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クリスマス・メサイア公演
2012年12月2日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
2)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋7-9,27-30,34-39,41,46,49-51曲省略)
3)(アンコール)きよしこの夜
●演奏
三河正典指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
合唱:北陸聖歌合唱団*2-3,OEKエンジェルコーラス*1,3
独唱:朝倉あづさ(ソプラノ)*2,池田香織(メゾ・ソプラノ)*2,志田雄啓(テノール)*2,安藤常光(バリトン)*2
Review by 管理人hs  

前日に続いてオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の公演を石川県立音楽堂で聞いてきました。この日は,12月恒例の北陸聖歌合唱団とOEKによる,クリスマス&メサイア公演でした。北陸聖歌合唱団は,ほぼ紅白歌合戦と同じ歴史を持ち,60年以上年1回,メサイアばかりを歌ってきました。石川県立音楽堂が完成してからは,OEKと共演すようになり,私も毎年のように聞いています。

今年の公演ですが,ここ数年でもっとも素晴らしい内容だったと感じました(ただし,昨年は聞いていないのですが...)。まず,三河正典さんの作る,全く慌てることのない誠実な音楽が素晴らしく,OEKや合唱団のメンバーは「演奏し切った!」という充実感を持ったのではないかと思います。それが伝わってくるような演奏でした。

「メサイア」の前に,まずOEKエンジェルコーラスとOEKとの共演で,クリスマス・ソング・メドレーが歌われました。榊原栄さん編曲のこの曲もすっかりお馴染となり,演奏にも年季が入ってきた気がします。今回の演奏はパーカッションがかなり前方にあったせいか,特に彩りの鮮やかな演奏でした。エンジェルコーラスの合唱にもそれに負けない元気さがありました。

「メサイア」の方は,序曲から最後まで一貫して,落ち着いた品の良さと同時に,躍動感が感じられる演奏でした。折り目正しいだけではなく,その裏に“熱さ”がありました。一言でいうと,立派な演奏でした。

最初の「Comfort ye, my people」での志田雄啓さんによるテノールのソロも朗々と歌われていましたが,やや高音部に伸びやかさが不足している気がしました。第1部の前半では,バリトンのアリアがいくつかありますが,安藤常光さんは,三河さんの作るじっくりとした音楽にぴったりの落ち着きのある歌を聞かせてくれました。

今年の合唱団には,北陸聖歌合唱団のメンバーに埼玉県深谷市のVoce Sonareのみなさんも加わっていまいした。そのせいか,いつもにも増して晴れやかな歌を聞かせてくれました。三河さんの指揮は,大変分かりやすいもので,合唱を指揮する際は,客席から見ていると天井の方に向かって指揮されているようにも見えました。第1部のクリスマスの場面の「Glory to God in the highest」の合唱では,オルガンステージで演奏していたトランペットの輝かしい音が効果的で,キラキラと音が降ってくるような美しさを感じました。

全曲を通じて,OEKの演奏も大変美しいもので,ちょっとしたところに出てくる弦楽器の明確な音の刻みを聞くだけで嬉しくなりました。

第1部の後半は,ソプラノが活躍するクリスマスの場面になります。毎年のように書いていますが,私の場合,朝倉あづささんの声を聞かないとクリスマスの気分にならない感じです。今年も凛とした美しさと同時に暖かみのあるソロを聞かせてくれました。

メゾ・ソプラノの池田香織さんと歌った「He shall feed His flock like a shepherd」も,抜粋版でも毎年聞いている曲ですが,瑞々しさと落ち着きのある声で聞くと本当に癒されます。

第2部では,「メサイア」の中の“要の曲”の一つである「He was despised」が聞きものでした。メゾ・ソプラノの池田香織さんの声を聞くのは久しぶりでしたが,つややかな声が相変わらず魅力的でした。この曲は全曲中,もっとも情感の深さを感じさせてくれる曲です。OEKの演奏ともども,抑制されていると同時に深みを持った歌が無理なくホールに広がっていました。どこか時間が止まって,異次元の世界に入り込んでしまったような感覚があったのも印象的でした。中間部は動きのある部分になるのですが,その対比も鮮やかでした。

その後は合唱曲が連続しますが,無理のないテンポ設定でしっかりとしかも軽やかに聞かせてくれたのが良かったと思います。

バリトン独唱の「Why do the nations so furiously rage together?」も毎年聞いています。心地よいビート感のある演奏でしたが,慌てすぎることなく,しっかりと演奏されていたのが印象的でした。

第2部最後の「ハレルヤ・コーラス」も小細工することなく大変しっかりとした力強い音楽を聞かせてくれました。この曲では,お客さんもかなり立ち上がっていましたが(例年よりも立っている人が多かったようです),三河さんの指揮の動作が大きかったので,会場のお客さん全体に向かって指揮しているようにも思えました。堂々たる剛毅さと同時に,「人類みな兄弟」的な一体感を感じさせてくれる聞きごたえのある演奏でした。

第2部の後,盛大な拍手が入り,そのまま第3部になりました。毎年,ハレルヤ・コーラスの余韻が残る中,しっとりとソプラノ独唱で歌われる「I know that my Redeemer liveth」を聞いていますが,この感覚も好きです。「一息つく」という言葉がぴったりの平和な気持ちにさせてくれます。

第3部では,バリトンとトランペットが絡む,「The trumpet shall sound」が外せない曲です。OEKの藤井さんのトランペットは,途中少しキズがありましたが,高貴な音が素晴らしく,じっくりとしたテンポで誠実な音楽を聞かせてくれました。

最後の「アーメン・コーラス」も,落ち着いたテンポでスケール感たっぷりに聞かせてくれました。各声部の動きがしっかりとわかり,思わず敬虔な気持ちにさせてくれました。エンディングの部分に入る前に,非常に大きな間を取っていたのも印象的でした。その後に続く「アーメン,アーメン...」の部分も実に壮麗でした。大きな盛り上がりを築いて全曲が終わり,その後,深い感動が余韻として残りました。三河さんは,しばらくじっと止まっていました。一緒に感動を味わっているようで,その姿がまた良いなぁと思いました。

最後に再度OEKエンジェルコーラスが加わり「きよしこの夜」を歌ってお開きとなりました。このパターンもすっかり恒例になりました。この演奏会を聞くと,「今年も早くも12月か!」と感じると同時に,無事に過ごせたことに感謝をしたくなります。今年の演奏からは,特にその気持ちを強く持ちました。演奏者された全てのみなさんに感謝をしたいと思います。
(2012/12/07)


関連写真集


入口のポスター


チケットボックス前には今月行われる「白鳥の湖」公演の衣装が展示されていました。




音楽堂内には至るところにクリスマスの飾りが飾られていました。


ホテル日航金沢の前のライトアップ


ホテルの中の飾りも見事です。


金沢駅のもてなしドームにも「光るオブジェ」が登場していました。