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オーケストラ・アンサンブル金沢第314回定期公演M
2012年1月28日(土) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ベートーヴェン/「コリオラン」序曲, K.62
2)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調, op.37
3)(アンコール)シューベルト(ゴトーニ編曲)/歌曲集「美しい水車屋の娘」〜水車屋と小川
4)シューベルト/交響曲第6番ハ長調, D.589
●演奏
ラルフ・ゴトーニ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-2,4,ラルフ・ゴトーニ(ピアノ*2-3)
プレトーク:池辺晋一郎
Review by 管理人hs  

季節相応の積雪が続く中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。今回の指揮者は,定期公演に登場するのは3回目となるフィンランド出身のラルフ・ゴトーニさんでした。

1月末から2月上旬にかけて,ゴトーニさんは,OEKの2種類の定期公演に連続して登場し,しかもその間に,ピアニストとしてOEKメンバーと室内楽公演も行います。このことは,OEとゴトーニさんの相性の良さを示しているのではないかと思います。過去2回の共演での意欲的な内容もその証拠です。OEKファン待望の,そして,きっとOEKのメンバーも待ち望んでいただろう「ゴトーニ・ウィーク」の開幕ということになります。

この日の公演は,ゴトーニさんとしては珍しく,古典派から初期ロマン派の作品のみによるプログラムでした。しかも,OEKのほぼフルメンバー(打楽器はティンパニだけでしたが)が登場する曲ばかり3曲ということで,、OEKの定期公演の「一つの典型」といっても良いような構成でした。2曲目のピアノ協奏曲には当然のことながら,ピアノが加わっていましたが,OEKの編成自体は,3曲とも「編成も配置も全く同じ」でした(今回の弦楽器は,下手から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロと並んでいました。)。これは滅多にないことです。

曲の調性についても,プレトークで池辺晋一郎さんが説明されていたとおり,前半のベートーヴェンの2曲がハ短調,後半のシューベルトの交響曲第6番がハ長調という形でコントラストがつけられており,とてもまとまりの良い構成となっていました。

最初の「コリオラン」序曲でゴトーニさんは,2曲目に使う独奏用のピアノを譜面台として指揮をしていました。これは,なかなか面白い光景でした。1曲目と2曲目の間に配置転換のためのインターバルを入れたくない,という意図なのだと思います。

ゴトーニさんが指揮する時はいつもそうなのですが,OEKは非常にくっきりとした,硬質な響きを聞かせてくれました。井上道義さんが「コリオラン」を指揮する時のような「取って食われそうな」熱気とは一味違った,ひんやりとしたほの暗い迫力のある演奏でした。冒頭から低弦の凄みのある音がグイっと効いており,がっしりとまとまった充実のサウンドを楽しませてくれました(余談ですが,この響きで,室内オーケストラ編成によるシベリウスの交響曲などを聞いてみたいものだと思いました。)。

2曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番も同じハ短調で,響きに統一感がありました。序奏部から,キリリと締まったキレの良い音楽と,雄弁でノリの良い音楽がピシッと決まっていました。ここでも強奏の迫力が聞きものでした。

最初,ゴトーニさんは,立って指揮をされていましたが,序奏部が終わると,ピアニストに変身しました。ゴトーニさんは,お客さんに背を向ける形で蓋を外したピアノに向っていました。そのせいもあるのか,ピアノの音の響きがいつものピアノ協奏曲の時とは違っおり(音が少し遠い気がしました),ソリストが目立つ協奏曲というよりは、ピアノ付き交響曲といった趣きがありました。

ゴトーニさんのピアノは,ピアノが入ってくる最初の部分から自然体で,精密さやデリケートさよりは,気持ちの良い流れの良さを感じさせてくれました。むしろOEKの響きの方がニュアンス豊かな感じで,ピアノとオーケストラが一体となって曲を構築しているようでした。

楽章最後のカデンツァには,流麗だけれども華麗過ぎないバランスの良さがありました。このカデンツァは,ベートーヴェン自身が書いたものですが,同じ調性のモーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調のためにもベートーヴェンは,カデンツァを書いているので,どこか通じるトーンを感じました。

第2楽章は,十分な落ち着きを湛えていましたが,重苦しくなることはありませんでした。湿度を持った弦楽器や雄弁な木管楽器との絡み合いなど,室内楽を思わせるようなデリケートさがありました。第3楽章は,OEKもゴトーニさんのピアノも大変明快で,小気味良さがありました。特にティンパニとトランペットが一体となったアタックの音にバシッとした強靭さがありました。途中,木藤さんのクラリネットのソロが出てきましたが,OEKの各奏者の活躍も聞きものでした。この楽章では,カデンツァに入る前に,ぐっとテンポを落とし,大きなクライマックスを作った後,コーダ部分ではスピード感たっぷりに,畳み掛けるような,キレの良い強打の連続で格好良く締めてくれました。

全体として,オーソドックスであると同時に新鮮さを感じさせてくれるような演奏だったと思います。カデンツァを中心に、ゴトーニさんのピアノにも華やかに聞かせる部分はありましたが,オーケストラの歌わせ方とピアノの歌わせ方とが有機的に絡み合っており、「弾き振りらしい」協奏曲演奏となっていました。

アンコールでは,シューベルトの「美しい水車屋の娘」の中の1曲を,ゴトーニさんが,ピアノ独奏用に編曲したものが演奏されました。歌曲版とは一味違った魅力を感じさせてくれる演奏で,もともと大好きだったこの曲がさらに好きになりました。

ゴトーニさんの演奏には,大人の哀感(?)が漂っていました。非常にメランコリックで,一気に演奏に引き込まれました。たっぷりとした脱力感とさらりとした転調の妙が絶品で,メンデルスゾーンの無言歌を聞くようなセンスの良さがありました。この転調によって,ほの暗い気分が,かすかに希望を感じさせるように明るく変わるのですが,その自然な流れの良さは曲のタイトルにもある小川の流れそのものでした。

この日のプログラムは,ベートーヴェン→シューベルト,短調→長調というコンセプトでしたので,この曲自体が,前半と後半をつなぐ絶好のブリッジになっていました。

後半のシューベルトの交響曲第6番は,「ザ・グレート」よりは小さいけれども,「小ハ長調」と呼ぶには,抵抗があるかな,という感じの曲で,「中ハ長調」ぐらいの規模の作品です。生で聞くのは、ラ・フォル・ジュルネ金沢の最初の年のエンディングコンサートで聞いて以来だと思います。編成的にも雰囲気的にもOEKにぴったりの交響曲です。

この曲でも前半同様,しっかりとした充実感のある力強さを感じましたが,随所で音楽がほほ笑むような感じがあるのが,シューベルトの交響曲らしいところです。どの楽章にもまとまりの良さと同時に表情の豊かさがあり,とても楽しむことができました。

第1楽章は,序奏部から堂々とした明快さがあり,とても音がよく鳴っていました。遠藤さんのクラリネットをはじめ,各楽器の積極的な歌も印象的でした。主部に入ると,ハイドンの「軍隊」交響曲とちょっと似た感じになります。可愛らしい感じの響きと,弦楽器のビシっとした響きのメリハリが鮮やかでした。ちょっとした弦楽器の刻みの音の心地よさであるとか,フッとテンポを落として,ふんわりとしたニュアンスを付けたりとか,すっかりゴトーニさんの手の内に入ったような演奏でした。楽章の最後では,ティンパニの引き締まった音を核に,ダイナミックに締めてくれました。

第2楽章は,親しみやすい歌に満ちたシューベルトらしい楽章です。最初の部分は,すっきりとした透明な歌が中心でしたが,途中,力強い響きを鋭く聞かせるなど,どの部分も生き生きとしていました。

第3楽章はベートーヴェンの交響曲第1番の第3楽章を思わせるようなキビキビとしたスケルツォで,OEKらしいレスポンスの良さが光っていました。中間部はのんびりとしたムードになります。飯尾洋一さんがプログラムの解説で,「ベートーヴェンの交響曲第7番の第3楽章のエコー」と書かれていましたが,なるほどと思いました。

第4楽章は,思ったよりゆったりしたテンポで始まりました。その辺がどこかユーモラスで,ぐっと笑いをこらえているような面白さがありました。途中,管楽器が同じ音型を繰り返すあたり,一瞬「ザ・グレート?」と思わせるような部分がありましたが,基本的に可愛らしい感じなのが,この曲らしいところだです。それでも,ニュアンスとテンポの変化をつけながら,繰り返しを続けていくうちに次第にスケールが大きくなり,エンディング部分では,見得を切るようにテンポを落とし,ズシリとした迫力のある音で念を押すように「ズドン」と締めてくれました。

この曲は,一見地味な曲ですが,この日の演奏からは,全曲を通じて,各楽章のキャラクターの違いがしっかり伝わってきました。すっきりとした響きでありながら,豊かさを感じさせてくれるような見事な演奏でした。

これから1週間ほど,金沢(及び能美市)では,ゴトーニさんとOEKによる演奏会が続き,いろいろな曲を聞かせてくれます。この日の演奏からは,ゴトーニさんに対するOEKのメンバーの信頼が非常に厚いことが伝わってきました。そのことは,終演後のステージ上の雰囲気からもよく分かりました。というようなわけで,この1週間は,聞き逃せない演奏会の連続になりそうです。(2012/01/31)

雪のJR金沢駅周辺 写真集

JR金沢駅前のもてなしドームの屋根雪を眺めるのが結構好きなので(変な趣味ですが),上を見上げて,いろいろと写真を撮ってみました。

関連写真集


この日の公演の立看


アンコール曲の表示


午後の公演だと,入口のステンドグラスがきれいですね。


終演後,ラルフ・ゴトーニさんのサイン会が行われました。