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小松シティ・フィルハーモニック第14回定期演奏会
2013年2月3日(日) 14:00〜 こまつ芸術劇場うらら大ホール
シューマン/交響曲第1番変ロ長調作品38「春」
ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」序曲
レスピーギ/交響詩「ローマの松」 
(アンコール)リスト/ワーグナーの墓に
(アンコール)レスピーギ/組曲「鳥」〜前奏曲
●出演
野村幸夫指揮小松シティ・フィルハーモニック
Review by 管理人hs  

この日は,やや肌寒かったものの穏やかな天候になり,JR金沢駅から30分ほどローカル線に乗って小松市に行き,小松シティ・フィルハーモニックの第14回定期演奏会を聞いてきました。このオーケストラの定期演奏会は,ここ数年ずっと,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県内の学生オーケストラとの合同公演と同じ日だったので聞きに行けなかったのですが,今年はめでたく別の日になったので,特にメインで演奏された「ローマの松」を目当てに聞きに行くことにしました。その期待どおり,エキストラの金管楽器奏者を客席に入れての華やかで楽しい演奏を楽しませてくれました。

前半は,まずシューマンの交響曲第1番「春」で始まりました。後半に演奏されてもよさそうな曲ですが,最初に演奏しても,「春一番」といった気分になって良いですね。

第1楽章冒頭のファンファーレの音ですが,いつも聞いているものよりも音程が低く,「おや?」と思いました。プログラムの解説によると。シューマンのオリジナル版で演奏するとのことでした。「ちょっとテンション低目かな?」と感じてしまいましたが,そういう「こだわり」を聞かせてくれるのは大歓迎です。

演奏全体からは,カッチリとまとまった誠実さが感じられました。途中,速いパッセージを弾き切れていないようなところがあったり,ホールの響きも石川県立音楽堂と比べると残響が少ないので,全体にゴツゴツとした感じに聞こえました。ただし,そういったちょっと不器用な感じもまた,ドイツ風の素朴さ(勝手に推測して書いていますが)となって感じられました。第2楽章や第3楽章はやや穏やか過ぎるかな,という印象でしたが,第4楽章では春の到来を喜ぶような素直な明るさがあり,「春を待つ北国の小都市」といった気分にぴったりでした。

後半最初に演奏されたヴェルディの「ナブッコ」序曲は,今年生誕200年になるヴェルディにちなんでの選曲だと思います。ヴェルディの序曲といえば「運命の力」を思い出しますが,この曲も良い曲です。途中,イタリアの第2の国歌のようになっている有名なメロディも出てきますね。曲全体として,金管楽器のパリッとした響きが心地良く感じましたが,テンポアップする後半部分については,やや腰が重い感じでした。もう少し血沸き肉躍るような感じを期待していたので,ちょっと大人しいかなと思いました。

最後に演奏されたレスピーギの交響詩「ローマの松」では,第4曲の「アッピア街道の松」で,小松市立高校吹奏楽部のトランペットとトロンボーンが別働隊(バンダ)で加わっていました。私は今回2階席で聞いていたので,このバンダの登場を「今か,今か」と待ちかまえていたのですが,第1曲から聞きごたえ満点でした。何よりも,生で聞いて初めて分かるような,「そうだったのか」という部分が沢山あったのがあったのが収穫でした。

第1曲は,ハッとさせるようなキラキラ光るような軽やかな響きで始まりました。よく見ると,この部分ではコントラバスが演奏に加わっていませんでした。こういうことに気づくことができるのは実演ならではです。その他にも「ピアノやハープが結構活躍するんだ」とか,レスピーギのオーケストレーションを視覚的にも楽しむことができました。ちなみに,この日は,チェレスタはシンセサイザーで代用していたようでした。

第2曲は,第1曲と対照的にコントラバスで始まります。第1曲が高音中心,第2曲が低音中心というコントラストがしっかり実感できました。曲が進むにつれて,段々とスケールが大きくなり,第2曲の後半で,初めてオーケストラ全体の響きが出てくるようなワクワクさせてくれるような気分がありました。この第2曲では,舞台裏で演奏するトランペットの音が見事でした。古いローマをしのぶ,ノスタルジックな気分をたっぷりと楽しませてくれました。

第3曲でも最初の方に出てくるクラリネット独奏がじっくりと,デリケートな響きを楽しませてくれました。その後,段々と陶酔的な気分になってきます。1月にOEKの演奏で聞いたばかりのコルンゴルト風の味わいがあると思いました。楽章の最後の方では,ナイチンゲールの鳴き声がスピーカーから聞こえて来ました。これはレスピーギ自身のアイデアなのですが,今となっては「ちょっと効果を狙いすぎかな」といったところがあります。曲の他の部分から浮いているように感じられました(ここで「ホーホケキョ」とか流してみたらどうなるだろうか?などと変なことを考えながら聞いていました。)。

さてお待ちかねの第4曲です。低音楽器とピアノを中心とした着実に歩むようなリズムのの上にどんどん音が重なっていくのが何とも爽快でした。小松市立高校のバンダは,2階席の両サイドの桟敷席に待機していました。まず下手側のトランペットがミュートを付けて演奏,続いて,ミュートを外して演奏,そして,最後に上手側のトロンボーンも加わるという三段重ねの盛り上がりを聞かせてくれました。このホールはそれほど大きなホールではないので,この部分では,大音量でホールがいっぱいいっぱいに満たされていました。1階席で聞いていたら,音が頭の上から降ってくるような感じで,また違った印象だったかもしれませんね。オーケストラの楽器の響きの饗宴という感じになっていました。

この曲をオーケストラの演奏で聞くのは,今回が初めて(多分)だったのですが,実演で聞くと非常に演奏効果を楽しむことができる曲だと改めて実感しました。

この日,石川県では小松市立高校に在籍している山本雅也さんがローザンヌのバレエコンクールで3位に入賞したニュースを繰り返し伝えていましたが,その同じ高校の生徒さんが参加していたのも何かの縁かもしれません。山本さんの快挙を祝福するような爽快な演奏でした。

アンコールは2曲演奏されました。まず,2曲目に演奏されたヴェルディとバランスを取るように,今年が生誕200年になるワーグナーに因んだ作品が演奏されました。それが,リスト作曲の「ワーグナーの墓に」という作品でした。弦楽器と主体の静かな作品で,どこか「ローエングリン」の第1幕への前奏曲を思わせるような雰囲気がありました。もう1曲は,レスピーギの組曲「鳥」の第1曲でした。OEKの演奏でも何回か聞いたことのある作品ですので,ちょっと重いかなと感じましたが,鳥の鳴き声を模したようなフレーズが次々出てきてリラックスして楽しむことができました。

こまつ芸術劇場は,石川県立音楽堂並に駅から近いホールですので,今度またローカル線に乗ってのんびりと聞きに行ってみたいと思います。穏やかな日曜の午後,オーケストラを聞く喜びにしっかり触れることのできた演奏会でした。

■小松までの小旅行 写真集
ずっと金沢に住んでいながら,JR小松駅に降りたのは今回が初めてでした。その記念に,「小旅行」の写真をご紹介しましょう。
JR金沢駅からスタート。冬の北陸地方には珍しい好天でした。

もてなしドーム下には北陸新幹線を待ち望むタペストリー 金沢駅構内にいた,「レディ・カガ」の人形。前日,金沢公演を行っていたNHK交響楽団のメンバーの姿も見かけました。
石川県立音楽堂では子ども向けコンサートをやっていました。
12:30発小松行きに乗りました。 2両編成で,ボタンを押すと扉が開くタイプの列車でした。
最近,こういう「普通の切符」を買うことが珍しいので記念撮影 松任を過ぎた辺りでお客さんが少なくなったので,車内を撮影。長閑なムードたっぷりでした。 30分ほどして小松駅に到着。「勧進帳のふるさと」ですね。
というわけで,駅前にも勧進帳の弁慶と富樫の銅像がありました。奥に見えるのがこまつ芸術劇場です。
開演まで時間があったので,食事をすることにしました。「直進15m(近すぎ)」ということで,ここに行くことにしました。 小松うどんの店です。
「小松うどん」は,いわゆるB級グルメではなく,300年前に「松尾芭蕉も絶賛」という伝統のあるうどんとのことです。 こういう感じでした。弁慶のイラスト入りのハンペンが入っていました。ツルツルと美味しく頂きました。お茶の方は加賀棒茶です。 JR小松駅の全景。石川県では金沢駅に次いで大きい駅だと思います。その後,ホールに向かいました。
終演後,少し時間があったので,駅の反対側へ。大型ダンプが非常に目立っていました。コマツの工場跡地に作られた「こまつの杜」という施設です。 小松市は,日本を代表する大企業コマツの発祥の地です。現在は研修用+地域貢献の施設となっており,家族連れがチラホラ遊びに来ていました。 コマツの創業者の竹内氏の銅像
それにしても大きなダンプカーでした。タイヤも巨大でした。 白山(だと思う)も見えました。 金沢に戻った後,金沢駅でお土産用に,松任の円八のあんころ餅を購入(半分以上,自分用です。大好きなもので)。
帰宅すると,この日は節分だったこともあり太巻きが出てきました。ただし,切ってあるとご利益はない? 形だけ豆まきもしました。


(2013/02/10)


関連写真集


公演のポスター


こまつ芸術劇場の外観


開演前に撮影。左側の桟敷席でバンダのトランペットが演奏していました。


アンコールの案内。


ホール内に飾られていたロゴマーク。素晴らしいデザインですね。