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小松シティ・フィルハーモニック 第7回サマーコンサート
2012年6月24日(日) 14:00〜 第一地区コミュニティセンター(石川県小松市白江町)
1)メンデルスゾーン/劇付随音楽「夏の夜の夢」op.61〜結婚行進曲

木管五重奏
2)高昌師/「茶摘み」の主題によるディヴェルティメント
3)木村弓(丸山和範編曲)/映画「千と千尋の神隠し」〜「いつも何度でも」

コントラバス四重奏
4)ベートーヴェン(hshinshi編曲)/Rock'n Roll No.9
5)中村八大(hshinshi編曲)/上を向いて歩こう

6)アルビノーニ/2本のオーボエのための協奏曲ヘ長調op.9の3〜第1楽章
7)指揮者体験コーナー(結婚行進曲)
8)すぎやまこういち/交響組曲「ドラゴンクエストVそして伝説へ…」から
9)(アンコール)虹の彼方に
●演奏
野村幸夫指揮小松シティ・フィルハーモニック*1,6,8,9
森田恵子(フルート*2,3),岩本幸恵(オーボエ*2,3,6),長谷川千夏(クラリネット*2,3),及能敬勝(ホルン*2,3),西村彩子(ファゴット*2,3),表貴之,重松幸恵,三宅克典,山岸可奈(コントラバス*4,5),宮下正巳(オーボエ*6)
Review by 管理人hs  

前日の金沢大学フィルに続き,石川県内のアマチュア・オーケストラの演奏会を聞いてきました。この日は,ほぼ同じ時間帯に,金沢市民芸術村では,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる「ふだん着ティータイムコンサート」が,石川県立音楽堂では,若手ピアニスト,ニュウ・ニュウ(牛牛)のリサイタルが行われるなど,いろいろと選択肢はあったのですが,「久しぶりに聞いてみよう」と思い立ち,小松市で行われた小松シティ・フィルハーモニックのサマーコンサートを聞きに行くことにしました。

毎年2月下旬に行われている小松シティ・フィルハーモニックの定期公演にも行きたいと思っているのですが,このところ毎年,OEKと石川県学生オーケストラの合同演奏会と公演日が重なってしまっているため,ず〜っと行けずに残念に思っていました。その代わりというわけでもないのですが,今回は,テレビゲーム「ドラゴンクエスト」の音楽が一気に演奏されるということもあり,金沢から小松まで1時間ほどドライブをして聞きに行くことにしました。

演奏会場は,小松市の第一地区コミュニティーセンターという大きめの公民館といった施設でした。オーケストラの皆さんはここで毎週練習されているようで,このサマーコンサートについては,地域の皆さんへの感謝を込めての演奏会という意味もあったようです。

まず,メンデルスゾーンの結婚行進曲が演奏されました。今年はオーケストラの皆さんは「結婚ラッシュ」だそうで,そのことと「6月=ジューンブライド」を掛けて,最初の曲として,華やかに演奏されました。この曲の最後の部分で,ヴァイオリンの女性がお客さんの方に背を向けて,小さなブーケを投げていましたが,このブーケを受けた人が「次に結婚するかも」とのことです。

この日の演奏会は,このような形で,随所で小道具を使ったり,楽しいトークが入ったり,日曜日の午後に親子で気楽に音楽を楽しむ雰囲気がいっぱいでした。次の室内楽のコーナーもトーク満載で,司会の方と奏者とのリラックスしたやり取りが大変楽しいものでした。聞いているうちに,各楽器とメンバーへの親しみが増してきました。

木管五重奏のステージで最初に演奏されたのが,「茶摘み」によるディヴェルティメントという曲でした。これが面白い曲で,ベートーヴェンの「運命」のような感じで,茶摘みのモチーフ(?)が何回も何回も繰り返されていました。「いつも何度でも」では,各楽器のソロが次々登場して,メンバーの皆さんの見事な個人技を楽しむことができました。

続いては,コントラバス四重奏のステージでした。この編成で聞くのは初めてのことですが,コントラバスの意外なまでの表現力の豊かさを楽しめました。最初の「Rock'n Roll No.9」は,ベートーヴェンの第9に出てくる色々なメロディ(第4楽章だけでなく,第1楽章なども使っていました)をロックのリズムに乗せてつなげた面白い曲でした。コントラバスの胴体を叩いたり(ピアソラ風?),ちょっと不器用に高音で歌ったり,コントラバスの多面性を伝えてくれました。

「上を向いて歩こう」は,もともとスウィングするリズムの曲ですので,考えてみると,コントラバスで演奏するのにぴったりです。途中から,”盛り上げ隊”2名が会場内を回って,手拍子が増えてきましたが,会場全体が穏やかに盛り上がっている感じが何ともいえず暖かでした。

前半最後は,毎年,団員による協奏曲コーナーとのことです。今年は,アルビノーニの2本のオーボエのための協奏曲が演奏されました。比較的地味目の曲でしたが,オーボエ2本の絡み合いがとてもアットホームで,楽しげな音による対話をリラックスして楽しむことができました。

後半の最初は,指揮者体験コーナーで,前半最初に演奏された結婚行進曲が4人の子供たちの指揮によって次々と演奏されました。テンポが重〜くなってしまうというのが微笑ましかったのですが,後の人ほど,指揮に慣れてきたのか,「いい感じ」のテンポになってきたようです(ちなみに,ほぼ同じ時間帯,金沢の「OEKメンバーによるふだん着ティータイムコンサート」でも指揮者コーナーをやっていたはずです。)

ここで,司会が交代になったのですが,ここまで出てきたすべての方がトークが面白く,すっかり感心してしまいました。特に前半から指揮者コーナーまで司会をされていた女性は,声が落ち着いていて聞きやすい上,相手からとても良いコメントを引き出しており,このコンサートの雰囲気にぴったりだと思いました。

その後,この日のメインの,すぎやまこういち作曲の「ドラゴンクエストV」の音楽から10曲演奏されました。実は,私自身,このゲームを全くやったことはないのですが,さすがにテーマ曲ぐらいは聞いたことがあります。テレビ・ゲームの音楽ということで,通常はテレビのスピーカーから音楽が流れてくるのですが,今回は,作曲者のすぎやまさん自身が,オーケストラ用に編曲した交響組曲版で演奏されました。オーケストラのメンバーにこの曲の熱烈なファンがいたこともあり,今回,選曲されたとのことですが,演奏前,司会の方がお客さんに尋ねたところ,かなり多くの方が「聞いたことある」「やったことある」と挙手していましたので,選曲は「当たった」のではないかと思います。

すぎやまさんの音楽は,全体にとても前向きで,健全な感じがするので,聞いていて気持ち良さを感じました。ゲームをやったことのない私でもイメージを広げることができましたが,これは曲の合間に曲についての説明があったからです。後半の司会の方も「ゲームをやったことがない」とのことでしたが,そうとは思えないぐらい具体的で分かりやすい解説でした。ちなみに演奏されたのは次の10曲でした。
  1. ロトのテーマ
  2. 王宮のロンド
  3. 世界をまわる(街〜ジパング〜ピラミッド〜村
  4. 冒険の旅
  5. ダンジョン〜塔〜幽霊船
  6. 鎮魂歌〜ほこら
  7. 海をこえて
  8. おおぞらをとぶ
  9. 戦闘のテーマ〜アレフガルドにて〜勇者の挑戦
  10. そして伝説へ
指揮者の野村さんが登場した時,「やけに高く指揮棒を上げるな」と思って,よ〜く見てみると指揮棒ではなく,「ドラクエ」仕様の剣でした。野村さんも,わざとらしくそれに気付き,「お,間違えた」と呟いて,もう一度,袖から出直していました。こういうのは良いですねぇ。私も一度でいいからやってみたいものです。ハヤタ隊員がウルトラマンに変身しようとする時にする時に,間違ってスプーンを上に持ち上げる「古典的なギャグ」などを思い出してしまいました。

曲は「場所を巡る曲」とか「乗り物関係の曲」とかいくつかのカテゴリーに分けて演奏されました。エネルギーに満ちた曲,優雅なワルツ,「白鳥の湖」を思わせるようなオーボエが活躍する曲などとても変化に富んでいました。最後の2曲では「朝からやっているのでバテバテです」とおっしゃられていましたが(トランペットとかパーカッションとかが特に大変そうでした。),それが,自然な悲壮感(?)となっており,音楽の迫力を増していました。最後の最後の部分などは,「ゲームをクリアした!」という爽やかな達成感を感じました(こうやって書いているうちに,もう一度聞きたくなってきました。)。

ただし,後半はトークを入れると1時間以上かかっていましたので,少々疲れました。特にゲームをやったことのない人には,やや長かったかもしれません。今回の会場は,一言でいうと「普通の集会室」だったので,楽器の音がダイレクトに聞こえ過ぎて,疲れたという面もありました。

それにしても小松シティ・フィルハーモニックの皆さんの演奏のレベルは高いと思いました。いつも石川県立音楽堂のコンサートホールで聞いている響きとかなり違うので単純な比較はできないのですが,どのパートも安心して楽しむことができました。

最後に映画「オズの魔法使い」のテーマの「虹の彼方に」がアンコールで演奏されて,お開きとなりました。今回の演奏会では,「ブーケ・トス」「剣の指揮棒」以外にも,よく見るといろいろなところに「小ネタ」が仕込まれていました。プログラムの解説もとても面白く,このオーケストラのアットホームな雰囲気の良さがしっかりと伝わってきました。小松シティ・フィルハーモニックの来年の定期演奏会は,2月3日(日)(「ローマの松」(聞いてみたい)ほか)と予告されていましたが,これにも是非出かけてみたいと思います。
(2012/06/27)





関連写真集


会場入り口にあったチラシ


会場の雰囲気。敬老会の余興などをやりそうな場所でした。


休憩時間に撮影


指揮者体験コーナー


会場前のホワイトボードにも「ドラクエ」の剣が飾られていました。


会場外観


入口

玄関


玄関ホールのポスターコーナー


回りは田んぼばかり。ベートーヴェンの「田園」を聞きたくなりそう?