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Kremerata meets OEK:クレメラータ・バルティカとオーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーによる室内楽コンサート
2013年1月14日(月祝)19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)ロッシーニ/弦楽のためのソナタ第3番ハ長調
2)メンデルスゾーン/弦楽五重奏曲第2番変ロ長調,op.87
3)モーツァルト/弦楽四重奏曲第3番ト長調,K.156
4)ゲルゴタス/To the skies 独奏ヴァイオリンと弦楽のための
5)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調K.364(弦楽六重奏版)
6)ナイマン/Trysting Fields
●演奏
クレメラータ・バルティカメンバー(アグネ・ドヴァイカイデ(ヴァイオリン*2,4-6),ダニイル・グリシン(ヴィオラ*2,4-6),ダニエリス・ルビナス(コントラバス*1,4-6))
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(ヴォーン・ヒューズ*1,3-6,若松みなみ*1-4,6(ヴァイオリン),丸山萌音揮(ヴィオラ*2-6),ソンジュン・キム(チェロ)))
Review by 管理人hs  

成人の日を含む3連休の最終日の夜...ということで心理的には少々出かけにくい時間帯だったのですが, オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の公演に頻繁にエキストラとして参加しているクレメラータ・バルティカ(KB)のメンバーがOEKの弦楽メンバーと共演する室内楽公演が行われたので出かけてきました。雰囲気としては,「OEK室内楽シリーズ:もっとカンタービレ」シリーズの追加公演のような感じで,OEKのヴァイオリン奏者のヴォーン・ヒューズさん主催となっていました。

演奏会に登場したのは,KB+OEKの合計7名で,5曲が演奏されました。曲ごとに編成が異なり,四重奏,五重奏,六重奏,七重奏が並ぶ大変面白いプログラムの演奏会となりました。

演奏された曲の中では,やはりKBメンバーが加わったメンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第2番とモーツァルトの協奏交響曲変ホ長調K.364(弦楽六重奏版)が特に素晴らしい演奏でした。

最後に演奏された協奏交響曲は,ヴァイオリンのアグネ・ドヴァイカイデさん,ヴィオラのダニイル・グリシンさんの強力ツー・トップの迫力のあるソロにOEKの若手メンバーがしっかりと喰らいついていくような演奏でした。

この曲は元々は管弦楽と独奏ヴァイオリンと独奏ヴィオラのための作品ですが,それを,どなたかが弦楽六重奏版に編曲したというものです(編曲者不詳のようです)。CDではラルキブデッリという古楽器の室内アンサンブルが演奏したCDがありますが,実演で演奏される機会は非常に珍しいのではないかと思います。

この日の演奏は,独奏ヴァイオリンとヴィオラを中心として,楽章が進むにつれて演奏が白熱していく,ライブならではの演奏でした。この曲については,ギャラント・スタイルの優雅な作品というイメージを持っていたのですが,交流ホールで聞いたこともあり,オーケストラ伴奏版で聞く以上の迫力を感じました。特にヴィオラのグリシンさんは,見た目どおりの迫力でした。ヴィオラらしからぬ(?)非常に輝かしい音を聞かせてくれました。

第1楽章の冒頭部はかなり重厚な気分で始まり,コントラバスのどっしりとした音が濃いアクセントなっていました。ドヴァイカイデさんのヴァイオリンには,どこかゴツゴツとした感じがあり,心なしかギドン・クレーメルさんの奏法を思わせるような雰囲気もありました。その後はこのお2人にOEKメンバーも加わって,丁々発止という感じで音が飛び交い,エネルギーに溢れた,生き生きと音楽が進んでいきました。低弦のお2人以外は,全員立って演奏していたので,その点でも躍動感を感じました。十分に間を取って始まったカデンツァでの「じっくりと聞かせる演奏」も流石でした。

深い響きをたっぷりと聞かせてくれる第2楽章に続き,大変流れの良い第3楽章になりました。ここでも各奏者による,自由自在の自発的な表現が素晴らしく,大変ノリの良い,エネルギーに溢れた演奏を聞かせてくれました。

前半の最後に演奏されたメンデルスゾーンの五重奏曲も大変聞きごたえがありました。第1楽章は,有名な弦楽八重奏曲を思わせるところがあり,最初の弦の刻みから精気と緊迫感に溢れていました。どの部分も魅力的でしたが,楽章終盤にグイーンと盛り上がる感じがいかにもメンデルスゾーンらしいと思いました。第2楽章は対照的にほの暗い感じがありました。浮遊感のあるメヌエット風の楽章で,他の楽章と見事なコントラストを作っていました。

第3楽章は今回の演奏の白眉だったと思います。底知れぬ深みを感じさせてくれました。この楽章は,メンデルスゾーンらしからぬ(?)表情の濃さが印象的で,この日の演奏からは曲の隅々までしっかりと染み渡るような情感が伝わってきました。しかもセンチメンタルな弱さはなく,音楽の立派さだけが伝わって来ました。そのことが感動的でした。

第4楽章では,第1楽章に対応するような力感のある演奏でした。ヴァイオリンのドヴァイカイデさんとヴィオラのグリシンさんを中心に,各パートがしっかりと主張し合うような演奏で,躍動感と同時に堅固さを感じさせてくれました。この演奏に参加した,OEKの若手メンバーも大変刺激になったのではないかと思います。

これまで聞いてきた「もっとカンタービレシリーズ」の中でもそう思っていたのですが,メンデルスゾーンの室内楽というのは,もっと注目されても良いのではないかと思います。そのことを再認識させてくれるような素晴らしい演奏でした。

OEKのメンバーが中心となった,ロッシーニの弦楽のためのソナタ第3番,モーツァルトの弦楽四重奏曲第3番もそれぞれ良い演奏でした。KBメンバーが加わった演奏での柄の大きさに比べると少しインパクトが弱かったかもしれませんが,衒いのない素直な美しさは,両曲の気分にもピッタリでした。

ロッシーニの曲は,ヴァイオリン2とチェロとコントラバスという独特の編成で,以前から大好きな曲です。低弦のお2人は力強い響きをどっしりと聞かせたり,途中でテンポを揺らしたり,リラックスしたムードたっぷりで曲の表情を豊かなものにしていました。。モーツァルトの弦楽四重奏曲第3番では,中間楽章での深みのある響きが特に印象的でした。良い曲だなぁと思いました。

もう1曲,ゲルゴタスという作曲家のTo the skies という曲も演奏されました。とても短い曲でしたが,7人全員が揃ったのはこの曲だけで,演奏に先立ってヒューズさんからメンバー紹介が行われました。

ヴァイオリンとヴィオラ奏者が順番に一人ずつソロを回していくような独特の曲で,どこか詩的な印象を残してくれました。歌うというよりはセリフを語っているようなムードがありました。人の声が一人ずつ違うように,各奏者の楽器の音がそれぞれ違っていたのも面白く感じました。

最後にアンコールで演奏された曲も,KBらしい選曲でした。とても気持ちの良い音の揺らぎが繰り返されるような曲で,「誰の曲だろう?ペルトの曲かな?それにしては分かりやす過ぎる?」などと思いながら聞いていたのですが,出口に貼ってあった掲示によるとマイケル・ナイマンの作品とのことでした。なるほどと納得しました。曲は最後の方で,ユニゾンで同じフレーズが繰り返されながら大きく盛り上がった後,フェードアウトしていきました。このナイマンの作品を色々と聞いてみたいなと思わせるような魅力的な演奏でした。

この日の公演は,OEKメンバーも会場で聞いていたり,楽友会メンバーがサポートしていたり,会場全体にとても暖かい雰囲気がありました。KBとOEKの交流もすっかり定着していますが,今回のような室内楽レベルでの合同公演を今後も期待したいと思います(もちろんKB全体の演奏も聞いてみたいですが)。今回の場合,まず何と言っても,意欲的な企画を考えてくれた,主催者のヒューズさんに拍手を送りたいと思います。
(2013/01/17)


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公演の案内

アンコールの掲示