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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2012:ロシアの祭典
2012年4月29日(日)
オープニング・セレモニー,オープニング・コンサート,バレエの日

Review by 管理人hs  
この日の早朝,金沢発の東京ディズニーランド行きの夜行の高速バスが群馬県で事故を起こし,死傷者が多数出ている,という気になるニュースが入ってきました。いきなり落ち着かない気分になってしまったのですが,その中,ラ・フォル・ジュルネ金沢2012が開幕しました。これから1週間,金沢市内はホールを中心に「ロシア音楽漬け」になります。

開幕ファンファーレ 11:00〜 JR金沢駅コンコース
ハチャトゥリアン/バレエ音楽「仮面舞踏会」〜ワルツ
開幕ファンファーレ
カバレフスキー/組曲「道化師」〜第1曲プロローグ,第2曲ギャロップ,第10曲エピローグ
チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」〜花のワルツ
●演奏
金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
司会:池辺晋一郎


金沢駅に行ってみると,例年通り多くのお客さんが詰めかけており,金沢大学フィルのみなさんがハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツをダイナミックに演奏していました。この曲ですが,浅田真央さんがフィギュアスケート用に使ってくれたお陰ですっかり有名曲になりましたね。

金大フィルの皆さんによる,開幕ファンファーレ前の演奏 大勢のお客さんが入っていました 鉄道少年団の子供たちが今回取り上げる作曲家の肖像を持ってきていました。

11:00からは,北陸3県同時に「開幕ファンファーレ」ということで,きっちりと時間を合わせて(司会の池辺晋一郎さんが,お得意のトークで時間調整をされていました。さすがです。),ファンファーレが始まりました。作曲者名は分からないのですが,ロシア音楽のファンファーレといえば,「展覧会の絵」ということで,この曲を中心としたテーマ曲が金管十重奏で演奏されました。

続いて,音楽祭実行委員の三谷充三谷産業会長の「掛け声」+お客さんからの「オー」で音楽祭が始まるというのも,すっかり定番となりました。ラ・フォル・ジュルネ金沢が毎年開催できているのも,三谷産業さんのような協賛企業の力が大きいと思います。ありがたいことだと思っています(逆に言うと,企業イメージについての宣伝効果も大きいと思います)。

来賓としては,前田利祐音楽祭実行委員長,井上道義さん,JR金沢駅長さんらが出席されていました。その中からチャイコフスキーの格好(ドヴォルザークと言われても区別はつきませんが...)をした青島広志さんが,池辺さんから呼び出され,「あなたは誰ですか?チャイコフスキーです」「ハラショー」などと軽くトークをされました。この青島さんの「神出鬼没の道化師」的な役回りも,実は毎年音楽祭を盛り上げてくれていると思います。

開幕ファンファーレ 実行委員会,来賓の皆さん チャイコフスキーに扮した青島広志さん

自分自身のことを振り返ってみても,子供にとって「テレビに出ている人と直接会える」というのは,相当インパクトのあることで,そういう人から「クラシック音楽を楽しんでね」などと言われると,そのうちの何割かは,一生そういう気持ちを持ち続けるのではないかと思います。そういう意味では,「子供も参加できる」ラ・フォル・ジュルネ金沢が5年間続いたという点は,将来的には大きな意味があると思います。

さて,このステージですが,次にカバレフスキーの「道化師」の抜粋が演奏されました。運動会では有名だけれども,実演では滅多に聞けない,という曲ですが,特にギャロップは短くて楽しさ満点なので,この1週間は毎日のように,各種アレンジで演奏されそうです。

最後は,チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の中の「花のワルツ」が演奏されました。曲の最初の方にハープのソロが出てきますが,この日は,ピアノで代用していました。これが意外に新鮮で,いいなぁと思いました。

この曲を聞きながら,石川県立音楽堂の方面まで足を運んで様子を眺めてきました。
金大フィルの皆さんによる演奏 ロシア音楽では,打楽器や金管楽器が活躍するものが多いですね。 駅のコンコースに掲示された公演スケジュール

音楽堂では,グッズ販売の準備なども進んでいました。恒例の「辻口さんのスイーツ」は,「春の祭典」と「眠りの森の美女」という名前でした。

再度,JR金沢駅に戻ったのですが,ラヴェルのラ・ヴァルスのように,「ドアの向こうからワルツが聞こえてくる」というのも何とも言えず良いものです。ロシア音楽には華やかで聞き映えのする作品が多いので,JR金沢駅コンコースも例年以上に盛り上がるのではないかと思います。

ここで一旦,自宅に戻った後,午後から出直しました。こういうことは,東京のラ・フォル・ジュルネではなかなか難しいと思います。コンパクトな金沢市ならではだと思います。



オープニングコンサート 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホー
1)カバレフスキー/組曲「道化師」〜第1曲「プロローグ」,第2曲「ギャロップ」,第3曲「行進曲」,第4曲「ワルツ」,第6曲「間奏曲」,第8曲「ガヴォット」,第10曲「エピローグ」
2)チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35
3)(アンコール)パガニーニ/24のカプリース〜第13番
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1-2,神尾真由子(ヴァイオリン)*2-3


毎年,大勢のお客さんが集まるラ・フォル・ジュルネ金沢のオープニングコンサートですが、今年も補助席が出来るほど,多くのお客さんが入っていました。今朝のバス事故のことを思い出しながら,こうやって、ゆったりと休みの日の午後に音楽を楽しめることは本当にありがたいことだと実感しました。

開演前,音楽堂前に人だかり カピタン・ロシア民族アンサンブルの皆さんがパフォーマンス中

まず,例年どおり,音楽祭の実行委員がずらりとステージ上に並ぶ中,前田利祐実行委員長,谷本石川県知事,山野金沢市長から開会のあいさつが行われました。本家ナントや東京のラ・フォル・ジュルネでは,こういうイベントは行われていないと思います,ラ・フォル・ジュルネ金沢の場合,石川県と金沢市と協賛企業が一体となって盛り上げようとしていますので,こういう式典はあっても良いと思います。前田委員長はいつもどおり飄々と,山野市長もいつもどおり爽やかにあいさつをされていましたが,谷本知事は,継続開催に向けて,非常に力が入った言葉を述べていました。
開演前のコンサートホール この日は,来賓の方々が大勢いらっしゃっていました。

その後,コンサートとなりました。最初に演奏された,カバレフスキーの組曲「道化師」(の抜粋)は,先ほど金沢駅で聞いたばかりでしたが,さすがにオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏は切れ味が違います。編成は管楽器が1名ずつだけれどもトロンボーンやテューバも入っていました。小回りは効いているけれども迫力のある音を聞かせてくれました。

どの曲も生き生きと演奏されましたが,特に有名なギャロップでは,井上さんは手をグルグル回して指揮をしており,競馬のゴール前で鞭を入れるような趣きがありました。この曲に限りませんが,シロフォンの強く冴えた音も印象的でした。どの曲も表情が豊かで,井上/OEKのキャラクターにぴったりの作品だと思いました。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の方は、ここ数年、OEKの演奏で毎年のように聞いている曲です。今回の神尾真由子さんとの演奏は、基本的に余裕たっぷりのゆったりとしたテンポを取りながら、要所要所で濃い表現を聞かせる、大人の演奏でした。数年前の五嶋みどりさんの時のように、遠い別世界で演奏しているような感じではなく、井上/OEKと神尾さんによる、「男女の会話」のように思えてくるような演奏でした。最初は、そっけなく,つれない表情だった神尾さんが段々と井上さんからの甘い誘いに乗ってきて、濃い表現を聞かせる...といったドラマを感じました。

神尾さんの演奏には,力んだところはないのですが,根底にしたたかな強さのようなものが漂っています。神経質になり過ぎる部分もなく,20代にして貫録十分の演奏でした。非常に繊細さで,濃密な表現を聞かせてくれた高音部をはじめ,迷いなく感情を表現しているのも気持ち良く感じました。

第2楽章もゆったりとした演奏でしたが,ここでもオーケストラとの対話を楽しむことができました。クラリネットの非常にデリケートな弱音など,OEKの演奏も見事でした。最終楽章は最後の部分で,エンジンを全開にするように,強くスピーディーに音楽が盛り上がっていきました。自然に盛り上がる情感の豊かさと演奏効果を狙ったしっかりとした計算とがバランス良く合わさった見事な演奏だったと思います。

アンコールでは,神尾さんが自分の「名刺代わり」のようにたびたび演奏している,パガニーニの24のカプリースの中の第13番が演奏されました。前半,半音で音が下降していく辺りに怪しさと不敵さが漂い,後半は対照的に鮮やかな技巧を見せつけてくれます。完全に手の打ちに入った演奏でした。

神尾さんが登場する前の時間調整の時間を使って,井上道義さんと池辺晋一郎さんが漫才的トークをしていたのですが,これがなかなかおもしろかったですね。池辺さんが「私は,神尾さんが小さい頃からを知っているんですよ」と言えば,井上さんも「私も知っていた」と負けずに応えていました(二人とも大人げない?)。井上さんはさらに,「神尾さんの演奏は脂が乗っていて,絶対良い演奏になります」と付け加えていましたが,井上さんお気に入りのヴァイオリニストの一人なのだと思います。そのとおりの演奏になりました。

その後、JR金沢駅コンコースに向かいました。チラシには掲載されていませんでしたが,当日の公演情報で「15:30から金沢駅で小松明峰高校吹奏楽部が演奏」書いてあるのを見かけたからです。このチラシにない公演が出てくるのもラ・フォル・ジュルネならではです。



駅コン 15:30〜 JR金沢駅コンコース
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」〜プロムナード
ゴールドマン/チェリオ・マーチ
くるみ割り人形ダンスメドレー
小さな世界
オーメンズ・オブ・ラブ
シェリーに口づけ
●演奏
斉藤忠直指揮石川県立小松明峰高等学校吹奏楽部


小松明峰高校吹奏楽部の皆さんの演奏は、もはや、ラ・フォル・ジュルネ金沢に、なくてはならない存在となりつつあります。今回もロシア音楽を、「定番レパートリー」を交えて、楽しいステージを聞かせてくれました。最初の「展覧会の絵」は,ラベル編曲版同様,トランペットのファンファーレで始まっていましたが,大変気持ちの良い音を聞かせてくれました。

次のチェリオ・マーチですが,曲の構成が「木陰の散歩道(On the mall)」とそっくりで,曲の中間部に合唱が入ったり,口笛が入ったりします。昨年のラ・フォル・ジュルネ金沢に登場した,市立柏高校吹奏楽部がアンコールで演奏していたのを思い出しました。明峰の演奏にも重量感があり,パンチの効いた行進曲を聞かせてくれました。

くるみ割り人形メドレーは,普通のメドレーかと思ったら,かなり大胆にアレンジされており,「古畑任三郎」のテーマか何かのようにビッグバンドジャズ風のテイストがありました。明峰のブラスセクションの迫力が存分に発揮されていました。

「小さな世界」後は,「毎年同じ」なのですが,毎回盛り上がります。恐らく,吹奏楽部で代々受け継がれている「お家芸」なのではないかと思います。入部したばかりの1年生部員がわいて出てきて,辺りを取り囲まれると,その後はいつもの明峰ペースになりました。

いつもと違っていたのは,トリで演奏されたのが、「宝島」ではなく、「オーメンズ・オブ・ラブ」だったことです(ただし,最後に斉藤先生が「金色のガウン」で再登場というのは同じでした)。「宝島」の方が,パーカッションのアドリブなどが沢山入る分,変化に富んでいるのですが,「オーメンズ」の方も流れるような気持ちよさがあり,爽やかに締めてくれました。いずれも真島俊夫編曲作品ということで,高校吹奏楽の定番中の定番ということは言えそうです。

演奏後,気づいてみると、駅のコンコースは物凄い人だかりになっていました。この光景もまた。「金沢オリジナル」ですね。
通路を確保するため「通路」という大きな紙を持った人がいました。 小松明峰の皆さんと一緒に行動してしまいました。 音楽堂交流ホールでは,桜丘高校吹奏楽の皆さんがリハーサル中

その後,再度,石川県立音楽堂の方に向かってみました。

青島チャイコフスキーさんが本を販売中でした。 作曲家がいたるところにいました。
交流ホールでは,小松明峰,桜丘と長野県の上田高校吹奏楽部による「交歓会」の準備中でした。 上田高校が演奏中。右側が桜丘の生徒たち 上田高校の皆さんの演奏

ラ・フォル・ジュルネ金沢の開幕日ということで,今後に備えて,エネルギーを温存しようかとも思ったのですが,まだ元気が残っていたので、「バレエの日」公演を見るために,自転車で本多の森ホールまで移動しました。



バレエの日 第3部 17:00〜 本多の森ホール
チャイコフスキー/バレエ「白鳥の湖」抜粋
第2幕第14曲 情景
第3幕第15曲 情景
第3幕第16曲 コール・ド・バレエとこびとの踊り
第3幕第17曲 情景「賓客たちの入場とワルツ」
第3幕第18曲 情景
第3幕第21曲 スペイン舞曲
第3幕第22曲 ナポリ舞曲
第3幕第20曲 ハンガリア舞曲
第3幕補足曲 ロシア舞曲
第3幕第23曲 マズルカ
第1幕第5曲 グラン・パ・ド・ドゥ「黒鳥の踊り」
第3幕第24曲 情景
●演奏
天沼裕子指揮大阪交響楽団,バレエマスター:アリエル・ロドリゲス
矢野博也(ロットバルト),アリエル・ロドリゲス(王子),加登美沙子(オディール),松田えみ(王妃),横倉末緒(オデット)

K・バレエスタジオ,ロドリゲスバレエスクール,青い鳥バレエ団モトシマエツコ研究所,横倉明子クラシックバレエ教室,永井与志枝バレエスタジオ,金丸明子バレエスタジオ,エコール・ドゥ・ハナヨ・バレエ


ラ・フォル・ジュルネ金沢でバレエを上演するのは、今回が初めてです。OEKfanとしても,これはチェックしないわけにはいかないですね。演奏は、天沼裕子さん指揮の大阪交響楽団(前の名前は大阪シンフォニカー)で,演奏されたのは,「白鳥の湖」のハイライトでした。

公演の長さは、「ラ・フォル・ジュルネ」標準の45分程度で、次から次へと色々な踊りが出てきましたので、誰が見ても、全く退屈しなかったのではないかと思います。黒鳥による32回転のフェッテなど、大いに盛り上がりました。子供たちも含んだ,地元のバレエ団の群舞などもそれぞれに楽しめました。

「32回転」については,王子と黒鳥によるグラン・パ・ド・ドゥの形式になっていましたが,やはりこの形はオペラのアリアを聞くような感じで,見ごたえがありました。今回は,地元のバレエ団に属している,加登美沙子さんという方が黒鳥を踊っていましたが,こんなに見事に踊ることができるダンサーが金沢にもいるんだと感心しました。相手の王子役は,今回のバレエマスターも務めたアリエル・ロドリゲスさんでした。こちらの方も黒鳥に負けない,高速回転など生きの良い踊りを見せてくれました。

ただし、今回のハイライトは、オディール(黒鳥)が中心になっていたこともあり,一般的に白っぽいイメージのある「白鳥の湖」とちょっとイメージが違ったかもしれません。「4羽の白鳥の踊り」とか、「オデットと王子のグラン・パ・ド・ドゥ」とか、白鳥たちによるコール・ド・バレエとか,それとフィナーレも見たかった...そうなると全曲になってしまいますね。

第1部と第3部は見られなかったのですが,公式フェイスブックなどで公開された写真を見てみると,大変楽しそうな雰囲気が伝わってきます。今後も”バレエ版ラ・フォル・ジュルネ”的な企画があると楽しそうだと思いました。ただし,有名なバレエ作品がいちばん多いのは,やはりロシア音楽なので,「今回ならでは」と言えるのかもしれませんね。

バレエの日の立看板
行ってみたら,長い列ができていました。
開演前のホール内のようす。ピットは狭いので,打楽器とコントラバスは袖で演奏していました。

(2012/05/13)


音楽堂〜JR金沢駅の風景

















金沢駅の百番街も歓迎ムードいっぱい

音楽堂内は,本公演に備えて準備万端という感じでした。



どこに行ってもチラシが沢山おいてありました。