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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタービレ・スペシャル[第33回]
IMAチェンバーコンサート
2012年8月21日(火) 19:00開演 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)シューベルト/ピアノ五重奏曲 イ長調 D.667「ます」
2)メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op.20
●演奏
神尾真由子*1,レジス・パスキエ*2,ホァン・モンラ*2,クシシトフ・ヴェグジン*2,江原千絵*2(ヴァイオリン),原田幸一郎,丸山萌音揮*2(ヴィオラ),毛利伯郎*1,ジャン・ワン*2,工藤すみれ*2(チェロ),文屋充徳(コントラバス*1),チュンモ・カン(ピアノ*1)
プレトーク:原田幸一郎,江原千絵

Review by 管理人hs  

毎年8月に石川県立音楽堂を中心に行われている,いしかわミュージックアカデミー(IMA)も回を重ねて,今年で15回目となります。数年前からはIMA講師陣とOEKメンバーとが共演する「もっとカンタービレ」シリーズも恒例となっています。今年のこの公演でも,15周年に相応しい白熱の演奏を聞かせてくれました。

今回は,入場者数の多さを見越して,いつもの交流ホールではなく,石川県立音楽堂の邦楽ホールで行われました(ただし,満席にはなっていませんでした)。このホールは,残響が少なく,弦楽器奏者にとっては,不利なホールですが,今回演奏された2曲とも聞きごたえ十分でした。

最初のシューベルトの「ます」には,IMAと同時期に石川県立音楽堂で講習会を行っている文屋充徳さんも参加していました。曲の冒頭から軽い流動感と安定感とが共存した演奏になっていました。特に第1ヴァイオリンの神尾真由子さんの,凛としていながらも,かなり濃厚な表情を持った演奏が魅力的でした。ただし,神尾さんだけが目立つのではなく,主役が入れ替わり立ち替わり登場するような面白さがありました。主張し合っているけれども,しっかりとした対話になっているまとまりの良さがありました。全体のベースを支える,ヴィオラ,チェロ,コントラバスの安心感に加え,チュンモ・カンさんのクリアで粒立ちの良いピアノの音も素晴らしく,シューベルトの音楽に相応しい流れの良さを作っていました。

第2楽章のような緩徐楽章での,静かな対話にも味わいがありました。端正なピアノの音を中心に無駄な力が入っておらず,リラックスしているのですが,その中に音をしっかりと合わせようとする軽い緊張感が漂い,ライブならではの緊迫感がありました。

第3楽章はキリっとキレ良く始まり,中間部の味のある対話の部分と鮮やかなコントラストを作っていました。第4楽章のおなじみの変奏曲も軽妙な感じで,穏やかに始まりました。珠を転がすようなカンさんのピアノがここでも魅力的で,その上に,各楽器が自然に出入りをしていました。

最終楽章も速目のテンポでくっきりと流れ良く演奏されました。ここでは,各楽器の一体感が素晴らしく,「IMA限定」の一期一会的な熱さと共に,凛とした雰囲気で締めてくれました。

後半はIMA講師陣にOEKの江原さんと丸山さんが加わり,メンデルスゾーンの八重奏曲が演奏されました。この曲は,室内楽のカテゴリーを越えたスケールの大きさがあり,個人的に大好きな曲です。今回の演奏も大変楽しめる内容でした。丁度,弦楽四重奏を2倍にした編成なのですが,これだけのメンバーが揃うと,室内楽というよりは弦楽合奏といっても良いような豪華さがありました。

演奏では,第1ヴァイオリンのレジス・パスキエさんの年齢に似合わぬ(?),若々しく,ちょっとやんちゃな感じのする演奏が大変個性的でした。パスキエさんの演奏は結構気まぐれでしたので,「初々しいロマンの香が立ち上る」という風情はなかったのですが,非常にスリリングな演奏になっていました。第1楽章の冒頭から,このパスキエさんを中心に,前のめりにテンポを上げていくようなところがあり,曲が進むにつれて白熱していきました。パスキエさんに対抗するように,時々浮き上がってくる,ジャン・ワンさんのチェロの高貴な音も印象的でした。

第2楽章は,まず,低弦の上質な音が魅力的でした。いろいろな声部のデリケートな絡み合いが次第に陶酔的な気分に変わって行くような大人の演奏でした。第3楽章は,メンデルスゾーンらしいスケルツォ楽章で,ソリスト集団らしく,キレの良い名人芸を鮮やかに楽しませてくれました。

第4楽章の最初の部分は,チェロ,ヴィオラ,ヴァイオリン...と低音から順に急速なフレーズを演奏していきます。この日の楽器の配列は,丁度その順に配列していました(次の順でした)。

パスキエ←モンラ←ヴェグジン←江原←原田←丸山←ワン←工藤

きっと,この部分の視覚的な効果を意識していたのではないかと思います。遠くから見ていると,上手側から順に伝言ゲームをしているような楽しさを感じました。この楽章も各奏者の白熱した演奏の迫力が聞きものでした。

この曲は,優雅に演奏しても良い曲ですが,今回の「熱い・速い・すごい」という感じの演奏を聞いて,「さすが」と思いました。今年のIMAは,15周年ということで,例年以上にイベントが多いので,これから週末に掛けて,あれこれ参加してみようと思います。

PS ちなみにこの日,奏者の皆さんは,全員「IMA15周記念Tシャツ」着用で演奏されていました。さすがに黄色ではありませんでしたが,夏休み終盤恒例の24時間テレビのようで(?),結構新鮮でした。特にいつも華やかなドレス姿の神尾さんのTシャツ姿は滅多に見られないのではないかと思います。
(2012/08/25)


関連写真集


IMAの立看板


公演のポスター


交流ホールは,レッスン仕様になっていました。