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サイレンス01:大拙からケージ,そして22世紀へ アルディッティ弦楽四重奏団+藪俊彦
2012年9月15日(土)15:00〜 金沢21世紀美術館シアター21
1)一柳慧/インタースペース
2)リゲティ/弦楽四重奏曲第2番
3)ケージ/4部の弦楽四重奏曲+藪俊彦
●演奏
アルディッティ弦楽四重奏団, 藪俊彦(能舞*3)
Review by 管理人hs  

オーケストラの定期公演シリーズ同様,金沢21世紀美術館の自主企画の展覧会も9月に入れ替わります。9月15日に始まった,展覧会「ソンリュミエール,そして叡智」にあわせるように,美術館内のシアター21で,アルディッティ弦楽四重奏団と金沢の能楽師,藪俊彦さんによる演奏会が行われたので聞いてきました。

今回の演奏会ですが,「サイレンス01:大拙からケージ,そして22世紀へ」というタイトルどおり,金沢出身の哲学者・鈴木大拙の影響を受けている作曲家,ケージの作品が後半に取り上げられました。これは,”金沢特別企画”で,地元の宝生流能楽師の藪俊彦さんがケージの4楽章からなる弦楽四重奏曲に合わせて舞いました。藪さんとクラシック音楽の共演については,ラ・フォル・ジュルネ金沢などでもお馴染みなのですが,現代音楽との組み合わせは今回が初めてかもしれません。

まず驚いたのは,4つの楽章ごとに面や衣装やカツラが変わっていたことです。それほど長くない曲だったので,一種早変わり的な感じになっており,視覚的には飽きずに楽しむことができました(着替えに配慮して,楽章間のインターバルもやや長目でした。)。ただし,禅の世界の影響を受けているケージの曲に合わせる能としては,もう少しシンプルな演出でも良かったのかなと思いました。

このホールには,「ステージ」がなく,平土間で演じているのを上から見下ろす形になります。そのため,かなり近くで演じていたのに,藪さんの面の表情をはっきり見ることができませんでした。その点でも少々物足りなく感じました。

4つの楽章には,次のとおりタイトルが付いており,「四季」の変化を描いていました。音楽自体はそれほど複雑ではなく,変化が分かりにくかったので,それを能舞で補っていたような印象がありました。次のような能が舞われました。

楽章 タイトル 能舞
第1楽章 フランスの夏,生命の盛り 能「邯鄲(かんたん)」から。人生に悩む中国の青年,蘆生の生きざま
第2楽章 アメリカの秋,滅亡 能「松虫」から,草の原を友をさがしてさまよう男の霊
第3楽章 悪遺の舞 つよい老人の休息
第4楽章 少年の舞 創造の喜び

楽章ごとにカツラの色が違っており,それぞれに違った年代の役柄を演じていることが分かりましたが(プログラムに,上の表のような説明が付いていたことにも後から気付いたのですが),例えば,「赤い髪」の意図など,能の予備知識を知っていた方がより意図が理解できたのかもしれません。

ケージの作品については,「実験音楽」と呼ばれますが,今回の公演も実験の一種のような感じで,禅というよりは,歌舞伎的なケレン味を強く感じました。ただし,音楽自体は「余白」の多い音楽で,その点で,禅の世界に通じる気分がありました。例えば,「冬」の部分で,老人がジッと静止している部分がありましたが,こういう動きのない部分の方が,かえって印象に残りました。

アルディッティ弦楽四重奏団の演奏を聞くのは初めてだったのですが,「さすが」と思いました。今回の会場のシアター21は,「残響ほとんどゼロ」というホールなので,特に弦楽奏者にとっては演奏しにくいホールなのですが(音程の狂いなど演奏の粗が目立ちやすいホールです),今回の場合,それを逆手に取るかのように,非常に緻密で,集中力十分の演奏を聞かせてくれました。

最初に演奏された一柳慧さんのインタースペースが始まった途端に,間近で聞く生の音の迫力にグッと引き付けられました。この曲の第3楽章だけは,弦楽オーケストラ版としてオーケストラ・アンサンブル金沢の演奏で聞いたことがありますが,今回は,より緊迫感のある密度の高い音楽として楽しむことができました。全曲の演奏が終わった後,残響のないこのホールだと,本当に音がパタッと消えてしまいます。音楽が続く間だけ時間が流れており,曲が終わるとその流れが止まったような怖さを感じました。

2曲目のリゲティの弦楽四重奏曲第2番はさらに凄い曲,そして,凄い演奏でした。ハンガリー出身の作曲家ということで,少しバルトークを思わせるような所もあるのですが,さらに前衛的で,メロディは全然ありません。楽章ごとにハーモニクスやピツィカートなどの特殊奏法が次々と登場し,まずは,その技巧やスピード感に圧倒されました。CDで聞くと,こういう曲はなかなか聞き通せないのですが,今回のような至近距離で聞くと,曲のテンポやリズム,音色や肌触りの変化が非常に鮮やかに伝わってくるので,メロディの有無など全く問題になりません。ホールの響きがないので,誰が演奏しているのかもくっきりと分かります。前衛的な曲の生々しい演奏にどっぷりと浸かったような感じになりました。

第1楽章冒頭の衝撃的な響きから「ただごとでない!」という気分が強く伝わってきました。最弱音のハーモニクスと衝撃音のコントラストも鮮やかでした。第2楽章の最初の部分などは,弦楽四重奏なのに,どこか尺八のような音に聞こえました。3楽章はピツィカード主体の楽章ですが,同じ音を連打していましたので,こちらの方は打楽器のように聞こえました。

こういった起伏に富んだ音楽の後に続く最終楽章には,非常に柔らかな表情がありました。白石美雪さんによるプログラムの解説には,「「ルクス・エテルナ」に似たやわらな表情」と書かれていました。文字通り訳すと「永遠の光」で,映画「2001年宇宙の旅」で使われた曲とのことです。十分前衛的な曲ですが,曲の最終部に相応しい昇華されたような雰囲気がありました。

今回の演奏会の全曲を通じて,現代音楽のスペシャリストとしてのアルディッティ弦楽四重奏団の凄さを強く実感することのできる演奏でした。このところ,いわゆる「現代音楽」については,旗色が悪くなっている感じもありますが,今回のような狭い密室で演奏者と一体になって聞くと,「非常に面白い」ということが分かりました。ただし,やはりこれは,名曲をアルディッティ弦楽四重奏団で聞いたからなのかもしれません。

「サイレンス」シリーズですが,2回目が10月中旬に,今度は昨年オープンした鈴木大拙館で行われます。こちらには,一柳慧さんが登場します。恐らく,池の回りで演奏することになると思うのですが,どういう雰囲気になるか,非常に楽しみです。
(2012/09/16)

能にちなんで,お隣の能楽美術館へ(ただし,外から眺めただけですが)。
最近リニューアルし,能面や衣装を試着できるようになったようです。
外から眺められるようになっていました。

この日から,金沢ジャズストリートも本格的に始まり,市内の各所でジャズ演奏をやっていました。下は尾山神社の境内です。
金沢大学MJSの演奏 夕陽に映える尾山神社



関連写真集


公演のポスター


展覧会のポスター


こちらは展覧会の入口


スイミングプールは相変わらず大賑わい。



タレルの部屋もにぎわっていました。皆さん,ゆったりと天井を見上げていました。銀行さんでした。