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オーケストラ・アンサンブル金沢 室内楽シリーズ もっとカンタービレ第35回
2012年12月19日(水) 19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)モーツァルト/ディヴェルティメント第14番変ロ長調 K.270
2)モーツァルト/アダージョ 変ロ長調 K.441
3)シュトラウス,R./ソナチネ第2番変ホ長調「楽しい仕事場」
●演奏
水谷元,加納律子(オーボエ*1,3),柳浦慎史,渡邊聖子(ファゴット*1,3),石川晃(ファゴット*1,コントラファゴット*3),和田浩志*1,3,根本めぐみ*1,3,金星眞*3,森利幸*3(ホルン),野田祐介,筒井祥夫(クラリネット*2-3),木藤みき(バセットホルン*2,クラリネット*3),福井聡(バセットホルン*2,バス・クラリネット*3),鈴木生子(バセットホルン*2-3),
Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズ「もっとカンタービレ」,今回は「16の管楽器によるめずらしい合奏曲 木管アンサンブルの世界」ということで,OEKの管楽器メンバー+αの皆さん(実は+αの人数が多かったのですが)による管楽アンサンブルの夕べでした。

演奏会最初のファゴットの柳浦さんによる「選曲のポイント」の説明のとおり,今回の目玉は,滅多に演奏されない管楽アンサンブルの大曲,R.シュトラウスのソナチネ第2番「楽しい仕事場」でした。ソナチネでありながら交響曲という別名も持っており(演奏時間も30分以上かかります),「小さいのか?大きいのか?」よく分からないのがまず面白い点です。管楽器ばかり16人という編成もかなり珍しいものです。楽器編成は,フルート,オーボエ,クラリネット,ファゴットの2管編成に加え,C管クラリネット,コントラファゴット,バセットホルン,バスクラリネット,ホルン4という編成です。特にクラリネット系の木管楽器が多数加わっており,ステージ上は木管楽器の展示会のような趣きがありました。

前半に演奏された曲は,この曲との取り合わせと楽器編成を考えて選ばれたもので,モーツァルトの木管アンサンブルの作品2曲が演奏されました。シュトラウスの作品自体,モーツァルトへのオマージュ的な作品ですので,大変よく考えられた,バランスの良いプログラムとなっていました。

1曲目のディヴェルティメントK.270は,4つの楽章から成る曲でしたが,それほど長い曲ではなく,気軽に楽しむことができました。第1楽章冒頭からキリッとした明快さがあり,冬の金沢の気候とは正反対の湿気とは無縁のカラッと晴れ上がったような世界が広がりました。どの楽章も極端に走るところは無く,「ターフェルムジーク(食事のBGM)」らしい穏やかさがありました。その一方,各楽章ごとに表情付けやテンポ感が異なり,退屈することはありませんでした。

編成はオーボエ2,ファゴット2,ホルン2という,ありそうでいて,あまりない編成で,第1オーボエの水谷さんを中心に各楽器がフルに活躍していました。2曲目のプレトークを担当した木藤さんのお話にもあったとおり,管楽器奏者にとっては,かなり大変な作品だったようです。

2曲目は,当初は別の曲が予定されていたそうですが,「クラリネット奏者が5人も揃っていたので...」ということで演奏することになった曲です。単一楽章の曲でそれほど長くない作品ですが,クラリネット2+バセットホルン3という,非常に珍しい編成の作品でした。1曲目と重なる奏者がいなかったのも面白いところです。

晩年のモーツァルトらしさが匂ってくるような曲で,歌劇「魔笛」にでも出てきそうな,つまり,フリーメーソン風の音楽でした。深い味わいがあるけれども澄み切った気分のある演奏で,滅多に聞けない秘曲をしっかり楽しむことができました。

後半に演奏されたシュトラウスのセレナード第2番「楽しい仕事場」は,プレトークでオーボエの加納さんが詳細されていたとおり,大変魅力的な作品でした。滅多に演奏されないのは,独特の編成のせいということが言えそうです。ちなみにこの曲はオーボエの加納さんの提案で選ばれたもので,「多数のエキストラを呼ぶことを認めてくれた事務局のご理解」により実現したとのことです。

木管楽器16人編成ということもあり,まず音色が独特でした。聞いた瞬間,「R.シュトラウス!」と感じさせるようなヒロイックな輝きがありました。曲の雰囲気としては,同じ時期に書かれたオーボエ協奏曲と共通する澄んだ気分がありました。

4つの楽章の中では,1楽章と4楽章が特に立派でした。第1楽章の冒頭から音に輝きがあり,しかもマイルドでした。16人編成ということで,トゥッティの響きの独特の華やかさが特に印象的でした。これぐらいの人数になると,やはり指揮者がいる方が音楽のメリハリがくっきりと付くとは思うのですが,この日の演奏のようにじんわりと幸福感が広がるような穏やかさも捨てがたく,タイトルの「楽しい仕事場」に相応しいゆったりとした気分がありました。

中間の2楽章はやや小ぶりで,室内楽的な雰囲気がありました。第2楽章は,主題自体が魅力的で,何とも言えぬ可愛らしさがありました。第3楽章もマイルドで,気持ちの良いメヌエットとなっていました。

4楽章は,主部に入る前にゆったりとした導入部が付いています。この部分ではオルガンを思わせるような管楽器の響きの美しさを楽しむことができました。主部になると,眠りから目覚めたように半音の動きを持ったモティーフがしつこく繰り返されます。加納さんによると,同様に半音の動きが繰り返されるモーツァルトのピアノ協奏曲第20番の第2楽章の主題と通じる部分があるとのことでした(なるほど!)。

主題しを色々な楽器の間で受け渡したり,対話したりしているうちに,気づいてみると高山に登ってしまった,というような趣きがありました。楽章の後半では,空気の良いアルプスの山頂に登って絶景を眺めているような(想像で書いているのですが)爽快な気分を感じました。

これだけ長い曲ですので,演奏後,奏者の皆さんには「吹き終えた!」といった達成感と疲労感が混然一体となった感覚が残ったのではないでしょうか。思わず客席から「お疲れさまでした!」と言いたくなりました。

全曲を通じて誠実さのある演奏で,この曲がすっかり気に入りました。この演奏会の後も,自宅にあったエド・デ・ワールト指揮のオランダ管楽アンサンブルのCDを繰り返し聞いています。こちらもお気に入りの1枚となりました(このCDはシュトラウスのオーボエ協奏曲を聞くために買ったもので,それにたまたまカップリングされていたものです)。

この日は外の寒さにも負けず,交流ホールにはかなり沢山のお客さんが入っていました。しかも,若いお客さんが多かったですね。多分,中高生の吹奏楽部員だと思うのですが,これを機会に木管アンサンブルの世界に興味を持ってくれるといいな,と思いました。次回は,ファゴット・アンサンブルによる演奏に続き,小編成による「くるみ割り人形」ということで,こちらの方もとても楽しみです。
(2012/12/28)





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公演のポスター

終演後のもてなしドームの下。気温は2℃で雪が屋根に積もっていました。