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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第72回定期演奏会
2012年1月14日(土) 18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
シベリウス/「カレリア」組曲
ブラームス/交響曲第1番ハ短調,op.68
(アンコール)シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ
●演奏
新田ユリ指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団

Review by 管理人hs  

毎年,大学入試センター試験1日目の夜は,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会です。今年は,昨年に続き新田ユリさん指揮でした。金大フィルの定期演奏会には,毎年のように行っていたつもりなのですが,昨年は行けませんでしたので,2年ぶりということになります。

今年のメインプログラムは,ブラームスの交響曲第1番でした。昨年の定期演奏会で取り上げた,チャイコフスキーの交響曲第5番などと並んで,アマチュアオーケストラが取り上げる曲の「定番」と行っても良い作品です。昨年,金沢では,ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラで聞いた曲ですが,今回の金大フィルの演奏も素晴らしい演奏でした。学生オーケストラの良さがしっかり発揮された、聞きごたえのある演奏でした。個人的な感動の度合からすると、ハーディング指揮MCOにも決して劣りませんでした。

まず,第1楽章の序奏が,予想外に速いテンポだったのに驚きました。「今回の演奏はタダモノではないかも?」と引きこまれました。音の動きが滑らかで,3拍子に聞こえるぐらいでしたが,”これから生きた音楽が始まるんだ”という期待が高まりました。

この推進力が主部では堂々とした力感のある音楽になり,曲全体を一貫していました。この部分では,オーボエをはじめとした,各楽器のソロの調子の良さも実感できました。呈示部の繰り返しもしっかり行っていましたが,停滞することはなく,音のエネルギーがさらに高まったように感じました。熱さを感じさせるカンタービレ,引きしまった力感...新田さんのリーダーシップに,オーケストラがしっかりと応えている様子がしっかり伝わってくるような演奏でした。

新田さんは,学生たちのエネルギーを発散させるだけではななく,非常に安定感のある音楽を聞かせてくれました。安心感と熱さがバランス良く共存していたのが素晴らしいと感じました。

第2楽章は,じっくりと聞かせてくれました。ここでもオーケストラはしっかりと指揮に付いていっており,濃厚な味を楽しませてくれました。この曲には,楽章ごとにいろいろな楽器のソロが出てきますが,ここでもオーボエが見事でした。とても味のあるソロを聞かせてくれました。楽章最後のコンサートマスターによるソロも見事でした。大変プレッシャーのかかる部分ですが,透き通るような音で決めてくれました。これに絡んでくるホルン共々,室内楽的な気分も出ていました。

第3楽章は,クラリネットの軽快なソロで始まった後,段々とエネルギーを蓄えて行き,最後の方は,意味深な雰囲気で締めてくれました。クライマックスの第4楽章も充実していました。まず,序奏のピツィカートの部分での間合いの取り方が実に堂々としていました。その後は,聞きどころの連続になります。

ティンパニの連打で気分を変えた後,アルプホルン風のホルンが入ってきます。雄大な光景が広がるようなイメージどおりの演奏でした。続くフルートもしっかりと熱い音を聞かせてくれました。落ち着きのあるトロンボーンのコラールに続いて,弦楽合奏による有名な主題となります。この一連の流れは,何度聞いても格好良いですね。演奏していた皆さんも,幸福感に酔っていたのではないかと思います。ただし,演奏の方からは,それに酔うのではなく,感動をバランス良く制御したような,秘めた美しさを感じました。

その後は新田さんの指揮に真摯に応えていくような音楽が続きました。コーダの部分でも,テンポは煽らず,堂々としたスケールの大きさを感じさせてくれました。安定感のある響きに楔を打ち込むような金管楽器の活躍も印象的でした。

この曲の場合,聞きどころが多く,私の場合,それぞれのポイント,ポイントで各楽器を応援しながら聞いてしまいます。今回の演奏は,それらをしっかりとクリアしており,「良い演奏を聞かせてくれてありがとう。応援のし甲斐がありました。」という感じの演奏になっていました。前述のように,オーボエをはじめとして,各ソロ楽器が安定した演奏を聞かせてくれたのが,何より良かったと思います。

1曲目の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲は,堂々としたテンポで演奏されていましたが,重さよりは,慎重さや停滞感を感じました。音階のような音の動き方が多い曲なので,どこか練習曲のように響いていました。それでも,途中に出てくる,木管合奏の部分での小気味良さなどは印象的でした。

2曲目のシベリウスのカレリア組曲は,期待どおりの演奏でした。指揮の新田さんは北欧音楽のスペシャリストということで,最初の弦楽合奏のザワザワとした音から1曲目と空気が違っていました。

最初の「間奏曲」では,だんだんと音が近づいてきて,タンバリンの音が加わった軽快な後打ちのリズムの刻みが続きます。この繰り返しの感覚が昔から大好きです。ちょっとポップスっぽく感じてしまいます。最初と最後の部分では,ホルンが活躍します。最後の高音の弱音の部分では(プロでも演奏するのは難しいと思います),祈りながら(?)聞いていたのですが,期待通りのデリケートな響きを聞かせてくれました。

第2曲「バラード」では,広がりを感じさせてくれるような弦楽器の響きが印象的でした。最後の方に出てくるコールアングレの長いソロもお見事でした。最後の「行進曲風に」は,組曲の中でいちばん有名な曲です。ここでも弦楽器の滑らかな音の動きが魅力的でした。このメロディは,明るいけれども聞いているとどこか切なさを感じてしまいます。そのデリケートさがしっかり伝わってくる演奏でした。

その一方,音楽が盛り上がってくると出てくる,「いかにもシベリウス」という感じの「トランペットの合いの手」(「フィンランディア」辺りにも出てきますね)が好きだったりします。後半では,色々な楽器の音が順に鮮やかに浮かび上がって来る様子が大変面白く感じました。こういう部分は,生でオーケストラを聞く楽しみの一つですね。

というようなわけで,大好きな曲を生で聞くことができ(名曲ですが,意外に生で聞く機会は少ないですね),その魅力をしっかり堪能できました。

アンコールでは、シベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」が演奏されました。アンコールの前に,新田さんに花束の贈呈がありましたが,それに対する”お返し”という感じの素晴らしい弦楽合奏でした。会場は,若々しく瑞々しい響きに包まれ,お開きとなりました。

金大フィルを中心とした石川県内の大学オーケストラとOEKは2月末に合同でブルックナーの交響曲第5番という大曲に挑みます。その公演への期待が一層高まった演奏会でした。(2012/01/16)


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この日の公演の立看