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バッハアンサンブル富山第10回記念演奏会
2013年2月17日(日)14:30〜 富山県民会館大ホール
バッハ,J.S./ヨハネ受難曲,BWV.245(第4稿)
●演奏
津田雄二郎指揮富山室内合奏団,上島淳子(ヴァイオリン),大澤明(チェロ),石黒靖典(ヴィオラ),平尾雅子(ヴィオラ・ダ・ガンバ),加納律子(オーボエ),池邊昇平(フルート),平井み帆(チェンバロ),黒瀬恵(オルガン)
合唱:バッハアンサンブル富山,モーツァルト記念合唱団(有志),金沢グリーンウッドハーモニー(有志)

イエス:成瀬当正(バリトン),ピラト&ペテロ:上野正人(バリトン),福音史家:東福光晴(テノール),村元彩夏(ソプラノ),上杉清仁(カウンターテノール),鏡貴之(テノール)
Review by 管理人hs  

この日は午後から,高速バスで富山市まで出かけ,バッハアンサンブル富山によるヨハネ受難曲全曲演奏会を聞いてきました。実はこの日,福井市では鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンによるバッハ名曲集の演奏会をやっており,富山のヨハネと,どちらにしようか迷ったのですが,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーが賛助出演出演していることもあり,富山の方に出かけることにしました。ちなみに,OEK本体の方は東京で「カルメン」公演を行っていました。

ヨハネ受難曲を聞くのは,ペーター・シュライヤー指揮OEKによる定期公演以来のことです。聞く前はちょっと覚悟が必要な曲ですが,全曲を聞き通すといつもその曲の立派さに浸ることができます。演奏は富山で活動するバッハアンサンブル富山(合唱団),富山室内合奏団に,全国的に活躍する歌手やOEKメンバーが加わったメンバーによるものでした。この合唱団の第10回目の記念演奏会ということもあり,曲に対する誠実で熱い気持ちがしっかりと伝わってきました。

冒頭の合唱から大げさになり過ぎたり,ドラマティックになり過ぎたりする部分はありませんでしたが,特にコラールなどの合唱曲については,曲が進むにつれて感動のこもった歌になり,曲のクライマックスに向かってじわじわと熱いものがこみあげてくるような演奏となっていました。まず合唱団の皆さんの健闘をたたえたいと思います。ちなみにこの日の合唱団は,バッハアンサンブル富山のメンバーにモーツァルト記念合唱団と金沢グリーンウッドハーモニーの有志も参加していました。客席には金沢からのお客さんもチラホラ見かけました。こういう形で交流があることは良いことだと思います。

今回の指揮は,この合唱団の常任指揮者である津田雄二郎さんでした。津田さんによる演奏前のトークは,大変まじめで,しかも簡潔で分かりやすい内容でした。演奏にもそのような雰囲気がありました。飾り気はないけれども,着実な音の流れを感じさせてくれるような演奏でした。今回の会場の富山県民会館大ホールの音響は石川県立音楽堂などに比べると残響は少なく,音が美しく響かないようなところはありましたが,その分,各パートの音の動きなどはよく分かり,全体に質実な気分を持ったバッハ演奏を聞かせてくれました。

ソリストの中では,イエス役の成瀬当正さんの包容力のある歌,テノールの鏡貴之さんの瑞々しい声が特に印象的でした。福音史家役はとにかく大変だと思いました。東福光晴さんの声は,音量的にやや弱さを感じました。第1部最後の「ペテロが激しく泣いた」の部分などは,もう少しグッと迫ってきて欲しいかな...と思いましたが,全曲の背骨を支える使命感のようなものが伝わってきて,役柄にぴったりのひたむきさがありました。

今回,アルトのパートは,カウンターテノールの上杉清仁さんによって歌われました。私にとっては,カウンターテノールの声を聞くこと自体滅多にないことです。特に第2部の「イエスの死」の後に続く,アリアが素晴らしいと思いました。イエスの「成しとげられた」という言葉に続いて,何とも言えない”間”が入った後,余韻を持続させるような静かな歌を聞かせてくれました。この部分では,平尾雅子さんによるヴィオラ・ダ・ガンバの響きも印象的でした。静謐さによって逆に強い存在感を感じさせてくれるような演奏でした。

イエスの登場する場では,第2部最初の,ピラトや群衆との掛け合いの部分も見せ場です。この部分については,以前聞いたシュライヤー指揮OEKの時のドラマティックな展開に比べるとやや平板な感じがしましたが,それでもイエス役の成瀬さんの大らかさのある歌を中心にしっかりと聞かせてくれました。そのあとに続く,バリトンの上野正人さんによるアリオーソは,独特のムードのある曲です。ヴィオラ・ダ・ガンバのはかなげな音と相俟って,時の流れが止まって甘美さを感じさせてくれるような大変魅力的な音楽を聞かせてくれました。

その後のテノールのアリアは大変瑞々しいものでした。テノールの鏡さんは,まだ若い方のようですが,今後の活躍がとても楽しみな方だと思いました。このアリアでは,ヴァイオリンのオブリガートも印象的でした。この日はOEKの上島淳子さんがコンサートミストレスを務めていましたが,そのすっきりとした音が鏡さんの声にぴったりでした。

この日のオーケストラは,富山室内合奏団のメンバーにOEKメンバーなどが加わる形になっていました。上島さん以外にも,OEKの加納律子さんのオーボエもいつもながらの艶やかでしっとりとした音を聞かせてくれました。チェロの大澤さんはいつもながらの存在感を発揮していました。通奏低音の要ということで,オルガンの黒瀬恵さん,チェンバロの平井み帆さんらと一体になって,曲全体をどっしりと支えていました。フルートは,池邊昇平さんという方が参加されていましたが,そのたっぷりとした音も魅力的でした。第1部最後では,村元彩夏さんの清潔感のあるソプラノと合わせて,聞きごたえのある音楽を聞かせてくれました。

曲全体として見ると,曲が進むにつれて素朴なコラールに熱さが加わっていく様子が感動的でした。第38曲で福音史家が語り終えると,ソリストの出番が終わります。その後,全員が合唱に加わっていたのがとてもよかったと思いました。そして,この全員で歌う第39曲の合唱が全曲の最終的な到達点となっていました。ほのかな哀愁を漂わせた曲ですが,繰り返しの多い曲ですので,どこか子守唄に通じるような安らぎを感じました。

この曲で全曲が終わったような終結感があるので(ヨハネ受難曲の別の稿ではこの曲で終わっているものもあります),「最後のコラールは余分かも?」と一瞬思ったのですが,晴れやかな音楽が始まると「おお,新しい人生が始まった!」というような前向きな気分になりました。爽やかな空気が一気に曲全体を包み込むような感動がありました。

全曲を通じてみると,上述のとおり質実で飾り気のない誠実さのある演奏でした。その中から,随所に清々しい風が吹いてくる。そういうような演奏でした。バッハアンサンブル富山はバッハの合唱曲を中心に指揮者の津田雄二郎さんと共に着実な演奏活動を積み重ねている団体です。機会があれば,是非また聞きにきたいと思います。

PS. 富山県民会館大ホールに入るのは今回が初めてでした。上述のとおり響きはややデッドでしたが,ワンフロアでシンプルな作りなので,後方からでもよく舞台が見える点が良いと思いました。それと金沢から高速バスで出かけた場合,富山市役所前で降りるとすぐホールに着くのが便利ですね。

■富山までの高速バスツァー 写真集
この日は,好天に恵まれました。富山まで片道1時間程度のバスに乗り,その後,富山市内を歩いてみました。その様子を紹介しましょう。
スタート地点は兼六園下のバス停。青空を背景とした石川門に薄ら雪が積もり,絵葉書的な景色でした。 通常のバス乗り場に,高速バスをはじめ,各種観光バスが乗り入れています。 富山行きバスは結構本数があります。片道900円なのですが,回数券を買うと,750円になります。
金沢市内の周遊バスです。

バスは,JR金沢駅経由で北陸自動車道に乗りました。これは富山県の庄川付近です。 時間が少しあったので,富山市の総曲輪で降りました。これが乗ってきたバスです。富山地方鉄道のバスでした。ちなみに帰りは北陸鉄道のバスでした。
総曲輪と書いて「そうがわ」と読みます。富山市の中心商店街です。 このようなアーケードがありました。新潟市中心部にもこういう商店街がありますね。。 アーケードの隣には,金沢でもおなじみの大和デパートがありました。ついつい嬉しくなって中に入ってきました。
演奏会の時間た近づいてきたので,富山駅方向に向かってUターン。国道41号線沿いを歩いていると,富山城址公園に
この変な(?)建物は何だろうと思って見ていたら市役所でした。 市役所の前にあった子供たちの像。こんなにいっぱい像が密集しているのも珍しいかもしれませんね。
富山県民会館前にあった標識。ノーベル街道という名前は初耳でした。ノーベル賞を受賞した田中耕一さんにちなんでいるのでしょうか。 富山市役所前のバス停。帰りはここから高速バスに乗りました。ホールのすぐ前です。 お土産にかった「鱒寿司」。JRで売っているおなじみの鱒寿司とは違う会社のものにしてみました。
自宅に帰った後,夕食と一緒に食べました。
(2013/02/20)


関連写真集


公演のポスター。私は当日券で入りましたが,ホールは満席に近い状態でした。


ホールのロビーの様子。建物の2階がホールでした。1階では...

こんなのをやっていました。


ホールの入口です。


開演前の様子です。


歌詞対訳+解説に加え,演奏者紹介等のカラーリーフレットが付いていました。どれも大変充実した内容でした。