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オーケストラ・アンサンブル金沢設立25周年記念県内縦断コンサートかほく公演
2013年6月15日(土) 14:00〜 石川県西田幾多郎記念哲学館哲学ホール

1)モーツァルト/セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」〜第1楽章
2)モーツァルト/オーボエ四重奏曲へ長調 K.370
3)モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番変ロ長調 K.458「狩」
4)ボッケリーニ/オーボエ五重奏曲ト長調 op.45-1
5)菅野ようこ(岩井俊二作詞)/花は咲く(東日本大震災復興支援ソング)
●演奏
OEKメンバー(加納律子(オーボエ*2,4-5),坂本久仁雄(ヴァイオリン),トロイ・グーキンズ(ヴァイオリン*1,3-5),古宮山由里(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ)
合唱:かほく市コーラス協会*5

Review by 管理人hs  

今年設立25周年を迎えるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,それを記念して石川県内全19市町村で公演を行います。その第1弾がかほく市で行われたので聞いてきました。会場は石川県西田幾多郎記念哲学館の哲学ホールでした。ステージはOEK全体が入るほどの広さはありませんので,今回はOEKメンバーによる弦楽四重奏+オーボエの加納律子さんという室内楽編成で演奏されました。

公演のポスター            石川県西田幾多郎記念哲学館の外観

かほく市は,今回の司会役のトロイ・グーキンズさんが語っていたとおり,山側環状道路を使えば,金沢から車で30分程度で着いてしまうのですが,その割にOEKは演奏は行っていないと思います。私もほとんど行ったことはありません(行くとすれば,イオンかほくショッピングセンターぐらいですね。)。今回は,我が家の自家用車が使えなかったのですが,「この際」ということで,JR金沢駅から七尾線に乗り,宇野気駅で降りて西田記念哲学館まで行ってみることにしました。金沢駅から30分かからないぐらいで料金も400円でしたが,JR宇野気駅から哲学館までの距離が歩いくには結構長く(20分ぐらい),しかも,結構分かりにくい道でしたのでなかなかスリリングでした。だけど,こういう知らない土地を歩くのは面白いものです。

まずは哲学館の中を一回りした後(入場料500円),演奏会場に入りました。建物は安藤忠雄設計によるコンクリート打ち放しの大胆な設計で,建物の至るところに工夫がされています。展示物に加えて,建物全体を楽しんでもらおうという意図が感じられます。この建物については,後で紹介しましょう。

 
○と□が組み合わさったような感じのデザインが多いのも禅的なのでしょうか?

会場の哲学ホールは,レクチャーなどにも使える多目的ホールということで音響の方はややデッドでしたが,ステージは大変見やすく,トロイさんも「とても演奏しやすい」と語っていました。
 
ホールの中です。天井はそれほど高くなく,横長のホールでした。

演奏されたのは,モーツァルトとボッケリーニの室内楽でした。演奏会は,石川県音楽文化振興事業団の三国理事の挨拶に続いて始まりました。演奏会の前に挨拶が入るのは,お役所っぽい堅苦しさを感じましたが,金沢以外での公演の場合,「年に数回の特別のイベント」という感じなので,ある程度は仕方がないのかもしれません。

まず最初にモーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章が演奏されました。全体にすっきりとしており,キリッと切り込むような印象のある演奏でした。

トロイさんのトークに続いて,同じくモーツァルトのオーボエ四重奏曲の全曲が演奏されました。実は今回は,加納律子さんのソロによるこの曲を目当てに聞きに行きました。その期待通り「さすが!」という演奏でした。何よりも健康的で伸びやかな音が素晴らしかったですね。この曲にはオーボエが主役のように活躍する協奏曲的な雰囲気があります。その曲想にぴったりの鮮やかで品の良い華やかさのある世界を楽しませてくれました。加納さんはとても鮮やかな赤のドレスで登場しましたが,その色合い通りの大変鮮やかな演奏でした。楽章の後に非常に盛大に拍手が入ってしまいましたが,それも当然と言うような演奏でした。

第2楽章はオペラのアリアを聞くような,息の長ーい歌をたっぷり聞かせてくれました。第3楽章は優雅なロンドをたっぷりと聞かせてくれました。途中,オーボエが非常に技巧的なパッセージを演奏する部分がありましたが(家に帰って,この曲の解説を読んでみると,伴奏は6/8拍子でオーボエだけ4/4拍子になる”前衛的な”部分と書いてありました),この部分の鮮やかさも見事でした。

続いて,弦楽四重奏曲「狩」が演奏されました。全体にもう少し華やかさが欲しい気はしましたが,加納さんのオーボエの入った四重奏曲の後だと仕方がないかもしれません。全体に,すっきりとしたキレの良さがあり,かっちりとまとまった堅実な演奏だったと思います。4つの楽章の中では,じっくりと精妙な演奏を聞かせてくれた第3楽章が特に印象的でした。

「この辺りで休憩かな?」とも思ったのですが,そのまま続き,再度,加納さんが加わり,5人フル編成でボッケリーニのオーボエ五重奏曲が演奏されました。2楽章形式のこじんまりとした曲で,初めて聞いたのですが,とても楽しげな雰囲気があり,気に入りました。第1楽章はタラッタタラッタ...という感じのリズムが印象的でした。いかにもイタリアという感じの「歌」にも溢れていました。第2楽章も軽快な曲想で,ロッシーニの曲に通じるような気楽さがありました。

モーツァルトの四重奏の方は,完全にオーボエが主役という感じでしたが,ボッケリーニの方はチェロ奏者だけあって,オーボエだけが目立ち過ぎることはなく,ソンジュン・キムさんのチェロパートなども激しい演奏を聞かせてくれました。

演奏会の最後は,東日本大震災復興支援ソングの「花は咲く」が,地元の合唱団とOEKメンバーとの共演で演奏されました。合唱団は途中まではお客さんとして曲を聞いており,最後の曲の時だけ立ち上がって,客席の通路で歌を歌いました。会場中が合唱団で覆われるような感じで(実はお客さんの半分近くが合唱団だった?),アットホームなサラウンド効果に包み込まれました。

演奏会の最初の方では楽章が終わるたびに拍手が入ったり,「ちょっといつもと違うな」という感じで,少々落ち着かない部分もありましたが,トロイさんによる,お客さんをリラックスさせてくれるようなトークの効果もあり,次第に暖かな雰囲気へとまとまって行きました。

OEKの県内縦断コンサートについては,今回を皮切りに全部で19公演行われます。トロイさんは「全部聞いた人には何かプレゼントしなければ」とおっしゃっていましたが,取りあえずこの公演に参加した私にはまだ可能性が残っていますねぇ。他の縦断公演についてもできるだけ聞きに行ってみようと思います。

以下,金沢から石川県西田幾多郎記念哲学館までの「小旅行」の様子を写真中心にご紹介しましょう。

 
JR金沢駅を出発。津幡で七尾線に入ります。金沢駅のマクドドナルドが別の店に変わっていたので,コーヒーを買って電車に乗りました。

 
12:28発のローカル線に乗りました。料金は片道400円でした。

 
宇野気駅に到着。西口から出ました。西口は「ふれあい館」という名称になっていました。

 
取りあえず,「→」」に従って,記念館へ。途中,迷いそうな部分はありましたが,何とか到着。

 
車の駐車場の方から入りました。駐車場からは結構高低差がありました。

 
ようやく見えてきました。晴れていたらとても気持ちよさそうな場所です。

 
建物内です。地下が会場でした。上からのぞき込んだところです。右の写真は「空(くう)の庭」です。21世紀美術館のタレルの部屋と似た発想の「何もない」場所です。

 
展望台に上ってみました。とても良い眺めで,イオンかほくショッピングセンターも見えました。右側は別の方角です。植え込みが青いバナナのように見えました。もしかしたら,「Π(パイ)」の左半分かもしれません。

 
エレベータの中には西田博士の言葉のポスターが掲示されていました。金沢21世紀美術館が開館するとき,イチハラヒロコさんの標語?をカウントダウンで展示してありましたが,ゴシック体」がちょっと似た感じです。

 
ホールの入口付近は,中々,不思議な雰囲気です。○の吹き抜けの下で演奏しても面白いかもしれませんね。

 
ホール前に貼ってあったポスターです。右側は,受付の隣にあったグッズコーナーです。最近,ブックカバーに凝っているので購入。

 
哲学館の駐車場付近には,西田博士の書斎を移設した「骨清窟(こっせいくつ)」(国登録有形文化財)がありました。中をのぞき込めるようになっていました。

 
演奏会終了後です。哲学の道を通って,来た道を戻りました。この時は雨が降っていました。


 
電車の発車まで時間があったので,宇野気駅の東口の方に行ってみました。こちらの方が正面のようで,西田博士の銅像が立っていました。私が高校生の時の宇野気出身の同級生が「しきりに西田博士」と言っていたのを思い出しました。

 
JR七尾線は単線なのですが,宇野気駅はすれ違いできる駅で拠点駅のようでした。和倉温泉と金沢の間をわくたま号というのが走っていました。温泉卵のゆるキャラでしょうか。左の列車は「なぜこんなところに?」という感じでしたが,「はくたか」だったと思います。
 
電車の中です。のんびりとした感じの土曜の午後です。右は哲学館のリーフレット類です。記念スタンプも捺して来ました。場所がなかったので,少々遠慮しながらも西田博士のおでこに捺してしまいました。

 
自分へのお土産に買った新書サイズのブックカバーです。よく読めませんが「無心」と書いてあります。入館のチケットは栞の大きさなので,このブックカバーと合わせて使うとぴったりですね。ちなみに,金沢にある鈴木大拙館と提携をしているそうで,この栞があれば,次の期間は鈴木大拙館に無料で入ることができます。

 平成25年5月19日(日)【西田幾多郎の誕生日】〜11月11日(月)【鈴木大拙の誕生日】

詳細は哲学館のWebサイトをご覧ください。 石川県西田幾多郎記念哲学館

(2013/06/20)