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第4回井上道義による指揮者講習会,優秀者によるリレーコンサート:ミッキーの未来の指揮者たち
2012年8月28日(火) 18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ボッテジーニ/カプリッチョ・ディ・ブラヴーラ
2)ブラームス/交響曲第1番ハ短調op.68〜第1楽章
3)ブラームス/交響曲第1番ハ短調op.68〜第4楽章
4)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第1番
5)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第6番
6)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番
7)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第10番
8)ベートーヴェン/交響曲第6番へ長調 op.68「田園」〜第1楽章
9)ベートーヴェン/交響曲第6番へ長調 op.68「田園」〜第3,4楽章
10)ストラヴィンスキー/弦楽のための協奏曲ニ長調「バーゼル協奏曲」
●演奏
井上道義*1, 平石章人*8, 堀大輔*9, 平川範幸*10指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
泉翔士*2, 鈴木賢治*3, 吉田拓人*4, 宮川健太郎*5, 長谷川ゆき*6, 出口大地*7指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
原田遼太郎(コントラバス*1)

Review by 管理人hs  

今回で4回目となる,井上道義による指揮者講習会の優秀者によるリレーコンサートを聞いてきました。この公演は,8月25日〜28日まで石川県立音楽堂で行われた指揮講習会の優秀者による演奏会で,音楽堂のコンサートホールを舞台に9人の優秀者がオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と金沢大学フィルを指揮しました。

演奏された曲は,金大フィルの方がブラームスの交響曲第1番とドヴォルザークのスラヴ舞曲,OEKの方がベートーヴェンの田園とストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲でした。前半に大編成の曲が並び後半に行くほど編成が小さくなっていくあたりにOEKを使った指揮者講習会らしいところがあります。

この講習会は,井上道義さん以外にも広上淳一さんも講師として参加されています。広上さんは,東京音楽大学で指揮の先生をされていますが(今年,NHKの特別番組で何回か取り上げられましたね。非常に面白い番組でした。),マエストロ2人体制による講習会というのは,珍しいのではないかと思います。OEKの公式ツイッター等によると,お2人の間で意見が分かれたり,お2人がボケとツッコミに分かれたり,「指揮者」という,独特の存在に対して,多面的な見方を提示するような講習会だったのではないかと思います(全受講者に対して,共通する正解というのははないのかもしれません)。

このリレーコンサートでは,21名(プログラムには22名となっていました)の受講者の中から9人の方が登場しました。厳しい講習を受けた後の晴れ舞台ということで,どの指揮者からも前向きのエネルギーを感じましたが,どちらかというと後半のOEKを指揮された方々の方が指揮者らしいな,という印象を持ちました。

以下,各曲の演奏についての私の感想です。

■ブラームス/交響曲第1番〜第1楽章
トップバッターということで,オーケストラ,指揮者ともども,「様子を見ながら」という感じがありました。ただし,今年1月の金大フィルの定期演奏会でも演奏された曲ということもあり,オーケストラの音は充実していたと思います。

# 奏者の中に元OEKのフルート奏者の上石さんが混じっていました。

■ブラームス/交響曲第1番〜第4楽章
こちらも音自体は充実していたと思うのですが,やはり音の燃焼度がやや低い気がしました。指揮の動作自体,やや不自然な印象を受けました。

学生オーケストラについては,やはり,プロのオーケストラを指揮するのとは違った難しさがあると感じました。短期間の中でその指揮者らしさを強く打ち出すのは,プロの指揮者でも難しいことなのではないかと思います。

■ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第1番
スラヴ舞曲の方は,各曲の演奏時間が短く,かっちりと曲がまとまっている上,オーケストラのエンジンもしっかり掛っている感じで,どの曲もよくまとまっていたと思います(この4曲は6月のサマーコンサートで演奏された曲ばかりでした)。

第1番については,淡泊な感じの指揮ぶりでしたが,とても鮮やかな音が出ていました。

■ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第6番
穏やかな曲でしたが,リズムが明確で,民族舞曲風の楽しさが出ていたと思いました。

■ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番
とても流れの良い演奏で,オーストラをうまく乗せているなと思いました。

■ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第10番
指揮の動作が素晴らしく,オーケストラがしっかりコントロールされていると思いました。

■ベートーヴェン/交響曲第6番〜第1楽章
演奏後のインタビューでは,「指揮を始めて3カ月」ということでしたが,そうとは思えない,明快な指揮ぶりでした。指揮の前後の動作も含め,音楽に集中させてくれるような指揮ぶりだったと思います。

音楽自体に安定感と流れの良さがあり素晴らしかったのですが,これは,やはりOEKならではかもしれません。オーケストラの音圧的にも大編成の金大フィルに劣るところがなかったのが,「さすが」と思いました。

■ベートーヴェン/交響曲第6番〜第3,4楽章
プロフィールを読むと,広上さんのお弟子さんということで,指揮ぶりからしてこなれており,その意欲が音楽になって表れていました。

演奏後,各楽器の奏者を立たせて演奏を讃えていましたが,演奏後の広上さんからのコメントでは,「10年早い」とチクリと言われていました。

■ストラヴィンスキー/弦楽のための協奏曲
恐らく,今回の課題曲の中ではいちばん指揮するのが難しい曲だと思いますが,やりたいことがしっかり伝わってくる明快な指揮だったと思いました。演奏前に井上道義さんが,「この曲の途中に出てくる,ちょっと色っぽい主題が出てきます。これを覚えておくと楽しめます」ということでこの部分を指揮されたのですが,そのしなやかな感じに比べると,ちょっと真面目という印象でしたが,トリに相応しく,気持ち良く楽しませてくれました。



演奏会は,全員の指揮が終わった後,井上さんから講習会優秀者に「あかし」が手渡されて,お開きとなりました。

常連の方がいる一方で,指揮を始めて3カ月の方がが見事にOEKを指揮されたり(非常にスジの良い方だと思いました),年齢制限を越えた方が熱い指揮をされたり,ちょっとまだ堅いかなという雰囲気の方があったり,指揮姿とプログラムのプロフィールを読み比べながら,それぞれの方の人生のドラマを勝手に想像してしまいました。指揮されているそれぞれの方は,大変な緊張感の中で指揮をされていたと思いますが,観客側としては,ミュージカル『コーラスライン』などのバックステージもののを見るような,いつものコンサートとは一味違った感覚で公演を楽しむことができました。

今回,聞いて思ったのは,暑い中,協力して頂いた金大フィルの皆さんには悪いのですが,OEKの偉大さです。前半の金大フィルの演奏も,井上道義さんの予告どおりとても良かったのですが,後半のOEKの演奏は,金大フィルの人数が半分以下なのに,迫力は全く劣りませんでした。

上述のとおり,一般的に馴染みの薄い,ストラヴィンスキーの曲では,井上さん自らが「ここが聞きどころです」と一度指揮してみせてくれるなど,この講習会を盛り上げようという井上さんの強い意欲も伝わってきました。指揮者の世界は本当に厳しい世界なので,今回の受講生の中からどれだけプロのオーケストラの指揮者が出てくるかは未知数ですが,21名の皆さんの,爽やかな奮闘ぶりを実感できた,良い演奏会だったと思います。是非,来年にも期待したいと思います。

PS. 指揮講習会の優秀者の演奏に加えて,同時期に音楽堂で行われていた文屋充徳さんによるコントラバス講習会の優秀者も登場し,リレーコンサートに先だって,井上道義指揮OEKと共演しました。予定になかった演奏だったのですが,この「臨機応変」というのが,OEKや音楽堂の素晴らしいところですね。 (2012/08/30)


関連写真集


この日の講習会の予定


指揮講習会のポスター



リレーコンサートの演奏順。直前に発表になったようです。