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第10回 学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢 合同公演 カレッジ・コンサート
2013年3月2日(土)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホールル
1)シュトラウス,J.II/皇帝円舞曲
2)グリーグ/2つの悲しい旋律,op.34
3)シベリウス/悲しきワルツ,op.44
4)シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ
5)チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調,op.74「悲愴」
●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直);学生オーケストラ(金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団,富山大学フィルハーモニー管弦楽団の選抜メンバー)*1,5
Review by 管理人hs  

この時期恒例の,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と大学オーケストラの選抜メンバーが共演する「カレッジ・コンサート」を聞いてきました。今回の指揮者は,学生並に若い指揮者の松井慶太さんで,OEKと金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団,富山大学フィルハーモニー管弦楽団の選抜メンバーとが共演しました。富山大学のオーケストラがこのコンサートに出演するのは今回が初めてです。

演奏会は前半最初に,OEKメンバーが首席奏者になる形でシュトラウスの皇帝円舞曲が演奏された後,OEKのみでグリーグとシベリウスの作品が演奏され,後半のメインプログラムとして,学生が首席奏者となる形で,チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が演奏されました。ホールに入ってみると,ステージ上には椅子がぎっしり。120人ぐらいの編成だったようです。

最初に演奏された皇帝円舞曲には,そのネーミングに相応しい華やかさがありましたが,気楽に楽しむワルツとしてはちょっと真面目過ぎる感じがしました。そう考えると,OEKのニューイヤーコンサートなどで井上道義さんが作り出す沸き立つような躍動感は,「さすが」と言えそうです。ただし,松井さんの指揮ぶりもとても明快で,若々しい清潔感と安心感を感じさせてくれるものでした。松井さんは,非常に長身の方で,手も長いので,大編成のオーケストラを指揮する姿もピタリと決まっていました。

その後,学生オーケストラは引っ込み,OEKのみでグリーグとシベリウスによる,弦楽を主体とした作品が4曲演奏されました。1曲目と比較してみると,編成は半分以下に小さくなったのですが,やはりOEKの音は引き締まっているなぁと感じました。1曲目に比べると音の密度が高くなったように感じました。

このコーナーでは,北欧ならではの,ちょっとメランコリックな感じの曲が並んでいたのも良かったと思います。徐々に,後半の「悲愴」へとつながっていく感じでした。

グリーグの「2つの哀しい旋律」については,2曲目の「過ぎにし春」の方は,アンコール曲として何回も聞いたことがありますが(弦楽合奏で演奏される曲なので,OEK向きですね。),1曲目の「胸のいたで」を聞くのは今回が初めてでした。どちらも,ほのかに哀感が漂う程度で,大げさな表情付けはありませんでしたが,音がビシっと締まっており,誠実さを感じました。

次のシベリウスの「悲しいワルツ」は,1つ前に演奏された「過ぎにし春」とどちらがグリーグ作曲でどちらがシベリウス作曲だったか混乱してしまいそうな作品ですが(私だけ?),こちらもとても良い作品です。この曲では,弦楽合奏に加えフルート1本,クラリネット1本,ホルン2本が加わっていました(クラリネットの遠藤さんがオーケストラの中で演奏するのは久しぶり?)。これらの管楽器が控え目に彩りを添え,メランコリックな揺れを伴って,音楽が心地よく流れていくような演奏でした。松井さんの指揮ぶりには,若々しい率直さと繊細さが共存しており,気持ちよく音楽に浸ることができました。

前半最後は,弦楽器とティンパニによって演奏されたシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」で締められました。CDでは聞いたことのある作品ですが(実は,ひっそりとOEKもCD録音を行っています),実演で聞くのは初めてです。タイトルどおり,厳かな式典を思わせるようなところのある作品です。OEKの弦楽器には素晴らしい音の輝きがあり,その気分にぴったりでした。ティンパニが「いつ出てくるのだろう?」とずっと見ていたのですが,一番最後の盛り上がりの部分で格好良くロールを決めてくれました。「フィンランディアを思わせるようなエンディングでした。

後半の「悲愴」交響曲は,冒頭のファゴットのソロが実に堂々としていて,大船に乗ったような安心感で聞くことができました。松井さんのテンポ設定は,全体にたっぷりとした感じで,学生オーケストラものびのびと演奏できたのではないかと思います。第2主題もたっぷりと揺れる感じで演奏していました。

第1楽章では,展開部での金管楽器の咆哮が気持ちよかったですね。こういう部分を聞くと,若い人たちの演奏は良いなぁと思います。速いパッセージに果敢に立ち向かっているような,弦楽器の奮闘ぶりも印象的でした展開部になると,音のうねりがますます様になってきた感じで,音に勢いを感じました。楽章の最後の部分では,管楽器にちょっと危ない部分もありましたが,時の刻みがパタリと止まるような雰囲気があり,曲想にぴったりだと思いました。

第2楽章は,間奏曲的な楽章で,やや淡泊な印象でした。きれいな感じの演奏でしたが,「5拍子のワルツ」ということで,もう少し引っ掛かりを感じさせてほしいかな,と思いました。第3楽章のスケルツォ風の行進曲も,全体的に安全運転という感じで,もう少し派手に爆発して欲しい気がしました。その中でさすがと思ったのが,OEKの渡邉さんのシンバルでした。喝を入れるような鮮やかさでした。音楽のテンションが一気に上がりました。

第4楽章は,3楽章の後に拍手が入るのを警戒するかのように,ほとんどインターバルなしで始まりました。この楽章では,弦楽合奏の鮮烈さ,ドラマを秘めた歌わせ方が素晴らしいと思いました。気合い十分の音の流れを感じました。終盤,銅鑼が静かに鳴らされた後,弔いの雰囲気になる部分については,もう少したっぷりと溜めた濃い味が欲しい気はしましたが,第1楽章の最後同様,時の刻みがパタッと止まるような終わり方がここでも印象的でした。

曲全体としては,重くドロドロとした感じはなかったのですが,学生らしいひたむきさや爽快感が伝わってきて,しっかり楽しむことができました。何よりも,年に1回,これぐらいの大編成で聞けるのがOEKファンとしても嬉しいことです。今回から富山大学が加わりましたが,来年以降の展開も楽しみにしたいと思います。
(2013/03/02)


関連写真集


公演のポスター


開演前,練習時の写真がステージ上のスクリーンに投影されていました。


金沢大学フィルメンバーの弦楽五重奏によるプレコンサート。アイネ・クライネ・な鳩・むじーくの第1楽章を演奏していました。


音楽堂のロビーから,JR金沢駅で新幹線ホームを工事している様子がとても良く見えました。