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第12回北陸新人登竜門コンサート:管・打楽器、声楽部門
2013年4月24日(水) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シュトラウス,R./13管楽器のための組曲変ロ長調 op.4
2)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜アリア「奥様,これが恋のカタログです」
3)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜アリア「楽しい日々はどこへ」
4)ヴェルディ/歌劇「シモン・ボッカネグラ」〜アリア「哀れなる父の胸は」
5)ヴェルディ/歌劇「運命の力」〜アリア「神よ平和を与えたまえ」
6)クリストファー・ブルーべック/バス・トロンボーンと管弦楽のための協奏曲
●演奏
井上道義指揮(*2-6)オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
氷見健一郎(バス)*2,4, 竹多倫子(ソプラノ)*3,5,森川元気(バス・トロンボーン)*6
Review by 管理人hs  

毎年4月に北陸地方の新人演奏家発掘のために行われている恒例の北陸新人登竜門コンサート,今回は管楽器・声楽・打楽器部門でした。ピアノ部門,弦楽器部門に比べると,「何が飛び出すか分からない」といった楽しさもある部門ですが,この日の演奏は,井上道義さんによる盛り上げもあり,「もしかしたら新人登竜門コンサート史上,過去最高かも?」というぐらい楽しむことができました。

今回の公演ですが,何と言ってもバストロンボーン奏者の森川元気さんに拍手を送りたいと思います。新人登竜門コンサートも10回以上の回数を重ねてきましたが,バス・トロンボーン奏者が選ばれたのは初めてのことです。この楽器のための協奏曲があるのだろうか?と思ったのですが,ちゃんとあるところがクラシック音楽の世界の奥の深いところです。「選曲の勝利」という感じで,大変楽しい作品を聞かせてくれました。それと声楽部門で男声歌手が選ばれたのも今回が初めてのことです。いろいろな点で「これまでにない」演奏会になっていました。

森川さんによって,今回演奏されたのは,ジャズの名曲「テイク・ファイブ」の作曲者デイヴ・ブルーベックの息子,クリストファー・ブルーベックの書いたバストロンボーン協奏曲でした。一体どういう作品なのだろう?と聞く前は予想もつかなかったのですが,本当に楽しい作品でした。ラプソディ・イン・ブルーのような感じの作品と言えば良いでしょうか。ジャズのテイスト満載だけれどもきっちりと3楽章から成っている作品で,クラシックの演奏会で聞いても違和感はありません。井上さんのキャラクターにもぴったりで,OEKメンバーも楽しそうに演奏していました。

赤いサスペンダーで登場した森川さんは,この曲を本当に自分の作品のように自在にのびのびと演奏してくれました。もともとトロンボーンは音量の大きな楽器ですが,その屈託のない音楽を聞きながら,大柄なアメリカ人がお客さんに向かって親しげに話しかけてくるような健康的な明るさを感じました。バス・トロンボーン以外にもドラムスなどのパーカッションやトランペットなども華やかに活躍しますので,吹奏楽用の曲を聞いているような気分もありました。

第2楽章は一転して静かな雰囲気になりますが,ここにも暖かな哀愁と包容力がありました。第3楽章に入るところで,カデンツァ風の部分がありました。バス・トロンボーンということで迫力たっぷりの低音も出てきたのですが,とても表情な豊かな演奏だったこともあり,どこかユーモラスな雰囲気を感じました。第3楽章はパーカッションを中心に”ノリノリ”といった気分になり(マラカスなども入っていましたね),爽快に締めてくれました。

クラシック音楽の世界でのバス・トロンボーンは縁の下の力持ち的な存在だと思いますが,独奏楽器としての楽しさ,雄弁さをしっかりと伝えてくれました。それと何より,森川さんのキャラクターが素晴らしいですね。OEKの大澤さんに匹敵(?)するようなインパクトを感じました。これからどんどん活躍の場を広げて行って欲しいと思います。

歌手のお2人も,とても完成度の高い歌を聞かせてくれました。これまでの登竜門コンサートでは,1人ずつ登場するのがパターンでしたが,今回は氷見さんと竹多さんが交互に登場し,ちょっとしたガラコンサートのようになっていました。このアイデアも良かったと思います。

バスの氷見健一郎さんの声は,大変つややかで,水もしたたるような美しさがありました。「シモンボッカネグラ」の方は,(井上さんの解説によると)「じじい役」,「ドン・ジョヴァンニ」のレポレッロのアリアの方はコミカルな曲ということで,ちょっと若過ぎるかな,ストレート過ぎるかなという気はしましたが,どちらの曲もも安心して楽しむことができました。

ソプラノの竹田倫子さんの歌には,しびれました。軽やかなソプラノというよりは,常にドラマをはらんだようなほの暗い強さを感じさせてくれる声で,「運命の力」のアリアは,思わず身を正して(?)聞いてしまいました。曲の最後の部分の激しさは,OEKの演奏と相俟って,「これぞヴェルディ」という感じでした。

どちらの曲も井上道義さんが,歌の背景やキャラクターについて説明をした後,演奏されましたが,これも良かったと思います。それぞれの歌の意図が「なるほど」という感じで実感できました。

今回登場した歌手のお2人については,これからきっとOEKのオペラ公演などに登場する機会が出てくるのではないかと思います。今後の活躍に期待したいと思います。

演奏会の前半では,指揮者なしでリヒャルト・シュトラウスの13管楽器のための組曲が演奏されました。昨年の「もっとカンタービレ」シリーズではシュトラウスの最晩年の管楽アンサンブルの作品を聞いたことがありますが,今回演奏された曲はシュトラウスが20歳頃に書いた作品です。じっくりと管楽器のハーモニーの美しさを楽しませてくれるような演奏で,聞いていて安心感を感じました。

13管楽器ということで室内アンサンブルとしては大きい編成ですが,今回は団員からの希望もあり「指揮者なし」で演奏したとのことでした。編成の中にコントラ・ファゴット,ホルンが4本が入っていたこともあり全体的に厚みのあるオルガン的なサウンドを楽しませてくれました。

第2楽章では,クラリネットの遠藤さんが深い音が印象的でした。第3楽章はガヴォットということですが,それほど古典的な感じはせず,ちょっと動きのある舞曲風という感じでした。第4楽章は緻密さと堂々とした感じとが共存しているような音楽で,輝きのある音で締めてくれました。

個人的には,「井上道義さんが指揮したらどうなっただろうか」という関心もありましたが,OEK団員による管楽アンサンブル・シリーズについては,これからも期待したいと思います。

今回の演奏会は,ブルーベックの協奏曲をはじめとして独特のプログラムになりましたが,よく知られた名曲ばかりではなく,挑戦的なプログラムを聞けるのを新人登竜門コンサート(特に管楽器・打楽器・声楽部門の)の売りにしていって欲しいと思いました。

PS. 井上さんが氷見さんの紹介をする際に,今年の岩城宏之音楽賞を受賞したバスの森雅史さんの話題が出ました。氷見さんも森さんも高岡市出身で,どちらも黒崎先生という方に指導を受けたとのことです。こういう方の存在が地域の音楽文化を支えているということで,井上さんも敬意を表していました。

http://www.orchestra-ensemble-kanazawa.jp/news/2013/04/2013_1.html

(2013/04/27)
関連写真集


公演のポスター


音楽堂内は,ラ・フォル・ジュルネ金沢に向けて,フランス印象派の絵画のポスターが沢山掲示してありました。


これはゴッホですね。


こちらは,「待ち時間を豊かにする椅子」。これも音楽祭に向けての企画のようです。