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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2012:ロシアの祭典
2012年5月5日(金・祝)
本公演3日目

Review by 管理人hs  
雨の中,ラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)2012の本公演2日目を聞いてきました。過去5年間,終わった途端雨になったことはありますが,これだけ1日雨が降っていたのは,LFJK史上初めてかもしれません。しかもかなり寒い一日になりました。

しかし,石川県立音楽堂は今日も多くのお客さんで賑わっていました。音楽堂の公演で完売になったものはなかったようですが,個人的には「当日,ふらっと出かけても聞けるラ・フォル・ジュルネ」で良いと思っているので,「ほとんど完売」ぐらいがベストではないかと思っています。

まず、「朝一」で、交流ホールで行われた福島県立郡山高校合唱部によるロシア民謡集を聞いてきました。
 
交流ホールに行く前に,コンサートホール前に行って,プラメネ・マンゴーヴァさん独奏のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の最終楽章の様子をモニターで見てきました。ものすごく速いスピードで演奏していました。



【241】11:00〜11:45 石川県立音楽堂交流ホール
1)ともしび
2)カリンカ
3)トロイカ
4)ポーリュシカ・ポーレ
5)モスクワ郊外の夕べ
6)ヴォルガの舟歌
7)(アンコール)信長貴富/こころようたえ
●演奏
菅野正美*1-2,4-7;池辺晋一郎*3指揮福島県立郡山高校合唱部,棒田美江(ピアノ)*1-6


福島県は、非常に合唱のレベルが高い地域ということもあり、今回登場した、福島県立郡山高校合唱部の演奏も見事でした。指揮の菅野先生の話によると、1日3回練習しているとのことです。透明感のあるピシッと揃った演奏からも練習量の豊富さを実感できました。何よりも、ひたむきさがダイレクトに伝わってくるのが感動的でした

歌われた曲は、有名な曲ばかりでしたが、全曲暗譜&ロシア語での歌唱というのは驚きでした。「カリンカ」などでは、途中,ソロも出てきましたが,いずれもしっかりと歌われており、耳に強く声が飛び込んできました。

指揮の菅野先生と司会をされていた池辺晋一郎さんは、旧知の間柄ということもあり、3曲目の「トロイカ」では、司会の池辺晋一郎さんが指揮をされました(「トロ」「イカ」ということで、この曲はおいしそうです...と相変わらずの”舌好調”でした)。池辺さん自身が言われていたとおり、池辺さんと菅野さんは目の辺りなどとてもよく似ていらっしゃいました。

途中、カピタン・ロシア民族アンサンブルの通訳のエレナさんが登場し、彼らの歌を「素晴らしい」と褒めていらっしゃいました。歌いなれたカピタンの人たちにとっては、かえって、非常に新鮮に響いたのではないかと思います。

アンコールでは、ロシア民謡を離れて、東日本大震災が起こったため、信長貴富さんに作曲を委嘱したにも関わらず、初演できなくなってしまった「こころようたえ」というア・カペラの作品がうたわれました。「歌を歌いたい」「歌えてうれしい」という気持ちがしっかり伝わってくる素晴らしい歌でした。

演前の様子。地元の高校生も沢山いました。
午後からは,邦楽ホール前のやすらぎ広場でも公演を行っていました。

続いて、コンサートホールに移動しました。




【212】12:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)グリンカ/幻想曲「カマリンスカヤ」
2)リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲op.34
3)チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲op.33
●演奏
山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),アンリ・ドマルケット(チェロ)*2


この日は,オーケストラ公演の方は,山田和樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のこの公演だけしか聞きませんでした。OEKは前日の午前中、東京で公演を行っていましたので、毎年のことながら、大変ハードなスケジュールです。

演奏の方は、昨日聞いた,二つのフル編成オーケストラに比べても,充実感は全く劣りませんでした。グリンカの「カマリンスカヤ」という曲を聞くのは初めてでしたが、素朴な感じの親しみやすい作品でした。続くスペイン奇想曲も堂々たる演奏でした。コントラバスが4本編成になっていたこともあり重厚なビート感を感じました。

この曲は、まず冒頭のクラリネットにまず注目していまいます。このところOEKには、エキストラで元NHK交響楽団の横川晴児さんが参加しており、今回も鮮やかな音を聞かせてくれました。続くヴァイオリンソロは、サイモン・ブレンディスさんで、こちらもじっくりと聞かせてくれました。その他にもソロが満載の曲なので、OEKファンには特に楽しめる演奏だったと思います。山田さんは、OEKをしっかりコントロールしながら、強く熱い音楽を引き出していました。

アンリ・ドマルケットさんの独奏による「ロココ変奏曲」も素晴らしい演奏でした。4月に若い韓国の女性チェリストとの共演で聞いたばかりの曲でしたが、やはり、ドマルケットさんの方が一枚上手だと思いました。何よりも、透明感のある音色が素晴らしく、曲全体にスマートさとセンスの良さがありました。たっぷりと歌う部分と自由に羽ばたく部分のメリハリも効いており、一気に聞かせてくれました。



【222】13:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第1番ヘ短調,op.80
チャイコフスキー/瞑想曲ニ短調 op.42-1
●演奏
ドミトリ・マフチン(ヴァイオリン),エカテリーナ・デルジャヴィナ(ピアノ)


ドミトリ・マフチンさんの演奏は、FJKの1年目にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの演奏を聞いたことがあります。演奏を聞くのはその時以来です。今回演奏されたプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番は、いしかわミュージック・アカデミー関連の演奏会で聞いたことがありますが、独特のムードをもった聞きごたえのある作品です。

マフチンさんの音はしっかりとした硬質な感じで、第1楽章後半などでは寒気が漂うような不気味な雰囲気を出していました。ピアノのエカテリーナ・デルジャヴィナさんの演奏を聴くのは初めてのことですが、しっとりとした美しさがにじみ出るような演奏は、演奏をさらに魅力的なものにしていました。

スケルツォ風の楽章での堂々たる押し出し、抒情的な部分でのさらりとした怪しさ、終楽章でのエネルギッシュな演奏と大変バランスの良い音楽を聞かせてくれました。

チャイコフスキーの作品は、もともとヴァイオリン協奏曲の第2楽章用として構想された曲ということもあり、甘さと静謐さがミックスした美しい音楽をリラックスして楽しむことができました。プロコフィエフの方が聞きごたえたっぷりでしたので、アンコールのような感じで楽しむことができました。




【213】14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ショパン/ノクターン第13番ハ短調op.48-1
ラフマニノフ/ピアノソナタ第2番変ロ短調op.36
バラキレフ/イスラメイ(東洋風幻想曲)op.18
●演奏
イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)


続いては、この日の目玉、というよりは、LFJK2012の目玉と言っても良い、ピアノのイーヴォ・ポゴレリッチさんの公演です。この公演も大変よくお客さんが入っていました。私としては珍しく1階のかなり前の方の席を取ってしまったのですが,その存在感に圧倒され通しでした。

プログラムは、当初2曲だけだったのですが、最初になぜかショパンのノクターンが追加されました。館内の掲示には、op.9-2と書いてあったので、「ああ、あの有名な曲か?なぜまたこの曲?」と待ち構えていたのですが、始まってみると、別の曲でした。あまりにも遅いテンポで演奏されたので、何かラフマニノフの前奏曲を聞いているように感じてしまいました。この公演自体、拍手もはばかられるような緊張感とどこか儀式めいた雰囲気がありました。ポゴレリッチのピアノの音には、透徹した明晰さと強さがあり、この公演全体への堂々たるプレリュードになっていました。

ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番へは拍手で中断されることなく、そのまま連続して演奏されました。こちらも大変遅いテンポでした。硬質のクリアなタッチで演奏されていたので,大理石で出来た巨大なオブジェをステージ上にズシッっと呈示されたように感じてしまいました。もともとCDでもほとんど聞いたことのない曲だった上、テンポが非常に遅かったで,音楽の流れもよく分からなくなり、「一体,今は何時?」「一体何の曲を演奏をしている?」という感じになっていましました。

ただし,ラフマニノフの最終楽章や最後に演奏されたイスラメイなどでは,凄まじく強く勢いのあるタッチで演奏をしていました。そのコントラストには狂気じみたところがあり、それが、演奏全体を個性的なものにしていました。

正直なところ,ポゴレリッチだけにしか許されない演奏で,その点で賛否が分かれる演奏だったと思います。「大きなものを近くで見過ぎた」という感じで,曲の全体像をつかみきれないようにも感じてしまいました。演奏時間も予定の45分を大幅にオーバーし(ただし、遅れることは想定内だったと思いますが),約1時間かかっていました。公演が終わった後は、「疲れた!」というの正直なところでした。

その後,再度邦楽ホールに移動し,プラメナ・マンゴーヴァさんのピアノを聞いてきました。ポゴレリッチさんの公演の影響で,以後,音楽堂の公演は、全部10分遅れになってしまいました。大変ご迷惑な話ではありますが、これもまた、何が起こるか分からないLFJKの面白さの一つだと思います。

交流ホールでは,北陸のジュニアオーケストラの公演を行っていました。コントラバスの岡本潤さんと指揮者の鈴木織衛さんが共演しているようですね



【223】15:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
グバイドゥーリナ/シャコンヌ
チャイコフスキー/「四季」 op.37bis〜10月「秋の歌」
チャイコフスキー/ドゥムカ op.59
ショスタコーヴィチ/24の前奏曲 op.34〜第1, 2, 5, 3, 6, 13,14, 10, 16, 17, 21, 20番
(アンコール)ラフマニノフのピアノ曲(?)
●演奏
プラメナ・マンゴーヴァ(ピアノ)


マンゴーヴァさんの演奏ですが,ポゴレリッチを聞いた後だと,音楽が自然に流れていくので,大変気持ち良く聞くことができました。最初に演奏されたグバイドゥーリナの曲など、かなり現代的な作品なので、通常ならばそれほどスムーズに聞けない気もしますが、古典を聞くように楽しめました。音楽が生きていました。

これは、やはりマンゴーヴァさんによる余裕たっぷりの演奏の力によると思います。マンゴーヴァさんは、非常に立派な体格な方ということもあり、どの曲も楽々と演奏しているように見えました。実際に素晴らしいテクニックの持ち主なのだと思います。ピアノの音も大変瑞々しく、「言うことなし」という安心感がありました。

プログラム後半では、ショスタコーヴィチの24の前奏曲の抜粋が演奏されました(24の前奏曲とフーガとはまた別の作品です。)。タイトルどおり、ショパンの前奏曲集と似たコンセプトの作品ですが、今回は、マンゴーヴァさんによって抜粋され、演奏曲順も一部変更されていました。

初めて聞く曲でしたが、現代的なムードの曲だけではなく、古典のパロディ的な曲があったり、短くシンプルな曲があったり、実に多彩でした。その多彩さが、実にショスタコーヴィチ的だと思いました。色彩感やピアノのタッチの変化も豊かで、ピアノ音楽の集大成のような面白さがありました。最後の第20は、圧倒的なタッチで演奏され、聞きごたえも十分でした。曲の面白さをゆがめずに伝える素晴らしい演奏でした。

これまで、ショスタコーヴィチのピアノ曲はあまり聞いたことはなかったのですが、この曲などは、機会があれば、是非また聞いてみたいものです。

アンコールに応えて、鮮やかさのあるピアノ曲が1曲演奏されましたが(ラフマニノフのピアノ曲のような感じでした)、マンゴーヴァさんのピアノには、力みのない自然体の安定感と強烈さとが同居しているのが素晴らしいと思いました。これからもLFJKの常連として再登場して欲しいピアニストの一人です。



【エリアイベント】16:00〜 JR金沢駅コンコース
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」から
ハチャトゥリアン/バレエ音楽「ガイーヌ」〜バラの乙女たちの踊り、剣の舞
ヴォルガの舟歌
カチューシャ
●演奏
石川県筝曲連盟


音楽堂の公演の合間を縫って、JR金沢駅コンコースで行われていた石川県筝曲連盟による演奏を一部だけ聞いてきました。

この団体もLFJKにはなくてはならない存在ですね。マンドリンの合奏の時も感じたのですが、筝の音は民族的な音楽にとてもよく合うと思いました。ただし、「剣の舞」などは、聞いているうちに、普通はおしとやかにしている女性が長刀などを持って、賊を追い回しているような光景を思い浮かべてしまい、なかなかユーモラスでした。最後に、手拍子入りのカチューシャで締めとなりました。

こちらが金沢駅での公演
こちらは交流ホールでの公演(リハーサルかも?)



【224】17:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
チャイコフスキー/ピアノ三重奏曲イ短調 op.50「偉大な芸術家の思い出に」
●演奏
トリオ・ショーソン


続いて、LFJKの常連、ショーソン・トリオによる「偉大な芸術家の思い出に」を聞いてきました。この曲も、ロシアの室内楽作品の中では、”外せない曲”ですね。大変長い曲で、さすがに聞いていて疲れてきたのですが、彼らの演奏は、いつもどおり若々しく、正攻法の演奏をじっくりと堪能させてくれました。冒頭チェロの演奏するメランコリックな主題から魅力たっぷりでしたが、曲が進むにつれて熱気が増していくのが素晴らしいと思いました。最後の部分では、最初の部分が再現してくるのですが、その部分も感動的でした。




【235】18:30〜 金沢市アートホール
ストラヴィンスキー/3つのやさしい小品
ストラヴィンスキー/5つのやさしい小品
ストラヴィンスキー/春の祭典(四手ピアノ版)
(アンコール)ストラヴィンスキー/ペトルーシュカ〜ロシアの踊り
●演奏
リディヤ・ヒジャーク,サンヤ・ヒジャーク(ピアノ)


この日は、金沢市アートホールで行われたヒジャーク姉妹による「春の祭典」の連弾版で締めました。今年のLFJKのテーマは「サクル・リュス(ロシアの祭典)」で、「春の祭典」から取られたものです。今回、オーケストラ版で「春の祭典」が演奏されなかったのは残念でしたが、これは聞きのがせないとうことで聞いてきました。

「春の祭典」に先立ち、ストラヴィンスキーのピアノ連弾のための小品がいくつか演奏されました。ちょっと無機的で、シニカルな味のある小品集でしたが、打楽器的な要素もあったり、「春の祭典」に通じる部分もあると感じました。

「春の祭典」の方については、最初は、ついついオーケストラの響きを探しながら聞いてしまいましたが、曲が進むにつれ、ピアノ連弾用の独自の作品として楽しむことができました。ピアノで演奏されると、この曲の持つ打楽器的な要素がさらにクリアに強調されるように感じました。非常にスカッとした明快な演奏になっていました。変拍子などもくっきりと演奏されており、デジタル処理されたような面白さがありました。

それにしてもヒジャーク姉妹の演奏は鮮やかでした。アートホールのような狭い空間で、ピタリと揃ったピアノの音を聞くのは、迫力も満点でした。アンコールに応えて、「ペトルーシュカ」の中の「ロシアの踊り」が演奏されましたが、こちらもピタリと息の合った、生き生きとした演奏でした。私の近くの座席に居た子供が、このアンコール曲になった途端、嬉しそうに体を動かし始めましたが、これはやはり「のだめカンタービレ」効果の余韻かもしれませんね。
今年のLFJKでアートホールに行ったのは,この公演だけでした。
この日は、ずっと雨が降っていましたので、そのまま音楽堂の方には戻らずに帰宅しました。

音楽堂には,交流ホールで行われるクロージングコンサートのポスターも出始めていました。いよいよ最終日になります。
(2012/05/12)




ANAクラウンプラザホテル1階のステージアクアでは,青島広志さんとピアノの平野加奈さんによる公演を行う準備をしていました。


定点観測のような感じですが,朝から賑わっていました。