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ランチタイムコンサート:青島広志のオルガン講座
2013年6月23日(日) 12:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)シャミナード/前奏曲 op.123-1
2)モーツァルト/幻想曲ニ短調 K.397(385g)
3)バッハ,J.S./トッカータとフーガ〜トッカータ
4)バッハ,J.S./小フーガト短調
5)青島広志/即興演奏
6)ヴィエルヌ/24の自由な形式による小品〜カリヨン
7)ベートーヴェン/機械じかけの時計のためのアダージョ WoO 33-1
8)(アンコール)オッフェンバック/喜歌劇「天国と地獄」序曲の一部
●演奏
青島広志*1,2,5,7,8,黒瀬恵*3,4,6-8(オルガン)
お話:青島広志,黒瀬恵

Review by 管理人hs  

通常は平日のお昼に行われている石川県立音楽堂のランチタイムコンサートですが,今回は日曜日に開催されました。しかも,これまでとは一味違い,特定の楽器にポイントを絞った企画でした。音楽堂コンサートホールの象徴的な存在にも拘わらず,解説付きで聞く機会はそれほど多くないパイプオルガンが主役ということで,「一体どういう内容になるのだろう」という期待を持って聞きに行くことにしました。


ラ・フォル・ジュルネの時に飾ってあった,青島さんの等身大のパネルがお出迎え

今回はお馴染みの青島広志さんと金沢在住のオルガン奏者,黒瀬恵さんのトークと演奏を交えて進められました。まず,最初に青島さんがオルガンステージに現れ,颯爽と1曲...といったところで,「黒瀬さぁん,鳴りませ〜ん」という青島さんのヘルプの声が聞こえて来ました。

パイプオルガンは「楽器」というよりは「機械」...というよりはもっと複雑な「システム」といった性格がありますので,鍵盤を押しても全然音が出ないというハプニングが起きやすいようです。黒瀬さんがどこかのスイッチを入れると,無事音が出て事なきを得ましたが,さすがの青島さんも焦ったことでしょう。

ちなみに,青島さんは,かなりの高所恐怖症のようで,2階ぐらいの高さのオルガンステージに立って「この高さは怖いですね。ここから落ちると命がありません」といったことを語っていましたが...そこまで怖がる必要はないかと思います。

 
最初は左側で聞こうと思ったのですが,バルコニー席はややマイクの音が聞こえにくいので正面に移動しました。この演奏会は,500円という手軽な価格ということもあって,親子連れのお客さんも多かったですね。

さて,青島さんの演奏ですが,まずシャミナードという女性作曲家の前奏曲が演奏されました。元々はピアノ曲ですが,祈りの気分のある曲なので「オルガンで演奏するとぴったりかも」ということで演奏されました。そのとおりの演奏でした。

続いてモーツァルトの幻想曲ニ短調が演奏されました。オルガンという楽器は,建物と一体になっている特注品ばかりなので,一つとして同じ楽器はないのではないかと思います。青島さんはピアノ演奏がお得意ですので,単純に鍵盤を弾くだけならば問題はないのですが,やはり音色を作るためのレジスターの操作となると黒瀬さんに頼らざるを得ず,この演奏では,黒瀬さんに手伝ってもらいながらの演奏となりました。

この幻想曲は,ほの暗い前半と軽快さのある後半で曲想がガラっと変わるのが特徴です。オルガンの演奏だと,色合いのコントラストが万華鏡的になっているようでした。ただし,青島さんの演奏は,そのトークを聞くような感じで,結構せっかちでした。青島さんはトークの中で,「鍵盤を押した後,音が出るまでのタイミングがかなりズレますね」とおっしゃっていましたが,その編の影響もあったのかもしれません。

その後オルガンの仕組みについてのお話になりました。音楽堂のパイプオルガンは4段の鍵盤があり,この日は,それぞれ「トランペット」「フルート」「2フィートのパイプの音(2オクターブ上の音)」「オルガンらしい音」が設定してあるという説明がありました。トランペットの鍵盤ではメンデルスゾーンの結婚行進曲の一節,フルートの鍵盤では「アルルの女」の一節をパッと即興的に演奏する反射神経の良さは青島さんならではです。

続いて,今回特別に用意されたオルガン・ステージ席に座ることのできたラッキーなお客さんにオルガンの試演をしてもらうコーナーになりました。バイエルなどの曲でもパイプオルガンで聞くと立派に響いており,楽器に触れた皆さん感激したのではないかと思います。

演奏に戻り,今度は黒瀬さんの演奏で,オルガン曲の定番中の定番のバッハのトッカータとフーガと小フーガが演奏されました。ただし,今回はちょっと変わった趣向になっており(時間の節約かもしれません),「トッカータのフーガ」の中の「トッカータ」と「小フーガ」を連続的に演奏していました。つまり,「トッカータと小フーガ」ということになります。黒瀬さんの演奏は,さすが音楽堂の楽器に慣れており,切れ味良く,堂々とした演奏を聞かせてくれました。

青島さんの即興演奏コーナーでは,オルガンステージの4人のお客さんが適当に言った4つの音(ソ・ミ・レ・ラ)をモチーフとして演奏されました。演奏自体は見事な即興演奏でしたが,レジスターの出し入れの方もかなり激しく,音の方は結構刺激的な雰囲気になっていました(現状復帰するのは結構大変そう?それともボタン一つでリセットされるのでしょうか。)。

黒瀬さんが演奏したヴィエルヌの「カリヨン」という曲は,タイトル通り鐘の音を模した曲でした。ヴィエルヌは,ノートルダム寺院の盲目のオルガン奏者だった方とのことです。同じ音型が何回も繰り返し出てくる辺りが,カリヨン的でした。

最後にお2人の連弾でベートーヴェンの「機械じかけの時計のためのアダージョ」という珍しい曲が演奏されました。初めて聞く曲でしたが,「ヴァイオリンのためのロマンス」を思わせるような穏やかな美しさんのある,とても良い曲でした。「機械のため」ということでこれまで演奏されて来なかったようですが,是非,リバイバルさせてほしい曲ですね。

アンコールでは(かなり意表を突く選曲でしたが),オッフェンバックの「天国と地獄」序曲の一部が演奏されました。結構重い感じの演奏でしたが,「「カンカン踊りの部分では手拍子を入れてね」という青島さんの指示どおり手拍子が入り,リラックスした気分で楽しむことができました。

今回はオルガンがテーマでしたが,青島さんは,「世界一受けたい授業」の名物講師でもありますので,「青島先生の○○講座」シリーズがあっても面白いと思います。ネタは沢山ありそうですね。今後に期待したいと思います。

(2013/06/25)