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第11回北陸新人登竜門コンサート:弦楽器部門
2012年4月22日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シュニトケ/モーツ-アルト・ア・ラ・ハイドン
2)チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲 op.33
3)ヒンデミット/白鳥を焼く男
4)サン=サーンス/演奏会用小品 op.154

井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),サイモン・ブレンディス*1,江原千絵*1(ヴァイオリン)ユジョン・イ(チェロ)*2,丸山萌音揮(ヴィオラ)*3,山徳理紗(ハープ)*4
Review by 管理人hs  

やわらかい春の雨の中、第11回北陸新人登竜門コンサートを聞いてきました。今年は弦楽器部門で、オーディションに合格者したハープの山徳理紗さんが出演しました。過去,この公演では,最低でも毎回2名の合格者が出演していましたので,異例なことです。

さすがに1人だけでは時間が余ってしまうので,今回は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽メンバーなどもソリストとして登場し、合計4曲が演奏されました。「新人登竜門」というタイトルからは外れる部分もありましたが,プログラム的には「これは良い機会」とばかりに,面白そうな曲,マニアックな曲が並びました。個人的には,以前から,OEKメンバーがソリストとして登場する演奏をもっと聞いてみたいと思っていましたので,大いに楽しむことができました。

最初のシュニトケのモーツ-アルト・ア・ラ・ハイドンは、数年前に定期公演で聞いたことがありますが,今回もまた演劇的な効果満載の井上道義さんらしい,演奏を聞かせてくれました。

演奏前ステージ上は真っ暗な状態でした。かすかに音が聞こえてきた後,一気に音が大きくなり,それと同時に照明がパッと明るくなりました。この曲は弦楽合奏のみで演奏される曲ですが,全員立ったまま,次のようなシンメトリカルな配置を取っていました。

         Cb
        Vc Vc
       Va   Va
     Vn1      Vn2
   Solo Vn1      Solo Vn2


音楽の方は,モーツァルトの曲を基本にしているのですが,いろいろな曲の断片がごちゃごちゃと重なり合い,全然まとまりのない混沌とした雰囲気を出していました。途中,一瞬,モーツァルトの交響曲第40番の冒頭が,はっきり聞こえてくる部分では,ホッと安心しましたが,すぐにまた何が起こるか分からないという感じに戻りました。

途中,OEKのメンバーが勝手に舞台上で動きはじめて真ん中に集まったり,元の位置に戻ったり,井上さんに反抗的な態度を取ったり,「徹底的に指揮者の指示に従わない」バラバラの演奏を楽しませてくれました。

井上さんの指揮自体も。「指揮者が指揮者を演じている」ような指揮ぶりで、随所でお得意の演劇的&バレエ的パフォーマンスを楽しませてくれました(この曲のベースになっている曲は,もともとパントマイム用の曲とのことなので,その意味では井上さんの指揮ぶりは”ぴったり”と言えます。)。。最後は,ハイドンの「告別」交響曲のように,団員が一人ずつ退場していき,チェロとコントラバスだけになったところで,井上さんが指揮台の上にぐたっと倒れ込んで,照明が落とされて,おしまい。となりました。

2曲目には、ユジョン・イさんという韓国出身の若いチェリストがソリストとして登場しました。そういう目で見てしまうせいか,最近,日本の歌番組にもよく登場するようになった,K-Popアイドルを思わせるようなスマートでファッショナブルな雰囲気の方でした。イさんは,昨年の夏,OEKが韓国で演奏会を行ったときにOEKと共演した方で,その時と同じ,チャイコフスキーのロココ変奏曲が演奏されました。

曲は、井上さんとOEKによる憧れに満ちた,たっぷりしっとりとした表情で始まりました(この日は、いつもと違い,かなり前の方の座席で聞いていたので、指揮者の表情がとてもよく見えました)。イさんの演奏は、それに応えるにしては、「ちょっと若いかな」「バリバリ弾きすぎているかな」という感じました。もう少し各変奏のキャラクターを描き分けて欲しい気はしましたが,全曲を通じてしっかりとしたテクニックで,引き締まった筋肉質の演奏を聞かせてくれました。

井上さんは、演奏後の「時間つなぎ」のトークの中で(この日は,曲ごとにOEKの配置がガラリと変わる,ステージマネージャー&裏方大活躍の日でした)、「将来,韓国でOEKの定期演奏会を行いたい」といったことをおっしゃられていました。実現すると面白いなと思いました。

後半は、まずOEKのヴィオラ奏者の丸山萌音揮さんがソリストとして登場し、ヒンデミットの「白鳥を焼く男」を演奏されました。あまりなじみのない曲ですが、実演で聞くと大変面白い曲で,この日の公演の白眉と言ってよい立派な演奏を楽しませてくれました。

この曲もまた,次のとおり相当変わった編成でした。ヴァイオリンとヴィオラが入らず,弦楽器はチェロとコントラバスだけという編成は他にはない気がします。どちらかというと吹奏楽+ヴィオラといった感じの編成でした。

      Cl Fg
      Fl Ob  Timp
     Vc    Hrn Tb
    Cb  Solo    Tp
       Viola 

この曲は,中世ヨーロッパを放浪する楽人を描いた曲です。ひたむきさを感じさせる丸山さんの演奏姿は,そのキャラクターにしっかりと重なっていました。この日のお客さんは,その演奏姿を見て,丸山さんを応援しながら聞いていたのではないかと思います。ヴィオラといえば、「地味」という印象があるのですが、丸山さんの音は、冒頭のファンファーレ風のフレーズから,とても朗々と明るく響き、聞きごたえがありました。文字通り「主役」でした。非常に聞かせる堂々たる演奏でした。

ヴィオラ以外の楽器の使い方も面白いものでした。トロンボーンとハープが組み合わさって面白いサウンドを出していたり,第2楽章では,ビオラとハープの組み合わせで,哀愁を感じさせる演奏を聞かせてくれたり,退屈する暇がありませんでした。演奏会前,予習でこの曲を聞いておいた,実演で聞く方がずっと楽しめる作品だと思いました。

演奏後、井上さんをはじめ、OEKメンバーはとても嬉しそうな表情をされていました。「23歳」というOEK中最年少(恐らく)のメンバーのひたむきな演奏を聞いて,多くのメンバーは触発されたのではないかと思います。「あっぱれ」というシールを貼ってあげてくなるような、熱の入った演奏でした。会場もとても良い雰囲気になりました。

井上さんは、演奏後のトークで,丸山さんについてさらにフォローをされていましたが、その個性的な髪型やお名前に加え、今回の見事な独奏によって、金沢の聴衆の間で、一気に存在感を増したのではないかと思います。「金沢的スター誕生!」といった演奏でした。OEK団員でキャラが立っている方といえば、何といっても(?)チェロの大澤さんだと思いますが、何かの機会があれば、このお二人でリヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」などを聞かせて欲しいものです。

さて、最後になりましたが,演奏会のトリで,この日の主役の山徳理紗さんが登場しました。今回は、サン=サーンスの演奏会用小品という曲が演奏されました。とても気持ちの良い小協奏曲で、山徳さんのハープの音が宝石のようにキラキラと繊細に輝いていました。

サン=サーンスの最晩年の作品ということですが(1919年に作曲された曲ですが,第1次世界大戦の頃までサン=サーンスが生きていたというのは驚きです)、瑞々しさたっぷりの曲であり演奏でした。その中にどこか,なまめかしいところもあり,バランス良く魅力が詰め込まれた作品だと思いました。山徳さんは,鮮やかな水色のドレスで演奏されていましたが,その雰囲気にもぴったりでした。会場を幸せな気分につつんでくれました。

終演後、登場したソリスト3人がステージに再登場したのですが、拍手をボーっと受けているだけで、井上さんに促されるまで、「ごあいさつ」をしなかったのが、なかなか初々しい光景かったですね。きっと皆さん夢見心地だったのでしょう。このように例年とはかなり違った構成の登竜門コンサートになりましたが、特に丸山さんの頑張りもあり、大変、良い雰囲気の演奏会になりました。
(2012/04/27)

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