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オーケストラ・アンサンブル金沢 第340回定期公演PH
2013年7月18日(木)19:00 石川県立音楽堂コンサートホール

1)メンデルスゾーン/交響曲第3番イ短調 op.56「スコットランド」
2)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜カタログの歌
3)モーツァルト/歌劇「魔笛」〜この聖なる聖堂では
4)フレンニコフ/酔っ払いの歌
5)プッチーニ/歌劇「ラ・ボエーム」〜外套のアリア
6)メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調 op.90「イタリア」
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),森雅史(バス)*2-5


Review by 管理人hs  
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演2012-2013シーズンの最後は,岩城宏之メモリアルコンサートでした。この演奏会は,毎年,シーズン最初の岩城さんの誕生日(9月6日)頃に行われるのが通例だったのですが,今年は7月に行われました(今後変更になるのでしょうか?)。


今年の岩城宏之音楽賞受賞者は,富山県高岡市出身のバス森雅史さんで,メンデルスゾーンの有名交響曲2曲の間に森さんの独唱によるオペラ・アリアなどが演奏されるという独特の構成になっていました。

バスの森さんですが,賞状授与の後に石川県の竹中副知事が挨拶の中で語られていたとおり,「ごらんのとおりのイケメンです」という方でした。森さんは既に海外のオペラハウスで活躍されているとのことですが,体格も良いので,見た瞬間,「海外で活躍して当然」という雰囲気を持っていました。

声の方も立派で,明るい高音がから重低音までとてもスムーズに聞かせてくれました。「ドン・ジョヴァンニ」の「カタログの歌」については,もう少しケレン味があると良いと思いましたが,癖のないノーブルな雰囲気のある声は魅力的でした。

「魔笛」の中のザラストロのアリアは,超低音が出てくる曲ですが,重苦しくなることはありませんでした。この曲では,客演の首席フルートとして参加していた工藤重典さんの輝きのある音も魅力的でした。まさに「魔笛」という音でした。

フレンニコフの「酔っぱらいの歌」は,いかにも井上道義さんが好きそうな雰囲気の曲で,野趣たっぷりのOEKの伴奏に乗って,味のある歌を聞かせてくれました。最後,ぶつぶつとつぶやくように終わるあたり,不思議なリアルさがありました。ただし,「森さんはお酒は飲めません」とのことです(演奏前に井上道義さんが紹介されていました)。

最後の「ラ・ボエーム」中の「外套のアリア」は,森さんの年齢的にもいちばんキャラクターに合った歌だと思いました。森さんは,初めはテューバ,ヴァイオリンなどを演奏されていたそうですが,その後,高岡の黒崎先生に見出され,バスに転向しました。考えてみると「子どもの頃からずっとバスです」というのも妙なので,こういう転向は比較的多いようですね。

この日は出身地の高岡市からも団体でお客さんが来られていたようですが,今後,北陸地方でオペラ公演を行うときなどには,是非再登場して欲しいと思います。今回の公演でさらに多くのファンが生まれたのではないでしょうか。

歌モノ以外は,メンデルスゾーンのおなじみの交響曲2曲が演奏されました。

演奏会の両端にメンデルスゾーンの「スコットランド」交響曲と「イタリア」交響曲を配置するという形は意外に珍しいと思います。曲の”重さ”からすると「スコットランド」で締める方が落ち着くのですが,歌が入ることによりステージのムードが華やかになりますので,その場合,後半に「イタリア」を持ってきて明るく締めるというのも「あり」だと思いました。

ただし,この日の演奏ですが,井上道義さんの指揮にしてはやや音楽の燃焼度が低い気がしました。「スコットランド」については,落ち着いた雰囲気はあったのですが,響敏也さんの曲目解説に書いてあったような「旅情」のようなものが,もう少し欲しいかなと思いました。第1楽章は冒頭部からほの暗い木管楽器,くっきりとした弦楽器を中心にじっくりと聞かせてくれましたが,全体的に抑え気味の演奏だったと思います。楽章後半の厚みのある管楽器の演奏が特に印象的でした。

第2楽章は,キビキビとしたリズムの上に遠藤さんのクラリネットのまろやかで明るい歌を聞かせてくれました。第3楽章は,反対にゆったりと堂々とした演奏を聞かせてくれましたが...疲れ気味だったこともあり,ちょっとウトウトしてしまいました。

第4楽章の最後の一気に壮大な雰囲気になる部分はホルンをはじめとして,なかなか格好良い演奏でした。ただし,曲全体として,井上さんとOEKならもっと楽しませてくれても良いかな,という気はしました(この日は,個人的にかなり寝不足気味だったことが影響していたのかもしれません。)。


例年通りステージ上手に岩城さんの肖像写真が飾られていました。

「イタリア」の方は,OEKが頻繁に演奏している曲だけあって,全体にキビキビとした躍動感がありました。が,やや音の密度が低く,どこか雑然とした感じがしました。その中で今回フルートの首席奏者で参加していた工藤重典さんの輝きのあるよく通る音はさすがだと思いました。第3楽章のトリオなど,その音に触発されたように管楽器は全体として,大変雄弁だったと思います。主部の小粋で滑らかな感じも井上さんらしいと思いました。

第4楽章は,生き生きとした急速のテンポで駆け抜けていくようでした。その中で,展開部での音の組み合わせの緻密さはさすがOEKだと思いました。

この日の公演は当初の発表では「オール・メンデルスゾーン」プログラムだったと思うのですが,そのままのプログラムだったら,また少し雰囲気は違っていたのかもしれません。

さて,これで今シーズンのOEKの定期公演シリーズは終了です。今年の夏,OEKは山田和樹さんらと海外公演を行いチェロのミッシャ・マイスキーなどと共演します。しばらく金沢での公演はありませんが,その分,海外公演での成果を期待したいと思います。

PS. 終演後は森雅史さんと井上道義さんによるサイン会が行われました。

 

(2013/07/06)