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オーケストラ・アンサンブル金沢第335回定期公演マイスター・シリーズ
2013年4月4日(木) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ドヴォルザーク/管楽セレナード ニ短調 op.44
ドヴォルザーク/弦楽のためのセレナード ホ長調 op.22
モーツァルト/交響曲第38番 ニ長調 K.504「プラハ」
(アンコール)ドヴォルザーク/チェロ組曲〜第2曲ポルカ
●演奏
ダグラス・ボストック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs  

2013年度最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演の指揮者は,定期公演初登場となるイギリス出身のダグラス・ボストックさんでした。プログラムには,協奏曲なし。OEKのほぼ通常編成で演奏可能な曲ばかり(1曲目でホルン1とコントラファゴット1が追加されていましたが)。ということで,いかにもOEKらしいプログラムを楽しむことができました。

ボストックさんはチェコでも活躍されている方ということで,今回のプログラムは”プラハ”がキーワードになっていました。テーマに統一感があると同時に,どの曲からも,ボストックさんらしさがしっかり伝わってきました。すべての面でとてもまとまりの良い演奏会だったと思います。

前半演奏された2曲は,チェコのプラハ近郊出身の作曲家ドヴォルザークの作品でした。セレナードが2曲演奏されましたが,管楽セレナードと弦楽セレナードということで,OEKの編成を丁度2つに分けるような形になっていました。この組み合わせのCDは時々ありますが,実演ではなかなか聞けないですね。

ボストックさんの指揮ぶりは大変丁寧で,安心感たっぷりの音楽を聞かせてくれました。編成的には管楽セレナードの方は室内楽的な編成で,弦楽セレナードの方も,アビゲイル・ヤングさんがリーダーならば,指揮者なしでも演奏できる曲ですが,どちらもボストックさんらしさが感じられました。まず,管楽合奏も弦楽合奏も各楽器のバランスが素晴らしく,浸っているだけで幸せという音を聞かせてくれました。全体に落ち着いたテンポで,曲が進んでいくに従って,少しずつ少しずつ切なさが漂ってくるような味わいのある演奏を聞かせてくれました。

最初に演奏された管楽セレナードの方は,弦楽セレナードほどには有名ではありませんが,とても魅力的な作品でした。楽器の配置は次のとおりで,12人しかいませんでしたので,室内オーケストラの編成としてもかなり小さめの編成ということになります。

Hrn Hrn Hrn C-Fg Cb
Ob Ob Fg Fg Vc Cl Cl   
管楽セレナードといいつつ,チェロとコントラバスも入っています。

ボストックさんは,すらりとした長身で,指揮ぶりも明快でした。各楽器の音は,いつもにも増してパチっと揃っていたと思います。ボストックさんは,東京佼成ウィンド・オーケストラの常任指揮者をされていましたので,管楽アンサンブルを指揮するのはお手のものだと思います。音楽にブレがなく,円満な音楽に浸ることができました。OEKメンバーも安心して演奏できたのではないかと思います。

第1楽章は,冒頭のタンタカターンというモチーフが印象的でした。その後もメロディメーカーであるドヴォルザークの魅力が随所に散りばめられていました。スラヴ舞曲集の中に入っていそうな穏やかな第2楽章,「小夜曲」といった気分のある第3楽章と続いた後,疾走感のある第4楽章になりました。この楽章では,最後の最後の部分で第1楽章の主題が戻ってきて,ワーッと盛り上がって終わりましたが,このパターンは弦楽セレナードと同じですね。その点でもバランスの良い選曲と言えます。なるほどと思いながら聞いていました。

弦楽セレナードの方は,定期公演でも何回か演奏されたことがありますが,何度聞いても良い曲ですね。今回の編成は次のとおりでした。

   Va  Vc  Cb
Vn1        Vn2


第1楽章の最初に出てくるテーマはヴィオラで演奏されますが,その浮遊感のある音にまず引きつけられました。全体のテンポ設定がゆったり目で,無理なくしっとりとした美しさを聞かせてくれました。ところどころ陶酔的になったり,懐かしい気分が満ち溢れてくる部分はありしたが,感情に溺れてしまうようなところはなく,節度がありました。

第2楽章の演奏にもゆったりとした優雅さがあり,ロマンティックでしたが,甘くなり過ぎることのないセンスの良さがありました。「完全なるせつなさ」という感じの演奏だったと思います。第3楽章は急速な楽章なのですが,安定感や端正さを感じました。

第4楽章は反対にゆったりとした楽章ですが,こちらではもたれ過ぎることがありませんでした。ボストックさんは,常にきっちりと指揮をされているので,音楽が勝手な方向に流れるような感じがありません。そういう点でちょっと窮屈な感じはありました。最終楽章はじっくり,くっきりと始まった後,管楽セレナード同様,冒頭部分が戻って来て,きりりと締めてくれました。

後半に演奏されたモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」は,その名のとおりプラハで初演された曲です。「ハフナー」交響曲ほどではありませんが,OEKもよく演奏している曲です。こちらは,バロックティンパニの硬質な響きを核として,冒頭から力強く剛性感のある音楽を聞かせてくれました。弦楽器の配置は前半同様古典的な対向配置で,音色もすっきりとしたベトつかない響き主体でした。

まず第1楽章の序奏部から響きがバシッと整っていました。それほど重いテンポではなかったので,どこか「ジュピター」交響曲の出だしを思わせるほどでした。主部に入ると,走りすぎることない緻密な音楽を聞かせてくれました。ここでは,水谷さんのオーボエの瑞々しい音も印象的でした。展開部に入っていくと,さらに厳格な感じが強くなっていきます。ボストックさんの頭の中にはしっかり曲のイメージが出来上がっており,それをストレートにOEKから引き出しているようなバランスの良さと自信を感じさせてくれるような演奏でした。

第2楽章は,遅すぎず,慌て過ぎずという演奏でした。ここでも緻密さが感じされましたが,あまり酔わせてくれるような感じではなかったので,ちょっと長く感じました。「プラハ」交響曲は,各楽章の繰り返しをするかどうかでかなり演奏時間が変わってくる曲ですが,今回の演奏は各楽章とも呈示部の繰り返しを行っていました。そのせいもあったかもしれません(我が家にある,ノリントン指揮のCDだと,1楽章だけで18分もありますが,そこまでは長くありませんでした)。

第3楽章も無理のないテンポでくっきりと演奏されていました。この楽章については,途中にフルートがスッと出てくる部分が大好きなのですが,岡本さんの音色は,とてもマイルドでホッとさせてくれました。響敏也さんによるプログラムの解説のとおり,特にこの楽章には「「フィガロの結婚」のエコーが感じられるのですが,その観点からすると,もう少しオペラ・ブッファ的な疾走感が欲しい気もしました。その分,堂々たる押し出しの強さがありました。きっちりとバランスが整えられた充実感のある響きは,演奏会の最後を締めるのに相応しいものでした。

アンコールでは,「のだめカンタービレ」でも使われていた,チェコ組曲の中のポルカが演奏されました。ややマイナーだけれども,とても良い曲です。この曲ではボストックさんは,途中から指揮するのを止め,ステージの奥の方に腰かけて,「よしよし」という感じで時々うなづきながら聞いていました(ちょっと指揮をしたそうな感じでしたが)。OEKの音が自在に流れ出るようで,とても開放感のあるアンコール・ピースとなっていました。

ボストックさんは,日本語で曲目を紹介されていました。大変流暢な日本語で,終演後のサイン会でも日本語を連発されていました。サイン会でのボストックさんは,堂々たる指揮ぶりとは一味違った,サービス精神満点の明るさのある方でした(結構,ポンポンと日本語が口から出ていたので,一見,外国人タレント風の感じでしたね)。こういった落差を楽しめるのもまた,サイン会付のOEK定期公演の楽しみの一つです。

ラ・フォル・ジュルネ金沢2013の気分も盛り上がってきています。
音楽堂入口には,ラ・フォル・ジュルネの看板が出ていました。

LFJK特製の缶バッチ販売コーナー 1個100円だったので,フランスらしいデザインのものを購入
チケットボックス前のLFJKコーナー 金沢市アートホールでのピアノ公演では,「完売」も出ていました。 その他,金沢独自公演のポスターも増えていました。


(2013/04/07)
関連写真集


公演の立看板


この日はNHK-FMの収録を行っていました。6月16日(日)の午後7:20〜放送されるとのことです。


アンコールの掲示


終演後,ボストックさんからサインをいただきました。インターネットで購入したボストックさん指揮のハイドンの交響曲のCDを持参したところ「ビックリシタ」を連発されていました。


夜桜を眺めながら帰宅