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オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:もっとカンタ―ビレ第34回
2012年10月30日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)プーランク/金管三重奏曲
2)ジョリヴェ/小組曲
3)ストラヴィンスキー/兵士の物語(脚本・構成:風李一成)
●演奏
坂本久仁雄(ヴァイオリン*3,今野淳(コントラバス*3),遠藤文江(クラリネット*3),柳浦慎史(ファゴット*3),藤井幹人(トランペット*1,3),西岡基(トロンボーン*1,3),渡邉昭夫(打楽器*3)
瀬田るり子(語り),サイトウキヨミ(兵士ジョセフ),風李一成(悪魔),朱門(「兵士ジョセフ」操演),内多優(「王女」操演他),吉岡由美子(「王様」操演他)
山田篤(ホルン*1),古宮山由里(ヴィオラ*2),岡本えり子(フルート*2),山本真美(ハープ*2)
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」は,石川県立音楽堂交流ホールの特性を生かした演劇的な公演が増えている気がします。今回も,ストラビンスキーの「兵士の物語」を中心としたプログラムでした。

OEKメンバーによる「兵士の物語」は,以前に2回聞いたことがあります。そのうちの一回は,今回同様,金沢を中心に活躍する風李一成さんとの共演でしたが,今回はナレーションだけではなく,マリオネットによる演劇も加わっていたのが特徴でした。交流ホールは,ステージと客席が近く,変幻自在な利用法ができますので,「兵士の物語」のような作品を取り上げるのにぴったりです。

舞台の配置は次のような感じでした。


舞台下手のナレーターが語り始めた後,この作品のテーマ曲的な行進曲が始まり,主役の兵士の人形が舞台の上手の方に登場します。等身大の人形を操っていましたので二人羽織のような感じになります。セリフはナレーターが担当していましたので,形としては人形浄瑠璃風のような感じになります。ナレーターは,ト書き部分を語る人と兵士役を語る人の2人が並んでいましたので,視覚的にも浄瑠璃のように見えるかもしれません。

こういったアイデアは恐らく,今回の脚本,構成を担当した風李さんによるものだと思います。ドラマ全体が非常によくこなれており,風李版「兵士の物語」と言っても良い内容になっていました。現代の寓話としての説得力を強く感じました。

ナレーション+マリオネットで演じられる「兵士」に対する「悪魔」役が風李さんでした。こちらの方は「吹き替え」ではなく,自分自身で演技をしながらセリフを語っていました。この2人の絡み合いが非常にこなれており,まず,大変楽しめました。風李さんのキャラクターは,悪魔的なのですが,かなり[志村けん」的な雰囲気になったり,井上ひさしの劇に出てくるような「言葉遊び風」セリフが次々出てきたり,非常に個性的でした。

ト書き部分のナレーションはきっちりとしたアナウンサー風,それ以外のセリフ部分は,アニメーションの吹き替え風でしたが,そのバランスも良かったと思います。セリフ部分のドラマ性がしっかり伝わってきました。風李さんのセリフには,「ガンダム」とか「与作」とか「500円札」とか,ありとあらゆる脈絡のない言葉が,意外なダジャレ(?)となって次々と出てきました。「うまく繋がるものだなぁ」と感心しながら,呆れながら聞いていました。私の近くに居た若い世代の人たちにも受けていましたので,こういったコラボレーションをきっかけにOEKへの関心を高めてくれると嬉しいと感じました。

7人OEKのメンバーの方は,調べてみると前回,前々回と全くおなじメンバーでした(この日は,久しぶりにクラリネットの遠藤文江さんが出演されていました。)。非常に軽快な演奏で,テーマの行進曲の,「どこかチンドン屋」風サウンドも,とても格好良く決まっていました。他の部分もドラマの展開とよくマッチしていました。宮廷の部分での生き生きとしたリズム感など,ナレーションのイメージを楽しく広げてくれました。

風李さんと兵士の絡みでは,トランプをしているうちに悪魔の方が段々と酔っぱらってくる部分がとても楽しめました。風李さんの演技は,どこまでがセリフでどこからがアドリブか分からなかったのですが,本当に芸達者な方です。

# ちなみに,この部分の最後で「飲ませてください,もう少し,後は忘れた...」と歌っていた曲が気になっていたのですが,「氷雨」ですね。確かに,この部分より後は私も忘れていました。

後半は,兵士の人生が好転して王女と結ばれる場になります。この部分では,人形2体の絡みだったのですが,もしかしたら,生身の人間が絡むよりは,人形による演技の方が「思い切りやれる」ような気がしました。しかも寓話的な雰囲気も出せるので,抱き合う部分で鳴り響くコラールの音と合わさって,とても効果的なクライマックスになっていたと感じました。

続いて悪魔が「悪魔的な気分」の歌を語るように歌う部分が出てきます。この部分では,風李さんはスタンドマイクを持って歌っていました。服装や髪形も含め”パンクロック”といった雰囲気でしたが,この部分にも妙にインパクトがありました。気分にぴったりだったと思います。

最終的に兵士は,王女と結婚して幸福だったのに,「故郷に戻る」という「もう一つの幸福」を求めたため,すべての幸福を失ってしまうという結末になります。音楽が終わった後,悪魔の哄笑が残り,兵士の人形は,操演者からも見捨てられます。そして,床の上に捨てられた人形にスポットライトが当てれてエンディングとなります。この部分は素晴らしい効果で,人形劇にした狙いはここにあったのだと最後に納得できました。

この曲を実演で聞くのは3回目ですが,今回の演奏がいちばん楽しめた気がします。まず,「2つの幸せを得ることはできない」というテーマがしっかりと伝わって来ました。これに,怖いもの知らずの風李さんの自在で強烈な演技と人形劇が加わることで,ストーリーのイメージが大きく広がりました。演奏時間は,恐らく1時間以上かかっていた気がしますが,あっという間に時間が過ぎ去った「兵士の物語」でした。

前半はプーランクのホルン,トランペットとトロンボーンのためのソナタとジョリヴェのフルート,ヴィオラとハープのための小組曲が演奏されました。「兵士の物語」の印象を強かったので,プーランクの曲の印象は,吹き飛ばされてしまった感がありますが,古典的なシンプルさのある曲でした。どこかうらぶれた哀愁のようなものを感じました。

ジョリヴェの方は,数年前に,ドビュッシーのヴィオラ,フルート,ハープのための作品を演奏して以来,意気投合した3人の演奏でした。まず音を聞いて,金管楽器アンサンブルのプーランクの曲に比べると,音の「当り」が柔らかいなと感じました。プーランクの方が男性3人,ジョリヴェの方が女性3人ということで,前半は,シンメトリカルなプログラミングと感じました。

演奏も非常に楽しめました。まず,フルートとヴィオラの音の絶妙のブレンドが見事でした。それにハープが醸し出すグリッサンドなどが加わり,デリケートさと華麗さの両方を楽しむことができました。最後の曲では岡本さんは,フルートからピッコロに持ち替えていましたが,曲想自体も季節が変わったように明るくなっていたのも印象的でした。

今回の「もっとカンタービレ」公演も,凝ったプログラム+凝った趣向の演奏でした。特に後半の「兵士の物語」は,今回1回の上演では惜しいと思いました。このシリーズについては,是非,演劇とのコラボなどを含めた今の路線のまま行って欲しいと思います。

PS. 今回,最初の曲の時,ホルンの山田篤さんが演奏前に説明をされていましたが,考えてみると直接お声を聞いたのは初めて?のような気がします。その点でも貴重だったかもしれません。(2012/11/04)


関連写真集


演奏会のポスター


演奏会のプログラム・リーフレット


演奏会後の武蔵が辻交差点です。雪つり風のライトアップが始まっていました。