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PFUクリスマスチャリティコンサート
12月1日(土) 15:00 石川県立音楽堂 コンサートホール
1)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
2)ラヴェル/組曲「クープランの墓」
3)プーランク/オルガンとティンパニのための協奏曲 ト長調
4)(アンコール)バッハ,J.S./主よ人の望みの喜びよ
5)ドビュッシー(シェーンベルク編曲)/牧神の午後への前奏曲
6)ドビュッシー(カプレ編曲)/子供の領分
7)(アンコール) ドビュッシー(カプレ編曲)/月の光
●演奏
渡邊一正指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1-3,5-7,井上圭子(オルガン*3-4)
Review by 管理人hs  

毎年,12月上旬恒例のPFUクリスマスチャリティコンサートを聞いてきました。このコンサートは入場整理券があれば入れる無料コンサートですが,毎年とてもよくお客さんが入ります。この日もほぼ満席でした。

今回は,「ドビュッシー生誕150年記念フランス音楽のエスプリ」と題した,渡邊一正さん指揮, オルガン独奏井上圭子さんによるフランス音楽特集でした。ただし,演奏されたのはドビュッシーだけではなく,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の編成でも演奏できるようなフランス音楽が選ばれていました。

私の記憶の限りでは,渡邊さんが金沢でOEKを指揮するのを聞くのは今回が初めてだと思います。OEKが取り上げる機会が比較的少ないフランス音楽でしたが,どの曲についても,管楽器と弦楽器の音のバランスが良く,心地よい響きに包まれました。

まず,ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」で始まりました。金星さんのホルンの高音は非常に美しく,フランス風味満点でした。テンポは全般に遅めでしたが,OEKの響きは軽やかなので全くもたれるところはありませんでした。最後の部分で大きく間をとって,名残惜しげに締めるあたりも絶品でした。

続く「クープランの墓」は,ラヴェルの曲の中では,OEKが比較的よく取り上げている作品です。こちらも慌てることのないテンポ設定で,「平穏な日常の中に時々小さなドラマがある」といった上品な演奏でした。水谷さんのオーボエをはじめとして,優雅で端正な表情に支配された演奏で,第1曲のパヴァーヌ同様に軽やかで高貴な気分を感じさせてくれました。全体に「安全運転」と言って良い演奏でしたが,これは悪い意味ではなく,大暴れしない大人っぽさは,演奏会のタイトルどおり「フランス音楽のエスプリ」だと感じました。

前半最後は,石川県立音楽堂で聞くのにぴったりのプーランクのオルガンとティンパニのための協奏曲で締められました。独奏の井上圭子さんの演奏を聞くのは,石川県立音楽堂が開館した2001年以来のことです。曲は「オペラ座の怪人」のようにドラマティックな音で始まり,その後も生のパイプオルガンならではの体に染みるような重低音を聞かせてくれました。が,曲全体としては,それほど威圧的にはならず,井上さんのオルガンを中心に,プーランクらしい大胆さと心地よさが共存したような音楽をしっかりと楽しませてくれました。もう一つの独奏楽器のティンパニ(この日のティンパニは,ジョナサン・スカリーさん)にも,心地よい弦楽器の響きに楔を打ち込むような力強さがあり,聞きごたえがありました。

この曲を実演で聞くのは2009年に行われたキタエンコさん指揮の黒瀬恵さん独奏の定期演奏会以来のことです。今回,曲の最後の方にしっとりとしたヴィオラやチェロのソロの部分があることに気づきました。そういった部分を中心に味わい深さを感じさせてくれる演奏となっていました。

その後,アンコールとして「主よ人の望みの喜びよ」が井上さんのオルガン独奏で演奏されました。この曲は特にクリスマス用の曲というわけではありませんが,12月に聞くとクリスマスっぽい気分になりますね。プーランクの時とは違う,バグパイプ風の音(?)も魅力的でした。

後半は,今年が生誕150年のアニバーサリー・イヤーだったドビュッシーの曲が2曲演奏されました。

「牧神の午後への前奏曲」の方は,通常のOEKの編成では人数が足りないので,OEKの演奏で聞いたことはほとんどないのですが(一度だけ?),今回は小編成の弦楽器+木管楽器3本+打楽器+ピアノ+ハルモニウムというシェーンベルク編曲による珍しい版で演奏されました。これが素晴らしい編曲であり演奏でした。冒頭,岡本さんのフルートでたっぷりと始まった後,「次はホルンとか出てくるはずだがどうなる?」と思っているうちに,ピアノが軽やかにアルペジオを聞かせてくれてました。オリジナルの妖しい雰囲気をしっかり残しながら,すっきりとした室内オーケストラらしい軽やかさも感じさせてくれる,「なるほど」という感じの編曲でした。

後半に出てくるアンティーク・シンバル(多分)はオリジナルと同様でした。冒頭のフルート同様,この音は外せないと言えそうです。その他,ステージ上にはハルモニウムという足踏み式オルガン風の楽器がありました(OEK公式ツイッターで教えて頂きました。ありがとうございます。)。この楽器単独の音は判別できなかったのですが,しっかりオーケストラと溶け合い,響きの厚みや暖かみを増していたようです。

というわけで,今回のシェーンベルク編曲の「牧神の午後」は,今後もOEKのレパートリーに加えていってほしいと思いました。

最後に演奏された「子供の領分」の方は,もともとはピアノ独奏曲ですが,これをカプレが管弦楽用に編曲したものです。以前,井上道義さん指揮でも聞いたことがありますが,ピアノ独奏で聞くよりも,メルヘン的というかファンタジー的な気分が広がるようなところがあります。第1曲目の冒頭のクラリネットのマイルドな音の動きを聞いているだけで,夢が広がっていくという感じでした。次の「象の子守歌」はコントラバスの独奏で始まりましたが,こうやって聞くと,「動物の謝肉祭」に含まれていても良さそうな雰囲気でした。

「雪は踊っている」はピアノ独奏で聞くと,ひんやりとした冷たさを感じるのですが,オーケストラ版だと,リアルな雪というよりはメルヘン的な雪になります。そこが面白いと思いました。「小さな羊飼い」は,多分私が編曲したとしても(実際にはできませんが)カプレ同様オーボエを使うと思います。「トリスタンとイゾルデ」の中にこういう部分があったな,と思いながら気まぐれな羊飼いの演奏を楽しみました。最後は,「ゴリウォーグのケークウォーク」で楽しげに元気よく締めてくれました。オーケストラ版で聞くと不規則なアクセントが強調され,ダイナミックでな楽しさを実感できました。

最後は「月の光」の管弦楽編曲版がアンコールで演奏されて終了しました。こちらもカプレ編曲版ということで,響きに統一感があり,ピッタリのアンコールでした。

OEKがドビュッシーやラヴェルを中心としたフランス音楽を演奏する機会は比較的少ないのですが,穏やかながらとても気持ちの良い演奏会になりました。来年のラ・フォル・ジュルネ金沢のテーマはフランス音楽になるようです。少々気が早いようですが,その”前哨戦”といったプログラムをしっかり楽しむことができました。
(2012/12/06)


関連写真集

入口の立看板


チャリティ募金は,「金沢の技と芸の人づくり基金」へ


アンコール曲の表示


玄関ロビーのクリスマスツリー


金沢駅のもてなしドームにも「光るオブジェ」が登場していました。