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オーケストラ・アンサンブル金沢 夏休みコンサート:朝日親子サマースペシャル
2012年8月19日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ヘンデル/「水上の音楽」〜ア・ラ・ホーン・パイプ
2)ハイドン/交響曲第104番ニ長調「ロンドン」
3)青島広志編曲/「唱歌の12ケ月」から
4)ベートーヴェン/交響曲第1番ハ長調,op.21〜第1,4楽章
5)チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」〜花のワルツ
6)八木澤教司(山本瓔子作詞)/あすという日が
7)杉本竜一(作詞・作曲)/ビリーヴ
●演奏
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢;石川県ジュニアオーケストラ*4-7
OEKエンジェルコーラス*3,6-7
司会:金子美奈
Review by 管理人hs  

夏休み真っ盛りの日曜の午後,オーケストラ・アンサンブル金沢と地元の子どもたちが共演する,恒例の「夏休みコンサート」を聞いてきました。この日は,この公演以外にも,いしかわミュージックアカデミーのライジング・スター・コンサートや金沢歌劇座での金沢ジュニア・オペラ・スクールの公演も同時間帯にあり,「どれに行こうか?」と迷った方もあったと思いますが,私は,「久しぶりにオーケストラの音を聞きたい」と思い,この演奏会に行くことにしました。

前半はヘンデルの「水上の音楽」の中の,ア・ラ・ホーン・パイプとハイドンの交響曲第104番「ロンドン」が演奏されました。どちらもロンドンにちなんだ曲で,今年の夏に相応しい選曲となっていました。

最初に演奏された「水上の音楽」は,イギリス王のためにテムズ川で演奏された曲ですが,この日の演奏にも幸福感に満ちた上品さがありました。マイルドに溶け合った音が気持ち良く響いていました。

「ロンドン」交響曲の方は,子供たちから寄せられたロンドン五輪にちなんだ絵をスライドで流しながら演奏する,「ロンドン五輪の思い出」という趣向でした。こういう試みは初めてだと思いますが,「名曲アルバム」的な雰囲気になり,なかなか新鮮でした。ただし,投影された絵の中に,今回,日本で最初の金メダリストになった金沢出身の松本薫選手を描いたものがなかったのが残念(というか不思議)でした。その他,個人的には女子卓球,女子バレー辺りの絵も入れて欲しかったところですが,大会終盤だったので,この辺は間に合わなかったのかもしれません。

全編を映像付きにすると演奏に集中できなくなる面もあるので,今回は,第2楽章と第3楽章だけで映像を流していました。第2楽章は,もともと静かな落ち着きのある楽章です。そこに映像が加わると,オリンピックが行われていたのは,ほんの少し前のことにも関わらず,ノスタルジック気分たっぷりになりました。その他,子どもの絵だけでは時間が持たなかったのか,ロンドン市内の名所の写真のスライドもかなり使われていました。映像の力もあり第3楽章のメヌエットなどは特に王室風の優雅さが感じられました。

今回は絵をスライドで流していましたが,作品を沢山集めるにはデジカメで撮影した画像を使う方が効果的だと思います。思いつきですが,「この夏の思い出」の写真を公募して,OEKの演奏と一緒に流すというのも考えられるかもしれません。

第1楽章と第4楽章は,映像なしで,そのまま普通に演奏していました。さすがOEKという演奏でした。力んだところが全くなく,すべての音がバランス良く,円満に聞こえてきました。鈴木織衛さんとOEKのつながりも長くなってきましたが,どの曲を指揮されても,曲がとても格好良くまとまるのが素晴らしいと思います。今年の12月に行われる,鈴木さん指揮OEKによる,バレエ「白鳥の湖」の全曲公演にも期待したいと思います。

後半はジョイントコンサートとなりました。最初のOEKエンジェルコーラスとの共演では,青島広志さん編曲による「唱歌の12か月」の中から9曲が演奏されました。お馴染みの唱歌を青島さんが編曲して,季節順に並べた合唱組曲なのですが,各曲に「序曲」「ワルツ」「コントルダンス」といった音楽的なタイトルが付けられているなど,青島さんならではのセンスの工夫がされていました。

OEKエンジェルコーラスの歌からも「聞くのも楽しいけれども,歌うともっと楽しい」といった気分が伝わってきました。私のお隣に座っていたお子さんなどは,何曲か,ついつい声に出してしまっていました(通常ならばマナー違反ですが,今回の演奏会の場合は,「あり」だと思います。)。楽器編成は弦楽合奏+ピアノ+児童合唱ということで,OEKとOEKエンジェルコーラスのジョイントのために編曲されたようなバランスの良さがありました。オーケストラと合唱とが,しっくりと馴染んでいました。弦楽器の中から時々聞こえてくる,ピアノの音もとても効果的でした。この曲は,OEKエンジェルコーラスの「持ち歌」になりそうですね。

ジュニアオーケストラとのジョイントの方は,少々意外な選曲でしたが,ベートーヴェンの交響曲第1番の中の第1楽章と第4楽章が演奏されました。恐らく,ジュニアオーケストラの定期演奏会などで取り上げる予定の曲だと思います。ほとんどのパートで,OEKメンバーの方がトップ奏者になっていたこともあり,非常に立派な響きのするベートーヴェンになっていました。第1楽章の冒頭から,大河の始まりを思わせる聞きごたえがありました。交響曲第1番からベートーヴェンらしさは全開なんだということを再認識させてくれるような演奏でした。非常に大きな編成によるベートーヴェンということで,今は亡き「朝比奈隆さんのベートーヴェン(実演では聞いたことはないのですが)」を思わせるような恰幅の良さがありました。

次のチャイコフスキーの「花のワルツ」は,ジュニア・オーケストラ自身,過去何回か演奏している曲だと思います。これも大変流れのよい,グイグイ前に進んで行く演奏になっていました。ただし,この曲でも,最初の方に出てくるハープのカデンツァをはじめ,難しいパートは,OEKメンバーの方が担当していました。個人的には...なぜかトライアングル担当の少年に注目してしまいました。一生懸命に身体全体で拍数を数えながら,演奏している姿がほほ笑ましく,楽器演奏の原点だなぁと思いながら聞いていました。

最後は全員揃って「あすという日が」と「ビリーブ」が演奏されてお開きとなりました。「あすという日が」の方は,聞いているうちに「夏川さんと秋川さん」が二人で昨年年末の紅白歌合戦で歌っていた曲だと思い出しました。今回,比較的前の方で聞いたこともあり,歌詞がしっかりと聞きとれたのが良かったと思いました。

「ビリーヴ」の方は,「皆さんご一緒に」ということだったのですが...残念ながら一緒に歌えませんでした。元気が出てくる歌詞でしたが,「ご一緒に」ということならば,もう少し認知度の高い曲で締めてもらった方が良い気がしました。

最後は,鈴木さん,OEKメンバーをはじめとした出演者全員で客席に向かって手を振って終演となりました。特に指揮者の鈴木さんの笑顔を見ていると,こちらも嬉しくなります。この終わり方は,とても良いと思いました。北陸朝日放送の金子美奈アナウンサーの司会もとても落ち着いたもので,好感を持ちました。「夏休みコンサート」もしっかり定着してきたなと,実感できた演奏会でした。
(2012/08/20)














関連写真集


公演のポスター


この日の公演の案内。夏休みコンサート以外に,地下ではライジング・コンサートをやっていました。


丁度,休憩中でした。


ライジング・コンサートのポスター。注目の若手アーティスト勢ぞろいです。



↓音楽堂のエントランスにはスライドで投影されていた絵が展示されていました。