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music@rt 井上道義&オーケストラアンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ
Flute & Beyond
2012年8月30日 金沢21世紀美術館内交流ゾーン 14:00〜 / 15:30〜
1)ドビュッシー/パンの笛
2)木埜下大祐/ドビュッシアーナ(2012)
3)クラーク/ズーム・チューブ(1999)
4)ショッカー/ウィンター・ジャスミン(2011)
5)パガニーニ(チョイ編曲)/カプリース第24番
6)クーラウ/フルート・ソナタ ト長調op.69〜第3楽章
7)モンティ(チョイ編曲)/チャルダーシュ
8)(アンコール)リムスキー=コルサコフ(チョイ編曲)/熊蜂の飛行
●演奏
ジャスミン・チョイ(フルート),田島睦子(キーボード*4,6,7)
ナビゲータ:井上道義

Review by 管理人hs  

この日は,「夏休み」で1日仕事はお休みでした。金沢では,久しぶりに雨が降りましたが,その分,蒸し暑くなり,午後からぐったりとしていたのですが,金沢21世紀美術館で「井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢21世紀美術館シリーズ」が行われることを思い出し,出かけることにしました。

このシリーズには「オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)」という言葉が入っているのですが,毎回,メンバーが出演するわけではなく,今回も井上道義さんがナビゲーター役として登場しているだけでした。今回は韓国のフルート奏者で,今シーズンからウィーン交響楽団の首席フルート奏者になる若手フルーティスト,ジャスミン・チョイさんが登場しました。

ジャスミンさんは,K-POPの女性アイドルを思わせるようなファッショナブルな雰囲気の方で,全身からアートの雰囲気を発散していました。非常に間近で聞いたこともあり,技巧の確かさと音色の豊かさをしっかり実感できました。瑞々しさと同時に華麗さがありました。

ジャスミンさんは,まず,ドビュッシーのシランクスを吹きながら登場しました。音量が豊かで,美術館の中の空気が入れ替わったような鮮やかさがありました。

40分ほどのミニ公演の前半は,現代曲を中心に演奏されました。私が聞いたのは2回目の公演だったのですが,ナビゲータ役の井上道義さんによると「1回目とは違う順にシャッフルしました」とのことです。

最初に金沢出身のフルート奏者で作曲家の木埜下大佑によるドビュッシアーナが演奏されました(今回が初演?)。「牧神の午後への前奏曲」をテーマにした,ドビュッシーへのオマージュ的な作品でした。独特の雰囲気のある静かな曲で,特殊奏法をいろいろ使っていましたが,この「牧神の午後」については,素直に気だるい午後の雰囲気に浸りたいかな,という気もしました。

次のズーム・チューブはさらに前衛的な作品で,フルートという楽器の限界に挑むような技の連続でした。ジャスミンさんが得意にしている作品,恐らくジャスミンさんでないと演奏できないようなジャスミンさんならでは作品だと思います。特に「歌いながら,体を動かしながら吹く」というの凄かったですね。息が漏れる感じもあったので,尺八的な音にも聞こえました。これは本当に迫力のある演奏でした。

次のショッカーの作品もジャスミンさんの「名刺がわり」の作品で,その名も「ウィンター・ジャスミン」と言います。こちらの方は,センチメンタルな感じがするくらい穏やかな曲で,久しぶりに振った雨の雰囲気によく合っていました。

パガニーニのカプリース第24番は,ヴァイオリン独奏でお馴染みの曲です。まず,鮮やかな技巧や音色の多彩さが素晴らしかったのですが,ジャスミンさんの場合,音自体に聞き手を引きつける魅力があるので,非常に音楽的に感じられました。

クーラウのフルート・ソナタの第3楽章は,今回演奏された曲の中では,「いちばん普通の曲」だったと思います。クーラウと言えば,ピアノ学習者にとってはソナチネでお馴染みですが,この曲にも,フルート版ソナチネのような雰囲気がありました。ただし,それが平凡に響くのではなく,逆にとても新鮮に響いていました。現代曲や技巧的な曲の後に聞いたことや美術館の中だったことも影響していたと思いますが,古典的な均衡のある音楽の美しさを改めて感じることができました。

最後のモンティのチャールダーシュは,アンコールのような感じで演奏されました。緩急の起伏が大きく,ゆっくりした部分など,K-POPというよりは,ほとんど演歌のような濃さがありました。その大げさな感じがとても面白く,後半のキレの良さ,楽しさと鮮やかな対比を作っていました。

これで予定のプログラムは全部だったのですが,拍手が鳴りやまないので,「熊蜂の飛行」がアンコールとして演奏されました。ものすごく速い演奏でしたが,楽々と演奏しており,ジャスミンさんの技巧の確かさをさらに強く実感させてくれました。

ジャスミンさんは今シーズンからウィーン交響楽団の首席フルート奏者になるとのことですが(井上さんは,現在公募中のOEKのフルート奏者に来て欲しかったと語っていましたが...),今後,スター性のある演奏家として,さらに幅広く活躍されることでしょう。ジャスミンさんは,9月のOEKの定期公演にフルート奏者として参加するようなので,取りあえずはその演奏に注目したいと思います。

今回残念だったのは,共演の田島睦子さんがピアノではなく電子ピアノで演奏されていたことです。この辺はいろいろと事情があったのだと思いますが,せっかくならば本物のピアノの演奏を聞いてみたかったところです(ピアノの音量の設定がやや小さかった気がしました)。

ナビゲータ役の井上道義さんのトーク&Tシャツも,美術とフルート(特にドビュッシー)を意識したもので,アートの雰囲気たっぷりでした。井上さんのちょっとした遊び心とファッション的なセンスは素晴らしいと思います。

8月最後の名残惜しさと同時に,充実感を感じさせてくれたミニコンサートでした。このところ体調が悪かったのですが,少し息を吹き返したような気がしました。

PS.この日,井上道義さんはナビゲータとして登場していたのですが,何と田島さんの譜めくりも担当されていました。なかなか見られない光景だと思いました。

(2012/09/06)

21美で開催中の展覧会やイベントのポスター レアンドロのプールは相変わらず人気でした。 工芸未来派は8月いっぱいで終了
(参考) ジャスミン・チョイさんの公式サイトです。ご本人同様,とても洗練された雰囲気のサイトです。
 http://www.jasminechoi.com/home.html




関連写真集


公演前こ様子。


演奏曲目をこのようなプレートで紹介するのはいつものとおり。


公演が始まると,音に釣られて,人が沢山集まってきて,最後の曲の時はこれぐらいの人が集まっていました。


アンコール曲を演奏するジャスミンさん。身体を大きく使った演奏を間近で楽しむことができました。


ウサギの耳のような椅子に座って鑑賞。これも21美ならでは。


久しぶりに美術館のガラスにも水滴がついていまいた。奥にいるのは「雲をはかる男」です。