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オーケストラ・アンサンブル金沢第334回定期公演PH
2013年3月13日(水) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/交響曲第40番ト短調,K.550
2)モーツァルト/2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ ハ長調,K.190(186e)
3)プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調,op.63
4)プロコフィエフ/古典交響曲 ニ長調,op.25
5)(アンコール)プロコフィエフ/古典交響曲 ニ長調,op.25〜第3楽章
●演奏
井上道義*3指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
ボリス・ベルキン*2,3,アビゲイル・ヤング*2(ヴァイオリン)
Review by 管理人hs  

このところ仕事が忙しく,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にも行けるかどうか微妙だったのですが,何とか後半のみ聞くことができました。時間的には,「ラ・フォル・ジュルネ」サイズの演奏会を聞いた感じになります。

行ってみると,本来指揮するはずだった井上道義さんがインフルエンザにかかり,十分なリハーサルを行えなかったということで,協奏曲以外は「指揮者なし,アビゲイル・ヤングさんのリード」という形での演奏するという掲示が出ていました。前半の演奏のことは分からないのですが,後半,特にメインのプロコフィエフの古典交響曲を聞いた印象では,「申し分なし!」でした。

もともと古典交響曲はOEKの十八番です。指揮者なしで演奏できるくらい何回も演奏している曲ですが,今回のヤングさんのリードによる演奏は,その集大成のような演奏で,演奏の力感,各楽器のソロと絡み合い,メリハリ...どこをとっても,お見事という安心して楽しめる演奏でした。

第1楽章の冒頭から全般に遅めのテンポで,くっきりとした強い音楽を聞かせてくれました。管楽器の彩りも美しく,大曲を聞いたような聞きごたえがありました。

第2楽章と第3楽章はもゆったりしたテンポで演奏しており,幸福感に溢れた空気が漂っていました。穏やかにまとまり過ぎているようなところはありましたが,その伸び伸びとした健康的な演奏は,OEKらしさをストレートに表現していたと思いました。

第4楽章は快適なテンポで気持ちよく流れていきました。この楽章でもフルートをはじめとした木管楽器がソリスティックに活躍しており,花が次々と咲くような鮮やかさがありました。

考えてみると,指揮者なしで古典交響曲を聞くのは初めてのことでした。OEKの得意な曲ということもありますが,「さすがヤングさん&OEK」という演奏でした(そうなってみると,指揮者が加わるとどう変わるのか比較もしてみたくなりますが)。

なお,今回からOEKのフルートの特任首席奏者に着任した工藤重典さんもしっかりと存在感を放っていました。工藤さんが出演する最初の演奏会にOEK十八番のこの曲が出てきたのも何かの因縁かもしれません。入団テストに見事合格という演奏だったのではないかと思います。

ボリス・ベルキンさんのヴァイオリン独奏,井上道義さん指揮によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番も神経質なところのない,たっぷりとした大家の風格の漂うような演奏でした。第1楽章の第2主題など非常に濃厚な味わいがありました。

プロコフィエフについては,モダンでやや冷たい感触のある作曲家と思っていたのですが,第2楽章などを聞いていてまろやかな暖かさと大陸的なスケール感を感じました。この曲は,2月に庄司紗矢香さんの演奏で聞いたばかりですが,ベルキンさんによる,すっかり古典になったような円満な演奏も良いなぁと思いました。

第3楽章はオーケストラともども野性的な気分がありました。オーケストラの編成は,先月聞いたロッテルダム・フィルよりはかなり小編成でしたが,この曲については,OEKぐらいの編成の方が音に透明感とキレがあり,個人的には好きです。この曲は打楽器も活躍しますが,ティンパニが入らない代わりに大太鼓,小太鼓,カスタネット,シンバルなどが次々と登場します。それらを渡邉さんが全部一人で演奏してたのも印象的でした。指揮の井上さんは,「病み上がり」だったのですが,いつもどおり小躍りするような指揮ぶりも出て,生き生きとした音楽を作っていました。

終演後,恒例のサイン会があり,アビゲイル・ヤングさんとボリス・ベルキンさんからサインをもらってきました。ヤングさんの活躍を称えようと,「You worked very hard tonight.」と言ってみたら,「本当にそうよ」とうなずくと同時にとてもうれしそうな表情を見せてくれました。お客さんの拍手もいつもどおり大変暖かく盛大なものでした。指揮者なしで見事に演奏したOEKを称えようという気分がしっかりと伝わってきました。思わぬところで,いつもにも増してOEKらしさをたっぷり味わえた演奏会でした。

PS. 北朝鮮で第9を初演してきて,県議会等でも話題になった井上道義さんですが,今度はインフルエンザにかかってしまうということで,音楽以外のところで話題を集めてしまいました。北朝鮮の問題については賛否がありますが,個人的には,個人の信念に従っての芸術家らしい行動であり,大騒ぎすることはないと思っています。ただし,オーケストラというのも「交響的」であるだけではなく「公共的」な存在ですので,その音楽監督ということを考えると(時期もよくなかったですね),慎重さが必要だったのではないかと思います。
(2013/03/17)





関連写真集


公演の立看板。


(読めませんが)指揮者なしで演奏することについての掲示


アンコール曲の案内

終演後はベルキンさんとヤングさんのサイン会が行われました。

ベルキンさんのサインです。色紙になっているのはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番他のCDです。


アビゲイル・ヤングさんのサイン