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オーケストラ・アンサンブル金沢第333回定期公演M
2013年3月6日(水) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
2)バッハ,J.S./ヴァイオリン協奏曲 (チェンバロ協奏曲第5番) ト短調 BWV1056
3)バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
4)ヴィヴァルディ/「調和の霊感」op.3〜第11番 2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ニ短調 RV565
5)バッハ,J.S./管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
6)(アンコール)バッハ,J.S./管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068〜エール
7)(アンコール)バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
●演奏
エンリコ・オノフリ(ヴァイオリン)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
濱田芳通(リコーダー*3,7),水谷元(オーボエ*3,7),ガブリエレ・カッソーネ(トランペット*3,7),繻`亜樹子(チェンバロ*3,7)
Review by 管理人hs  

先日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)室内楽シリーズに続き,エンリコ・オノフリさんがOEKの定期公演に登場しました。前回はヴィヴァルディ特集だったのに対し,今回はバッハの曲をメインとしたプログラムでした。演奏された曲は,ブランデンブルク協奏曲第3番,第2番,管弦楽組曲第3番...という有名曲中心でした。

ただし,バッハの曲については,声楽を含む宗教曲が演奏されることはしばしばありますが,管弦楽曲や協奏曲が定期公演で演奏される機会は意外に多くありません。今回は,オノフリさんのヴァイオリン弾き振りも楽しみですが,「普通のオーケストラ」とどう共演するかも大きな注目点となります。

演奏会の前半は協奏曲が中心でした。そのこともあり室内楽編成に近い,こじんまりとしたものでした。

ブランデンブルク協奏曲第3番は「3づくし」という感じの曲です。まず,弦楽合奏がヴァイオリン,ヴィオラ,チェロの3つのパートに分かれています。さらに各パートは3人。3つの楽章からなり,そして,「第3番」です。

オノフリさんはリーダーとして弾き振りをしていましたが,ステージに登場する際には,「後から1人だけ」登場するのではなく,他のメンバーと一緒に入り,一緒に「礼」をしていました。冒頭から軽やかな音で,「スルっ」と入るような速いテンポによる演奏で,浮遊感とスピード感がありました。

バッハについては,「がっちりした構築感のある音楽」というイメージがありますが,この曲をはじめとして,非常に軽やかでセンスの良い演奏の連続でした。ただし,それが雑になることはなく,オノフリさんらしさがしっかり浸透した,緻密な音楽となっていました。第2楽章(楽譜的には和音が2つだけ)での繻`亜樹子さんのチェンバロの自在な雰囲気も印象的でした。

第3楽章は大変テンポの速い演奏で,スピードの限界に挑むようなスリリングさがありました。オノフリさんのソロも大変鮮やかで,各楽器との掛け合いも楽しいものでした。曲の最後の部分は,いきなり「パタっ」と止まってしまうような唐突さがありました。この人を喰ったようなエンディングも新鮮でした。

次にチェンバロ協奏曲第5番が,ヴァイオリン協奏曲として演奏されました。知らない曲だと思っていたのですが,第2楽章は,「恋するガリア」という映画で使われている曲だったので,「この曲か」と思いました。スウィングル・シンガーズの演奏でも知られている曲ですね。先日の室内楽公演で聞いたヴィヴァルディの「冬」同様,ピツィカートの伴奏の上で,オノフリさんのヴァイオリンがすっきりと歌うような演奏で,独特のリリシズムがありました。

第1楽章にもメランコリックな哀愁が漂い,大変魅力的でした。少しくすんだヴァイオリンの音が曲想にマッチしていました。第3楽章にも憂いが漂っていました。最後,大げさにならずスッと終わっていたのは,1曲目と同じで洒落ていました。

前半最後のブランデンブルク第2番は,なによりもオノフリさんを含む4人のソリストの演奏が見事でした。この曲はトランペットの難曲として知られていますが,ガブリエレ・カッソーネさんの音は非常にまろやかで,大変気持ちよく聞くことができました。確かに甲高い音なのですが,鋭く突き刺さるような感じはなく,高貴な美しさを感じさせてくれました。何よりも素晴らしかったのが,他の楽器とのバランスの良さです。トランペットだけが突出するこはありませんでした。

濱田芳通さんのリコーダーは,逆にとてもよく音が通っており,しっかりと存在感を示していました。演奏前は,リコーダーについては音量が大きくない楽器かと思っていたのですが,独奏楽器として大変雄弁だと感じました。暖かでまろやかな音だけではなく,他の楽器に負けない強さがありました。

OEKの水谷さんは,OEKに参加する前,ドイツでバッハの曲を頻繁に演奏していた経験をお持ちですが,その音が特にリコーダーとよくマッチしており,素晴らしいと思いました。
この3人のソロに,オノフリさんのヴァイオリンが加わり,丁々発止と順番に見せ場が交替で出てくるような面白さがありました。

第2楽章はこの4つの楽器だけで演奏されました。第1楽章同様,とても良いバランスでしたので,このままずっと留まっていたいような,上質の時間となっていました。第3楽章はやはり何といってもカッソーネさんのトランペットの演奏が見事でした。速すぎないテンポで品の良い華やかさのある音を無理なく聞かせてくれました。

この曲でも最後の終わり方が独特でした。一般的には「どうだーーー」という感じで長く伸ばしていますが,この日は,文章の最後に,「.」とピリオドを打つのような感じで,非常にあっさりと終わっていました。他の曲と同様だったのですが,この曲については,あまりにもあっさりしていたので,「どうだー」ぐらいにしてもらっても良かったと思います。

後半の第1曲では,この日唯一,ヴィヴァルディの曲が演奏されました。先日の室内楽シリーズの時も感じたのですが,オノフリさんの演奏でヴィヴァルディを聞くと,バッハの演奏の時以上に現代的に響く気がします。そして何とも言えず,格好良く響きますね。第3楽章などかなり技巧的でしたが,江原さんのヴァイオリン,カンタさんのチェロと一体となって,スリリングで自在な音楽を聞かせてくれました。大胆さとスマートさが共存したような音楽でした。

最後に管弦楽組曲第3番が演奏されました。この曲では,編成が大きくなっており,通常のOEKの弦楽器の編成とほぼ同様になっていました(先日の室内楽公演の通奏低音で出ずっぱりだったチェロの大澤さんは,さすがに今回はお休みでした)。その他,オーボエ2,トランペット3,ティンパニが加わっていました。

この曲ですが,最初の楽章から,トランペット3本とティンパニが活躍するので,どこか,ヘンデルの王宮の花火の音楽のような雰囲気のある曲です。バロックティンパニの響きと合せて,明るく,祝祭的の気分いっぱいで始まりました。フランス風序曲ということで,途中でテンポが緩から急に変わりますが,最初の「緩」の部分自体,遅く感じなかったので,コントラストの鮮やかさはそれほど感じませんでした。むしろ,この急の部分になると,オノフリさんのスリムなヴァイオリンが中心になるので,途中で協奏曲に変わったような,様式の変化を感じました。この辺が独特でした。

2曲目は,G線上のアリアと知られている「エール」ですが,この日は,弦楽合奏ではなく,弦楽五重奏の形で演奏してました。これがまず新鮮でした。オノフリさん一人でサラリと主旋律を演奏していたのですが,それがアドリブ風の音の動きたっぷりの独特の演奏でした。どこか,ゴルトベルク変奏曲のアリアを弦楽五重奏に編曲したような感じに聞こえました。時々,一息つくように,大きな間を入れたりして,センスの良さと同時に深い味わいを感じさせてくれました。

その後の3曲は,テンポの速い曲が続きました。どの曲もストレートな表現で,音楽に勢いと輝きがありました。OEKのノリも良く,演奏会を締めるのにぴったりのダンサブルな華やかさがありました。

演奏後は拍手が長く続き,アンコールが2曲演奏されました。演奏されたのは,ここまで演奏された曲の中から,管弦楽組曲のエールとブランデンブルク協奏曲第2番の第3楽章が演奏されました。どの曲も2回目ということで,文字通りのアンコールですね。

オノフリさんの演奏では,どの曲についても,各曲の最後の部分で「どうだ!」という感じで念を押すようなことをせず,わざと肩透かしをするように軽く締めていたのが特徴でした。大胆さとセンスの良さを同時に感じさせてくれる演奏の連続で,音楽堂の中はすっかりオノフリさんらしさに満たされました。Enrico Onofri風アンサンブル金沢,略して,OEK alla EOといったところでしょうか。前回の室内楽公演と合せ,オノフリさんの求心力のすごさを実感できた1週間でした。

2月末のマルク・ミンコフスキさん指揮による公演に続き,石川県立音楽堂では,2週連続で注目の古楽専門アーティストによる演奏会が行われたことになります。いずれもOEKの定期公演というフォーマットの中で行われているところもまた,OEKの活動のユニークなところだと思います。機会があれば,EOさんには,是非OEKに再度客演して欲しいと思います。

PS. この日,ブランデンブルク協奏曲第2番の演奏が始まる直前,ソリストたちが入る直前に,第2ヴァイオリンのヴォーン・ヒューズさんの楽器に何かのトラブルが発生したようでヒューズさんが一旦袖に引っ込みました。気のせいか「ピーン」というような,何かが切れるような音がしたのですが,ヒューズさんのヴァイオリンということで「ヒューズが飛んだ」のでしょうか(失礼しました)
(2013/03/09)


関連写真集


公演の立看板。オノフリさんは,演奏前,確かにこういう動作をしていました。


アンコール曲の案内


終演後はサイン会。CDお買い求めの方限定。でしたが,大盛況でした。


「エンリコ・オノフリ〜バロック・ヴァイオリンの奥義」というCDを購入し,サインをいただきました。