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東芝グランドコンサート2013 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団演奏会金沢公演
2013年2月1日(金) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューマン/歌劇「ゲノフェーファ」序曲 op.81
2)プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調 op.63
3)(アンコール)バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜前奏曲
4)ブラームス/交響曲第4番ホ短調 op.98
5)(アンコール)ブラームス/セレナード第1番〜
●演奏
ヤニック・ネゼ=セガン指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
庄司紗矢香(ヴァイオリン*2)
Review by 管理人hs  

この時期恒例の,東芝グランドコンサート2013 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団演奏会が石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。外来オーケストラの金沢公演で,ブラームスの交響曲第4番が取り上げられることが,なぜかとても多いので,行こうかどうか迷っていたのですが,ロッテルダム・フィルを一度実演で聞いてみたかったことと,ヤニック・ネゼ=セガンという注目の指揮者は,今のうちに聞いておく方がお得かも(?)と思い聞きに行くことにしました。ネゼ=セガンさんの作る音楽は,非常に個性的かつスリリングで,聞いた後は「行ってよかった」と思いました。この公演まで,名前を知らなかった指揮者だったのですが,今後一層注目していきたいと思います。

前半まず,シューマンの歌劇「ゲノフェーファ」序曲が演奏されました。冒頭から憂いのある第1ヴァイオリンのしっとりとした音が瑞々しく響き,ネゼ=セガンさんの音楽性がしっかり伝わってきました。シューマンの作品ではホルンの見せ場が多いのですが,この曲でも冴えた響きを聞かせてくれました。曲は最後の部分で,グーッと盛り上がり,ティンパニがスカっと決まって終わりました。それほど長い曲ではありませんでしたが,生気のある,流れの良い音楽を聞かせてくれる指揮者だと感じました。

続いて,庄司紗矢香さんを独奏に迎えてのプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番が演奏されました。庄司さんの演奏でこの曲を聞くのは2回目のことです(前回は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にOEKの代理で出演した,ヴァシリス・クリストプロス指揮南西ドイツフィルハーモニー交響楽団との共演でした。)。

得意にしている作品ということで,第1楽章の最初のソロの部分から自信に満ちていました。ヴァイオリンの独奏でさらりと始まったのですが,しっかりと味が染みており,充実感がありました。第2主題になるとテンポがさらにもう一段遅くなり,オーケストラともども,濃厚な音楽を聞かせてくれました。ネゼ=セガンさんについては,後半でも同様に感じたのですが,若手指揮者としては意外なほどに濃い音楽を作る指揮者だと思いました。

第2楽章でも庄司さんのヴァイオリンは,派手になりすぎることありません。その中から,したたるような美しさを感じさせてくれました。オーケストラの楽器では,クラリネットの音が印象的でした。庄司さんと堂々と対抗するような艶やかな音をしっかりと聞かせてくれ,お見事でした。

第3楽章は,全体的にリズムが重すぎる印象を持ちました。この協奏曲については,過去OEKの定期公演で,いろいろなヴァイオリニストで聞いてきましたが,その印象が残っているからかもしれません。今回の演奏については,もう少しカラッとしたユーモアが欲しい気がしました。ただし,曲全体を通じてみると,巨匠が演奏しているようなスケール感たっぷりの演奏だったと思います。

アンコールでは,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の前奏曲が演奏されました。庄司さんの演奏は,プロコフィエフの第1楽章冒頭同様,さらりと演奏していながらも自然に情感が高まってくるような演奏でした。禁欲的な気分の中に哀感が漂うのが大変魅力的でした。

後半では,ブラームスの交響曲第4番が演奏されました。この日の楽器の配置は,この選曲を意識してか,コントラバスをステージの一番奥に一列に並べ,弦楽器は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを左右に分ける,「ブラームス時代のスタイル」でした。この配置のブラームスでは,過去,金聖響指揮OEKによる,「すっきり系」の演奏を聞いたことがありますが,ネザ=セガンさんの演奏は,対照的といって良いアプローチを聞かせてくれました。

第1楽章の冒頭から非常にロマンティックで熱い演奏でした。他の楽章でもそうだったのですが,緩やかな第2主題になると,さらに一層テンポを落とし,「マーラーか?」というような陶酔的な感じになります。しかし,それがドロドロとした感じにならず,どこかすっきりと爽やかな味があるのがネザ=セガンさんの持ち味だと思います。オーケストラも非常によく鍛えられている感じがしました。

その一方,各楽器の音が対位法的に絡み合う様子がしっかり聞こえてきたり,木管楽器の音がとてもくっきりとした強い音で聞こえてきたり,どの部分を取っても「一味違うな」という印象がありました。その点で,かなり癖のある演奏と言えるのですが,音楽の流れが良く,思い切りも良いので,嫌味なところが全くありません。大胆さと音楽の活きの良さを兼ね備えているのが,この指揮者の魅力だと思いました。楽章の最後のティンパニの強打も大変爽快でした。

第2楽章は,滑らかに始まった後,ここでも「じっくりと」「さらにじっくりと」という感じで音楽に浸らせてくれました。途中出てきたチェロの合奏をはじめとして,これだけ陶酔的な美しさを聞かせてくれるブラームスも少ないと思います。楽章最後の和音の響きの美しさも印象的でした。

第3楽章は,恐ろしいほどビシっと引き締まった一撃で始まりました。第2楽章と好対照で,ホールの空気が一瞬にして変わりました。その後の若々しいスピード感も魅力的でした。重苦しさがなく,響きが澄んでいるのも新鮮でした。第3楽章の音楽の勢いを維持したまま,ほとんど切れ目なく第4楽章に移行しました。この楽章では,次々と気分が変わっていく「生きた音楽」を聞かせてくれました。音楽は大きくうねり,変化に富んでいるのですが,しつこく感じさせません。

途中に出てくる聞かせどころのフルートのソロも強くアピールする高貴な美しさを持っていましたが,この部分だけが突出することはなく,楽章全体の流れの中にしっかりと収まっていました。そして,楽章が進むにつれて,うねりのある音楽に巻き込まれて行きました。コーダでは,ギアを一段切り替えて曲のテンポが上がり,ダイナミックスが変化しました。この切り替えが実にスリリングでした。最後の音は非常に力強く,スカっと締めてくれました。

盛大な拍手に応えて,ブラームスのセレナード第1番の中のスケルツォが演奏されました(かなり以前,OEKの定期公演で一度聞いたことのある作品です。)。ホルンの楽しげな響きが印象的な楽章で,ステージの雰囲気はリラックスした明るくのどかな気分に包まれました。

ロッテルダム・フィルの演奏を実演で聞くのは今回が初めてでしたが(私の記憶の中では,いまだにエド・デ・ワールトのオーケストラという印象です),素晴らしいコンビだと思いました。ネゼ=セガンさんの指揮にぴったりと反応していました。ネゼ=セガンさんは,CDの売れない時代にも関わらず,メジャーレーベルからCDを何枚も出されていますが,特にロッテルダム・フィルとの組み合わせは,これから特に注目なのではないかと思います。

PS. この日のお客さんの入りは,かなり寂しい感じでした。この点は少々残念でした。翌日にNHK交響楽団の金沢公演が控えており(こちらもブラームスがメイン),しかも入場料が安かったことが影響していたのかもしれません。
(2013/02/06)


関連写真集


公演の案内


この案内は東芝グランド・コンサートの時には毎回出ていますね。


アンコールの案内。

この日はネゼ=セガンさんのサイン会が行われました。

色紙がわりになっているのは,ロッテルダム・フィルの独自レーベルから発売されている,ベートーヴェンの「英雄」とR.シュトラウスの「死と変容」を組み合わせたCDです。顔の上に大きくサインをしていただきました。