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いしかわ音楽紀行
2013年6月30日(日)石川県立音楽堂,JR金沢駅周辺


Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢2013のアンコール企画として,「いしかわ音楽紀行」というイベントが石川県立音楽堂を中心に行われました。地元のアーティストを中心に,ラ・フォル・ジュルネ・スタイルで演奏会をハシゴするという内容で,行われるのは今回が初めてでした。


さすがに もてなしドームに「音楽紀行」のタペストリーまではありませんでしたが,気分は「ラ・フォル・ジュルネ」でした。

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は登場しなかったのですが,その分,金沢桜丘高校と金沢市立額中学校の吹奏楽部が登場したり,ピアニストの菊池洋子さんが登場したり,本家ほどではないにしても,穏やかに盛り上がっていました(今回の企画ですが,ややPRが遅かったですね。もう少し早ければ,さらに盛り上がったと思います。)。

私はまず,JR金沢駅コンコースで午前10:45から行われた額中学校吹奏楽部のステージからスタートしました。


10:45〜 JR金沢駅コンコース
テキシドール/マーチ「アンパリトリカ」
シェルドン/イベリアン・エスカペイド
サンブル・エミューズ連帯行進曲
イベール/木管三重奏のための5つの小品より 他
●演奏
竹内寛指揮金沢市立額中学校吹奏楽部


次の写真のとおりラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)そのままの雰囲気でした。
 

金沢市立額中学校は,一昨年と昨年と2年連続で全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞している学校です。途中で指導者が交替したのですが,「それでも連続金」というはなかなかできないことだと思います。

金沢エキコンを毎月のように行っているので,すっかりこのスタイルも駅になじんでいる感じです。ただし,結構暑かったですね。額中学校の演奏は,夕方から音楽堂コンサートホールでも行われました。額中学校の皆さん,一日,お疲れ様でした。3曲ほど聞いた後,音楽堂に移動しました。

 


11:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ビゼー(鈴木英史編曲)/「アルルの女」第2組曲〜パストラール,メヌエット,ファランドール
ビゼー(星出尚志編曲)/「カルメン」〜アラゴネーズ,ハバネラ,前奏曲
メンケン(真島俊夫)/美女と野獣
真島俊夫/さくらさくらさくら
小田和正/今日もどこかで
(アンコール)会いたかった
●演奏
安嶋俊晴指揮石川県立金沢桜丘高等学校吹奏楽部


今度は金沢桜丘高校吹奏楽部の演奏を聞きました。こちらは昨年の全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞しました。石川県内の小中学校の吹奏楽については,以前から小松市や能美市の学校がコンクールで好成績を取って来ましたが,LFJKの中で地元吹奏楽が重要な役割を占める中,全県的に活動が活発化し,演奏水準も上がってきている印象があります。近年の全日本吹奏楽コンクールでは,小松明峰高校が「3出」の後,金沢桜丘が出場して「金」ということで,全国でもレベルの高い県に昇格してきたのではないかと思います。

金沢桜丘は,本番のLFJK2013でも,ビゼーの「アルルの女」を演奏しましたがが,最初の音から充実感たっぷりの音を聞かせてくれました。パーンとした吹奏楽の全奏も魅力的でしたが,個々の楽器のソロも見事でした。特にこの曲では,メヌエットを中心にフルートが活躍しますが,音量もたっぷりで見事な演奏を聞かせてくれました。

続くカルメンの方はポップス風にアレンジされたもので,こちらもソロが大活躍でした。
吹奏楽の演奏で,ソロを取った後「ペコッ」と一礼して,会場から「パチパチ」と拍手が入るのは定番なのですが,この演奏の場合,特に多かったですね(多すぎて,少々慌ただしい気もしました)。

次の「美女と野獣」は,ディズニーの映画のサントラをストーリー順にメドレーにしたような感じで,さすが真島俊夫さんという良いアレンジだと思いました。映画ハイライトを見た気分になりました。後半では,セリーヌ・ディオンらが歌っていた有名なテーマ曲のメロディが出てきましたが,今回はフリューゲルホルン(多分?)のソロで演奏されていました。クラシカルだけど甘いムードがあり,曲にぴったりでした。

最後は金沢桜丘の「テーマ曲」である,「さくらさくらさくら」が演奏された後,小田和正の「今日もどこかで」がピアノ伴奏の合唱で歌われました。最後の方は吹奏楽部の定期演奏会のようなムードでした。アンコールでは,1年生部員も含めた全員でAKB48の「会いたかった」が演奏されました。スペースの関係か,ほとんどの人が立ったまま演奏していましたが,その演奏スタイルにぴったりの若々しさがありました。


12:15〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)鈴木直己/会いたくて石川(いしかわ・かなざわイメージソング受賞曲)
2)プーランク/C(セ)の橋
3)フォーレ/夢のあとに
4)ドビュッシー/月の光
5)プーランク/即興曲第13番
6)ララ/グラナダ
7)ビゼー/歌劇「カルメン」〜闘牛士の歌
8)ガーシュイン/歌劇「ポーギーとベス」〜サマータイム
9)ロウ/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」〜踊り明かそう
10)(アンコール)タイム・トゥ・セイ・グッバイ
●演奏
石川公美(ソプラノ*1,8-9),稲垣絢子(ソプラノ*2-3,10),門田宇(バリトン*6-7,10),田島睦子(ピアノ)


交流ホールに移動し,3人の歌手とピアノによるステージを聞きました。今年のLFJKでは,オーケストラの公演ばかり聞いていたのですが,間近で聞く歌も良いですね。


最初に司会の石川公美さんが「会いたくて石川」という曲を歌いました。この曲は「いしかわ・かなざわイメージソング」というコンクールで入賞した曲とのことでした。石川県内の観光地名が沢山盛り込まれた歌詞で,聞きながら「サザエさんのテーマ」(背景に観光地の絵が次々出てきますね)などを連想してしまいました。石川さんが歌う石川の曲ということで,石川さんのテーマソングのようでもありました。

続いて,稲垣絢子さんの歌でプーランクとフォーレの歌曲が歌われました。稲垣さんの声には憂いがあり,その落ち着いが雰囲気はフランス歌曲にぴったりでした。

ピアノの田島睦子さんのソロでドビュッシーとプーランクの曲が演奏された後,今度はバリトンの門田宇(たかし)さんが登場し,ララのグラナダとビゼーの「カルメン」の中の「闘牛士の歌」を歌いました。グラナダはテノールで歌われることの多い曲ですが,門田さんの声にはテノールに近い輝きがあり,会場のテンションが一気に上がりました。カルメンの方は日本語で歌われました。門田さんは,クラシック音楽の歌手としてはかなり派手な髪型(茶髪でツンツン立ってしました)で,闘牛士=スター的な雰囲気十分でした。

最後に石川さんの歌で,「サマータイム」と「踊り明かそう」が歌われました。これで,石川→フランス→スペイン→アメリカと回ったことになります(「マイ・フェア・レディ」はイギリスかもしれませんが)。石川さんの歌は,しっかりと歌いこまれており,間近で聞いたこともあり「ビンビン」と歌の迫力が迫ってきました。

最後,3人の歌手が全員そろって,「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」が朗々と歌われました。この曲をしっかり聞いたことはなかったのですが,盛り上がる曲です。タイトルは英語だけれどもイタリア語というのも面白いですね。最初の方でモニョモニョモニョ...とつぶやくように歌う辺りがカンツォーネという感じで気に入りました。


13:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ルフェビュール=ヴェリ/演奏会用ボレロ
2)フォーレ/夢のあとに
3)サン=サーンス/組曲「動物の謝肉祭」〜水族館
4)ヴィエルヌ/ウェストミンスター鐘
5)ドビュッシー(松永彩子編曲)/ゴリウォークのケークウォーク
6)ミヨー/組曲
7)ピアソラ/オブリビオン
8)ピアソラ/鮫
9)ビゼー(坂口匠編曲)/カルメン・セレクション
●演奏
黒瀬恵(オルガン*1-4),坂口昌優(ヴァイオリン*5-9),松永彩子(クラリネット*5-9),鶴見彩(ピアノ*5-9)


再度,コンサートに戻りました。今度は,パイプオルガンと室内楽のステージでした。


黒瀬さんのパイプオルガンは1週間前に聞いたばかりでしたが,今回はいつもにも増して,多彩な音色を楽しませてくれました。フォーレの「夢のあとに」は1つ前に稲垣さんの声で聞いたばかりでしたが,今回のパイプオルガンの音も人の声を思わせるようなところがありました。それと夜のムードたっぷりでした。サン=サーンスの水族館もとても面白い音でした。聞いているうちに,冨田勲さんのシンセサイザーの世界などを思い出してしまいました。最後のヴィエルヌの曲は,一週間前に聞いたのとはまた別の鐘を模したもので,定番の「キンコンカンコン」の鐘でした。

後半の室内楽の方は,ヴァイオリン,クラリネット,ピアノという変わった編成でした。ラテン系の曲が中心で,どの曲も光が差し込んでいるような明るさがありました。ミヨーの組曲とかサン=サーンスのタランテラは,初めて聞く曲でしたが,どちらも良い曲でした。サン=サーンスのタランテラの前,ヴァイオリンの坂口さんは,「蜘蛛(=タランチュラ)の毒を抜くための踊り」と説明されていましたが,まさにそういう気分でした。サン=サーンスの音楽の描写力はすごいと思いました。

ピアソラの2曲は,ギドン・クレーメルを中心としたアンサンブルのCDが有名ですが,ヴァイオリンとクラリネットの音が溶け合った雰囲気も独特のムードがあって良いと思いました。最後のカルメン・セレクションも楽しい演奏でした。

この日はいつもと違いコンサートホールの1階席で聞いてみたのですが,音が美しく溶け合って響いており,気持ちの良い時間を過ごすことができました。


14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)ケクラン/ジーンハロウの墓碑銘
2)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
3)ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女
4)ビゼー/「アルルの女」〜メヌエッ
5)ドビュッシー/美しき夕暮れ
6)デュポワ/リス
7)ミヨー/スカラムーシュ
8)ララ/グラナダ
9)大友/NHKドラマ「あまちゃん」〜テーマ曲
●演奏
筒井裕朗(サクソフォン*1,4-9),多田実子(フォーレ),堺洋子(ピアノ)


コンサートホールでの公演と微妙に重なり合うように筒井さんのサックスを中心とした演奏会が行われていました。「途中から入るのは良くないかな」「ちょっと一休みするかな」と思ったのですが...話題の「あまちゃん」のテーマがプログラムに入っていたので,これを目当てに聞きに行くことにしました。


私が交流ホールに入った時は,丁度「美しき夕暮れ」が始まるところでした。甘い雰囲気たっぷりのフランスのサックスでした。ミヨーのスカラムーシュ,ララのグラナダとおなじみの曲が続いた後,最後に「あまちゃん」のテーマが演奏されました。

フルート,サックス,ピアノという編成でしたが,気軽に聞けるチープな感じ,原曲にも入っているクレージーキャッツ風の「変な音」もしっかり再現されており,大変楽しめました。この曲は,これから色々な機会で聞く機会が増えそうですね。


15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ドビュッシー/アラベスク第1番
アルベニス/組曲「スペイン」〜タンゴ
プーランク/即興曲第15番「エディット・ピアフを讃えて」
ラヴェル/ソナチネ
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル/水の戯れ
プーランク/パストラーレ
シャブリエ/スケルツォ・ワルツ(「10の絵画風小品」より)
ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女
プーランク/3つの小品〜トッカータ
(アンコール)ベートーヴェン/エリーゼのために
(アンコール)リスト/「愛の夢」第3番
●演奏
菊池洋子(ピアノ)

その後,本日のメインイベントと言っても良い菊池洋子さんのピアノをコンサートホールで聞きました。菊池さんについては,OEKとの共演は何回か聞いていますが,ソロで聞く機会は,考えてみると初めてかもしれません。菊池さんの演奏は,ピアノを激しく叩くようなところはなく,大変優雅でした。今回のプログラムは,菊池さんの新譜CD「ロマンティック・アンコール」に収録されている曲が中心でしたが,どの曲にも余裕があり,スケールの大きさも感じました。菊池さんの演奏には,音自体がとても美しいのですが,どこか天性の健康的な伸びやかさのようなものがあり,聞いていて幸せな気分にさせてくれます。

菊池さんのトークを交えての演奏でしたが,1曲1曲について,「思い」があるようで,どれも慈しむように丁寧に演奏されていました。披露されたエピソードの中では,「シャブリエのスケルツォ・ワルツを弾いていると,子供の頃,夏休みにコンクールに向けて練習していたことを思い出す。」とか「プーランクのトッカータは,田中希代子先生に初めてレッスンを受けた時のことを思い出す」といったことが特に印象的でした。最後にこのトッカータが演奏されましたが,技巧的な曲にも関わらず,機械的な感じはなく,気持ちの良い鮮やかさが伝わってきました。

聞きやすい小品集が中心でしたが,プログラム全体としてフランスとスペインの音楽という統一コンセプトがあり,演奏会全体としての聞きごたえもありました。

アンコールでは,「エリーゼのために」と「愛の夢」第3番が演奏されました。今回のプログラムの並びからすると少し外れる選曲でしたが,CDに収録されている曲ということで,CDのボーナス・トラックといった感じでした。

終演後サイン会が行われました。せっかくの機会でしたので,本日1日分の入場料代わりに(今回の企画は入場無料でした),「ロマンティック・アンコール」を購入し,サインを頂いてきました。

左側でCDを販売し,右側でサイン会を行っていました。
 

このサイン会を行っている最中,音楽堂の入口付近では先程の石川さんを中心とした声楽チームが「Time to say good bye」を再度高らかに歌っていました。

 

マイクを使っていたこともあり,大迫力のステージになっていました。演奏会後,人がどんどん集まってくる中,お客さんと歌手が一体となって盛り上がっている感じでした。

今回,私はここで帰ってきたのですが(このところ疲れ気味なので,明日に備えて早目に切り上げました),金沢市にいろいろな音楽文化が根づいて来ていることを示すようなイベントになっていたと感じました。ラ・フォル・ジュルネについては,入場者数の多さが,観光や地域経済に貢献するという「メリット」が語られることがありますが,提供側からすると,地元在住のアーティストの活躍の場を広げ,聞き手の層を広め,地域の音楽文化の醸成にも役立っていると言えます。長い目で見ると,その方が重要な気もしています。というわけで,この企画については,(タイトルはもう少しインパクトが強い方が良い気はしますが),今後も継続していって欲しいと思いました。
(2013/07/06)