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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2012:ロシアの祭典
2012年5月3日(木・祝)
本公演1日目

Review by 管理人hs  
いよいよラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2012の本公演が始まりました。昨年は本公演が2日+αでしたが、今年は丸々3日ということで,聞きごたえたっぷりの内容です。

天候は思ったほど悪くはならず、午前中は晴れ間も見えていました。夕方頃からは小雨気味になったのですが,これぐらいの天候の影響はないようで,例年通り,石川県立音楽堂〜JR金沢駅周辺は多くの人で賑わいました。ただし、今年は鼓門下やその地下での無料イベントは行っていませんでした。その分、音楽堂のにぎわいの密度が高くなっていた気がしました。

私の方は,お昼の12:00以降,コンサートホールと邦楽ホールを往復する形で半日を過ごしましたが,せっかくなので少し早目に出かけ,無料のエリアイベントの様子を眺めてきました。




エリアイベント 11:00〜 金沢フォーラス6階KUUGOスクエア
チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」〜花のワルツ
ベジャール/映画「ドクトル・ジバゴ」〜ララのテーマ
チャイコフスキー/スラヴ行進曲
●演奏
金沢大学マンドリン・クラブ


まずは、金沢フォーラスの飲食店フロアのKUUGOスクエアに行ってみました。マンドリンの音は穏やかなので、下の階からは全く様子は分からなかったのですが、お客さんはとてもよく入っていました。軽やかな印象のあるマンドリンとロシア音楽は合うのだろうか?と聞く前は思っていたのですが、特に「ドクトル・ジバゴ」などは、バラライカを思わせる民族的な味があり、ぴったりでした。最後に演奏されたスラヴ行進曲は、冒頭のコントラバスの音から聞きごたえ十分でした。本公演でこの曲は演奏されなかったので(多分)、その意味でも貴重だったと思います。


←良い眺めの場所です。



【112】12:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 op.77
●演奏
庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団


オープニングコンサートには、神尾真由子さんが登場しましたが、それに続くように日本を代表する若手ヴァイオリニストの庄司紗矢香さんが登場しました。今回演奏されたのは、ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルとの共演による、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番でした。この曲は、昨年のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演で聞きそこなった曲だったので(ボリス・ベルキンさんが登場した回でした)、特に楽しみにしていた公演でした。

曲はまず、オーケストラの暗い響きで始まった後、庄司さんのヴァイオリンが入ってきます。落ち着きと緊張感に満ちた響きが息長く続き、この曲の持つ、深い世界に一気に引き込まれました。オーケストラにもくすんだ響きがあり、底知れぬ迫力を感じました。

第2楽章は一転して激しい響きになりました。庄司さんのヴァイオリンにはたくましさがあり、一人でオーケストラに立ち向かうような凛とした気迫を感じました。鮮やかな赤いドレスを着た庄司さんの演奏からは、常に芯の強さが伝わって来ました。また、中間部での野蛮な感じすらする響きは、「さすがロシアのオーケストラ」という迫力でした。

第3楽章は再度しっとりとしたムードに戻ります。ここでも息の長い緊張感が維持されていました。カデンツァの部分は、華麗に技巧を聞かせるというよりは、意味深なモノローグといった趣きがありました。最終楽章は、スピード感たっぷりの開放感がありました。深さと同時に名技性を楽しめる見事な演奏だったと思います。

昼間聞くには、「重すぎ」「渋すぎ」といった曲ではありますが、改めて庄司さんの素晴らしさを実感しました。庄司さんの演奏は、毎回素晴らしいのですが、今回の演奏は特にすばらしかったと思います。それにしても、ヴァイオリニストにとっては大変な曲です。

続いて、邦楽ホールに移動しました。




【122】13:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
カトワール/4つの小品op.12〜第1番,第2番,第3番
レビコフ/秋の夢,ミニアチュールのアルバムop.8〜「悲しみの時」「忍耐」
プロコフィエフ/年をとった祖母の物語 op.31
スクリャービン/10のマズルカop.3〜第2番,第3番,第5番
チャイコフスキー/12の小品op.40〜第6番,第10番
チャイコフスキー/「四季」op.37bis〜1月「炉端にて」,2月「謝肉祭」
●演奏
アンヌ・ケフェレック(ピアノ)


アンヌ・ケフェレックさんといえば、LFJKの常連です。「毎年1回は聞かねば」と思い、このリサイタルを選びました。演奏されたのは、比較的な穏やかな作品を中心としたピアノ小品集でした。初めて聞く作品ばかりでしたが(特にカトワールとかレビコフは作曲者名自体聞くのが初めてでした)、どこか懐かしくなるような曲ばかりでした。ケフェレックさんの演奏には気負ったところは全くなく、脱力した温かさがあり、気持ちよく音楽に浸ることができました。

スクリャービンの作品は、若い時の作品ということもあり、ショパンの曲を思わせる流れの良さがありました。抑えた悲しみが心地よく響く作品でした。

最後は、チャイコフスキーの曲で締められました。op.40の第10番は聞いたことのある作品でした。可愛らしさと激しさが共存するとても良い曲だと思いました。最後は「四季」の中の2月「謝肉祭」で華やかに締めてくれました。

ケフェレックさんのピアノはそれほどスケールは大きくなく、フォルテの音はちょっと硬いかなと感じましたが、穏やかな小品を積み重ね、全体としてしっかりとした聞きごたえを残してくれるのはさすがだと思いました。曲間の拍手は全く入らなかったのですが、そのこともあり、とてもまとまりのよい公演になっていました。




【113】14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調op.74「悲愴」
●演奏
西本智実指揮台北市立交響楽団


人気指揮者の西本智実さんが登場することもあり、台湾市立響による、チャイコフスキーの「悲愴」の公演は、超満員のお客さんでした。私自身、西本さんが指揮するフル編成オーケストラを聞くのは今回が初めてでした。

「悲愴」を実演で聞くのも久しぶりのことでしたが、オーケストラの響きの方は、「悲愴」にしては、やや明るく、西本さんの”見た目”とあわせ、「華麗なる悲愴」といった趣きがありました。テンポもそれほど遅くはなく、全体にさらりとした明快さがありました。特に金管楽器の鳴り方が華やかで、展開部など気持ち良さを感じるほどでした。

その他の楽章についても、暗い緊迫感よりは、開放感がありました。第3楽章の後には、予想通り(?)盛大な拍手も入りました。「お祭り」の中で聞くには、暗すぎるよりも良いのかな、という気はしました。西本さんの大きなモーションの指揮は、曲に備わっているスケールの大きさにはぴったりでしたが、第4楽章などでは、もう少し精妙さが欲しいかなと感じました。

第4楽章の後の拍手は、完全に音が消えきらないうちにパラパラと始まりましたが、すぐに消え、そしてしばらくして、本格的に拍手が始まりました。第3楽章の後の拍手も含め、この曲を初めて実演で聞く人が多かった印象でした。




【123】15:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
チャイコフスキー/弦楽四重奏曲第1番ニ長調op.11
ボロディン/弦楽四重奏曲第2番ニ長調
(アンコール)ボロディン/スペイン風セレナード
●演奏
プラジャーク弦楽四重奏団


プラジャーク弦楽四重奏団によるチャイコフスキーとボロディンの弦楽四重奏曲の組み合わせは、CDどでは時々見かける「定番」のカップリングですが、金沢でこれらの曲を実演を聞く機会は多くありません。プラジャーク弦楽四重奏団は、「渋い男性4人」の編成でしたが、音の方にもちょっとくすんだような響きがあり、聞いていて、懐かしさを感じました。すっかり気に入りました。

チャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番は、第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」だけが特に有名ですが、他の楽章も魅力的な作品です。第1楽章からしっかりコントロールされた緻密な音の組み合わせを楽しむことができました。「アンダンテ・カンタービレ」には、訥々と語る民話のような味わい深さがありました。第3楽章には、シューベルトの曲を思わせるような可愛らしい哀愁が漂っていました。第4楽章にも古典的なまとまりの良さがありました。曲全体に、機械的ではない手作りの良さが感じられるのが素晴らしいと思いました。

ボロディンの方は、第1楽章の冒頭部から大変ロマンティックで、親しみやすさを感じました。その中に節度と品の良さがありました。第3楽章の「ノットゥルノ」は、特に有名な楽章です。この楽章のメロディは、大昔、NHK-FMのクラシック音楽の番組のテーマ曲として使われていたこともあり、懐かしさを感じました。チェロからヴァイオリンへと受け渡される熱い歌は本当に魅力的でした。

両曲とも、渋くじっくりと聞かせてくれながら、程よい甘さも味わわせてくれる名人芸といった演奏だったと思います。アンコールでは、ボロディンの小品が演奏されました。



【114】16:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ショスタコーヴィチ/交響曲第12番ニ短調 op.112「1917年」
●演奏
井上道義指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団


このところの井上道義さんは、ショスタコーヴィチの交響曲演奏を「生きがい」にしているようなところがあります。今回のウラル・フィルとの第12番の演奏もその気迫が伝わってくる素晴らしい演奏でした。今回のLFJKの中でも特にインパクトの強い「圧倒的」と言っても良い演奏だったと思います。

ショスタコーヴィチの曲については、「曲の裏」を読みながら聞く「楽しみ」もありますが、この日の演奏では、ウラルフィルの打楽器パートを中心とした、破壊力抜群の響きに、「曲の裏」など何も考える暇もなく、曲の勢いに呑み込まれてしまいました。

基本的に曲の冒頭に出てくるモチーフが、変奏曲のように何回も何回も繰り返し出てくる曲でしたが、4つの楽章それぞれに変化が付けられており、全く退屈しませんでした。ショスタコーヴィチの交響曲の中でも、第5番に匹敵するぐらい「分かりやすい」作品だと思いました。

中間の第2楽章、第3楽章(いずれもインターバルなしで連続的に演奏されるのですが)は、比較的静かな楽章で、両端楽章の華々しさと鮮やかなコントラストを作っていました。両端楽章では、何よりも5人の打楽器奏者たちが一丸となって作り出す迫力が印象的でした。ショスタコーヴィチならではの疾走しながら爆発するような雰囲気がたまりませんでした。それに金管楽器群がこれでもかこれでもかと加わり、クライマックスの上にさらにクライマックスが重なるような、すごい迫力がありました。それでいてしつこくなりすぎず、伸びやかさな気持ち良さを感じさせてくれるのが、井上さんらしいところです。

終演後、井上さんはとても嬉しそうな表情をしながら、オーケストラをたたえていました。井上さん自身も大満足という演奏だったのではないかと思います。金沢で演奏されるのは、(恐らく)今回が初めての曲ということで、会場はさすがに満席にはなりませんでしたが、井上さんの挑戦は大成功だったと思います。


邦楽ホール前のやすらぎ広場でもいつも何かやっていました。響敏也さんがトークをしていました。



【144】17:00〜17:30 交流ホール
ハチャトゥリアン/バレエ音楽「仮面舞踏会」〜ワルツ
ショパン/?
ハチャトゥリアン/バレエ音楽「ガイーヌ」〜剣の舞
チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」〜花のワルツ
●演奏
デュオ・グレイス(高橋多佳子,宮谷理香(ピアノ))


交流ホールの「八角形」のステージ上で行われる公演については、有料公演の半券があれば、ふらりと入れるというのが、LFJKの楽しみでもあります。ショスタコを聞いた後、フラフラと聞きに行ったのが、高橋多佳子さんと宮谷理香さんによるデュオ・グレースのステージでした。途中から聞いたのですが、非常に楽しいステージでした。お二人は、何と美しい振り袖姿で演奏されていました。赤い八角形ステージの上で着物を着た女性二人が「剣の舞」を連弾で演奏する、というのはLFJKならではでしょう。

「花のワルツ」では、オーケストラ版でハープのカデンツァになる部分で、暇になった(?)宮谷さんがピアノから立ち上がり、花びらに見立てた紙片を扇子で扇いで紙吹雪にするという素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。これは大受けでした。お祭り気分をしっかり盛り上げてくれました。ピアノ連弾だけではなく、金沢弁ネタなど、お二人によるトークのやりとりも息がぴったりで、超満員のお客さんは大喜びでした。この二人は、新しいLFJK名物になるかも?と思わせる楽しいステージでした。

ちなみに、このお2人ですが、本公演2日目に、連弾ではなく、2台のピアノによる演奏を行うことをPRされていました。「連弾だと、正直言って、相手がジャマ。2台だとノビノビ弾けます」といったトークも受けていました。その効果もあり、翌日の公演は完売になっていたようです。
宮谷さんと高橋さんの公演の様子。大変大勢のお客さんが入っていました。

JR金沢駅コンコースでも一日中何かやっていました。通りかかるたびに撮影したものです。
小松明峰高校吹奏楽部

金沢大学マンドリンクラブ
相良容子さんのピアノ。チャイコフスキーの「四季」を演奏していました。
駅にも作曲家像がいました。 夜になるとステージの上にしまわれていました。



【115】18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)チャイコフスキー/バレエ組曲「眠りの森の美女」〜ワルツ,パ・ダクション
2)ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調 op.18
3)(アンコール)ラフマニノフ/前奏曲嬰ハ短調op.3-2「鐘」
●演奏
アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)*2-3
ドリアン・ウィルソン指揮台北市立交響楽団


この日最後に聞いたのは、アンドレイ・コロベイニコフさんと台湾市立響によるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番でした。「ロシアの祭典」には不可欠の作品ということで、しっかり聞いてきました。人気作品ということで、この公演も超満員でした。

この曲についても、西本智実さん指揮の「悲愴」同様、オーケストラの響きは、明るく感じましたが、ラフマニノフの場合、映画音楽的な部分もありますので、非常に大変心地よく感じました。コロベイニコフさんのピアノについては、圧倒的なスケール感というよりは、第2楽章などの抒情的な部分で、ぐっと内向していくような雰囲気が印象的でした。第3楽章での、粘着するようなたっぷりとした歌いっぷりもコロベイニコフさんらしいと思いました。

アンコールでは、これもまた、浅田真央のフィギュアスケート用の曲としてすっかり有名になった「鐘」が演奏されました。曲の最初から高級感のある音がたっぷりと響き、ホールはラフマニノフ一色になりました。曲の最後の部分で、重厚な和音が楽々と連続して演奏される部分などは、まさに「圧巻」でした。

ラフマニノフの前に、チャイコフスキーの「眠りの森の美女」の音楽が2曲演奏されましたが、これも素晴らしい演奏でした。オーケストラが非常によく鳴っており、明快な響きに浸るだけで幸せでした。特に各曲のクライマックスでの金管楽器の鳴りの良さは、「お見事」という感じでした。



本日の締めは、音楽堂前広場(カチューシャ)での、カピタン・ロシア民族アンサンブルのパフォーマンスでした。

19:45〜 石川県立音楽堂前広場
ステンカラージン
黒い瞳
2人のダンス
赤いサラファン
すずらん
アムール川
カチューシャ
●演奏
カピタン・ロシア民族アンサンブル


演奏会が全部終わった後、このスペースでダラダラと過ごすのもラ・フォル・ジュルネらしい感じです。今日は寒かったせいか、アンコールはなかったのですが、おなじみのロシア民謡を次々と歌ったり演奏したりして、気分を盛り上げてくれました。
かなり寒かったのですが,名残を惜しむお客さんが大勢集まっていました。
(2012/05/12)








おなじみのヴォルトバさんの絵はがきコーナー




書籍販売コーナー


お馴染みLFJKのクリームパン


今年初登場の「熱狂のピロシキ」


金沢オリジナル商品が展示されていました。


熱狂のピロシキを買ってみました。公演が終わるたびに1個食べていました。金沢の有料亭等によるコラボ商品です。


JR金沢駅前の看板。→で音楽堂へ誘導











1日中,こんな感じ




写真がみるみる増えていっていました。


チケット・ボックス前


演奏曲名が縦書きに掲示されていたのが新鮮。メニューのようでした。


地下のプレスルーム



音楽堂前は,公演が終わるたびに賑わっていました。