユーモラスな間や動作を含め,いかにもOEKらしい演奏を楽しませてくれました。

後半は,ミシェル・ダルベルトさんがソリストとして加わり,リスト編曲版の「さすらい人」幻想曲が協奏曲のような形で演奏されました。シューベルトには,協奏曲作品はないので,今回のLFJKの一つの目玉と言っても良い曲だと思います。

まず,オーケストラのみで重々しく始まりました。ピアノ独奏版を聞きなれている人には重苦しく感じられたかもしれませんが,この大仰な感じがリスト的でもあります。それを受けるようにピアノが入ってきますが,ピアノのパートについても,より華麗になっている部分があるようでした。ダルベルトさんのピアノは,前日,ソナタの演奏を聞いた印象どおり,ダイナミックな打鍵も素晴らしく,シューベルト的というよりは,リスト的な華麗さのある演奏を楽しませてくれました。

個人的には,オリジナル版のピアノ独奏版の方がすっきりしていて良いかな,と思ったのですが,音楽祭だからこそ聞ける曲だったと思います。このコンビは,演奏後移動し,翌日,東京のラ・フォル・ジュルネの方で同じプログラムを演奏しました。そちらの方も,金沢の元気さを東京にアピールするような演奏になったようです。

アンコールでは,短いワルツ風の曲が演奏されました。この辺の洒落たセンスは,フランスのアーティストらしいところです。演奏後,井上さんが例の「シューベルトの青いシューズ」をダルベルトさんに手渡したところ,ダルベルトさんは首をすくめていましたが,こういうユーモアのセンスを含め,「役者が揃った」ような華やかな公演となりました。



交流ホールでは,ブラシシモ・ウィーンの皆さんが演奏中




【公演番号324】17:15〜 石川県立音楽堂邦楽ホール[マイアーホーファー]

シューベルト/歌曲集「白鳥の歌」 D957(抜粋)
(アンコール)シューベルト/ミューズの子
●演奏
ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン),ジュゼッペ・マリオッティ(ピアノ)


次の予定については,アートホールのピアノ・ソナタ第18番にするか邦楽ホールの「白鳥の歌」抜粋にするかで多いに迷ったのですが,ピアノ・ソナタは既に2曲聞いたし,その後に仲道さんの演奏でも聞く予定にしていたので,金沢では滅多に聞けない「白鳥の歌」の方を選ぶことにしました。

金沢では,「冬の旅」は比較的頻繁に全曲が演奏されたことはありますが,「白鳥の歌」については,まとまって取り上げられたことはほとんどないような気がします。「白鳥の歌」については,もともと各曲の間につながりはなく,出版社が集めた歌曲集だということもあるかもしれませんが,シューベルトをテーマとしてラ・フォル・ジュルネを行うからには外せない作品だと思います。

今回は,オープニングコンサートや「冬の旅」公演で素晴らしい美声と声によるドラマをしっかり聞かせてくれたホルツマイアーさんの歌ということで,大いに期待して臨みましたが,その期待以上の歌を聞かせてくれました。歌詞はほとんど分からずに聞いていたのですが,非常に間近で聞いたこともあり,声の魅力と威力に圧倒されました。

今回歌われた曲ですが,「白鳥の歌」の全曲ではなく,2曲をのぞいた抜粋版でした。演奏順は次のとおりでした。

  • アトラス(第8曲,詩:ハイネ)
  • 彼女の絵姿(第9曲,詩:ハイネ)
  • 漁夫の娘(第10曲,詩:ハイネ)
  • 海辺で(第12曲,詩:ハイネ)
  • 都会(第11曲,詩:ハイネ)
  • 影法師(第13曲,詩:ハイネ)
  • 鳩の使い(第14曲,詩:ザイドル)
  • 愛の使い(第1曲,詩:レルシュタープ)
  • 兵士の予感(第2曲,詩:レルシュタープ)
  • 春の憧れ(第3曲,詩:レルシュタープ)
  • セレナード(第4曲,詩:レルシュタープ)
  • 別れ(第7曲,詩:レルシュタープ)

この並べ方はホルツマイアーさん独自のものだと思いますが,大まかに言って,「白鳥の歌」の前半と後半をひっくり返したような形で,抜けているのは,第5曲の「我が宿」と第6曲の「遠い国で」ということになります。

最初の「アトラス」から,ハイネの詩による曲は,暗い曲が中心で,「影法師」などはほとんど語るような感じでしたが,その中に熱い思いが籠っており,退屈する間はありませんでした。ハイネの詩に続く,「鳩の使い」はシューベルトの最後の作品と言われる曲ですが,そこまでの緊張をほぐすような穏やかな曲でホッとさせてくれました。人の良さそうなホルツマイアーさんの笑顔も印象的でした。

その後,第1曲に戻り,レルシュタープの詩による曲が続きます。私自身,暗い歌よりは,明るさの中に悲しみが少し漂うような簡潔な歌が好きですなのですが,「愛の使い」「春の憧れ」といった曲をはじめ,どの曲もたっぷり聞かせてくれました。じっくりと語りかけるように有名な「セレナード」が歌われた後,最後に軽やかな「別れ」で締められました。

さらにアンコールでは,ミューズの子が朗らかに歌われました。この曲も大好きな曲の一つなので,この曲を聞けて嬉しく思いました。

今回のLFJKでホルツマイアーさんは,4月29日のオープニングコンサートから5月4日のフェアウェルコンサートまで非常に出番が多かったのですが,今回のLFJKのMVPを進呈したい気分です。今回の縁をきっかけに,是非,金沢に再度来ていただき,今度は,「美しき水車屋の娘」の全曲を聞かせてほしいものです。



【公演番号315】18:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール[シュウパン]

1)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」序曲 D644/797
2)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
3)ブラームス/ハンガリー舞曲第6番
4)ヘルメスベルガー:悪魔の踊り
5)デュカ/交響詩「魔法使いの弟子」
6)シュトラウス,J.I/ラデッキー行進曲
●演奏
現田茂夫指揮東京大学音楽部管弦楽団

再度コンサートホールに戻り,今度は東京大学音楽部管弦楽団の演奏を聞きました。LFJKでは,高校生の吹奏楽を重視していると同時に,毎年,大学のオーケストラを1つ招いています。昨年は京都大学でしたが,今年は東京大学のオーケストラが参加することになりました。

まず最初にLFJKのテーマにちなんでシューベルトの「ロザムンデ」序曲が演奏されました。オーケストラ全体の響きは非常に充実しており,大変丁寧にメロディが歌われていました。ソロの部分になると,ほんのわずかに粗が見える部分はありましたが,「さすが東大」という演奏でした。

続いてハンガリー舞曲の第5番と第6番が続けて演奏されました。これも重量感がありましたが,いつもOEKの演奏で聞いている感覚からすると,ちょっと重すぎるかなという印象でした。第6番の冒頭部分ですが,指揮の現田さんがいきなり振り出したのか,ちょっとバラついた感じになりました。この辺はご愛嬌といったところでしょうか。

ヘルメスベルガーの「悪魔の踊り」は,この公演の目玉曲でした。数年前,小澤征爾さんがウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場した時に演奏して注目された曲ですが,実際に生で聞くのは初めてのことです。ちょっとエキゾティックなムードがあったり,悪魔の高笑いのような部分があったり,大変楽しめる作品を充実したサウンドで聞かせてくれました。

次の「魔法使いの弟子」も,楽しめる演奏でしたが,この曲だけは,フランスの曲だったので,どうせならドイツ・オーストリア系の音楽で統一して欲しかったと思いました。最後にラデツキー行進曲がアンコール的に演奏されて終わりましたが,この曲については,フェアウェルコンサートの最後でも演奏されたので,個人的には,その時まで取っておいても良かった気がしました。

今回は,進行も学生が担当していました。大変きちんとした進行で気持ち良かったのですが,昨年LFJKに京大のオーケストラが登場した時の井上道義さんによる,ハチャメチャな進行も懐かしく思えました。

この辺も含め,京大と東大のキャラクターの違いを実感できた気がしました。



【公演番号325】19:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール[マイアーホーファー]

シューベルト/4つの即興曲 D899,op.90〜第2番 変ホ長調
シューベルト/4つの即興曲 D935,op.142〜第3番 変ロ長調
シューベルト/ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D664
(アンコール)ショパン/ノクターン第20番遺作
(アンコール)エルガー/愛のあいさつ
●演奏
仲道郁代(ピアノ)


LFJK2011の邦楽ホールでの公演のトリは,お馴染み仲道郁代さんによるシューベルトのピアノ曲を集めたプログラムでした。即興曲集の中からダルベルトさんがアンコールで弾いたのと同じ作品90-2とロザムンデ間奏曲と同じメロディを使った変奏曲である作品142-3が演奏されました。

作品90の2の方は,大変優しい響きの演奏で,珠を転がすような粒立ちの良さと透明感が印象的でした。作品142の3の方は,穏やかな日常生活が流れていく中で時々,波風が立つ...といった親しみやすさのある演奏でした。ただし,今回,仲道さんは譜面を見ながら演奏しており,時々,ミスタッチがあったのがちょっと気になりました。

後半はピアノ・ソナタ第13番が演奏されました。この曲も実演で聞いてみたかった曲です(部分的には4月に聞いたばかりでしたが)。優しい気分に溢れた大変魅力的な曲を仲道さんはたっぷりと時に繊細に聞かせてくれました。第2楽章の陶酔感のある歌も魅力的でした。第3楽章も大変優しい演奏で,軽いタッチでスマートに終わるのがセンスが良いなぁと思いました。

その後,アンコールが2曲演奏されたのですが,この選曲については,少々疑問でした。単純に仲道さんがいつもリサイタルのアンコール・ピースとして使っている曲を使ったのだと思いますが,シューベルトを続けた後,ショパンとエルガーで締めるというのは...意図がよく分かりませんでした。

近年,仲道さんについては,ベートーヴェンのピアノ・ソナタやピアノ協奏曲などの大曲を集中的に取り上げている印象があります。今回の演奏は,美しい演奏ではあったのですが,シューベルトについては,これから本格的に取り組んで行くのかなと思わせる公演でした。



交流ホールでは,すっかりおなじみになった エーデルワイス・カペレの皆さんの最終公演中
 



【公演番号345】20:30〜 石川県立音楽堂交流ホール[ショーバー] フェアウェル・コンサート

1)シュトラウス,J.II/ウィーンの森の物語
2)シュトラウス,J.II/ポルカ「狩り」
3)シュランメル/行進曲「ウィーンはいつもウィーン」
4)(アンコール)ゴールドマン/木陰の散歩道(On the mall)
5)シュトラウス,J.II/ウィーン気質
6)アントン・カラス/映画「第三の男」〜ハリーライムのテーマ
7)シューベルト/ます
8)シューベルト/ミューズの子
9)(アンコール)シューベルト/歌曲集「白鳥の歌」〜鳩の便り
10)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
11)エルガー/行進曲「威風堂々」第1番
12)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデッキー行進曲
●演奏
石田修一指揮千葉県柏市立柏高校吹奏楽部*1-4
マウロ・イウラート(ヴァイオリン)*5-6,ヴォルフガング・ホルツマイアー(バリトン)*7-9,ジュゼッペ・マリオッティ(ピアノ)*5-7
現田茂夫指揮東京大学音楽部管弦楽団*10-12


さて,本公演がすべて終わった後,地下の交流ホールに移動し,「ぶっつけ本番」「何が起こるか分からない」という感じでフェアウエル・コンサートが始まりました。今年はこれまでのクロージング・コンサートとは違い,LFJK2011に登場したアーティストによるガラ・コンサート的な雰囲気になりました。

まず,この2日間で8回もの公演をホール内外で行った千葉県柏市立柏高等学校吹奏楽部によって3曲が演奏されました。この吹奏楽部には2,3年生だけで130名もの部員がいるそうで,テレビ出演も含め,年間何回もイベントに出演しているとのことです。

それでも,東日本大震災後初めてのステージとなった今回の金沢公演については,特別な思いがあったと顧問の石田先生は語っていました。音楽できることの喜びを思い切り表現できた2日間だったようです。

このステージでは,彼らお得意のパフォーマンスは封印し,キリっとした揃いの制服を着て,ウィーンにちなんだ曲を見事に演奏しました。最後に演奏した「ウィーンはいつもウィーン」は,今年のLFJKのテーマのように何回も聞いた曲でしたが,この柏高校吹奏楽部の演奏をしっかりと耳に焼き付けておきたいと思います。

この2日間の彼らの活躍に対するねぎらいの気持ちも含めて,盛大な拍手が続き,行進曲「木陰の散歩道」が演奏されました。石田先生によると,「まさかアンコールがあるとは...」という状況で,何も用意していなかったようでした。パフォーマンスに使ったような小道具類も,既にトラックに積み込まれてしまったとのことで,急きょ,いろいろな演奏会の最後の方で演奏してきたこの曲が演奏されることになりました。つまり,全員暗譜による演奏ということになります。

この行進曲は途中で「ララララララ」と歌が入ったり,口笛が入ったりする楽しい曲なのですが,こうやって聞くと実に名残惜しい気分になりました。柏高校については,今回のLFJKの団体部門MVPといっても良い活躍だったと思います。是非,何かの機会があれば,彼らの演奏とパフォーマンスにまた触れてみたいものです。

その後,場面転換の時間を使って,前田利佑LFJK実行委員長によるあいさつがありました。その中で,有料入場者数は減少したが(本公演の日数が実質2日になり,有料公演数が減ったことが理由),無料公演を含む総入場者数は12万人を超え,過去最高になったとの報告がありました。東日本大震災の影響が残る中での開催ということを考えると,いろいろと課題はあったにしても,大健闘だったと思います。

この後は,指揮者の現田茂夫さんとLFJKのアンバサダーの響敏也さんの司会によって進められました。

続いてヴァイオリンのマウロ・イウラートさんのステージになりました。私自身は,今回,イウラートさんの演奏は全く聞けなかったのですが,ウィーンにちなんだ小品を2曲粋に演奏してくれました。今回,音楽堂の玄関先のホイリゲでのコンサートが大変賑わっていましたが,「第三の男」のテーマを聞いているうちに,なぜかビールなどを飲みたくなってしまいました。

その後,ヴォルフガング・ホルツマイアーさんが登場しました。団体部門MVPが柏高校ならば,個人部門のMVPは,何と言ってもホルツマイアーさんだったと思います。「ます」「ミューズの子」が歌われましたが,交流ホールだと本当に生の声が聞こえてくるようでした。ホールいっぱいに声が響くという感じではありませんでしたが,ホルツマイアーさんに対する親近感が益々大きくなったステージでした。ここでもアンコールがあり,「白鳥の歌」の最後の「鳩の便り」が歌われました。この曲もまた,名残惜しさを感じさせてくれるような雰囲気を持っていました。

いよいよ最後に登場したのは,東京大学音楽部管弦楽団でした。彼らは,金沢に到着するまでに交通渋滞に巻き込まれてしまい,リハーサルなしでJR金沢駅構内での演奏に臨むという経験をしたとのことです。ここでは,ハンガリー舞曲第5番,威風堂々第1番を演奏さいた後,手拍子入りでラデツキー行進曲が演奏されてお開きとなりました。

このトリの演奏については,ラデツキー行進曲で締められたのですが,ちょっと「当たり前過ぎかな」という感じでした。個人的には,柏高校吹奏楽部による「ウィーンはいつもウィーン」で締めてもらった方が良かった気がしました。それか,または,オープニングコンサートで全員で歌った「野ばら」を最後にもう一度全員で歌っておしまいにしても良かったと思います。

これは日程的に仕方がなかったのですが,フェアウェルコンサートには,やはり地元に関係する音楽家(OEKとか井上道義さんとか)にも出演してもらいたかったところです。今回も盛り上がったのですが,やはり「核がない」という感が無きにしもあらずでした。その点で,今年のフェアウェルコンサートは,少々物足りなさを感じました。

# 昨年はさらにルネ・マルタンさんまで登場してスピーチをされていましたね。

...と,ぜいたくなことを書きましたが,今年もまた,大いに生の音楽を堪能できた1週間でした。何よりも,音楽をこれだけ沢山楽しめること自体に感謝したいと思います。


 
すべての公演が終わった交流ホールの風景

(2011/05/08)



サイン会の予定。今回は1回も参加できませんでした。


すぐ隣に青島広志さん(本物)がいきなり登場し,「お手にとって見ていって」とお客さんに呼びかけていました。本当に商売上手&熱心です。


ルネ・マルタンさんからのメッセージ


コンサートホール前には,お馴染みの大型のサイン


音楽堂の廊下はいつも賑わっていました。

写真が少しずつ増殖中


音楽堂1階のシューベルティアーデ


音楽堂前広場でも頻繁に演奏が行われていました。これは千葉県柏市立柏高校の皆さんの吹奏楽アンサンブル


LFJK2011のポスターのシューベルトと同じ衣装で指揮をする井上道義さんの写真があったので撮影。シューベルトの交響曲第5番を指揮されています。


夜の金沢駅


夜のもてなしドーム


もてなしドームでの公演もすべて終了し,日常の風景に戻っていました。