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オーケストラ・アンサンブル金沢第336回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2013年4月10日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
2)ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
3)(アンコール)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」〜第2楽章
4)ブラームス/交響曲第1番 ハ短調 op.68
5)(アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第1番
●演奏
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(協力:大阪フィルハーモニー交響楽団,コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,外山啓介(ピアノ)*3-4
Review by 管理人hs  

4月に入って早くも2回目となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。今回は,大阪フィルとの共演による,フル編成のオーケストラらしさを満喫できる”超名曲”を並べたプログラムでした。

当初,この公演にはベルギーのフランダース交響楽団が登場し,OEKと合同公演を行う予定でしたが,予定が変わり,大阪フィルハーモニー交響楽団との合同公演になりました。ただし,プログラムの説明によると「協力:大阪フィルハーモニー交響楽団」ということで,これまでの合同公演とは違い,基本的にはOEKが中心で(首席奏者は,前半後半ともすべてOEKのメンバー),エキストラ的に大阪フィルのメンバーが加わる形になっていました。見た目の点も「ステージいっぱいに広がる大編成」というよりは,普通のフル編成オーケストラを聞いている印象でした。

演奏された曲は,ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲,ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番,ブラームスの交響曲第1番ということで,ハ長調,ハ短調,ハ短調と見事にハ調で揃えられていました。堂々とした響きのする曲の連続で,いわば「クラシック音楽の王道」を行くような名曲路線のプログラムとなっていました。

ただし,OEKがこれらの曲を演奏する機会は少ないので,金沢のお客さんには新鮮に感じられます。他のオーケストラの定期演奏会の場合,「聞き飽きた」と言われる可能性があることを考えると,金沢の聴衆は「しあわせ」と言えます。そのこともあり,今回は大変沢山のお客さんが入っていました。

このことは,やはり金聖響さんと外山啓介という,「のだめカンタービレ」にそのまま出てきそうな雰囲気のあるお2人の人気にもよると思います(ラフマニノフとブラームスは「のだめ」の中でも特に重要な曲ですね)。終演後のサイン会も長蛇の列になっていました。

まず,「ニュルンベルクのマイスター」前奏曲が演奏されました。聖響さんの指揮ぶりは,力んだところは全くなく,冒頭からスーッと音が広がっていくようなスムーズさを感じました。大きくタメを作るような感じもなく,終始素直で晴れやかな音楽を聞かせてくれました。クライマックスの部分でのトランペットなども実にのびやかで,爽快さを感じました。各楽器の動きもよく聞こえ,OEKらしく室内楽的な緻密さも感じましたが,そうなると,「せっかくの大編成なので大げさな表現を聞いてみたいかな」と欲張りなことを思ったりもしました。

2曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の方も,OEKが演奏する機会はほとんどない曲です。OEK以外での演奏では,昨年のラ・フォル・ジュルネ金沢でアンドレイ・コロベイニコフさんの演奏で聞いていますが,その前となると,アリス=紗良・オットさんが井上道義指揮OEK+大阪センチュリー交響楽団と共演した時以来のことかもしれません。

こちらもたっぷりと聞かせてくれました。外山さんのピアノは,どちらかと言えば「草食系」という印象で,もう少し大胆さが欲しい気がしました。両端楽章などでは,オーケストラの中から突き抜けてくるようなエネルギーとか,反対に深く沈み込むような重さが欲しいと思いました。

その一方,室内楽的な雰囲気のある第2楽章では,カデンツァ風の部分を中心にロマンティックな気分にしっかりと浸らせてくれました。外山さんは,この曲の後アンコールでベートーヴェンの「悲愴」の第2楽章を演奏しましたが,抒情的な曲の方がぴったり来るように感じました。好青年風でさらりとしていながら,じっくりと聞かせる良い演奏でした。

ラフマニノフでは,オーケストラの響きが大変充実していました。各楽器のソロもじっくりと聞かせてくれました。第1楽章でのロマンティックな味わいのある金星さんホルンの高音,第2楽章での岡本さん(フルート),木藤さん(クラリネット)と続く,室内楽的で暖かさな雰囲気など,OEKがラフマニノフを演奏する機会は少ないこともあり特に新鮮でした。

演奏会の中では,やはり後半に演奏されたブラームスの交響曲第1番がいちばん聞きごたえがありました。聖響さんとOEKはこの曲のCDを作っていますが,その演奏に比べると「かなり普通」の演奏でした。が,奇をてらったところのない,ストレートな表現は,曲のもつ強さをダイレクトに伝えてくれました。

第1楽章は,率直に始まりました。序奏部のティンパニは,とてもリズミカルで,弾むような感じさえしました。この部分については,もう少し落ち着いた感じの方がブラームスには合うかなと思いました。その後は全体に中庸の表現で,弦楽器を中心に落ち着きがありました。第1楽章の呈示部は,CDとは違い,繰り返しは行っていませんでした。展開部以降は,さらに力感が出てくるのですが,気のせいかOEK単独で演奏する方が,アクセントの付け方のキレが良い感じになると思いました。

第2楽章は,しなやかさとコクのある音楽でした。アビゲイル・ヤングさんのヴァイオリン・ソロはいつものことながら安心して聞くことができます。すっきりとした滑らかさと同時に熱さをしっかり伝えてくれました。第3楽章も流れの良い演奏でした。自然に音楽が高揚感していき,そのまま第4楽章につながっていました。

第4楽章も,奇をてらったところのないストレートな表現が爽快でした。その一方,聞きどころではOEKメンバーのソロをたっぷりと楽しませてくれました。序奏部では特にフルートの岡本さんの音がたっぷりとしたコクがあり,素晴らしいと思いました。第1ヴァイオリンに出てくる有名な第1主題は,余裕たっぷりでした。ヤングさんを中心に,すっきりとしていながら,底光りするような上質の響きを聞かせてくれました。その後も特に弦楽器の熱く,くっきりとした表現力が素晴らしいと思いました。

コーダの部分は,この日いちばんの聞きどころでした。ティンパニの音に力があり,活気のあるリズムの上に流れの良い華麗な音楽が流れていきました。集中力満点のキレの良さは「お見事!」と声を掛けたくなる感じでした。

聖響さん指揮OEKのCDでは,第4楽章の最後の最後の長く伸ばす音を,スーッと弱めて流すように終わらせているのですが,この日の演奏でもそういう感じでした。ただし,これはOEK単独で演奏した演奏の時の方が目立っていたと思います。今回の演奏については,OEK単独とブラームス全集を作った時ほどの個性は感じなかったのですが,通常編成のオーケストラでのブラームスの交響曲の場合,今回のようなバランスの良い,パリっとスーツを着たような演奏の方が似合う気がしますね。そういう聞き比べができるのも,OEKが室内オーケストラだからだと思います。

アンコールでは,ブラームスのハンガリー舞曲の第1番が演奏されました。この曲はヴァイオリンが気持ち良さげにたっぷり歌って始まるので,実演だと特に映えます。この日の演奏もとても流れの良い演奏で,さらに盛大な拍手が湧き起りました。

この日のプログラムは,他のオーケストラでは当たり前のプログラムですが,OEKの場合だと「貴重な機会」となります。他オーケストラの協力を得て,「OEKがフル編成オーケストラになる」定期公演については,これからも期待したいと思います。

PS. この日のプレ・コンサートでは,モーツァルトとハイドンの弦楽四重奏曲の中から2つの楽章が演奏されました。2曲目の「冗談」の第4楽章は,ハイドンらしくウィットに富んだ面白い曲でした。「冗談」の音楽特集のような企画を是非,「もっとカンタービレ」シリーズなどで取り上げて欲しいと思いました。
(2013/04/07)
関連写真集


公演の立看板


アンコールの掲示。考えてみると,「悲愴」の方は「のだめ」つながりですね。

サイン会は大盛況

金聖響さんのサイン。ブラームスの1番のCDに頂きました。


外山さんのサイン。これまで沢山サインをもらってきましたが,もっともサインするのに時間の掛からないサインだったと思います。本当に「あっ」という間にサインして頂きました。


ラ・フォル・ジュルネのフラッグも音楽堂のまわりに登場。ただし,少々寒そうな感じですね。